独占
「よう、強姦魔、”ハズレゆうしゃ”なだけに、地下迷宮のルートもハズレルートかぁ?お前は」
姿を現した上杉は、いきなり挑発をしてきた。
どうにも機嫌が悪そうだった。馬車の出来事以外にも何か、気に食わないことでもあったのだろうか、上杉は挑発を続けてくる。
「そこのキミ、馬車でも言ったけど、そいつからは離れた方がいいよ、何ならこのパーティに入っても良いし、俺たちの戦いを見てくれよ、きっと気が変わるからさ」
俺は、上杉は何を言っても聞かないだろうし、無視をするつもりだったが、折角なので上杉達の戦いを見学することにした。
勇者の戦闘に興味があったからだ。
ダメ北原とは違うだろうと思い、上杉パーティに付いていくことにした。
すると上杉は、上機嫌でラティに話し掛けてくる。
「キミに本当の戦いを見せてあげるよ、俺達のパーティ”フルスイングズ”が!」
ふいた!無理だった、色々言いたいこともあったが、お前はピッチャーだろ?っと。ラティはよく分かっておらず、首を傾げている。
「陣内テメー、何笑ってんだよ」
( 無理言うな )
「お、やっと魔物が湧いたか。イワオトコか、丁度良い。ガルさん、盾壁お願いします」
「了解した」
ガルさんと呼ばれた犬人獣人の冒険者が、クマに岩が張りつけた様な魔物に、大盾を持ち一直線に突っ込んでいく。それを追うように、上杉ともう一人の冒険者が続く、ローブ姿のおっさんは後衛らしい。
「おおおおおおおおお!」
「戦いぶりを見ていてくれよー!」
「私は左から回ります!」
前衛の三人が声を掛け合う
ガシャン、と盾が大きな音を立てた
ガルさんが盾で魔物の攻撃を防いでいた。
魔物から猛攻撃を受けているが、ガルさんは防御に専念し、その脇から、上杉達が左右からの両手斧WSで攻撃を仕掛ける。
「これが本物の勇者の一撃”フルブレ”!」
「行きます”レベスレ”」
ガルさんの横から、上杉が赤く光る両手斧をバッタースイング気味に振り切って叩き込む。
ガルさんは後衛からの回復魔法を受けながら、魔物の攻撃を一身に受け、上杉達に攻撃が向かわないように立ち回る。
戦闘自体はすぐに終わった、凄まじいゴリ押しであった。
「ふう、これが勇者の戦いさ、ちょっと足場が悪いから手こずったけどよ」
「足場に文句言うならメインルート行けよ」
「いまメインルートは八十神達が居て、その取り巻きが多くてウザったいからこっちに来てんだよ」
上杉の機嫌が悪かった理由に察しがついた。
多分、八十神の真の勇者パーティと、比較されるのが嫌だったのだろう。
――ピッチャーは自分が主役じゃないと拗ねるからな、
自尊心を守る為に、こっちに来たって所か、
上杉の心情の考察をしていると、奴の背後に魔物が忍び寄っているのに気付いた。
「上杉!後ろ!」
「ああ?――っげ!!
