同一人物?
アムさんが、9代目勇者召喚の時代に起きた出来事を語る。
その時代はとても荒れたそうだ。
召喚された勇者達は18名。
そして魔王が発生時に生存していた勇者の数が7名。
世の中で謳われている物語では、勇者が魔王と一騎打ちの末に打ち滅ぼした。
そう美談として広く知られているそうだ。
だが、貴族達が知っている真相は。
勇者同士の争いや、貴族の争いなどで勇者達が11名死亡。
一騎打ちで倒したと語られているが、それは一人しか残らなかった事を意味するのだ。
もし勇者が負けていれば、魔王が猛威を揮ったこととなったのであろうと。
そうアムさんは語った。
貴族の権力争いや利権や既得権益など、魔王討伐とは全く関係の無い所で勇者達が命を散らして逝ったと言うのだ。
そんな事で魔王に敗北する可能性を危惧した大貴族や王族達は、勇者保護法を作り上げたのだと。勇者に危害を加えたり殺害などを行った場合は、全貴族と王族で討伐されると言う法だ。
処罰された貴族からは当然、領地や地位などすべて奪い、討伐に参加した貴族に配分。
それは他の貴族を攻める大義名分が立ち、そして絶対に勝てる勝ち戦である事も意味していた。
この法が出来てからは、勇者を露骨に使った争いや。邪魔な勇者は排除すると言った動きは完全に無くなったと言うのだ。
魔王討伐の勇者を無駄に死なせて、世界の危機を招かないようにする為の法律。
それと厭らしい所が一つ。この法は、魔王討伐後は解除されると言うのだ。
魔王討伐後、安全が確保出来れば、また勇者を利用出来るようになっていた。
それよりも、俺にとって問題なのは‥
――ちょっとまてええ!?
それって北原、排除出来ないって事か?
やれるとしたら、コッソリとヤルしか無いってことか、
俺は咄嗟に色々と北原の排除方法を考えていた。
一番ベターな方法は、地下迷宮にでも誘き出して、居なくなって貰う方法。
だがこれには無理があるとも思えた。
何故なら、北原が地下迷宮にノコノコと来るとは思えないからだ。
「ジンナイ君、悪い顔してるよ‥」
危険な考えが顔に出ていたのか、『程ほどにね‥』と、やんわりとアムさんに窘められる。
( 顔にすぐ出るな俺、)
アムさんは、明言こそはしていなかったが、あの目は”やったらノトス家もお前を追う”と語っていた。
確かにその通りなのだろう、下手に庇ったりするとノトス家もその対象として、他の貴族達からハイエナのように貪られるのであろうから。
俺はその後、アムさんと別れ執務室を出た。
勇者保護法の対策に何かしらしなければいけないと考え。この法律の抜け道は無いかと思索に耽っていると。
「あ!いたいた、ジンナイ!貴方にお客様よ。離れの客室で待って貰っているから早く行ってね。ハーティさんって方が待っているから」
「ハーティさんが?」
執務室を出た後に、廊下でレイヤに呼び止められ、俺達が住んでいる離れの客室に向かうように言われた。
――ハーティさんが俺に会いに?
あ!深淵迷宮で言ってた件か、
結局ゴタゴタしてて話せて無かったな、
俺はすぐにハーティさんに会いに向かった。
時間的に、ハーティさんは深淵迷宮から戻って、ほぼ荷物を置いてからこちらに向かって来たようなものなのである。
時間が空いたから来たのでは無く。
時間を作っててでも会いに来ているのだ。コレは余程大事な話なのであろう。
広い屋敷を駆けて離れに向かう。
そして俺は住んでいる離れの建物の一階客室へと入って行く。
中に入ると簡素な客室で、立ったままでハーティさんは待っていた。
「待ってたよ陣内君」
「えっとお待たせしました、それで話とは?ハーティさん」
俺とハーティさんはそのまま立ったままで話を始める。
「陣内君、もしかすると三雲組は、西に向かうかも知れないから、その前にどうしても話しておきたくて来たよ」
「話と言うのは、ゲームの件ですか?」
『ああ、そうだ‥』ハーティさんはそう言って話を切り出した。
客室には現在俺とハーティさんの2人だけ。
元からこの離れには人が少ない。
一応隠蔽魔法などで、隠れながら盗み聴きしている者がいないか、王女様から頂いたアクセサリーをチェックする。
はめ込まれた宝石の色は変わらず、隠蔽で隠れている者がいない事を確認し。そしてハーティさんの話に耳を傾ける。
「まず簡単な説明と言うか質問だけど、陣内君はネットとかの、MMORPGとかやったことはあるかい?」
「はい、有名の奴ならやったことは、」
