底からの帰還
頑張りました!
木刀を足場にして救助を待っていると、ラティと伊吹がやってきた。
その少し上の方には、スペシオールさんも来ていた。
――ああ、
ラティ達が声を出して呼んでいた時に、何故か「‥‥」が聞こえたけど、
あれってスペシオールさんか、
俺は謎の納得をしながら彼を見る。
そのスペシオールさんはロープを押さえる様に、フォロー役の様子。そして背には、途中で手放した俺の槍を背負っており、回収もしてくれていた。
「あの、ご主人様、お待たせしました」
「ああ、ありがとうなラティ助かったよ」
ラティは心底ほっとしたような表情を見せ、そして次に。
「さぁ上がりましょう。それと後で、ご主人様に一言申したい事があります」
彼女は何処か責めるような表情に変わっていた。
ラティの隣で光っている”アカリ”の光加減だと思いたいが。これは後でお叱りを覚悟した方が良さそうであった。何故なら、彼女の険しく目が光っていたのだから。
( 光加減だよな、)
俺の落ちた穴は直線などではなく。モグラが無軌道に上に向かって掘ったような形をしており、ロープなどがあれば、すんなりと上に向かって登っていけた。
流石に楽すぎるという訳ではないが、身体能力が強化されているこの体なので、一時間も掛からずに、元の場所まで登る。
「ぎゃぼーー!ジンナイ様が帰ってきたですよです!」
「全く英雄のダンナは穴があればすぐ飛び込むんだから」
「陣内君!無事で良かった、本当に良かったです。心配していたのですからね‥あ!やはり少し怪我していますね、頭を見せてください回復魔法をお掛けします!」
穴から戻ると、サリオ達や言葉が駆け寄ってくる。
言葉やミズチさんから、少し過剰な程の回復魔法を掛けて貰う。
穴の中は暗闇でよく確認出来ていなかったが、体はともかく、額などに怪我を負っていた。
そして傷も治り、周りからの文句や無事だったことに対しての言葉などを交わし、俺は椎名と再び対峙する。
その俺と椎名の空気を読んだかのように、静まり返るパーティメンバー達。
皆が注目する中、意外にも椎名から口を開いた。
「陣内君、すまなかった‥」
「ん?何に対してだ?」
「ああ、まずはボクが此処でした事だ。その、石を斬ろうとしてしまって、石の事は陣内君に忠告されていたにもかかわらず、ボクはまた大事な石を斬ってしまうところだった」
「あとは?」
「あとは、その、君に暴言を吐いてしまっていた事だ、聖剣の意気揚々の効果とはいえ、ボクは君に酷い言葉吐いてしまった、本当に申し訳ない!」
「他には?」
「他にも細かいことが沢山あると思う。だからボクを殴ってくれ!殴られて済む問題じゃないが、それでもボクを殴ってくれ!いっぱッ―――ッカハ!?」
俺は殊勝な態度を見せる椎名の鳩尾に拳をめり込ませた。
クサい言い方だが、これはケジメを付ける為に必要だと感じたから。そして―
「――っぐは!?グェェ!!」
腹を殴られ、体がくの字に折れて下がってきたアゴを、アッパースイングで上にカチ上げる。そしてアゴを上げる事で、無防備になった首に手で喉輪を掛け、そのまま地面に叩き付ける。
綺麗に上げて落とされた椎名は、そのままピクリとも動かなくなる。
そして俺は、その動かなくなった椎名の腹に向かって足裏で踏み抜こうしたが。
「ちょぉっとおお!?陣内君?やりすぎ!やりすぎだよ!何さらっとトドメまで刺そうとしてるの?確かに殴ってくれとか言ってたけど、コレはやりすぎだよ!」
