聖剣
グダグダ回
壁も地面も明るい茶色の通路、深淵迷宮を探索する集団
椎名を冒険者連隊のリーダーに据えて探索を再開した
世間では、真の勇者として知られている椎名。
特に反発もなく冒険者達に向かえられた。
が――
「コトノハ様、貴方は俺達がお守りします!どうかご安心を」
「イブキ様、やはりオレ達も前衛を、もう荷物も減りましたし、」
「ミクモ様、休憩の順番なのですが――」
最初こそは冒険者達も従っていたのだが、翌日には自分達の仕える勇者、本来の所属している勇者達に指示を仰ぐようになっていた。
俺の予想では、勇者である椎名がリーダーをやると言うのだからそれに従い、考えなどが勇者から伝染をすると思っていたのだが、少し違う様子であった。
「コトノハ様、やはり女神たる貴方が上に立つべきでは?」
「そうです!コトノハ様ならオレ達を正しく導ける!」
「このままでイイのですかイブキ様?アタイ達はイブキ様に指揮を取って欲しいんだけど、」
「コトノハ様、今日もお綺麗です、」
――んん?これって、
自分の信じたい勇者とかに惹かれるってことか?
もしかすると、複数の勇者がいる場合は、自分の意思で選ぶのか?
そしてその勇者から伝染とかか?
それは見ているだけですぐに気付ける程のモノであった。
勇者の発言を、簡単に受け入れ首肯し是としていた冒険者達が、勇者椎名の声に簡単には従わないのだ。寧ろ何人かは反発までしていた。
「あの、ご主人様、あまり改善された様子では、寧ろ‥」
「ああ、余計にギクシャクした感じになったな」
「何だか4つのパーティが偶然進む方向が一緒なだけの様な感じですねです」
ラティとサリオの言う通りであった。
椎名が仕切るようになってから、前より酷くなっていた。
前は、合わせてやるかぐらいの気持ちがあったが、椎名の自分達のパーティを戦闘の中心とした探索により、無用な反発が生じ。正直に言って、前よりよろしくない状態になっていたのだ。
戦闘参加者が、各パーティで勝手に判断して、参加する者が増えてきたのだ。今では25人ほどが戦闘に参加していた。
椎名も注意はしているのだが、注意を受けた者が荷物持ちになり、荷物持ちだった者が今度は参加をするのだ。なんとも嫌なローテーが発生していた。
「君達!そんなに多くの戦闘係は要らないから!荷物をしっかりと、それと周囲の索敵を行ってくれないか?」
「おや?シイナ様、此方には瞬迅ラティさんが居るんですよ?彼女が居れば魔物からの奇襲なんてあり得ないですよ」
「だな!瞬迅の索敵は桁違いだからな。マジでなんでこんなに俺達と差があるんだか?」
冒険者達は、椎名に対して少しづつだが反抗的になってきた。
それは単純に派閥の違う勇者だからと言うだけではなく、他にも理由が出来ていた。それは――
「う~ん、なんか二重人格みたいよね?」
「‥‥ああ、信用ならん‥」
「あからさまに不自然だな、なんであっちのパーティの奴等は気にならないんだ?戦闘時と平時の時の差が激しすぎるだろ」
他のパーティだけではなく、うちの陣内組でも、椎名の不自然さには訝しい視線を飛ばしていた。
この異世界の聖剣と言うことなので誰も刀を怪しんではいなかったが、俺達、勇者は聖剣マサムネを完全に妖刀と決め付けていた。
その不自然な椎名の性格の変わりようを、椎名のパーティメンバー達は。戦闘時と平時をキッチリとオンオフの切り替えれる、素晴らしい方だと好意的に解釈しており、椎名の性格の変わりように疑問を抱いていなかったのだ。
ただ、伊吹組や三雲組はそんな好意的な解釈などはせず。”何か心の病では?”と言った捉え方をしており。当然そんな危険な人がリーダーじゃ、と認識し始めていた。
俺は冒険者達に心の中で冷遇されている椎名を、心の奥底から『ざまぁ』と眺めていた。
「あの、ご主人様?何か人としてあまり宜しくない事を考えておりませんか?」
「いや、俺はこの探索が大変だな~と考えていただけだ!」
「ぎゃぼう!明らかに嘘をついているのバレバレなのよです」
そんな様々な思惑があるなか、探索は続いて行く。
そして次の日、今度は椎名の戦いが注目され始めていた。
冒険者達も聖剣の勇者だから強いのだろうと見ていたのだが。
その強さが別次元であったのだ。
中層から下層になってくると、湧いている魔物も魔石魔物に迫る強さを持っており、上層ほど簡単には倒せなくなっていたのだ。
苦戦とまではいかなくても、容易には倒せなくなっていたのだ。
まず、刃の通りも悪くなって来ていた。
しっかりと体重の乗せた一撃でなどで無いと、弾かれたりなどが出て来たのだ。
だが椎名は、そんな他の冒険者達を尻目に、容易く魔物を切り裂いて逝ったのだ。まるで豆腐でも切り裂くかのように魔物を黒い霧へと変えていく。
途中椎名の性格の変わりようで距離を取っていた者も、その剣の冴えには目を惹かれていた。特に凄かったのは、近くで剣を振っていた冒険者と武器同士が当たったのだが。
