5回目?
すいません、短く
繋ぎ回です
まるで魂でも抜け切ったかのように膝を付き、呆然と呆ける勇者椎名。
そして雑音を撒き散らす椎名のパーティメンバー達。
彼等が抗議し、指を差す先には折れた聖剣が横たわっている。
現在はそれを宥めるように他の勇者達が説得を試みている。
俺はそれを横目に見ながら、椎名の前に歩み寄り話し掛ける。
椎名がやらかした事の重大さを。
そう、精神の宿った魔石を斬り裂いてしまったことを――
「椎名。呆けるのは終わりだ、この深淵迷宮の最奥に来た、本来の目的を果たして貰うぞ。精神体の話を聴いてもらう!」
「あ、あ?そうだったな‥、ああ、そうだった‥」
――んん?聖剣が折れて憑き物でも落ちたか?
なんか反応が鈍いな、まぁ、取り敢えず‥
「ラティ!一応警戒しておいてくれ、椎名が暴れたりしないように」
「あの、そういった事は、もっと相手に聞こえないようにした方が宜しいかと」
ラティは少し困り顔で返答しつつ、椎名の横に立つ。
彼女なら、椎名が動き出そうとしたとしても、すぐに察知出来るだろう。
そして序に。
椎名に気付かれないように、さり気無く小声で話し合う。
「(ラティ、椎名に【鑑定】を、今なら見えるはずだ」
「(はい、もう調べてあります、レベル63です‥)」
――マジか、
63であの強さ?真の勇者って何か補正でもかかってんのか?
もしアレで80台だったらさすがにヤバかったな、あと聖剣解放も、
そんな感想を浮かべていると椎名が口を開く。
「聖剣解放さえ、出来ていれば‥」
( あ、コイツまだ心折れてないな )
俺はまだ完全にへし折れていない椎名の心をへし折る為に話を進める。
「あの、ご主人様?何か目的が変わっていませんか?」
「何故か、とても悪そうなお顔をしているのですが」とラティに諫言され。俺は一度、心の中で仕切り直し、少しだけ心を入れ替えてから椎名に話し掛ける。
「さぁ聴いて貰うぞ、椎名」
「ああ‥」
椎名の態度から察したのか、騒いでいた椎名のパーティメンバーも口をつむぐ。
そして――
『ふう、やっと落ち着いたかな?いきなり斬られそうになって焦ったよ』
「えっと、初代勇者の仲間さんですよね?」
『ああ、そうさ、俺は勇者の仲間だったライエルだ。えっと君たちは召喚された今代の勇者達かな?』
語りかけてきた精神体の男は、スペシオールさんに似た偉丈夫な体躯に褐色の肌で、髪は長髪の白髪。見た目と装備から戦士系であると予想出来る。
そしてその精神体は、親しみやすい口調と笑顔で語り続ける。
『状況を完全に把握出来ていないけど、誰か‥。俺と同じ精神体の仲間を倒したか消滅させたね?本来こちらに流れてこないはずの魔力の流れを感じるよ』
全く事情を知らない冒険者達は、ただ精神体が喋ることに驚き。ある程度の事情を知っている勇者の伊吹達は、ため息や深呼吸ともとれない息を吐いて精神体を見守る。
俺は此処である事を思い出す。
これから語られるであろう内容は、貴族たちが伏せていたり隠していた事。
もしくは忘れ去られていた内容。
一介の冒険者達に全て知られると、後々になって不味そうなので、一部の冒険者を除いてこの場から離れて貰う事にした。
そして再び話を再開する。
この場に残ったのは、勇者達とハーティとラティの7人。
ガレオスさんとレプソルさん達は、不満を示す他の冒険者達の、見張り兼宥め役をお願いした。それなりの熟練冒険者の2人も参加出来ない事も、ある意味の説得力にもなり。不満を示していた冒険者達も静かに下がってくれた。
俺達はまず簡単な自己紹介を交わし、そして本題に入る。
初代勇者の仲間であったライエルに、東の死者の迷宮最奥にある、精神の宿った魔石が破壊されたことを伝える。
破壊してしまった理由も謝罪の意味も込めて一応伝えると――
『ああ、なんかこっちこそごめんな、アイツって‥、えっと東に居た奴、ズーロって言うんだけど、口下手で、なんか暗い奴だったからな、幽霊と間違われても仕方ないかな‥』
気まずい思いで俺達が告白したことを、ライエルも気まずそうに返答してきた。
