新たな流れ
三雲との対決!?
「陣内、えっと‥」
「ん?何だよ三雲、話すなら早くしてくれ、そろそろ出発だぞ」
「え!?あ、うん‥」
「なんだよ、俺が落ちた事に文句でもあるのか?アレは仕方ないだろ」
「違う!そうじゃなくて‥」
俺は三雲と向き合っていた。
三雲から話があると言われ、椎名を見送った場所でそのまま話しを聞いていた。
ただ、三雲は歯切れ悪く、なかなか話を始めない。
「三雲、お前が俺のことを良く思っていないのは知ってるけど、流石に呼び止められてまで文句を言われる筋合いは無いぞ?」
「違うっ!そうじゃないんだ‥」
「なら何だよ、全く」
「ただ、わたしは陣内に謝っ――」
「――唯ちゃん、そろそろ出発の用意をって、陣内君‥?」
三雲が何かを伝えようとした瞬間、それを遮るように言葉が三雲に声を掛けてきた。
そして、話すタイミングを失った彼女は。
「言葉‥‥、うん、わかった今行くね、もう出発の時間だしね」
「‥うん?あ、ハーティさんも唯ちゃんを呼んでいました」
「陣内、ごめん。話はまたいつか、」
「‥‥‥」
三雲は何か諦めたような、そして苦そうな顔をして言葉の後を追う。
俺はそれを見詰ながら――
「三雲!言いたい事あんなら今言え!後でとか面倒なんだよ」
「陣内‥」
俺は意識して三雲を引き止める。
三雲は俺に何かを言おうとしていて、偶々タイミングが悪く伝えようとしていたことを伝え損ねた形になっていた。
普段であれば何も問題の無いことであるが。今は地下迷宮の中である。
無用なわだかまりを残したままだと、後々で面倒になると思い。どうせ俺への愚痴か何かであろうと当たりを付けて、不満を吐き出させる意味で三雲を引き止めた。
そして、浴びせられるであろう愚痴か罵倒に備えていると。
「陣内。ごめん強姦魔とか言って悪かったわ、話を鵜呑みにして決め付けてたの‥、えっと、取り敢えずそう言う訳だから!だからゴメンね陣内!それじゃっ」
「へ?」
三雲はそう言ってバツの悪そうな顔をして逃げるように駆けて行った。
その三雲の行動には、俺だけではなく、言葉も驚き固まっていた。
――え?何があったんだ?
あれ別人か?いや、これはまさか‥
椎名と同じで何か呪われた武器でも装備したのか!?
「言葉、三雲が椎名みたいに武器か何かに影響受けてる可能性があるぞ」
「あのね陣内君、それはいくらなんでも唯ちゃんに酷いかと‥」
何故か俺は言葉に、とても残念そうな目で見られてしまっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
地上への帰還は、何の問題も無くすんなりと辿り着いた。
来た道を遡るだけなので、未知の領域に踏み込む行きとは違い、気持ちの上でも楽になり大した問題なく帰還出来た。
もし問題があったとすればひとつだけ。
集団風呂覗き事件だろう。
帰りの道程で、水にかなりの余裕があったので、女性陣、主にサリオがお風呂に入りたいと主張。
その為に、急造で風呂を作り上げたのだ。
地面を魔法で削り堀り、そこに水を流し込み魔法で加熱。
防水などは出来ていないので、長時間経過すると水はすべて地面に吸収されてしまうような風呂が作られたのだ。
だが、この深淵迷宮に潜り10日以上経過している野郎共には刺激が強すぎた。
何を思ったのか、”強行してでも覗いてやる”と言う冒険者が半数いたのだ。
当然俺は、ラティが覗かれるなど許容する訳もなく覗き阻止側へ回った。
そして戦いは熾烈を極めた。
ラティの為に荒れ狂う俺。俺は覗き野郎共を薙ぎ払っていった。
だが、一つ予想外の出来事が起きた。
なんと、覗き阻止側として俺の横に立って居た2人、ハーティとレプソルの野郎が裏切ったのだ。
『――な!?二人共何故だ!?』
