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すれ違いの勇者

椎名とのやり取りは、『奴隷没収』の時のお話です。

 俺は目の前で席に座っている椎名を見据える。


 突然に心の内に広がっていく、黒くて重い怒りの感情。

 臓腑が鉛にでも変わったかのような錯覚をする程にハラがオモイ。


 そしてそのオモクなったモノが、ジリシリと熱くなっていく感覚。



 今でも鮮明に思い出せる、あの時の事――

 俺を地面に抑え付けていた、裁判モドキの時の事。


 忌々しい、真の勇者の証と言われている、手の甲に付いた紋章が視界に入る。

 

 あの時――

 俺から強制的にラティを解放する為の儀式の時に、俺の腕を押さえ付けていた椎名。そして手の甲に浮んでいたνの紋章。


 そう俺は、椎名秋人しいなあきとと、あの時以来の再会なのだった。


 首筋からこめかみへ、そしてこめかみから額に熱いモノが集まっていく感覚。

 頭に血が上るなど生ぬるい。

 

 目に見えない何か、黒く熱い怒りのようなモノで頭に兜を作り上げていく錯覚。

 


 俺は取り敢えず殴りかかろうとしたが――


「っ陣内君!」

言葉ことのは‥‥?」



 気が付くと俺は、左手で握り締めていた(こぶし)を、言葉ことのはに両手で優しく包み込まれていたのだ。

 そして彼女は俺のすぐ隣から俺に、制止の声を掛けていた。

 


 見渡せば周りにいたメンツは、何時でも俺を止めに入れるように身構えていたのだった。

 ハーティは魔法で止めようとしていたのか、杖を構え。伊吹とドライゼンは素手で取り押さえようと席から立っている。 

 

 ただ、三雲みくもだけはモロに弓を構え、俺を射抜いて止める様子であった。



 言葉ことのはが俺を止めたことで緊迫していた空気が和らいだのか。恐ろしく真剣な形相をしていたハーティさんはいつもの温和な表情に戻っていく。


 そして椎名からの視線を遮るようにして、伊吹が俺に話し掛けてくる。


「陣内君、一度落ち着こう?さっきの顔はちょっと怖すぎだったよ」

「ああ、すまん‥」


 ――自覚がある、言われて当然か、

 久しく忘れていた、あの黒く重い感情に飲まれてたな俺‥



「まぁ、一応理由は知っているけど、ホントに凄い顔していたよ?よく沙織ちゃんは止めに入れたよ。私なんて竦んじゃってたよ」

「全くだな、オレも今のはビビッたぜ?」


「ガレオスさん‥‥、ごめんちょっと頭に血が上ってた‥」



 『そういうレベルだったかぁ?』などと呟きながら2人は元の席に戻っていく。


言葉ことのは‥、もう離してくれ、暴れたりしないから‥」

「え?あっ!ごめん陣内君」


( 同級生に手握られると、ねぇ? )



 俺は一度、自分の心の中で仕切り直し。そして椎名を見据え。


「椎名、ちょっと聞きたい事がある、少し良いか?」

「‥‥うん?ああ‥いいよ」



 椎名は、俺と言葉ことのはを交互に訝しむように見詰め、何か面白く無さそうな顔をしながら了承を寄越してきた。


 椎名に訊く内容は、周りの人には聞かせられない内容である為。俺達は食堂の個室を借りて話すことにした。





            ◇   ◇   ◇   ◇   ◇






 借りた個室には、俺・椎名・ハーティ・ガレオス・伊吹・言葉ことのは・三雲の7名が集まった。


 最初は椎名と2人だけで話すつもりであったが。また俺が暴走するのではと危惧され、他のメンツも個室に入ることとなった。

 

 余計な心配を、とも思ったが。他の勇者達にも伝えないといけない事が含まれているので、ある意味都合は良かった。




 そして俺は、単刀直入に椎名に問いただす。


「椎名、エウロスの死者の迷宮(ミシュロンド)で石に宿っていたモノを斬ったか?」

「ああ、斬ったよ、それが何か?」


「何故斬ったんだ?」

「うん?何を言っているんだ?相手は魔物だぞ?斬って倒して何が問題なんだい?寧ろ斬らない方がおかしいだろ、何を言っているんだ陣内くん」


 ――んん?何か噛み合わないな、

 何でだ?



 椎名は肩をすくめて”ヤレヤレ”と言ったポーズを取り、横に顔を傾けたまま、嘲笑の表情で俺に語りかけてくる。


「陣内くん、君は知らないだろうけど、死者の迷宮(ミシュロンド)は亡霊なんかの巣窟なんだよ。半透明の幽霊みたいな奴がわんさか居るし、その内の1体だろ?石に宿っていた魔物なんて」

「へ?」


「まぁ、ボクの聖剣マサムネの前には、あんな魔物なんて紙よりも容易かったけどね。あ!陣内くんには強敵だったかな?霊体は厄介だしね」


 

 椎名は俺に自慢でもするかのように日本刀を見せ付けてきた。

 いかにも歴代勇者(中二病患者)が好きそうな武器である。だが今は――


 ――まじかぁぁぁぁぁぁ!

