名前
説明と纏めまいで、プロローグ的な
新章かな?
俺がこの異世界で守ろうと思う、決まりの一つ。
仲間との情報共有と相談。
世の中には、相手に負担を掛けない為や、誤解などを生まない為に、悩みや余計な情報などを誰にも話さず、抱え込んだりする人がいる。
それは、仲間や想い人に余計な不安や心配を掛けたくないから、と言う、相手を気遣う心優しい理由などでだ。
だが――俺は其れを否定する。
気遣いとは、さり気無いモノ。
不安や心配を掛けたくないのなら、取り除けばいい。
誤解を生むなら、誤解を解けば良い。
余計な情報などは、余計じゃない、余裕がある時に話せばいい。
そして隠すべき話はしっかりと隠せば良い。
俺は今。ラティの頭を撫でながら、ライエルからの話、アムさんからの話、ハーティさんからの仮説とゲームの話。そのすべてをラティに伝えて意見を聞いていた。そして、他の勇者達には話さなかった、俺だけが勇者召喚では無い可能性の件も‥
因みにサリオは既に熟睡中である。
彼女は、深淵迷宮での疲れか、食事を済ませ風呂に入ってから、まるで電池が切れたかのように眠ってしまっていた。
ラティは俺の膝の上に頭を乗せて、耳裏の付け根辺りを撫でられながら心地良さげにしながらも、真面目さを取り繕った声音で俺に訊いてくる。
「あの、ご主人様、WSは個人が編み出すことが出来るのですねぇ?ライエル様からのお話ですと」
「ああ、何でも技をイメージして、尚且つ意識しながら技を放つだっけかな?」
――おっ?ラティもWSを編み出したいのか?
ラティは案外強さに貪欲だからな、
自分も作りたいのかな?
「あの、それと編み出したWSは、世界に登録、?えっと定着して他の人も適正があればその編み出したWSを使えるようになるのですよねぇ?」
「ああ、ライエルはそう言ってたな、それが?」
「わたしが最近発見した、”重ね”なのですが、アレはWSにWSを重ねたら威力が増さないだろうか、と言う思いで放ったのです」
「へ?それって‥」
「はい。ですから、”重ね”とは発見したモノではなく。わたしが編み出して世界に登録したモノではないかと思うのです。今まで偶然にWSにWSを重ねることはあった筈ですから」
――あ、なるほど、確かにその通りだ、
今までWSが一度も重ならなかったとか無い筈だ、
だけどラティは、ソレを意識して行ったから効果が表れたと‥
ラティの立てた仮説に、頭を撫でる手に思わず力が入る。
俺はコリコリ優しく彼女の耳裏の付け根を掻いていたが、少し力が入った。
その小さな力加減に、ラティが僅かながらの反応を示す。
何とも言えないその反応に、そのまま少し力を込めたままで撫でるのを続行し。そしてそのままラティの反応を悦びながら俺は会話を続けた。
「もしかすると本当にラティが”重ね”を世界に登録したのかもな」
「あのっ!あのっ‥っの、」
――あれ?”重ね”を編み出したとして、それに必要な【固有能力】は?
ラティは創が付くようなの【固有能力】持ってないよな、もしかして‥
もしかして【蒼狼】がか、?
色々と反応を示すラティに気付かない振りをして会話を続ける俺。
その後も、情報共有の会話を続ける、勇者保護法や初代勇者の件などの。
そして勇者保護法の話の時には――
『あの、ご主人様、西に行くは控えた方が宜しいかと、あの命を狙って来た勇者様がいるのであれば、危険かと思われます』
『ああ、北原か‥、確かにな』
『わたしもそうですが。ご主人様も、あの者を前にして冷静でいられるとは思えないので、やはり危険かと』
『あ~、確かに視界に入ったら反射的に動きそうだわ、』
話し合いの結果、俺達は西へ行くのは控える事となった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺はラティと情報共有を行いながら、情報も纏めていた。
魔力の渦の件は、今は様子見で。
勇者保護法は、西へは近寄らない。
ハーティさんのゲームの話の件は。ゲームの説明が難しかったので、こちらの異世界でもある、演劇の物語みたいなモノと説明をした。
俺達が召喚される前の世界に、この異世界を舞台にした演劇があり、その演劇の主役をやっていた人が、初代勇者かも知れないと説明したのだ。
ラティにその説明をしている時に、ふと疑問に思った事が。
ハーティさんは、御神木英雄が初代勇者では?と。
だが、初代勇者はタカツキーヒデオーとライエルは言っていた。
ステプレには名前が表示されているのだから、不自然なはずなのだ。
「なぁラティ、この異世界って名前を変えたり出来るか?ステータスプレートに刻まれてるよな名前って」
「あの、事例は多くはありませんが、一応出来ます。正確には、名前を変えるでは無くて、名前を名乗ると言った方が正しいのですが」
「名乗る?」
「はい、名乗るなのです。例えば、後ろめたい事があり名前を変えたくても、それは名を騙るになり、名前は変えれません。ですが、例えばアム様が正式にノトスの領主となると、アムドゥシアスから”アムドゥシアス・ノトス”と名前が変わるのです」
俺は何故そう変わるのか?と訊ねると、ラティからはステータスプレートが自然と判断して、名前が変わると教えてくれた。
もしかすると、これも世界の登録みたいなモノなのかも知れない。
(もしくは、ステプレが万能なのか、)
「しかし、名前を変えるか、何かしら意味があるんだろうけど‥」
「そうですねぇ、色々とご事情がおありだったのかも知れませんねぇ。わたしも一度名を変えたというよりも、失った身ですから、何となくですが分かる気がしますねぇ」
――は!?
