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不穏

戦闘前の前置きかい~

 昔のある偉人達が言っていた言葉。

 『無理なモノは無理』

 『世の中には解決策が無いモノがある』

 『この世からバグ(理不尽)は無くならない』


 この言葉は色んなモノを指し示すが。

 いま俺は、それに当てはまる状態になっていた。


「おいおい、アイツらだけ戦闘に参加してなかったぜ」

「っは、これだから高レベルは偉そうなんだよ、」

「高レベルって言っても奴隷だろ?舐めてんのかよ」

「そのうち一人はステータスがおかしいけどな」

「マジで何しに来たんだよ?アレで金とか取るのか?」


 ――めんどくせぇ、

 こう言う流れになるだろうとは思ってたけど‥‥



 防衛戦終了後、他の冒険者達からは不満や愚痴、その他モロモロが吐き出されていた。それも俺に聞こえるようにワザと‥。


 エルドラさんが言うには、俺の立ち位置はしっかりと事前に説明はしてあり。俺達には報酬が支払われない事や、対霊体用に参加してあるとは伝えていると言う。

 ただ、それでもやはり不満は出ていた。

( 理不尽過ぎる、どうしろと、)


 優遇されて参加しており、女連れで、その上戦闘には参加していない。

 これが霊体タイプが出た時に、参加して戦えていればまだ良かったのだが‥‥。


「さすが勇者様です!あの幽霊野郎を一撃でしたね!」

「アレは焦ったよな、話しは聞いてたけどマジで武器がすり抜けるんだからよ」

「でも勇者様は簡単に倒してたからな、どこぞ黒い奴とは違いますね」

「何が待機だよ、ただのサボりじゃねぇかよ。後ろに見てるだけとか」

「勇者様は違ったもんな~、勇ましく先陣切って」


( 俺の出番潰しやがって、)




 現在は昼間から、勝利の宴会が始まっていた。

 斥候の報告では、他に魔物の群れの姿は見えず。このまま明日まで待機。その後、魔物の群れが確認出来なければ撤収となるのだ。


 一応警戒して見張りを立てているのだが、その見張り役を勇者上杉側、兵士達から志願があり、冒険者達は見張り役から解放されているのだ。


 そしてその宴会の中心は、勇者上杉。

 冒険者達が、競うように称賛しに押し寄せて来ているのだ。

 その隣では、上杉の婚約者セーラがかいがいしく、上杉にお酌のような真似事をしている。


「まぁまぁ、アイツも色々とあるんだろうよ、そこまで悪く言ってやるな」


「さすが勇者様!懐が広れぇ!」

「腕っ節だけじゃなくて、謙虚さまでも、」

「まさに心技体、すべてを兼ね揃えておられる」



 上杉の一言一言に、過剰とも思える無茶なヨイショ合戦が始まる。

 そして上杉は、元から煽てられるのや、注目されるのは好きな方なので。当然ご満悦の表情を見せ、それに手応えを感じる冒険者達も加速していく流れとなっていた。



 俺はその光景を少し離れた場所で眺めていた。

 この宴会は針のむしろような所ではあるのだが、どうにも気になる事があり。それを調べる為に俺達はこの場に居続けたのだ。


「ラティ、どうだそれっぽい奴はいるか?」

「いえ、隠蔽の気配は無いですねぇ、ただやはり行き過ぎた害意は感じます」

「なんかまわりからジロジロと見られてる気がするのです」



 俺達は、不穏な空気を感じていたのだ。

 俺でも感じられるほどの、ラティに言わせると『まるであの時の、ルリガミンの町のようです』と言っていたのだ。


 状況で言えば、近い形なのだ。

 一つの村で俺達が孤立した状態。


 少し考えすぎと思う気持ちもある。だが前はその油断が囲まれる状態になったのだ。平気だと思っていた場所(ルリガミンの町)でも囲まれたのだ。

 しかも気付けば村が、追加で来た兵士達の野営などで囲まれているのだ。

 表向きは寝泊りの為。だが、それなら一箇所に固まれば良いモノを、村を囲むような布陣。村を守る為とも考えられるが、やはり怪しい。


 そして今、それを調べる為に、居たくもない宴会に参加し続けていた。


 ――考えすぎか?

