爆発しろ
遅れましたー;
ご報告、ひとつ前の話で、南全域支配と書いてましたが、正しくは北全域です。
本当にすいませんでした。
早朝、村に押し寄せて来たのは、魔物ではなく人間であった。
魔物の進行速度は一定ではないので、ズレて遅れたり早まることもあるのだろうから、それは別に問題なかったのだが。
コレはある意味、魔物が押し寄せてくるよりも問題であった。
村に100人近くの兵士が突然やって来るなど。
一応、防衛戦への参加などで大人数が来ることはあるが、今回の防衛戦は小規模。
それに依頼などしていないのに大人数が参加してくることになると、食事や寝る場所などの確保が困難になる上に、参加者の報酬などの金銭面でも問題が生じるのだ。
人件費や食費なども管理しているエルドラさんが困惑の表情を浮かべている。
そして俺も――
「‥‥上杉、となりの子は誰だ、」
勇者上杉の隣に、ちょこんと立っている少女を見ながら俺は困惑していた。
何故か、絶対に認めたく無い、そんな予感がした。
「おぅ!この子は俺の彼女じゃなくて‥‥っお嫁さんだ!」
「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
――はぁぁぁぁぁぁあ!?
おい!ざけんなよ!彼女を飛び越えてお嫁さん!?
ふざけんなよ!俺は彼女だっていねーってのに、コイツは敵だ!
「もうっ!ツカサ様!お嫁さんだなんて。違いますぅ、まったくぅ」
上杉の隣に立っていた女の子は、頬を少し膨らませながら、可愛らしく怒っていた。どうやら嫁と言っているのは上杉だけで、本当は違ったようだ。
――だよな、だよな!
危なく嫉妬で上杉に危害を加えて、勇者保護法に引っかかるとこだったぜ、
はっ!まさか奴は、俺をそれでハメようとした罠か!?
「ツカサ様、私達はまだ婚約中なのですから、まだ気が早いですぅ」
『でも、嬉しいです、』と呟き、頬を染めながら俯く女の子。
頬を染めて俯く彼女に、だらしない顔をする上杉。
( ほうぅ‥)
「あの、ご主人様?何故そのような殺気を放っているのですか?落ち着いてください」
「ぎゃぼー!今のは、あたしでも感じられる殺気放ってたですよです」
「おいおい、ラティにサリオ?何言ってんだ、目の前に敵がいるだろう?」
――全く困ったもんだ、
ラティは【索敵】に頼りすぎで、本質を見失っているのか?
目の前に敵がいるってのに油断し過ぎだ、
「陣内‥、お前のその気持ち俺がお前にぶつけてやりたかったよ。まぁ今は確かに俺の方が上だがな」
なにやら上から目線の上杉。
今までとは違う、何かを脱したような、そんな落ち着いた貫禄を見せている。
――ま、まさかコイツ‥
いや、落ち着け俺!冷静になるんだ、
きっと彼女は奴隷か何かで、無理矢理婚約者とかそんな感じで、
俺は一縷の望みを賭けて、女の子の首元を見るが‥‥。
「なぁラティ。肌色の奴隷首輪ってあるよな?」
「あの、ご主人様、何かとても失礼な事を考えてませんか?」
俺はラティに『そのような色はありません』と咎められた。
閑話休題
その後、上杉とやってきた兵士達は。外に野営の陣を敷くこととなった。
元から100人受け入れて貰うのは無理だと承知していたらしく。野営などの用意をしっかりと準備してきていたようだ。
今は村を取り囲むように布陣している。
それと、驚きの事が。
今回の上杉の遠征には、南の大貴族、ナツイシ伯爵家の長男であるマークツーまで同行していたのだ。
しかも、上杉の隣に居た子は。ナツイシ家の長女のセーラ令嬢。
この2人が居る為に、約30名近い人は身の回りの世話係であり。戦闘担当の兵士は実質60人程度であった。
俺は今回のことを監視役のエルドラさんに訊ねると、彼からは。
「珍しいですけど、無い訳では無いですね。貴族が勇者様を支援しているとアピールする為に、大々的にこのような大掛かりな事を行うのは十分考えられますね」
「なるほど、」
どうやら大貴族のナツイシ家は、その存在感を知らしめる為に。今回の防衛戦に大赤字同然の遠征を組み込んだらしい。
そして今回は自分達が勝手に参加しているので、費用や報酬などは一切いらないと言ってきたのだ。当然、エルドラさんも断る理由も無いのでソレを受け入れた。
村の人も最初は困惑していた。
最初に来た冒険者達の数よりも3倍近い兵士達がやってきたのだから。
ある程度頭の回る人達からは。これは予想外の魔物の群れが向かって来ており、追加で増援が来たのでは?と不安がる者も出ていた。
だが、不安なそれを――
「俺は、一昨日魔物の移動があると知らせを受けて駆けつけた勇者上杉だ!そしてその応援で駆けつけて来た兵士達だ。だから無用な心配はしないでくれたまえ!」
「おお!勇者様だーー!」
「まさか、この村に勇者様が!?」
「領主のノトス公爵様でも勇者様は呼べないの何故?」
「本当だ!初めて見た勇者なんて」
村の広場のような場所で、勇者上杉の宣言に村人は湧き上がっていた。
その中には、【鑑定】を使って記念とばかりにステータスを覗いている者も。
そして上杉は村人に声援に答えるべく手を上げてにこやかに振り返している。しかも、隣には可憐な少女を付き添わせて。
最初は突然の事でしっかりと見ていなかったが。上杉の婚約者と言う少女はとても可愛らしい少女だった。
透き通るような明るい金髪に、薄い青色の瞳。
