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深淵の底で知る

会話回~

 光の届かぬ闇に墜ちるのは、嫌なことに慣れていた。

 真っ先に頭に浮んだのは、以前読んでいた元の世界の小説。

 勇者ってよく穴に落ちるな~と。最後に読んでいた小説でも勇者はハエ叩きのようなモノで穴に落とされていた。

 

 そして次に浮んだのは、子供の頃に読んだ童話『おむすびころりん』

 俺は今、その挿絵を思い出させるような状況になっていた。

 地面の崩落からの落下なので、さして深さは無いだろうと思っていたが。落ちてみると、パチンコ台の玉のように弾かれながら落下していったのだ。


 強い衝撃がある訳ではないが、時折硬い感触があるので、岩か何かに当たっているのだろう。土の部分が大半らしく、大怪我をすることなく転がり落ちていく。


 槍はすでに手放してしまっていた。

 右腕に精神の宿った石を抱え、左手には木刀。そして一瞬、傾斜で落下速度が落ちた瞬間に、渾身の力を込めて木刀を突き刺し、傾斜の所で突き刺した木刀にぶら下がる形で止まる事が出来た。


「と、止まれた‥?」

『すまん、()が君を巻き込んだ形になったかもだな、』



 すぐに状況の確認を開始する。

 大怪我をした感覚は無い。だが、さすがに体中が痛んだ。

 土でなどが多く多少は衝撃が和らいだとはいえ、それなりのダメージを負っていた。胴装備の強化された忍胴衣で無ければ、もしかすると骨の一本はヒビが入っていたかも知れない。


 

 ららんさんに何度目かの感謝をしつつ辺りを見回す――


「ああ、そっか真っ暗で、何も見えないか、」


 辺りは闇の一色であった。

 俺は、生活魔法”アカリ”の偉大さを改めて思い知る。

 そして完全な暗闇の中では、この崩れそうな斜面を上がるのは困難に思えた。


 ――これは、助けを待つしかないか、?

 確か荷物に長めのロープ用意していたはずだし、 



 俺は自力での脱出よりも、一先ずは、待つべきかと考えていると。


『あれ?光を灯す魔法を使えば?魔法なら両手塞がっていても問題ないだろ?』

「俺は魔法が使えないんですよえっと‥勇者の仲間さん」


『ライエルだよ、それより魔法が使えないって、ああ!光を出す魔法を使えないって事?あれ?でも誰でも使えるとか聞いたけど‥』

 

「単純に魔法すべてが使えないんですよ、それとMPも無いです」

『MPも無い?』


「それより、なんで生活魔法の事を知っているんですか?あれは確か3代目が開発したって聞いたけど‥」



 ――そうだよ、なんで知っているんだ?

 この霊体は初代の時の仲間だよな?時代が合わないな、



『そりゃ他の勇者から聞いたのさ、確か9代目だったかな?シバとカトウとか言ってたかな?その勇者が来た時にアカリって魔法使ってたから訊ねたんだ』


 返ってきた返答はありふれたモノであった。

 来るのに極端に大変と言う訳では無いのだから、他の勇者達が来ていてもおかしくはなかったのだ。現に、今代の勇者である椎名も精神体に出会っているのだから。

( 斬りやがったけど、)


 ひとつの謎は解けたが、この状況の改善には全くならなかった。

 霊体の姿は薄く光って見えているにもかかわらず、全く光を放たず、とても不思議な現状であった。水族館で真っ暗な水槽の中でライトアップされたクラゲのように感じである。


 そんなどうでも良い感想を浮かべていると、ライエルは先程の呟きの続きを口にする。


『すまねぇな、多分この崩落は東の件が影響している。東で調整されていた魔力や大地の力が溢れて、それを受け入れる為に、この深淵迷宮(ディープダンジョン)が拡張されたらしい』

「拡張‥?」



 それから簡単にライエルはこの崩落の原因を説明してくれた。

 まず、溢れた魔力などを受け止めきる為に、他の地下迷宮ダンジョンが大きくなり。その核とも言える精神の宿った石の周辺が拡張され、その石を抱えていた俺の足場が崩れたと言うのだ。