 上杉からは、そんな気配を感じないし、単純に楽しんでいる様にしか見えん、

 でも、周りの兵士達からは‥‥



 周りの兵士達からは、やはり敵意の様な視線を貰う。


「あの、ご主人様、それでしたらもう馬車で帰られますか?」

「いや、それは駄目みたいなんだ、一応防衛戦は完全には終わってないから、ここで帰ると逃亡扱いになる。ってエルドラさんから釘を刺されて」

「むむ~問題が起きない限りは問題にならないって奴ですねです」


 そう、何もまだ問題が起きていないのに、問題が起きる前に行動を起こすと言うのは問題があると言う、なんとも泥縄なような状態になっていたのだ。

 何もしがらみが無い状態であれば、帰ってしまっても問題が無いのだが。現在はアムさんに雇われている身。あまり好き勝手は出来ないのだ。



 ――普通に考えれば考えすぎ、

 だけどこの空気はマズイ、何かありそうだ、

 だけど、身動きが取れない状態だな、



 そう、普通に考え過ぎなのだ。

 たまたま、参加した防衛戦で俺が狙われると言うのは不自然なのだ。

 俺がコレに参加が決まったのが二日前、もし俺を狙ってこの人数などを集めるのは色々と無理があるのだ。


 俺が参加するのを知ってから、報告しにいくだけでもそれなりの時間がかかるのだ。何か特殊な方法で遠くにいる味方に知らせて、それから準備でもしない限りは。

 

 その辺りの辻褄が合わないのだ。

 

 

 だが、やはりこの空気は不穏を思えるモノであり、ラティも反応していた。

 しかし、で自分が狙われる覚えもない。


 ならともかく。


「はっ!?まさか北か?」

「あの、北がどうしましたか?」


 ――そうだよ!

 北のドミニクがいたんだぞ、

 まさか昨日のアレは何かの罠か、もしくは何か他の意図が?



「ラティ!ドミニクさんを探してくれ!サリオもだ」

「はい!」

「ほへ?ドミニクさんですかです?」



 ――油断したか、

 やっぱり北と繋がっている可能性があるな、

 本人に問い詰める必要があるなこれは、



 俺達がこっそりと会話を交わす中、再び上杉が居る辺りが騒がしくなる。

 まだ盛り上がるのかと視線を向ければ、そこには村では似合わない高価な衣装を着た青年が上杉に話し掛けていたのだ。

 

「勇者ウエスギよ、妹とは仲良くやっているようだな」

「あ!これはマークツー、、お義兄さん、」

「はいお兄様。仲良くやっています」


 『ヒュ~ヒュ~♪』などと口笛も上がり、そのやり取りで再び盛り上がる。


「勇者と仲いいアピールか、アレは‥?」

「あの、どうなのでしょうねぇ、」

「いかにもでわざといのですよです」



 やって来た男は。妹のセーラとは違う、貴族らしくない地味な印象の青年。

 髪はくすんだ茶色に瞳の色も黒に近い茶色。


 着ている服に完全に負けている青年であった。


「あれが、貴族の長男とか言ってたマークツーか、」

「あの、どこかで見た事があるような気がしますねぇ、」

「ありゃ?ラティちゃんもですか?なんかあたしも見たような気が、です」



 俺達はその男、マークツーを遠巻きに眺めていたが。

 ふと、マークツーがこちら見て、目を細める。


「これは黒確定でいいな」

「決め付けるのはよろしくないかと。ですがこれは‥‥ええ、そうですねぇ」

「へ?へ?お二人共どうしたんです?」



 マークツーは俺達を見て、蔑むような目をしたのだ。

 ラティとサリオはフードをかぶり、耳を隠すことで簡単ではあるが狼人とハーフエルフである事を隠している。今のこの2人を見て、蔑むような目をするのは不自然である。

 

 ならば、これは。


「ジンナイ様、さすがに考え過ぎなんじゃないです?」

「別に違ったらそれはそれでいいよ。だけどこれは、」



 これは大袈裟な言い方だが、すでに俺達は罠にハマったのである。

 兵士達は野営などを敷いて村ごと囲み、防衛戦中と言う建前で今は動けず。

 そもそも人気取りの為に、勇者を動かすのは分かるが、兵士の数があまりにも多すぎなのだ。


 この前、深淵迷宮(ディープダンジョン)へ遠征に向かったが、俺は陣内組だけの少人数で65枚の金貨を支払ったのだ。しかも、勇者を目立たせるならもっと少ない数で来るべきなのだ。


