奴の名は椎名
遅れてすいません、
現在俺は食堂の個室にいる。
個室に居るメンバーは、俺・ハーティ・ガレオス・伊吹・言葉・三雲の6人だ。
先程までラティも居たが、今は戻って、今日の魔石魔物狩りの中止を伝えに行った。伝え終わればこの場に戻ってくる予定だ。
個室の丸テーブルを囲むように席についているメンツを、一度見渡してから俺は口を開く。
「協力して欲しい事がある、予想はついていると思うけど、あの馬鹿をなんとかする為だ。ちょっと手伝って欲しい」
俺は駆け引きなどをせずに、彼等に協力を要請した。
椎名は、誤解により精神の宿った魔石を断ち切った。
もう斬ってしまったモノは仕方ない。
だが、このまま放置していると、このノトスにある深淵迷宮の最奥に居る、精神の宿った魔石をも斬りかねないのだ。寧ろ斬りに行こうとしていた。
放置出来ない案件だが、止める為の説得も難しそうに思えた。
何故なら、それは椎名に自分が犯した間違いを認めろと言うモノである。
しかも、かなり大きな間違いである。
自分が行った事で、一つの領地に甚大な被害を与えたのだ。もっとキツイ言い方で言うならば、被害を与え続ける事になってしまったのだ。
これを言葉だけで納得させるのは不可能に思えた。
椎名はどちらかと言うと自信家。学校でもスクールカーストで言えば最上位である。そんな奴に俺から何かを言っても、まず聞く耳を持たないであろう。
だからと言って他の勇者では。精神体の初代勇者の仲間に会った訳では無いので、説得力に欠ける。
其れならば、会わせるしかないのだ。
もう一度精神体に会わせて、納得させるしかない。
当然その場に立ち会わないと、また斬り裂かれる可能性が高いので、俺もその場に居なくてはいけない。
そして其れを手伝って欲しいと、いま個室にいる勇者達に俺は伝えた。
俺の話を聞いて、何処かウンザリとしているガレオスさん。学校ってそういう上下関係あるよね、と言って納得してくれる転生者のハーティさん。
他の勇者達も頷いてくれたのだが、三雲がポツリと感想を呟く。
「ねぇ、秋人君ってあんなだったっけ?」
「へ?」
俺は三雲に言われて違和感に気が付く。
椎名秋人は学校ではカースト上位だ。単純に顔がイイなども理由であったが、他にも性格は良い方だったと思う。
――ああ、確かにそうかも、
普通に野郎に興味なんて無いけど、ちょっと変だったな、
三雲が言うには、少なくとも話は聞くタイプだったと言う。女子に頼まれごとをすると笑顔で承諾するタイプだったと言うのだ。
( これだからイケメンは、)
間違っても、言葉に対して声を荒立てる人間ではなかったと。
そしてこの意見には、伊吹も頷き――
「そうだよね、私もちょっと思ったのよ‥、椎名君ってもっと余裕のある感じだったよね?凄い顔で睨んでいた陣内君にも余裕の態度だったから、彼らしいなって思ったけど。その後は彼らしくない感じだったね」
――あ、言われて見るとそうだな、
あの時の俺は、他のメンツが一斉に止めに入る程だったのに、奴は余裕だった、
まるで、止められる事が解っているかのような、
そのぐらい余裕を持っていた椎名が急に怒りをあらわにしていたのだ。
その辺りに彼女達は違和感を感じていたのであろう。
俺は別の事に違和感を感じていたが‥
俺が話していた内容から脱線し始めたが。ここで――
「で、具体的にはどうやって会わせんだ?その精神体とかに、」
「うん、ガレオスさん、だから協力をして欲しいんだ」
ガレオスさんのお陰で話が元に戻る。
「ん~、それは一緒に深淵迷宮の最奥まで行くって事か?」
「ああ、それをお願いしたい。ハッキリ言って奥がどうなっているのか知らない、だから精鋭のみで行きたいんだ、それとぶっちゃけて言うと、勇者の【宝箱】も当てにしている」