 ライエルの予想では、他の地下迷宮ダンジョンも今のような拡張が発生し、東に湧く魔物も流れてくるだろうと教えてくれた。

 正確には把握出来ていないが、霊体タイプの魔物がこの深淵迷宮(ディープダンジョン)にも湧くようになったかも知れないと言う。


 確かに霊体タイプは厄介であるが――


「まぁ、俺にはこの木刀があるからなんとかなるか、」

『あ!そうそう!ソレ見て思ったんだけど、ソレって世界樹の木刀だよな?』



 現在俺は、片手でぶら下がっていた状態から、腕の力で引き上がり、片足を乗せた状態で体勢を維持している。そしてその足場にしている木刀を見ながら「ああ、そうだ」とライエルに答えた。


 彼は俺の返答を聞きながら、何処か懐かしそうな笑みを浮かべながら語りだす。


『懐かしいな、その木刀‥、それを手に入れる為にかなり苦労したんだぜ、』

「そのお陰で、貴方はここに精神を置く事になったのでは?」


 『そうか、知ってるのだな』と呟き、ライエルはある昔話を始めた。


 それは、勇者が木刀を手に入れるまでの経緯を。


 俺はその話に喰いついた。

 何故、世界樹などと呼ばれる樹を切り倒すことにしたのか。

 魔王を倒す為とは聞いていたが、理由に興味があったのだ。


 そして俺は、相槌や質問などもすることなく、その昔話に耳を傾けた。







           ◇   ◇   ◇   ◇   ◇







「ああ、アホか‥」

『いや、仕方なかったんだって!それしか方法無かったし。それに知ったのは切り倒した後だしさ、もうホント困ったんだよな~』



 世界樹の木刀完成秘話は普通であった。

 特に濃いドラマなどなく、淡々としたモノであったのだ。


 内容は――

 初代魔王とは、魔力で出来た霧のようなモノで、魔法も物理も効かず有効な手段が無かったそうだ。

 

 その魔王は、特に誰か人を襲うなどは無かったのだが。

 その魔王は周辺の大地を枯らして枯渇させてしまう存在だったと言うのだ。

 人を殺めたりなどは無いが、魔王の近くでは水は腐り田畑も枯れ、そして腐る。それはまさに、周囲から命の糧を吸い尽くし破壊するような存在であったと。


 ゆっくりと大陸中を漂うだけの黒い霧であったが、唯一、世界樹だけは避け、近寄ると黒い霧が散らされたように見えたと言うのだ。


 世界樹の葉などを触れさせると、黒い霧はうっすらと晴れ。それは倒しようがなかった黒い霧を倒せるモノと確信し、それなら世界樹で武器をと言う流れで切り倒したと。

( 枝で試すとあるだろうに、)



 そんな内容を語りながら、今度は切り倒す時の苦労話も始める。


『マジ堅くて切り倒せなくてな、そしたらアイツ。”ヒデオー”がさ、世界樹切る為に新しいWSウエポンスキルを編み出したりよ、』

「ちょっと待って!ひでおーって誰?」


『うん?勇者の名前だよ。ヒデオーってみんな呼んでたな。そんでソイツが世界樹切る為に、世界樹断ちユグドラシルシィーヴァを編み出したんだよ!」

「編み出した!?」


『ああ、そうさ。ヒデオーは【創造】持ちだったからな、WSウエポンスキルとか新しい魔法も作り出していたな、俺も【創剣】持ちだったからよ、結構な数のWSウエポンスキルを編み出したぜ』


 精神体で身振り手振りしながら熱弁をするライエル。


 そして、WSウエポンスキルを一切習得していない俺は、ライエルの言葉で激しく浮きだった。

 もしかすると、俺もWSウエポンスキルが放てるかも知れないのだから。


 俺は現在自分の置かれている状況など完全に無視をして。ライエルにWSウエポンスキルを編み出す方法を訊ねる。




 現在のWSウエポンスキルとは、元を辿ると、ほぼ初代勇者とその仲間が作り上げたモノであるらしい。


 【創造】や【創剣】などの【固有能力】持ちは、WSウエポンスキルをイメージで創り上げ、そしてソレ(WS)を世界に馴染ませる事が出来ると言うのだ。


 世界に馴染ませるというのは、この異世界に登録するようなモノで、登録する事で他の人間、要は適正のある者が扱えるようになると言うのだ。


 それはまるで、伝染でもするかのようにと‥



 魔法も同じで、3代目勇者が生活魔法をこの異世界に登録した事で、他の人も使えるようになったと付け加えて教えてくれた。



 そして、肝心の俺が新たにWSウエポンスキルを編み出せるかどうかだが、可能性はゼロでは無いが、限りなく低いと言われた。

 やはり【創剣】が無いとキツいらしい。ただ、【剣技】や【斧技】があれば修練次第では可能だとも追加で教えてくれた。

 