 それがこの大人数。金が掛かりすぎなのだ。

 十中八九ほかに何か意図があるはず。 

 そしてその狙いは多分俺達なのだろう。実際に包囲という網を張られている。


 ――ならば、網を食い破るまで、

 取り敢えず、ドミニクの身柄を押さえてやろう、

 奴から情報を聞き出せれば、ってまだ決め付けるのは早いか、



「ラティ、サリオ。この後、ドミニクに会いに行くぞ」

「あの、何をしに行かれるのですか?」


「襲われる心当たりが、北絡みしか浮ばん。だから問い詰めにいくぞ!」

「ぎゃぼー!無茶苦茶言っているよです!決め付けてるよです」




 俺達は張り詰めた宴会の中で次の行動を決めた。

 この宴会の途中でドミニクに会えれば良かったのだが、ドミニクの姿を一度も見かける事が無かったのだ。ならば、夜にこちらから向かうしかない。




 夜になり宴会が終わる。

 兵士達が外の野営に戻って行くのを確認してから俺達は動いた。


 俺達は色々と可能性()を考えていた。

 最初に予想したのは、”勇者を使った糾弾”。

 勇者の上杉に、今回の防衛戦に参加しなかった俺達を糾弾させて、そのままなし崩しに捕縛すると言う方法。


 この方法できた場合は、監視官のエルドラさんに事情を説明させて躱す予定であった。

 だが結局、そのように糾弾される事はなく、そのまま終わったのだ。


 そうなると、後は深夜か早朝辺りに数にモノを言わせた捕縛。

 予想では俺達が寝静まった辺りに来るのだろう。


 だから、その前に俺達は動きドミニクの家へと向かった。



 遠めに見えるドミニクの家。ログハウスからは明りが漏れているのが判る。


「ラティ。中に人はいるか?」

「はい、一人だけですが反応があります」


「よし!行くぞ」

「あう、なんか押し込み強盗でもしに行きそうな雰囲気ですねです」

 

 何か失礼なことを言うサリオは無視して俺達はドミニクの家へと向かった。

 そしてドアをノックする。


 コンコンと軽い音を鳴らし、中に居る人に知らせる。

 すると――


「お父さん!?ドコ行ってたのいきなり出て行って、心配し‥‥あれ?」

「‥こんばんは、リーシャさん、」


 扉を勢いよく開けて来たのは、ドミニクの娘リーシャであった。


「ドミニクさんに会いたいんだけど‥いないのかな?」

「えっと、はい父は昼前には既にいなくて、」


 ――怪しい、

 昼前って事は、上杉達が来た後だな、

 リーシャに詳しく聞いてみるか、



「リーシャさん、ちょっとお話が、」


 俺は少し強引に話を進め家の中へと入った。

 男が部屋に入るのを警戒はされたが、ラティとサリオの2人も連れて来ているので、下手な間違いは無いと思わせることになんとか成功した。


 部屋の中に入ってから、父親のドミニクがいない事が不安なのか、落ち着きを見せないリーシャに、ドミニクの事を詳しく訊ねる。


 すると――


「お父さ、父は兵士達が到着してからすぐに飛び出して行ったのよ、」

「飛び出していった?」


「なんか、今しかチャンスが無いとかどうとか言って‥」

「他には?」


「ううん何も、本当に血相変えて飛び出して行ったから心配で‥心配で、」

「なるほど、」


 ――くそ、

 何かの報告に飛び出して行ったって事か、

 他にも近くに何かいるのか?だとしたらさすがに厄介か、



 ラティとサリオが、リーシャを落ち着けるように肩に手を置いて慰めている。

 俺の中では、このリーシャも敵側の可能性があるので、下手に声を掛けられずにいると。


「――!?ご主人様、動きがありました。囲むように迫ってます」

「来たか、予想よりも早いな、」

「なんで二人共そんな落ち着けるのですよです‥」


「そりゃ簡単だ、予想してた事が起きてんだ、落ち着けるだろ、」


 ラティの【索敵】だと俺達は囲まれていた。そして。


「来ます、数は11人」


 俺はラティからの報告を受けて次の行動を決めていた。

 

 ――コレで逃げる大義名分が手に入った、

 後は、



「突破して逃げるぞ!」

   

読んで頂きありがとう御座います~

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