小柄な体を、フリフリが過剰に付いたドレスのような洋服に包み、一言で言うならばゆるふわ系。もう一声付け足すならば、上杉には非常に勿体無い。
そんな少女であった。
だた、全く似てない筈なのに、何故かレイヤを思い出させる少女であった。
ゆるふわ系のセーラは、上杉の腕に縋りつくように手を絡ませていた。
だが、その仕草は。媚びている風ではなく、親や兄、そういった家族と接しているような、親愛に満ちた仕草であり、全く不快感のないモノであった。
見ていて微笑ましい。そんな思いを抱かせるモノであり。周りの冒険者や兵士から、妬みや嫉妬のような負の感情は一切なく。周りからは好意的に受け止められていた。
俺以外からは‥‥
――上杉の癖に腹立つ、
本当は、裏で女に手玉に取られてるって思ってたのに、
まさかのガチかよ、、
俺は他の冒険者からやっかみのような視線を浴びているが。上杉は違う様子で、もしかするとコレも勇者の効果なのかも知れないと考えた。
そんな事を考えてながら周りを見渡すと。
「っん!?」
周りからの視線がよりキツくなっていた。
中には悪意のようなモノが混ざっている視線までも。
それは、今到着したばかりの兵士達から。
「ラティ、」
「はい、コレは注意が必要かと、まだ明確な害意ではないですが‥」
「ほへ?へ?え?」
俺とラティの会話に、サリオは辺りをキョロキョロと見渡す。
そしてその露骨なサリオの視線から逃れるように姿を隠す兵士達。
「ラティ、サリオ、今日の防衛戦は俺のそばで、」
「はい、ご主人様」
「ほへ?戦わなくて良いのです?」
「ああ、」
俺は2人に。この戦力なら問題が無いので、霊体が出るまでは俺のそばを離れないように指示をした。
本来は、霊体の相手は俺がして、ラティとサリオには遊撃を担当して貰うつもりであったが。どうもにも勘がヤバいと告げていたのだ。
そして次に気になる事が浮び、俺はエルドラさんの元へ向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「エルドラさん聞きたい事があるんですが」
「はい?どうしましたジンナイさん?」
「ちょっと気になったのですが、この魔物大移動っていつ観測されたのですか?」
「‥‥確か、四日前、?」
「それから最速で用意してこの村に来たんですよね?俺達は」
「事前にある程度は用意してましたからね、なんとか間に合いましたね」
「それなら、仮に一昨日知ったとして100人近い人員と物資って集められるモノですか?」
「――!?少し厳しいかと、これは‥」
何かに気付いたかのように考え込むエルドラさん。
しかし、それと同時に聞こえて来る、けたたましい鐘の音。
「む、来ましたか魔物の群れが?」
「そうみたいですね、んじゃ俺も配置に就きます」
村には魔物の群れの接近を告げる合図の鐘が鳴り響いていた。
慌しく駆ける冒険者と兵士、それと家に逃げ込む村の住人。ただ、中には剛の者が多いらしく。勇者の戦いを一目見ようと、家の屋根に上がる観戦組みがちらほらと居た。
「あやや、無茶する人が多いのです」
「そういや、前回のナンの村でも後半は観戦する奴が出て来てたな」
「村は特に娯楽などが無いですからねぇ、」
俺達はそんな感想を述べながら村の外へと走る。
村の外では、冒険者と兵士が別れて待機しており、兵士と冒険者は別々に戦う流れとなっていた。どちらかが片方の指揮系統に入るといった形ではなく。二つチームがそれぞれの指揮で動く形である。
村の南をゆっくりと、歩く程度の速度で進む魔物の群れ。
その進行する方角からは、村は外れていたのだが。魔物達は冒険者や兵士達が視界に入ったのか、進行方向をカクンと曲げて村へと駆け出したのだ。
まるで野盗の群れが、歩いて居たら獲物を見つけ卑しく群がるように。
冒険者兵士達は、此方に向かって来る魔物の群れを迎え撃つように駆けて行く。
魔物の数は、此方が一人2匹倒せば全滅する程度の数。
そして始まったのは、人間側の一方的な蹂躙であった。
本来の戦力の3倍以上の戦力がおり、尚且つ勇者もいるので、戦闘自体は全く問題なく進んでいった。
俺はその戦闘には参加せずに、霊体タイプだけを注意していた。それと他からの不意打ちにも‥。
サリオは暇そうに戦闘を眺め、ラティは【索敵】に集中し、不意を突いてくる可能性がある霊体タイプだけを探していると。
「あ!いました、けど‥」
「いたか!ドコにいるラティ?」
「それが、既に今倒されたかもです、」
「まぁ、あの数だからな、不意を突かれても問題無かったか、」
「ありゃ?あたし達は出番なしですかです?」
村から200メートルほど離れた場所で行われていた戦闘は呆気ない程簡単に終わりを告げた。
元々が小規模だったので、これだけの数が居れば当たり前なのだ。
そう、戦闘自体は全く問題が無かった。
勇敢に魔物の群れを切り裂くように駆けていた冒険者達。
揃いの装備が頼もしい存在感を見せ付けた兵士達。
その先陣を切った勇者上杉。
そして後ろで、何もせずサボっているように見える俺達。
家の屋根に上り、後ろからその戦いを見ていた村人の目には、俺達はそう映っていたのだ。
太陽が13時を差す頃。
村人が総出の中、兵士と冒険者達が凱旋したのであった。
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