上杉は完全に不意を突かれた形になった。
だが、俺が気付いたぐらいなので、当然ラティの方が反応が迅く。
一瞬にして壁や天井を駆け抜け、魔物を翻弄し背後から一気に首を刎ねた。
首を刎ねられたカゲザルは黒い霧となって霧散する。
( 久々のボーパルラティだ )
瞠目するような働きを見せるが、別段大した事ないように振る舞い。
「あの、差し出がましいかと思いましたが、倒させて頂きました」
「おぉう、まぁ俺も余裕で対処出来たけど、ありがとうな」
「ありがとうキミ、勇者様を助けてくれて、それにしても凄い動きだったね」
「油断してたよ、ありがとう。確かに、ウエスギ殿の言うとおり、是非うちに欲しい人材だよ」
「ああ、とても可憐な動きだったよ」
ラティの、まさに疾風の如きの動きにより、不意打ちをしてきたカゲザルを霧にしたが‥‥。
上杉と上杉パーティの反応にひっかかる物があった。
ラティの戦闘スタイルと上杉組の戦い方は、とてもじゃないが、相性が良いとは思えないのに、ラティをパーティに誘いたそうだった。
( 非常に気に喰わない、)
「今度はそっちの戦い方も見せて欲しいな、こっちばかり見せてもなぁ」
「ああ、是非見せて貰いたいな」
「うむ、一度じっくりと見て見てみたいな」
「戦い方を合わせたいですしね」
特に隠す必要など無いので、見学など構わないと思っていたが、後悔した。
魔物を発見し、いつも通りラティが切り込む、そこまで問題は無かった。
だが、上杉組は戦闘を観察するのでは無く、別のモノを見ていたのである。
「‥‥あ!」
戦闘をしているので、気付くのが遅れたが、奴等はラティのスカートの中を覗こうとしていやがった。スパッツは穿いているが、非常に気に食わなかったので、その戦闘終了後、俺達は地上に帰還した。
( ラティを見るなラティが減る! )
閑話休題
地上に戻ってから、魔石売却を済まし、早めに宿に帰った。
「ラティ、荷物置いたら飯を食べに行こう、あ!その前にステプレ見せて」
「はい、ご主人様」
ステータス
名前 陣内 陽一
職業 ゆうしゃ
【力のつよさ】20
【すばやさ】 20
【身の固さ】 17
【固有能力】【加速】
【パーティ】ラティ19
――――――――――――――――――――――――――――――――
ステータス
名前 ラティ
【職業】奴隷(赤)(陣内陽一)
【レベル】19
【SP】59/124
【MP】102/139
【STR】 44
【DEX】 65
【VIT】 51
【AGI】 97+2
【INT】 52
【MND】 60
【CHR】 77
【固有能力】【鑑定】【体術】【駆技】【索敵】【天翔】【蒼狼】
【魔法】雷系 風系 火系
【EX】見えそうで見えない(弱)
【パーティ】陣内陽一
――――――――――――――――――――――――――――――――
「おー!久々に上がったね」
「あの、またステータスが凄い上昇を‥‥」
ラティは未だに、ステータスの上昇強化に慣れていなかった。
この世界の常識だと異常な事なのだろうけど‥
「よし確認も終わったし食事に行くか」
「はい、ご主人様」
ステータスを確認をし、城下町周辺ではレベルが上がらなくなっていたが、地下迷宮では、しっかりと経験値が入っている事が確認できた。
ステータスの確認後は、ラティと宿の食堂に向かい、料理を注文した。
食堂では【狼人】の差別がなく、安心して食事はする事が出来た が。
「おう、陣内さっきは突然逃げ出してくれたな」
「‥上杉か、なんの用だよ」
「用って程じゃねぇけど、えっと、まぁお前らが見えたからよ」
歯切れが悪く言い淀む上杉。
しかし次には、覚悟を決めてとんでもない事を言い出した。
「陣内、彼女を解放してやれよ、この世界に奴隷が居ることは理解しているけど、縛り付けるのはやっぱ間違ってる」
「ああ、それで」
「ああ?だから解放だよ、離してやれよ」
「んで、自分のパーティにでも入れたいのか?」
「――っう!?」
「お前の所とは戦闘スタイルとは合わないだろ?ラティは」
「いや別に、そう言う訳じゃ 」
「それじゃあ、俺達は部屋に戻るから、ラティ戻ろう」
「はい、ご主人様」
上杉を振り切って、俺達は部屋に戻った。
この手の会話になるとラティは、ポーカーフェイスの無言になる。
口元を見れば機嫌が解るかも知れなかったが、何故かズルいような気がして見れなかった。