伊吹に振り上げた足を押さえられ、肩や腕を他の仲間達に取り押さえれる。
「いや、殴ってくれ言ってたし、」
「陣内君?椎名君は”一発殴ってくれ”って言おうとしてたと思うよ?絶対に此処までやってくれとは思ってないと思うわよ」
「いや!そんな事ない!椎名の顔を見てみろよ。ほら、清々しい顔してるだろ?」
「あ~~、ダンナ‥、これはどう見ても白目を剝いているだけだと思うぜ、」
「椎名君!?椎名君!今、回復魔法かけるね!」
俺の発言に否定的な色を示すガレオスさん。そして不意を突かれ完全に失神している椎名に慌てて駆け寄り、回復魔法を唱える言葉。
「まぁ、陣内君が怒りたい気持ちはわからないでもないけど‥」
「ジンナイ様は昔から容赦無いのです。”敵は取り敢えず地面に叩き付ける”悪い癖なのです」
俺は椎名に頼まれた事を速やかに実行しただけなのだが、周りからは非難の嵐であった。
遠巻きに見ていた椎名のパーティメンバーはあまりの出来事の為か、困惑に固まっている。
――これで借りをひとつ返せたな、
今のは宿屋で床に押さえ付けられた分だ、
後は、法廷みたいな場所で押さえ付けられた分と‥‥
うん、まだまだ全然足りないな! っんん!?
ふと椎名に目を向けると、言葉に膝枕をして貰いながら回復魔法を掛けて貰い、幸せそうな表情を浮けべている椎名がそこにいた。
当然――
「シッ!」
「――っぐは!?」
「え!?陣内君?ああ!椎名君!」
怪我をしない程度の強さで、椎名の腹にトゥーキックを叩き込む。
悶絶な表情を浮かべながらのた打ち回る椎名。
今のキックで失神から目を覚まし、俺に激しい抗議の視線を飛ばしてくる。
――本当はまだまだ足りないんだよ!
コイツ、裁判モドキの事しっかり忘れてやがるな、
「陣内ぃぃぃ、お前、」
「いや、失神していたから起してやったんだ、何か問題でも?」
――そう、決して膝枕が気に喰わなかった訳ではない、
俺は優しさで起してやっただけだぞ?なのに、何で睨んでの椎名?
あ!ほら、俺を睨んでいるから、うちのラティが怒って怒気放ってるよ?
俺を睨みつける椎名を牽制するかのようにラティが怒気を放っていた。
ただ、何故かその怒気は俺に向けられているような気がしたが。
( 何故だ、)
閑話休題
脱線し始めていた流れを、意外な人物が引き戻す。
「陣内。遊んでいないで情報を纏めようよ、あの精神体の石はどうなったの?」
「ああ、そうだったな、追加の情報もある。まずは‥」
まだ椎名には言いたい事があるが、今は話の流れを戻す。
ただ、精神体からの話は、その内容的に意図していない広まり方をするとマズいので。話し合いは再び、勇者達にラティとハーティだけの7人で話す事にした。
「まず、東の死者の迷宮だが、石が無くなる事で、他の地下迷宮にも影響が出るらしい。具体的には他の地下迷宮が拡張されるようだ、さっきの俺が落ちた崩落もその影響らしい」
俺は崩落した先でライエルから聞いた話を勇者達に話した。
死者の迷宮が無くなる影響で、他の地下迷宮の拡張や本来、東に湧くはずの魔物も、他の地下迷宮や地上に湧く可能性などを説明した。
この話にはハーティが特に喰い付いていた。
「待ってくれ陣内君、それはあの霊体タイプがこの深淵迷宮にも湧く可能性があると言うことかい?あの幽霊が、」
――ん?なんか幽霊に拘るな、?