 そちらも俺は持っていないが――




『あ、あとね魔法も【理解】とかあれば、魔法を登録出来るとかも、聞いたな‥』

「【理解】、」



 ――んん?ひょっとして、

 サリオの普通と違う炎の斧って、まさかサリオが編み出したのか?

 もしかして本人は自覚無しで、新魔法を編み出している可能性あるな、



 暗闇の中、俺達の会話は続く。

 現在助けを待っている状態なので、とてもありがたい事だった。

 もし、この暗闇に1人だけであれば、精神的に中々来るモノであるのだから。

 


「くそぉ、俺は編み出せないのかぁ、」

『ああ‥まぁ可能性はゼロじゃないだろうし、挑戦するのもアリじゃないかな?』


「どうやって?」

『こんな技が出来ると自分でイメージして、声を出したりしながら剣を振るとかかな?俺の時はそれで結構WSウエポンスキル編み出したし』


「おお、なんかソレ痛い中二病患者みたいだ、」

『ヒデオーも、その中二病がどうとか言ってたな、なりきるの大事だとか、』


「勘弁してくれ‥」


 ――あ、この人との会話楽しいな、

 何となく面倒見の良い兄的存在?そんな感覚だな、





 そんな不思議な雑談が続いていたが、二つの方向から終わりを告げてきた。


「  ヨーイチ様~!居ませんかー!聞こえますかーー!  」

「  陣内くーん!返事をしてぇ~~!  」 

「  ‥‥‥‥‥  」


 落下した俺を探しに来たのか、ラティ達の声が聞こえて来たのだ。

 そして、それと同時に――


『ん?そろそろ此処もヤバいかな、』

「え?」


『また拡張が始まりそうなんだ、多分、俺はもっと深く潜ることになるな』

「ああ、なるほど、」


『このままだとまた君を巻き込むから、俺をこのまま手放してくれ』

「大丈夫なんですか?落ちても、」


『ああ、平気さ、それと最後に一つ』

「はい?」


『君は本当に召喚された勇者なのか?』

「いや、一応は召喚されたゆうしゃ(・・・・)ってのになってますね‥」


『ずっと疑問だったんだよね、君だけは正規の手順で召喚されたようには見えなくて。初代勇者の彼、タカツキーヒデオーが創り上げた召喚魔法から呼び出された者とは違う気配というか、纏っているオーラの色が違うんだよね、他の勇者達と‥何だかヒデオーに似ているな、』

「――!?」


『だからちょっと疑問に思っていたのさ。あ!そうだ、もし気になったのなら、西の奴に聞くとイイよ。アイツなら色々・・と詳しいはずだから』

「って、西も深くなっているんでしょ地下迷宮ダンジョンは?」


『あ~多分、西は影響低いかも、距離的に真逆だしね』

「なるほど、」


『それじゃぁ、そろそろお別れかな、()を離してくれ』

「はい、それじゃぁ」




 俺はそう言って抱えていた石を手放した。

 周囲は真っ暗で何も見えないが、薄く光っている霊体が闇の飲まれる様に消えていく。



 ふと気付くと、俺はかなり話し込んでいたのだ。

 人当たりの良さそうな笑顔に、砕けた口調。俺はライエルさんの事をかなり気に入っていたのかも知れない。


 WSウエポンスキルが使えないと言う話でも、何だかんだ言って彼は馬鹿にせずに、真摯に聞いてくれて、そして色々と語りかけてくれたのだ。



 心の奥にしんみりとした気持ちが残る。この異世界では久しく忘れていた『寂しい』と言う気持ち。


 俺はソレを抱きながら、彼が落ちていった闇を見つめていた。


 また会いたいなと‥思いながら‥



読んで頂きありがとう御座います!

宜しければ感想など、お待ちしております。


それとご指摘やご質問も感想コメントにてお待ちしております。

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