どうやら本当に幽霊と間違いやすい精神体だったようだ。
俺は話を聞くうちに、それを納得し始めていたのだが、椎名だけは。
「ああああ!!本当に、本当にアレは魔物ではなかったのですか、?」
『ああ、一応ズーロも初代勇者の仲間で、パーティの盾役をやってたよ』
「椎名君?」
椎名は1人だけ極寒の地にでも居るかのように、顔を真っ青にし、そして震えていた。その尋常では無い状態に、言葉が駆け寄り、声をかけるのと一緒に回復魔法も掛けていた。
椎名はその言葉からの回復魔法に気付き、一度頬を緩めはしたが、かぶり振るようにしてから口元を引き締め、そして口を開く。
「陣内が言っていた‥、えっと東で魔物が地上に湧きやすくなるって言うのは本当ですか?もし、それが本当だとしたらボクは‥‥」
『あ~~うん』と、精神体のライエルは、気まずそうにしながらも、肯定する。
そしてその肯定により、再び気落ちする椎名。
目は焦点が合わず、完全に視界が定まっていない。そして何かを求めるかのように、視界の範囲内で何かを探す。それは何か救いを探すかのように。
その彷徨う視線は、近くに来ていた言葉を捉え、彼女を見つめながら独白のような懺悔の言葉を吐き出す。
「ボクは、本当に幽霊の魔物を倒したつもりだったんだ、本当に知らなかったんだ。だが、ボクは悪く無いとは言わない。だけど、ボクは、ボクはなんて事を‥」
「あら?椎名君?」
「椎名君!」
「椎名君、落ち着いてください!ね?」
あまりの豹変に、心配になった伊吹と三雲が声を掛けるが反応は無く。
ただ、言葉の声だけには視線で反応を示すが、すぐに視線を地面に落としフラりと立ち上がる。
その椎名の姿はまるで幽鬼のような、生気の感じさせない表情。
もしかすると、こいつなりに事態の重さに気が付いたのかも知れない。
一箇所に集中する様に湧かしていた魔物が、広範囲に散って湧く恐ろしさに。
俺はこの時、油断していた。
聖剣も無くなり、聖剣の影響が薄くなっていた椎名に。
「そんなぁの嘘だあああああ!ボクが、ボクが、噓だあああ――!」
「きゃっ!?」
『わわっ!?』
自分の罪に押し潰され、椎名は駄々をこねるかのように暴れ出した。そして何を思ったか精神が宿った石に向かおうとする。
「――っさせません!」
「ラティちゃんナイス!」
「椎名!貴方‥」
「椎名君!お願い!落ち着いてください!」
「オレも束縛魔法で――」
この場でラティだけは、瞬時に反応し。椎名の脇腹辺りに肩から組み付き、文字通り体を張って椎名を止めに入っていた。
そしてそれに続くように伊吹や三雲、そしてハーティも魔法で止めに入る。
――あっぶね~助かった、けど‥
チィィッ!ラティが密着する必要なんて無い!
足の腱でも切ってやればイイんだ、
「ラティ!構わない足の筋でも切ってやれ」
「陣内!アンタ何無茶言ってんのよ!少し見直したと思ったのに、」
「あの、ご主人様、さすがにそれはやりすぎではないかと‥」
俺は精神の宿った石を脇に抱え、椎名から距離を取るようにして下がる。
もしかすると魔法などを使って石に危害を加えてくる可能性もあるので、椎名の挙動を今度は油断せずに監視する。
数人掛りで抑えられる椎名。
特に【剛力】持ちの伊吹が完全に抑え込んでいる。
俺はそれを見ながら、油断せずに椎名に意識を集中していたが。
『マズイ!?拡張が始まる!』
「へ?」
脇に抱えていた30センチ程の大きさの石。精神が宿った石から生えるように浮んでいる霊体のライエルからの言葉に耳を傾ける。
そして次に聞こえて来るのは、ライエルの声などでは無く――
――ボッゴォ!?――
「あ!?」
突然、足元が崩落したのだ。
それはまるで何かを飲み込むかのように、突然足場が崩れ。一瞬の抵抗も出来ずに、俺は足場に広がる闇へと飲まれて逝ったのだった。
ただ、落ちる瞬間に、ラティの悲痛の声だけは俺に届いていた。
「何でまたッ――――――!」
――あ、また落ちるのか俺、
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