『ふっふっふ、陣内君、君はまだまだ甘いね、一体いつから――、僕が味方だと錯覚していた』
『なん‥‥だと‥‥!?』
『ジンナイ風呂覗きの前には何をやっても許される、そう歴代勇者も言っていた』
『がぁぁぁぁ!また歴代共かぁーー!』
『其処で縛られて渇いて待っているがよい陣内君!』
『ハーティ!下手に煽るな!コイツは危険なんだ束縛を千切るかも知れん』
『おっし!行くぞ野郎共!桃源郷はすぐそこだ!』
『おお!ガレオスさん、オレ達はアンタに着いていくぜぇー!』
俺は完全に不意を突かれ、束縛系の魔法で動きを封じられたのだ。
さすがの俺も支援系屈指の2人からの魔法からは逃れられず、万事休すかと思われたが。事態は当たり前と言えば当たり前の事が待っていた。
『ぎゃぼぼぼぼぼぼぼ!?覗きですよ~です!?』
『『『『なにぃぃぃぃ!?』』』』
風呂に入浴していたのはサリオだけだった。
考えればそれは当たり前の事。
どこの世界に『覗くぞー』と大騒ぎしている野郎共が側にいる中で、のん気に風呂に入る女子がいるだろうか。サリオだけは、風呂の誘惑に勝てず風呂に入っていたようだが。
結果として、冒険者連隊の半分近く15名が、不名誉のロリコン覗き野郎と言う烙印を押されることとなった。
ただ、少し意外だったのが、そのロリコン覗き野郎の中にガレオスさんはともかく、スペシオールさんも含まれていた。
それからの帰り道で、『覗き野郎の烙印には甘んじて受け入れよう!だが、ロリコンは違うんだー!』と冒険者達が必死に叫んでいた。
ただ、その内の数人は何も弁解しない事がとても気になった。
嫌な予感しかしないので、深くは追求しなかった。
そして地上に帰還後は、そのまま冒険者連隊は解散となる。
今回の遠征費や冒険者達への報酬は、各パーティでの支払いとなった。
勇者である伊吹達にも関係あることだと言うので、彼女達は、自分のパーティメンバーへの報酬は自分で支払うと言うのだ。
深淵迷宮の滞在13日間の報酬。
俺は自分の陣内組へ、今回の遠征での報酬として金貨65枚を支払うこととなった。
まだ人数の少ない陣内組でも金貨65枚なのだ。しかも、深淵迷宮での稼ぎは其処まで高くはなく、完全な大赤字。
地下迷宮の最奥を目指す冒険者がいない事を再認識させられる。
俺は冒険者連隊解散後は、今回の件の報告の為にまずアムさんの元へと向かう。
「アムさん戻りました、それで一応連絡と言うか報告が――」
「ジンナイ君、先に此方から報告がある。魔王発生の件だ!」
「へ?まさか何処かに発生したとか!?」
「ああ、ゴメン。早合点させたね、ちょっと違うんだ、寧ろその逆だよ」
「逆って‥?」
「発生の時期が遅れるかも知れないと、そう中央の城からシェルパールを使って連絡が来たんだ。なんでも魔力の渦に変化が生じたとか」
それから俺はアムさんに、中央からの情報を詳しく聞かせて貰った。
俺自身、忘れていた事だったのだが、魔王発生の兆候を観測出来る【固有能力】持ちが、空に広がる魔力の流れを観測していたところ。ここ最近でその魔力の流れに大きな変化が表れたと言うのだ。
本来魔王発生が近づくと、空には魔力の渦が出来てくるらしいのだ。
時計の逆周りに台風の雲の形のように流れていたはずの魔力の流れが。東側で途切れるように、それはまるで流れを乱すかのようになったと言う報告が上がったのだ。
過去の見聞や史料によると、魔力の渦が収束して集まっていって魔王が発生すると記されていたのだ。
今回はその渦の流れが乱され、それによって予測よりも魔王の発生が遅れるだろうと判断されたと言うのだ。
当然その原因には心当たりがあり――
「アムさん、俺からの報告の件なのですが、その魔王発生が遅れる事と関係があるかも知れません」
「む、詳しく聞かせてくれ!」
「実は――」
