木刀対聖剣
お待たせしました。
陣内と椎名対決編です。
今まで防がれた事の無い、一撃が止められた。
この聖剣はあらゆるモノを切り裂いていったのだ。だが――
たかが木刀に、
絶対である聖剣の、不可侵の斬撃が阻まれたのだ。
それはとても許しがたい事だ。だが、もっと許容できない事が。
『あっぶねー!助かったぞ』
「ちょっと待っててくれよ勇者の元仲間さん、コイツを先に黙らせる‥」
何故コイツが?
何故ハズレゆうしゃのコイツが止めれるんだ!?
◇ ◇ ◇
人に上も下も無い。
年齢などで目上の人などなら居るだろう。
オレはそう考えている。
だが、人には価値が高い者と、価値が低い者は存在する。
顔が良い、見た目に華がある。
頭が良い、運動能力が高い、性格が良いや芸術性がある。
そういった者は価値が高い。
そして、その逆は価値が低い。
人を見下すつもりは無いが、陣内は価値が低い者だ。
それは学校のスクールカーストでも証明していた。
決してオレとは対等ではない。
それはこの異世界に於いても。真の勇者とハズレゆうしゃで証明されていた。
それなのに――
◇ ◇ ◇
「陣内、、君はオレの邪魔をするのか!」
「邪魔をしに来たんじゃないな、ぶっ飛ばしに来たんだよ」
対等どころか、オレをぶっ飛ばす?はっ!何を言っているのだか。まぁいい、
「陣内、腕の一本でも切り落とされれば理解出来るだろ、?」
「何をだよ?」
「オレとお前の差って奴をだよ!」
「‥何言ってんだ?お前」
価値のあるオレには、価値のある【固有能力】が備わっている。
少しだけ便利そうな【加速】とは価値が違うんだ、
そう、オレには【予眼】【剣技】【直感】【一閃】などの価値の高い【固有能力】あるのだ
特に、真の勇者として覚醒した時に解放された【予眼】は、約0.5秒後の世界が見えるのだ。
【予眼】に【剣技】【直感】【一閃】を併用すれば、無敵だ。
相手が動く前に動いて、強力なカウンターを入れれる。
お?陣内は振りかぶって攻撃してくるか、
それなら、下から掬い上げるように切り上げて手首を刈り取ってやる。
「 ――ッギィィン!!―― 」
「――っな!?なんで防げる!?」
「‥‥‥」
無言かよ、
しかしおかしい、陣内が振りかぶって振り下ろす未来が見えたのに、
何故、振り下ろすの止めたんだ‥?
まぁ、偶然か、
しかし、幽霊の魔物を庇うかのような位置取りだと?
幽霊など後回しだ!お前を地べたにひれ伏さしてから、悠々と斬ってやるよ、
大体、オレを相手に庇いながら戦うとか、舐めてんのか!
「 ――ギィンッ!―― 」
「 ――ギィン!ギィィンン―― 」
偶然じゃない!?なんで防がれる!?
おかしいだろ?未来は見えて、その通りに陣内は動いているのに!?
「くそ!陣内!お前何をしやがった!?何で――ッく!?」
「‥‥」
フザケんなよコイツ!?
なんでオレの思い通りにならない!なんでココにいるんだ!?
城で牢屋にぶち込まれて、惨めに魔王が倒されるのを待っているだけの奴が、
3年間、牢でニートになる筈だった奴が、
何で、なんで彼女が横に居たんだよ!?
お前は強姦野郎だろうが、女の敵だろ?なんで言葉が隣に‥
――控えめで少し地味に見える彼女、自信なさげのタレ気味の瞳、
形が良さそうに思える大きめの胸元、女性らしさを感じさせる長い黒髪、
一つに纏めた緩い三つ編み、時折肩から胸元に流している姿には艶があり‥
ただ、地味系だから奥手になってしまった、
間違っても、フラれるのはカッコ悪いから、何も言わなかった、
カッコ悪いのは、オレに合わないから、
あの時の言葉の表情は‥‥
それをお前は――
「なんで?お前がぁぁぁぁ!」
「‥‥‥?」
「 ――ギギィンンンッ!!―― 」
何で聖剣が!何で斬撃が!?なんでオレが防がれるんだぁ!?