上杉の言っていることは、上杉自身の心情はともかく、決して間違ったことを言ってる訳じゃなかった。
でも俺はラティを奴隷から解放して、手放す気にはなれない。
――逃げられたくない、俺から離れられ‥
あ、マズイちょっとセンチになってる 寝よ 寝よ、
それから一週間。俺は勇者達に会うのを避けていた。
地下迷宮もハズレルートを選び潜り続けた。
暫くすると足場の悪さにも慣れ、ラティの動きも掴めてきて、合図が無くても、攻撃する隙とタイミングが解ってくるようになっていた。
それと夕飯時に、頻繁に上杉が来訪し、ラティ解放の説得が続いていた。
当然その都度、俺は部屋に戻り、会話と考える事を避けていた。
そして今日も、ハズレルートに潜っている。
「ラティ、休憩にしよう」
「はい、ご主人様」
「休憩のついでに、ステプレの確認をするから、ラティ見せて」
「あの、今日も結構稼ぎましたからね、凄い上がり方をしてます」
ステータス
名前 陣内 陽一
職業 ゆうしゃ
【力のつよさ】27
【すばやさ】 29
【身の固さ】 25
【固有能力】【加速】
【パーティ】ラティ28
――――――――――――――――――――――――――――――――
ステータス
名前 ラティ
【職業】奴隷(赤)(陣内陽一)
【レベル】28
【SP】117/156
【MP】152/179
【STR】 87
【DEX】101
【VIT】 83
【AGI】150+2
【INT】 84
【MND】 93
【CHR】109
【固有能力】【鑑定】【体術】【駆技】【索敵】【天翔】【蒼狼】
【魔法】雷系 風系 火系
【EX】見えそうで見えない(弱)
【パーティ】陣内陽一
――――――――――――――――――――――――――――――――
「うん、かなり良い調子だな、それにここの戦闘にも慣れて来たし」
「はい、ご主人様はこの悪路でも問題無く動けるようになりましたねぇ、特に攻撃のタイミングが素晴らしいです」
「ラティの動きが勉強になるからね、足運び一つ取っても洗練された感じがするよ」
「あの、褒めて頂く程の事では、ご主人様の方こそ目覚ましい上達をしているかと」
そこで俺はラティに褒められ、調子に乗って無謀な提案をしてしまう。
「今日はもうちょい奥まで見てみよう」
「はい、ご主人様」
ここ一週間でラティの気配感知能力、【索敵】は上達していた。
それに頼り安心しきっていたが、足場の脆さまでは‥‥感知出来ず。
「うあぁ!」
「ご主人様!着地にご注意を」
ラティと一緒に、突然の足場の崩落で2~3㍍程落下した。
落下した場所は、20メートルくらいの丸い部屋。
出口の通路には、白い糸で厳重に封鎖されており、そして目の前には‥。
巨大な黒いクモが待っていた。
「ラティ!怪我は無いか!行けるか!」
「はい平気です!ご主人様、私も見たことの無い魔物です、名前はカゲクモ!レベル、、37強敵です」
「仕方無い行くぞラティ!」
「はい、先行して撹乱します」
落下した場所での戦闘が始まった。
カゲクモは胴体だけでも2㍍はあるクモで、まるでこの部屋が奴の巣のように感じられた、あの崩落もコイツの仕業かも知れない。
ラティはいつも通り、攻撃より回避を優先させ、相手を翻弄していく。
「ご主人様!間合いを詰め、魔物の動きを誘導します」
「任せた!」
短いやり取りで次の一手を決め、攻撃体勢に入る。
ラティが急接近からの【駆技】と【天翔】を駆使して、急接近から一瞬で後方に離脱する。 が!
「―っあ!!」
いつの間にか、周辺に蜘蛛の糸が張り巡らせてあり、ラティがそれに引っ掛かる。 そして。
「ッグゥ!!」
「ラティ!」
「――ッ今です!!!」
ラティは糸に捕まりながらも、体を捩りクモの足の一撃を避けようとする、が わき腹に鋭い足先が貫通してしまった。
だが俺はラティの合図に、全力で【加速】を使いながらクモの首の付け根に槍を突き刺す。
「おおぉぉおおおお!!!」
そしてそのまま、クモを壁に張り付けにする、横にはワキ腹を貫かれたままのラティが、身動きが取れずにクモの足に引っ掛かっている。
「――ご主人様!まだです、霧になってません」
「っがぁあああ!!」
腰に差してある木刀を、今度はクモの胴体に体ごと木刀を突き立てる。
――――――ゴゾッ!!―――――
重い音を立ててクモを張り付けにしていた壁が崩れ、隣の広い空間へ魔物のクモと一緒に雪崩れ込む。