俺とアムさんはその後、長々と話し合いや意見交換を行った。
精神が宿った石の件や、それが五箇所に設置されてた事。そして東の石が勇者によって斬られてしまっている事など。
特に今回の魔力の渦が東で乱れている点から、何かしらの関係があるだろうと、互いに推測や仮説を立てていた。
そして最終的に‥
「あ~~アレだな、我々が騒いでも仕方ないな、取り敢えず傍観するか」
「アムさん‥‥、まぁ確かに仕方ないですね。実際に問題があるとしても、魔王発生が遅れるだけと言うことだけみたいですし、別に遅れる分ならまぁ、」
元の世界に帰れるのが遅れるかも知れない。だが下手に魔王発生が早まるよりかはマシかと言う事で、今回の件は傍観することとなった。
もし何か経過があれば、また中央から報告が来るだろうと。
そして、この魔王発生が遅れる可能性の件は、ノトス領主代行のアムさんから、ノトス領に滞在している勇者達に正式な形で通達されるそうだ。
魔王発生などに関する情報などは、シェルパールを介して貴族達に、そして貴族から勇者達に報告が行くようにされていたのだ。
どうやらコレも、俺はギームルから伏せられてい様子であった。
( アイツいつか殴る、)
俺はアムさんの執務室の窓から、【魔眼】や【魔感】が無いと見えないと言う、魔力の渦と、その流れを乱すという東側の空を眺めた。
――う~ん、全く何も見えん、
まぁ、【固有能力】が無いと見えないらしいからな、
しかし、椎名は厄介なことをしてくれる、
「クソ椎名の奴、もっとぶん殴っておけばよかった、」
俺は少し後悔していた。
あの時、足で踏み抜いてしまえば良かったと。
帰りの道すがらネチネチと弄ってやろうと思っていたが、まさか転移系で先に帰られるとは思っていなかったのだ。
その時、俺の漏れ出た呟きをアムさんが聞きつけ。
「あ~~、そういやジンナイ君、一週間ぐらい前だけど。その勇者シイナ様のパーティメンバーがやってきて‥、なんか聖剣をどうとか言って抗議されたんだが、何の事か心当たりあるか?」
どうやら先に戻ってきた椎名達は、聖剣破壊の件で俺を雇っているアムさんに、何かしら難癖を付けて来た様子であった。ただ、話を聞く限りでは、椎名本人では無くて、そのパーティメンバーのようだが。
「アムさん、多分それは俺が椎名の持っていた聖剣をへし折った件だと思う」
「なるほどな、そりゃ聖剣折られたら怒りたくもな‥‥?折った!?聖剣を?」
『どうやって!?』と聞かれたので、『こうやって』と答え木刀を握り、動きを再現してみる。
アムさんは少し頭を抱えたが、開き直り気を取り直した。
「全く‥聖剣折るとか、」
「ああ~、んじゃ椎名を折った方が良かったか、」
軽く冗談を返したつもりであったが。
「――ッ!?ジンナイ君、ひょっとして君は勇者支援政策のひとつ、勇者保護法を知らないのかい?」
「知らない、」
「そうか‥だからか、」
「名前から言って勇者を守るモノか?」
「ああ、勇者に危害を絶対に与えてならないと言う法律だ、危害と言っても殺してはならない的な意味だけどな」
――ん?なんかちょっとユルいな、
勇者の殺害以外ならある程度セーフってことか?
どの程度までセーフなのか気になるな、今後の為に‥
「この法が出来たのは約400年前、そう9代目勇者召喚後に作られた法だ」
「9代目‥‥」
――廃坑で出会った幽霊のイリスさんの時代か、
確か、勇者同士とか貴族同士が揉めたとか言ってたけど、
俺はすぐさま、廃坑で出会った幽霊のイリスさんの話を思い出していた。
「9代目の時に――」
俺はアムさんから、9代目勇者召喚の時に起きた騒乱の話を訊くこととなった。
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