なんでオレが追い詰められる!?
くそ、奥の手使うか、?いやコイツにアレは勿体無いな、
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なんで?お前がぁぁぁぁ!」
――何言ってんだコイツ?
マジで聖剣にでも意識を乗っ取られたか?
俺は大きく木刀を振りかぶる。
そして、振り下ろすと見せかけて、椎名のカウンターの斬撃を防ぐ。
「 ――ギギィンンンッ!!―― 」
戦いが始まってから、コレの繰り返し。
「 ――ギィン!―― 」
「 ――ギン!――」
俺は椎名の斬撃を、ただひたすら防ぐ。
椎名から行動を起こすまで。
俺はこの深淵迷宮で、ただひたすらに椎名を観察した。
奴の動きの癖や、持っているであろう強力な【固有能力】などを見極める為に。
戦いの癖はすぐに解った。
スペシオールさんと同じ、一撃必殺型。連撃などをしないタイプだ。
そして、それを支える聖剣と【固有能力】を持っていた。
特に、先読み。アレは完全に相手の動きを予知しているモノだ。
すぐに何かは想像が付く。
十中八九、予知とかが出来る眼辺りだろう。
正面からの動きは察知していたが、後ろの冒険者にぶつかることがあった。
感覚で解るタイプではなく、眼で見るタイプだ。
( いかにもファンタジーだな、)
俺には予知出来る眼などは無いが、これだけは予知出来る。
椎名と、きっと戦うだろうと――
そしてその予知は正しかった。
予定より少しバタつく形になってしまったが。
後は考えた対策通りに動くだけ。
予知されるなら、予知されるのを前提で動けば良い。
俺の動きはすべてフェイントに、そして俺は椎名の斬撃のみに反応すれば良い。
椎名は、自分の予知に絶対の自信を持って動いてくる。
俺が動く前に動き始める。
モーションは完全に盗んでいる。
「 ――ギィンンン!―― 」
――何をしてくるか、丸見えだっての!
コイツ、一撃で倒してばかりだから、二の太刀とか崩しを知らないな?
相手を追い詰める戦いとか全く無しだな、
「くそ!くそ!くそぉぉ!」
――意味の無い雄叫びとか、
ラティなんて、ちょっと呆れた目で見てんぞ、
俺はこの戦いからラティを退かせていた。
素早さで翻弄するラティと、予知がある椎名では相性が悪い。
しかも聖剣は、普通の武器では防ぐことも出来ない。何か特別な武器、俺の世界樹の木刀のような、力の備わった武器で無いと、剣を合わせばそのまま斬り裂かれるからだ。
後はひたすら耐えて、チャンス来るのを待つ。
「何でだよ!なんで未来が見えているのに、違うんだよ!?」
――あ、コイツ、
自分で手の内バラしやがった、
やっぱ予知とか出来る系か、まぁ知ってたけど、
ほんと、どんだけヌルいんだよ‥
カウンターをカウンターで弾く攻防が5分も続くと、魔物の襲撃を倒し終えた伊吹や言葉達が、駆けつけるようにしてやって来た。
椎名の強さを身近で見ていた冒険者達は、互角に戦っている俺に驚き、次に勇者である椎名と戦っている俺に驚いていた。
ただ身内の陣内組からは、何処か納得気味な気配を背に感じる。
そして椎名のパーティメンバーだけは、非難の声を張り上げる。
「貴様!何故シイナ様と戦っているんだ!?」
「おい、お前等加勢するぞ!」
「あの木刀振り回している馬鹿を止めるぞ」
「木刀‥?」
「は?木刀‥?」
「なんで、あの神聖なる聖剣を受けきれる、?」
一度は殺気立ち、俺を倒すべく騒ぎ立てた椎名の仲間達だが。俺の持つ木刀に意識を奪われ、そしてその隙に、陣内組と伊吹組が行く手を阻むように取り囲む。
「――な!?お前たち邪魔をするな!」
「お前等、聖剣のシイナ様に歯向かう事になるぞ!」
「道を空けろ!と言うか、お前たちも加勢するんだ!」