まぁ確かに霊体タイプは、対霊装備とかじゃないとマズいからな、
確か、霊体が厄介だからって東から流れて来たんだしなハーティさんは、
心なしか顔を青くしているハーティさん。
もしかすると、東の霊体タイプは思いの外厄介なタイプなのかも知れない。
俺達は、この帰りも霊体タイプが湧く可能性を視野に入れて行こうと確認し合い、次の話に移っていく。
「それと魔王だけど、魔王って直接攻撃してくるんじゃなくて、水や田畑を枯らしたり腐らしたりしてくるらしいぞ」
俺は新たに仕入れた、魔王の情報を勇者達に話す。が――
「え?陣内君、説明聞いて無かったの?ソレって最初に説明受けてたよね?ほら、宰相のギームル?さんだっけかな、勇者お披露目パレードの前に、」
「伊吹さん!えっと、その時は陣内君は‥‥」
「ああ~~陣内ってあの時からすでにハブられてたんだっけ?そう言えば陣内だけが別部屋に連れてかれた記憶があるわ」
伊吹が嫌な事を思い出させ、言葉が察し、そして三雲が抉ってきた。
椎名はくっくっくなどと肩を震わせて笑いを堪えている。
どうやら俺がドヤ顔で話していた内容は、当たり前の話らしい。
――くそ、
マジでギームル許さん、それと椎名も
ちくしょう何だよ、勇者は誰でも知ってる話だったのかよ、
俺は気を取り直し、これは知らないだろうと言う情報を話す。
「あと、WSって自分達で編み出せるって話もあった‥これは知らないよな?」
再び恥をかきたくないないので、一応訊ねるように語る。
「WSって自分でも作れるの?え?どうやって」
「む?もしかして魔法もかい?」
これには椎名とハーティさんの2人がガブリと喰い付く。
必殺技を編み出すというのは、男の浪漫なのだろう。
俺はWSを編み出す為には、その技をイメージした修練や、【創剣】や【剣技】を持っていないと難しいと言うことを伝えた。
この必要な【固有能力】である【剣技】は、伊吹と椎名の2人は持っているらしく、地上に戻ったら早速試してみると、はしゃぐように話している。
対魔王戦の為に、勇者達の戦力アップ出来るのは良い事だ。
そんな会話が交わされている中、初代勇者に興味を持ったのか、ハーティさんが初代勇者の事を俺に訊ねてくる。
「その初代勇者も【創剣】持ちだったのかな?」
「いや、初代は【創造】?らしい。何でも、剣や斧どころか、魔法まで編み出せたとか、かなりのチート【固有能力】持ちだったらしいよ、その初代勇者のタカツキーヒデオーってのは」
「ッ!?‥‥たかつきひでお‥?」
転生者のハーティさんは、俺の言葉を聞いて固まっていた。
それは今までに見た事の無いような驚きの表情で。
「陣内君、あとでちょっと話がある。出来れば二人だけでだ」
「‥‥ああ、わかりました」
ハーティさんが2人だけで話したい事。
思い当たるのは、転生の事と、この異世界がゲームに酷似しているという事。
もしかすると、何か気付いたことがあるのかも知れなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
木刀の件の昔話は、どうでもよい話だと判断して皆には話さなかった。
だが、俺はひとつだけ皆には意図して伏せた話があった。
俺は他の同級生達とは違う召喚である可能性について。
最後にライエルが呟くように、何か懐かしむような口ぶりで話した内容を。
コレは何となくだが、俺は隠してしまっていた。
( 何でだろ‥ )
そして最後に、地下迷宮の詳しい内容などは、もしかすると西の地下迷宮最奥にいる初代勇者の仲間が知っているかもという事を伝えて、俺からの話を終えた。
今回の件の、ある意味当事者である椎名は、聖剣からの呪縛が解かれ。
「皆、ボクは急いで東に戻るよ。そして今回ボクがやってしまった事を償いに行ってくる。地上に湧き出てしまう魔物を倒して回るよ」
椎名は何かに目覚めた的なことを、誇り高い系に語る。
だが――
――アホか!