「それなら、よくゲーム内で運営に文句とかを言っている人を見たことは無いかい?そう例えば、『運営しっかりしろー』みたいな」
「ああ、ソレ毎日見てましたね、『この運営は駄目だ』とか」
「それじゃあ、ゲーム製作担当の個人を煽るとかは?」
「えっと、丸山しっかり機体調整しろ!とかですか?」
「ああ、そんな感じの奴かな」
「それがどうしたんですか?何の関係が‥」
転生者のハーティさんは、何とも言えない懐かしそうな、遠い昔を思い出しているような目をして語りだす。一瞬理解し辛い事を。
「タカツキーヒデオーは、この異世界に酷似しているMMORPG、【ユグドラシル】でよく使われていたネットスラングなんだ」
「へ!?」
「だから、ゲームでは誰もが一度はチャットで使っているようなスラングなんだよ。そのタカツキーヒデオーってのは」
「は?意味が、?」
「意味は――」
ハーティさんはいつもとは違い、彼らしく無いほどに熱く語る。
MMORPGでバグや修正して欲しい所などを運営側に愚痴や抗議する時に、ゲーム内のチャットで『タカツキーヒデオー!修正パッチしろー』と叫ぶのが流行っていたらしい。
それはオンラインゲームなどでよく見掛ける『運営しっかりしろー』的なモノであり。【タカツキーヒデオー】とは運営を指していると言うのだ。
総合プロデューサー高槻 誠。
それともう一人の男。ゲームのイラストとシナリオの二つを担当している男。その2人を纏めて呼んだのが”タカツキーヒデオー”となり、それが定着したと言うのだ。
俺自身も丸山しっかりしろよー!と、無茶な事をゲームのチャットで言った事があるので、ハーティさんの説明は、意外とすんなりと受け入れられた。
そして、そのイラストとシナリオ二つを担当している男の名前は――
「‥深淵迷宮の最奥で、陣内君からその名を聞いて思い出したんだよ‥、御神木 英雄をね」
「御神木って、前にハーティさんが言ってた、」
「ああ、そうだ、失踪した人だよ御神木英雄は」
「え?じゃあ、もしかして、いや!幾ら何でも、」
「ああ、真相は解らない。だけど、タカツキーヒデオーには何か意味がある筈だ」
それからハーティさんは彼なりの仮説を語った。
それは何か違和感を感じる程に熱く、何かの希望でも見つけたかのように。
ハーティさんの仮説は。
まず、”タカツキーヒデオー”の意味としては、ハーティさんがやっていたと言うMMORPGをやった事のある者なら誰でも気付くワードだと言うのだ。
高槻 誠や御神木 英雄では気付かない人が大半だろうという。
タカツキーヒデオーを名乗ると言うのは。ある種のメッセージの意味があるだろうとハーティさんは言うのだ。もちろん他の別人が騙っている可能性もあるがとも。
そして、ここからが本題だと言うかの如く熱く語ったのが。
人の意識をコンピュータの中に取り込み、恰も異世界に来たと錯覚させているのでは?と言うのだ。ハッキリ言ってSFである。
この異世界はファンタジーかと思ったら、実はSFの世界だったと言うのだ。
その仮説は、よくSF小説などで見かける設定である。
ハーティさんは事故の後に病院で。俺達は学校で睡眠ガスでも使って拉致られ、実験的にコンピューターに意識を繋げられたのではないかと。
話を聞いていた俺は、ある意味勇者召喚よりもファンタジーだと思った。
だが、何故かハーティさんは‥。
――あ!そうか、
転生なんかじゃ無くて、自分は本当はまだ生きていて、
意識だけをこの異世界に取り込まれていると思いたいのか‥?
俺は熱くなっているハーティさんを見ながらそんな事を思い浮かべていた。
「――っあ!ハーティさん!西に向かうかも知れないって、まさか‥」
「はは、さすが陣内君。その通りだよ、西の地下迷宮の最奥で精神の宿った石に会いに行くつもりだ。ライエルだっけ?彼は、西なら拡張の影響は少ないだろうと言ってたんだろ?」
俺はハーティさんや勇者達に、ライエルから聞いた話をしていた。
地下迷宮の事など詳しく知りたければ、西で聞けと言っていたライエルの言葉を。
その後、俺はハーティさんと少ない意見交換を交わし、そして話を終えた。
『またな、西で何か解ったら知らせる』と言い残して、彼は出て行った。
俺はハーティさんの仮説を否定するつもりは無かった。
だが――
「ハーティさん、俺の勘は違うと言っている、」
否定するつもりは無い、だがそれを受け入れる事は出来なかったのだ。
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