『あ!シイナ様スミマセン!武器が、って!えぇぇぇぇ!?』
『ああ、済まない。またやってしまったようだね』
ぶつかった冒険者の剣を、そのまま切断してしまったのだ。
まさに”斬鉄”であった。
その時は冒険者達も、椎名の性格のことなど忘れ、奴の聖剣を褒め称えていた。
それから冒険者達は、積極的に戦闘をするだけでなく、椎名の剣の冴えを目に焼き付けようと、奴の動きを注目し始めていた。
皆が剣の切れ味を褒め称える中、俺だけは別のことを考えていた。
それは椎名の動きに対してである。
椎名の動きは常に後の先。
魔物の動きに合わせてカウンターを入れていくのだ。だが、その動きがとても不自然だったのだ。
本来、後の先は相手の動きを見て、受け流しや防ぐなどをしてからの反撃。
決してカウンターを常に狙って行くモノでは無いのだ。相手の癖やタイミングなどを盗めれば話は違ってくるが、奴は初見の狼男型が相手でも綺麗にカウンターを入れたのだ。
相手が動く前から、足の位置を変え、カウンターをし易い姿勢を取ってから、カウンターを入れたのだ。
俺も高いレベルで動きを予測は出来るが、動き出す前から、相手の動きを予測することは出来ない。だが椎名はそれをやっていた、
それは寧ろ、予知でもしているような動きで――
そんな事を考えていると、横から意外な人物が俺に話し掛けてきた。
短め目ショートポニーをぴこぴこと揺らしながら、少しキツめの瞳を、何処か気まずそうに彷徨わせながら、目を合わさずに話し掛けてくる。
「陣内。アンタさぁ、椎名君のことどう思う?」
「‥‥おかしい、多分あの刀が原因だろうな」
予想外の相手に俺は、少し戸惑いながら返答をする。
一体どういう風の吹き回しかと視線を彷徨わせると、視界の端に言葉が心配そうな顔をして此方を盗み見している。
――ああ、アレかな?言葉が何かしたのか?
冤罪の件でも、話して‥違うか、
まぁ、これを察することが出来ていたらリア充になれていたな、
「あの刀って一応聖剣なんだよね?」
「らしいな、俺は【鑑定】持ってないんで、わからんけど」
「あ~、あの刀も【鑑定】弾くから調べられないのよ」
「なるほど、」
互いに当たり障りの無い会話を続けた。
ただ、三雲はこんな会話を俺にしてくるタイプではない、何か他に真意があるのだろう。そして彼女はいったん溜めてから口を開くが。
「あのさ、陣な――」
「前方から例の気配を感じます!それと後ろから多数の魔物が迫ってきます!」
三雲が口を開くと同時に、ラティが索敵にかかった反応を報告してきた。
例の気配とは、以前地下迷宮の最奥でユズールと同じ気配と言う事、そして後ろから魔物が迫っているとも警告を告げる。
一瞬で作戦を纏める。
作戦と言うには大袈裟なことだが、魔物を迎え撃って殲滅後に例の気配がする場所に向かえば良い。と考えていたが。
「む!?この感覚は‥、あの時の幽霊か!よし」
「――!?椎名?」
「ここは君たちに任せた!ボクは奥の大物を仕留めてくるよ」
「ば!?待て椎名!」
椎名は頭上に”アカリ”を灯しながら通路の奥へ駆けていったのだ。
しかも、発言を聞く限りでは、また魔石を斬りかねない雰囲気であった。
一瞬の事に戸惑ってしまったが――
「陣内行って!そこの狼人の子と一緒に。ここはわたし達が受け持つから、今の椎名君は危なすぎる止めてきて」
「三雲‥。ああ、わかった!ラティ行くぞ”アカリ”を頼む!」
「はい、ご主人様!生活魔法”アカリ”!」
俺はラティの作った”アカリ”の光を頼りに深淵迷宮を駆けた。
上層と変わらない幅10メートルほどの通路、地下迷宮とは違い比較的平らな地面、全体的に明るい茶色の通路を駆けて行くと、すぐに”アカリ”に照らされた椎名を発見する。
「椎名待て!それを斬るんじゃない!」
「何を言っているんだい?これは魔物だよ」
そう言って椎名は聖剣を肩に担ぐ様に構え、何か必死に訴え掛けている霊体に向かって巻くような袈裟切りを行う。聖剣である刀が光っているので、きっとWSなのだろう。
きっといま手に持っている槍では、そのまま槍ごと精神が宿った石を断ち切られるだろう、ならば――
――――ギィィィイインン!!――――
「な!?なんで木刀なんかで、この一撃を止めれる、!?」
「はっ!知らねぇよ!」
俺は回り込むようにして、椎名から精神の宿った石を庇った。
『あっぶねー!助かったぞ』
「ちょっと待っててくれよ勇者の元仲間さん、コイツを先に黙らせる‥」
「陣内、、君はオレの邪魔をするのか!」
「邪魔をしに来たんじゃないな、ぶっ飛ばしに来たんだよ」
俺は真の勇者椎名と、あの日の宿屋以来の対峙となった。
読んで頂きありがとう御座います!
しかもブクマ700突破~ありがとう御座います!
そして感想やご指摘などお待ちしております