「‥‥黙って観ていろ‥‥」
「――ッ!?」
「え!?」
スペシオールさんが肩で大剣を担ぎながら威嚇しているのを、俺は視界の隅で確認する。偉丈夫であるスペシオールさんの威嚇に圧され黙り込む椎名の仲間達。
――これで邪魔は入らないな、
さすがに椎名相手に複数は無理だからな、
俺は椎名との対決の時に、邪魔が入らないように陣内組を連れて来た。
当然、ある程度の根回しもしておき、伊吹組と三雲組も味方だ。
4人しかいない椎名組ではどうしようも無いであろう。
「クソクソクソクソクッ――!?」
椎名の反応に、俺は無言で返す。
奴にとっては無言は、今はより苛立たせるだろう。そして――
「絶対に許さん!」
( ――キタ! )
「シッ!」
「――がふっ!?」
ここで初めて、椎名から仕掛けてキタのだ。
幾ら予知が出来たとしても、自分から動いたのでは避け切れず、腹に深々と木刀が突き刺さる。
動き重視の為か、騎士風のサーコート。完全な板鎧ではないので、魔石装備品で刃などは通さないだろうが、木刀の衝撃はしっかりと腹部に通る。
椎名は嘔吐くように声を漏らし、体をくの字にしながら後ずさる。
「ぐぅぅぅぅぅ‥」
まるで獰猛な獣のような、怒り混じりの唸り声を低くあげる。
ギラ付く目には、理性ではなく、純粋な激情のみの光が灯っている。
――何か、仕掛けてくるな、
もっとヤケクソ気味な何かを‥
あ!来る、
椎名は後ずさる事でできた、僅かな距離を使って攻撃以外のことを行った。
「聖剣解放!」
掛け声と共に、刀の柄を捻り、柄に仕掛けがしてあるのか、柄の下半分が捻れるようになり、くるりと半回転する。
そしてその半回転に合わせるように鍔の部分が割れて開き。割れた場所から、禍々しい赤と黒色の粒子が噴き出してきた。
「これがオレの真のちかッ――」
「 ――ギィィィンンン!―― 」
俺は椎名が何かをしようとした時には駆け出していた。
演劇の舞台で見ていた事。
聖剣の力の解放。
絶対にコレをやってくるであろうと予想していた。
劇中では、剣を掲げて何かポーズを取っていたので、聖剣に何かをするだろうと予測をして。今、目の前の動作を見て、聖剣解放を潰すべく。木刀を横にフルスイングして、椎名の手にある聖剣を弾き飛ばした。
奴は俺を見るのではなく、聖剣を視界に収めていた。それで俺の動きを察知出来ず、余程強く握っていない限りは、弾かれてしまう聖剣。
甲高い音を立てながら、水切り石のように跳ねて飛んで行く聖剣。
「てめぇ陣内!解放の邪魔を‥って何処に!?」
「馬鹿かお前は!空気を読む悪役じゃねぇんだよ!目の前で強化しようとしている奴を見逃すか!そしてコレで詰みだ!だらっしゃぁぁ!」
――――ギィン!!――――
今まで一番甲高い音であり、そして重い金属音が通路に響き渡る。
「な?え?はぁ?お前‥何してん、え?何で、」
椎名が胸のすくような百面相を俺に見せてくる。
絶望・驚き・呆れに・怒り・そして最後に泣き顔に――
「ああああああああああああ!!」
「物騒だから折っておいた」
聖剣と呼ばれていた刀身の真ん中辺りから、ポッキリと二つに折れていた。
突き立てていた木刀をゆっくりと引き抜き、最高の笑顔を椎名に向け。
「お前の心は俺が、聖剣は木刀で。両方をへし折ってやったぜ」
流石に聖剣をへし折るとは思っていなかったのか。その場にいた1人を除く全員が声も出せずに固まっていた。
ただ、1人だけは――
「あの、これでやっとお話が出来ますね?」
少し眠そうに見える半目気味でラティが、そう言って全員に声を掛けた。
彼女だけは、俺が聖剣を折るとわかっていた様子であった。
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