ある意味手遅れだっての!どーすんだよ魔石とか、
地下迷宮から獲れる量減るだろうし、他の件だって‥
椎名、魔物さえ倒して回ればすべて解決のような思考をしていたが、アムさんからの話を聞いていた俺には、それは酷く滑稽に思えた。
しかし、自分には他に対策があるかと言うと、何も浮ばないので、椎名に対して何かを言う権利などは無いと思い。俺は椎名の行動に口を挟むのを止める。
「よし、地上に戻るか」
「はい、ご主人様」
「やっとお風呂に入れる日々に戻れるよなのです」
そして各パーティごとに帰り支度を開始する。
「おーい帰りの食料配分を再計算しとけよー」
「レプソルさーん、帰りのルートってどうなってますか?」
「破棄していった荷物辿れば帰れんじゃね?」
「あと、編成の組直しも忘れるなよ、新しい魔物出る可能性があるってよ」
「マジかよ~、あ!でも勇者様達が4人もいるし楽勝だろ」
冒険者達が騒がしく帰りの準備を進めていく。
しかし、その中でひとつのパーティだけは‥
「みんな!エウロスへ戻ろう、そしてボクに力を貸してくれ!」
「はい!シイナ様、私達の力で良ければ!」
「勿論です!わたし達は貴方の剣であり盾です」
「俺は鎧だぜ!」
「急いで戻りましょう!民が貴方を待ってます」
何故か謎の纏まりを見せる椎名パーティ。
そして――
「じゃあ皆、ボクらは先に行くよ!」
「ああ‥?うん行くか地上に‥って!?」
いつの間にかに、椎名パーティを囲むように足元から光が溢れてきていた。
それは一度だけ何処かで見た事がある、溢れ出る光の奔流。
「じゃぁな陣内君、今度は君に負けないよ!よし新しい剣を探さないとだな‥この借りは絶対に返してやる、」
「おい椎名!その光って!?それと剣とか――」
( 何か物騒なこと言ったぞ!? )
「聖系転移魔法”テイン”!」
「あ!それって」
椎名達は光の本流に包まれ、そして半透明の粒子となって消えていった。
一度だけ見た事、そして受けたことがある魔法。
地下迷宮最奥から一瞬で地上に帰還した魔法。
「ユズールが使っていた転移系の魔法か、」
俺は椎名が消えた場所を睨んでいた。最後に見せた奴の表情は、明らかに‥
「おおおおおお、今のは伝説の転移魔法!?」
「すげぇぇ、さすが真の勇者様」
「本当に使い手がいたんだ、あの魔法、」
転移の魔法を見た冒険者達が興奮して声を上げる。
椎名は、真の勇者の名に恥じない魔法を使い地上へと帰っていた。だが――
「アレ?でも俺達は置き去りってことか?あの勇者様‥」
「おいおい、マジかよ、普通仲間を置いて先に自分達だけ帰るか?」
「なんて身勝手な勇者様だ、オレはコトノハ様のパーティで良かったぜ」
「イブキ様、アイツ等に今度あったら抗議してやりましょう!」
どうやら椎名は、真の勇者としては恥じるべき行為を行ったようだ。
残されたパーティからは不満が吹荒れる。
だが、それは当然の事であろう。
もしコレで残っているメンバーが少なければ、生還出来ない可能性もあるのだから。これは俺でも判る、地下迷宮でやってはならない行動であろう。
――アイツ、
普段ならそれくらいの気を使えるのに、余程テンパってたんだな、
案外、自分の仕出かしたことを理解していたのかな、?
椎名の行動は許せない事だが、それは椎名の心境と焦りを表しているモノのように思えた。
( まぁ、今度会ったらそれで責めるか )
俺はそんな感想を思い浮かべていると。
「陣内、ちょっと話いいかな‥」
「三雲?」
俺の後ろに三雲が立って居た。
何故かとても落ち着かない様子で、目線を彷徨わせながら。そして、とても気まずそうな顔をして俺に話し掛けて来たのだった。
( あ、なんか嫌な予感がするな、)
次の対決が始まる?
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