『―ッキュガ!!―』
クモが聞いたことも無いような音を立てて、黒い霧となって巨大な魔石残し霧散したが、霧散したことでラティのワキ腹に刺さっていた足先も消え、ラティの脇から一気に血が吹き出す。
「ああああああああああ!!」
ラティの名前も呼べず、錯乱気味に手持ちのポーションをありったけふり掛けるが、効果が鈍すぎる。
傷が酷過ぎで焼け石に水だった。
どうすることも出来ず、ラティの顔を見るが、どんどん青白くなっていく。
「――――――ぁぁあ――」
「―――――かぁ!――――!」
「あと――がい――!!」
気が付くと、遠くで戦う声が聞こえ、そちらを見ると他のパーティが二組程戦っていたのだ。ただ 戦闘中の魔物は俺には【鑑定】が無いから分からないが、かなりの強力そうな魔物に見えた。
「助けを、、っ!!」
戦っていたのは勇者パーティで、あの裁判モドキの時の4人が居た。
奴らに頼るなど、と思ったが、ラティのわき腹のキズを見たら、つまらない考えは完全に吹っ飛んだ。
「おねがいだぁー!誰かラティを助けてくれぇ――!」
声を張り上げた。
「誰かお願いだ――こいつを!」
慟哭をあげ助けを懇願した。
「待っていてください、今 回復魔法をかけます!」
いつの間にか、近くに来ていた女性が、ラティに回復魔法を掛けてくれる。
「ごめんなさい、今は戦闘中でこれが精一杯なの、ごめんね陣内君」
ハッっとして顔を上げると、其処には勇者で聖女と呼ばれている、葉月由香が立っていた。葉月の回復魔法でラティの怪我は薄く塞がりはしたが、まだ塞がり切っておらず、まだ危険な状態。
「葉月!ありがとう、ありがとう、後、出口の方向教えてくれ」
「えっとあっちだけど、すぐ出口に戻れるはず‥」
「わかった!」
そのままラティを抱えて出口に走りだした。
外に行けば回復屋があるはず、そこでラティを助けられる筈だ。
「ああ!待って陣内君!陣内君もッ――――――!」
それからは、【加速】をフルで使い、地下迷宮を脱出した。
そして一番近くにある回復屋へ飛び込んだ。
ラティへの回復魔法を今日二回目の懇願をした、だが。
女性の回復屋の術師はラティを一瞥すると、眉をひそめながら。
「はぁ?【狼人】の娘ですか、それなら金貨十枚ですね」
「今ある手持ちの、金貨九枚と銀貨二十枚でお願いします!後で、必ず残りは持ってきますので、お願いします!」
相場の十倍以上の価格だったが、即答で有り金すべてを叩き付けた。
上級回復魔法をお願いし、何よりも回復を優先させたかったのだ。
回復術師は、最初は驚きの表情をしたが、次には金に汚い歪んだ笑みを浮かべ、上級回復魔法をラティに唱える。
「ふうぅ、終わりました、傷も残らず回復させましたよ、残りの銀貨八十枚はサービスで良いですよ」
額に汗を滲ませ肩で息をしながら、術師が俺にラティの無事を伝えてきた。
俺は気絶しているラティの顔を見つめ、ラティの無事を改めて確認した。
「良かった、ラティごめん、俺があんな場所に行こうとしなければ、」
「もう疲れましたよ、怪我が酷くて治すのにMPがもう空ですよ、ってお客さん!!」
安心をしたからか、気が抜けてその場で膝を着いた。
そして腹部の痛みに気付き、腹部を確認してみると、そこで俺は初めて自分も腹を貫かれていることに気付いた。
そしてそこで意識が途切れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目を覚ますと、俺は回復屋に設置されているベッドの上だった。
横にはラティが心配そうに困った様な、そんな表情でこちらを見つめていた。
「お目覚めですか、ご主人様」
「おはようラティ」
「すいません、わたしの為に全額を、申し訳ありませんヨーイチ様」
俺はラティに声を掛けるよりも。
今はラティの頭を撫でる方が返事になると思い、ラティを撫でた。
頭を撫でられたラティは、気持ち良さそうに目を嬉しげに細め、口元からは『ふしゅぅ~~』と息が漏れる。
「しばらく聞いて無かったな、この音を」
ラティは何のことか分からずに、きょとんとして首を傾げる。
首を傾げたラティの後ろに、回復術師が視界に入った。
ただ、何故か とてもバツの悪い顔をしており、目も逸らしていた。
何か他にあったのだろうか?
少し気にはなったが、今はラティの撫で心地を堪能していた。