ラティは名前が一度変わった?いや失った?
何で?何故?え!?
「ラティ!名前って前は――」
「あの、失った名ですので、今はもう不要ですので‥‥」
ラティは先程まで俺の足に縋り付く様にしていた。
完全完璧頭撫では、俺がベッドの縁に腰をかけ、そしてラティは床に腰を下ろした状態で、横から俺の足にしだれかかるようにして膝上に頭を乗せるのだ。
それがたった今、拒絶を示すかのように、縋り付いていた力が急に抜けたのだ。
口に出さずとも解る。
――これ以上聞くなってことか、
何だろう、何かあったのか?名を失うって、
いや! あったんだな‥何かが‥‥
先程まで楽しくって仕方なかった頭撫でが、不意に気まずいモノになっていた。
その理由は分かっている。
ここは引くべきと、俺は立ち上がろうとしてたが。
「あの、もう少しお願いします‥」
蚊の鳴くような声が聞こえて来た。
一瞬ラティからとは判断出来ずにいたが、足に縋る腕に再び力がこもっていた。
気まずい空気を察して立ち去ろうとした俺の行動に、今度はラティが察して俺を引き止めた。
彼女は俺に気を使い、再び撫でて欲しいと言葉と行動で示してきたのだ。
そんなラティの優しさに俺は、再び頭を優しく撫でる。
「ラティ、ありがとう、」
「あの、何の事でしょうか」
その後俺は、2時間程ラティを撫で続けた。
閑話休題
次の日から三日間、俺達は休むことにした。
約二週間以上、深淵迷宮に潜りっぱなしだったので、連休を取ることにする。
ラティは特に何も言わなかったが、サリオははしゃいで喜んだ。
「いっやほーいですよです!お休みなのです」
「さすがに疲れも溜まっているだろうしな、」
サリオは柔らかいベッドで『今日一日は貪るように寝るです』と宣言。
部屋に引きこもっている分には、金もトラブルを起す心配も無いで、それを止めるような事はいなかった。だが、朝食後、他のメンバーに休みのことを連絡する為に走って行ったラティを少し見習って欲しい、という思いだけは抱いたが。
――まぁ、サリオじゃ仕方ないか、
それにしてもラティは働き者だ‥本当にいい子過ぎるな、
そして優秀過ぎる‥‥
俺はラティの過去を知りたいと強く思うようになっていた。
他の冒険者達をそれなりに見てきたが、彼女は一角の冒険者を優に超えている。
だが、昨日の態度を見る限りでは、踏み込んで欲しくないのであろう。
「名を失う、名を変えるか、」
思わず呟く。そして思う――
――知りたいな、
ラティは奴隷として売られたんだよなぁ、
彼女に一体何が‥‥
この異世界では。基本、強制的には奴隷に落とせない。
本人の意思で奴隷として落ちるか、親に売られるか。
これ以外は罰せられる決まりとなっていると教えられた。
なら、ラティは――一体、
――う~ん、いつか奴隷商の人に聞いてみるかな、
名前なんだっけな、オーレかイーレとかだった気がするけど、
そんな思いを廻らせながら、休日の三日が過ぎていった。
そして休み明けの日に、ハーティの三雲組と勇者伊吹組が西へと発った。
南に残った俺には、アムさんから防衛戦の依頼が舞いこんだ。
再び南での防衛戦である。
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