そう、地下迷宮などで苦労するのは、戦力もそうだが兵站。食料などの物資運搬が大変なのだ。
何日間潜ることになるか不明なのだから、大量に持って行かなくてはならない。だが、あまりに膨大な物資では進軍は不可能。
それを両立させられるのが、勇者が持つ【宝箱】なのだ。
この【宝箱】持ちが3人も居ればかなり楽になる。それどころか、すべて解決するレベルなのである。
「はぁ~わたしが陣内なんかの荷物持ちかぁ~、なんかイヤだな、」
「ゆ、唯ちゃん!今は大変な時なんだし協力してあげましょう、私達じゃないとお手伝い出来ない事なんだから、ね?」
「あ~三雲さんって、陣内君の例の噂を信じている派だったっけ?」
再び話が脱線をしそうな不穏な空気になりかけたが――
「三雲様、僕からもお願いします。この状況はとても危うい、出来れば早急に解決しておきたい。そうじゃないともっと荒れる可能性があります」
「あ?えっと、ハーティさんがそう言うなら、仕方ないかな‥」
――コロっと行きやがったぞ、おい!
あと、ハーティって三雲には隠してるのか?転生者って事、
しかもコイツ、三雲が気があるの知ってて言ってるな、
さらりとハーティに見せられるコミュ力の高さ。
他にもハーティの腹黒さを感じられたが、決して悪いモノでは無さそうなので、今は三雲への援護射撃に感謝しつつ話を進める。
まずは、椎名をどうやって深淵迷宮の奥に連れて行くか。
「う~ん、陣内君。それは素直に言う方が良くないかな?精神体に会わせるって言うのが一番無難な気がするよ?」
「そうですね、椎名君に嘘など言って連れて来てしまうと、悪いですもんね」
「じゃあ、秋人君への伝達はあたしがやるよ!」
『陣内に任せると、また喧嘩しそうだし』と三雲に言われ。確かにその可能性しか浮ばないので、椎名への言付けをお願いすることにした。
ただ、三雲だけだと不安と言うことから、大人の人と言うことでガレオスさん、それと女の子は多い方が良いという事で、伊吹も向かう事になった。
ただ何故か、言葉は多分いない方が良いだろうと、ハーティさんが言い、言葉は外された。
その後はラティも伝達役から戻り、その後の話を煮詰めた。
早いほうが良いという事で、深淵迷宮に向かうのは二日後。
食料や飲料水などの確保に、最奥に向かうメンバーの選定。
特に今回は未知の領域となるので。レベルだけではなく、危険に対しての対応力や適応力などその他モロモロを考慮する必要があった。
俺の陣内組からは固定メンバーで、ハーティ達の三雲組からも慣れていないメンツは外したりもした。
あまり多すぎても統率や食料などの不安もあり、26名の精鋭と椎名の連れてきたメンツで向かう事にした。
少し意外だったのは、椎名は三雲達の説得に簡単に応じた事だ。
彼女が言うには、いつもの椎名秋人だったと。
意気込んで行った割には拍子抜けであったと言うのだ。
三雲は、そんな椎名に安心していたが、俺は逆に不安になっていた。
何故なら不自然なのだから。
あの時にアイツは明らかに違っていた。
三雲に言われて気付いた事ではあるのだが、正義感を振りかざしたり、俺の話などは聞かない奴ではあるが。あの時の椎名は不自然であった。
――おかしいよな、
異世界で性格とか歪んだか?北原みたいに、
でも、普通っぽかったよな、それが何で‥いきなり荒立てた、
こうして俺は、総勢26名と椎名組の5人を連れて深淵迷宮の最奥に居るだろうと思われる、初代勇者の仲間の精神体と会う為に、地下へと潜るのであった。
初の大探索の開始である。
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