 この馬鹿、魔物と精神体を一緒くたにしやがった、

 ああ、でも確かにアレは幽霊みたいなモンだしな、って!



「待て!その石に宿って居たのは話し掛けて来なかったのか?」

「ああ?よく知っているな、なんかブツブツ言ってたかな」


「なら何で話し掛けてくる相手を斬ってんだよ!?」

「はぁ、陣内くんはヌルいな。相手は魔物だぞ?どう考えたって、ボクを惑わそうとしていたに決まっているるじゃないか?そんなのでよく生きてこれたね」


「――っな!?」



「ああ、そっか、そう言えばいつも誰かに助けられて来たんだったね?」

「へ?」


 ――なんでコイツは俺の事知って?

 いや、そもそも誰かに助けられたって、そんな多くは――

 


「芝居で見たよ君の活躍を、奈落の聖女とか谷の乙女だっけか?他にも活躍・・しているみたいだね?カツヤク・・・・をさ」

「お前!?まさかさっき言ってた”色々聞いてる噂”ってあの芝居のこと言ってんのか?」


 ――アホかコイツ!

 変だと思ったんだよな、コイツが俺のこと知っているってのが、

 今まで全く会って無かったのに、




 その後のやりとりもグダグダであった。

 俺がいくらアレ(精神体)は歴代勇者の仲間と説明しても、信じて貰えず。地下迷宮ダンジョンが魔物を地上に湧かさないようにしているとも説明したのだが、それも理解せず‥ 


 それどころか、ハズレ勇者の俺が地下迷宮ダンジョンの最奥に行けるはずが無いと断言され。俺が最奥で会った初代勇者の仲間は作り話だと罵られ。挙句の果てには、俺が椎名の活躍を嫉妬しているのだろうと的外れな事を言われたのだ。


 伊吹なども説明をしたのだが。

 伊吹達は最奥には行っていないので、逆に俺が行ける方がおかしいと言われ、より信じなくなっていた。


 しかも椎名の言い分には、ゆうしゃ・・・・の俺に貴族から知らされている事(地下迷宮の役目)を、勇者・・である自分が貴族から知らされていない訳が無いと言うのだ。



 そして最後には――


「へぇ~、じゃあさ、この街の深淵迷宮(ディープダンジョン)の奥にも、石に宿った魔物・・がいるんだ、」

「――っお前、まさか!?」


「ボクがソレを退治してきてあげるよ、そうすれば死者の迷宮(ミシュロンド)のように地下迷宮ダンジョンから魔物が出てこなくなるしね」



 椎名は元から整った顔を、より爽やかに最高の笑顔で俺にそう言い放ったのだ。

 腹立つ程のイケメンスマイルなのだが。


 ――馬鹿が馬鹿をしようとしてやがる、

 不味いこの馬鹿!ノトスまで混乱させようと、

 あ、そだ!



「東のエウロスじゃ、死者の迷宮(ミシュロンド)に魔物が湧かなくなったのか?」

「ああ、全くって訳じゃ無いけど、少なくなったね」


「それだと、死者の迷宮(ミシュロンド)から魔石が取れなくなったんだよな?周りの人とかそれで困った人とかいるだろ?」


 ――この馬鹿には、地下迷宮ダンジョン価値を教えないと、

 簡単に潰してイイ物じゃないって教えな――

 


「ああ、魔石か。確かに魔石が取れなくなると魔石製品が使えないから、照明の灯りとか風呂に湯を張るのに魔法を使う必要があるとか騒いでいたな、」

「だろ!」


「でも、それって生活魔法”アカリ”とかあるんだから別に困らないよな?」

「あ、コイツ、」


 ――この馬鹿!やっぱ解ってない無いな!

 レベルが低い一般人じゃ2~3時間の”アカリ”でMP枯れるんだよ!

 そんな事も知らないのか、他にも魔法は使うんだし、



「あのね椎名君、普通の人は長い時間”アカリ”は使えないんですよ。MPがそこまで多くないみたいなの、だからね――」

「――ッ言葉ことのはさん!貴方はコイツ・・・の肩を持つのですか?ボクが間違っているとでも言うのですか?どうなんですか!」


「え?えぇ?」 



 椎名は突然言葉ことのはを捲し立て始めた。

 さっきまでは、斜に構えるような余裕を見せるけるような態度であったが。何か化学反応でもしたかのような激昂っぷりであった。


 そして最後に。


「もう不愉快だ!今日は帰らせてもらう!」



 椎名はそう言い放って立ち上がり、誰にも一瞥もくれずに個室から出て行く。

 突然の豹変に、俺達は呆気に取られていたが――


「あ!椎名君行っちゃった、」

「ああ、彼も高校生だなぁ、ちょっと青春だったのかな?今のは」

「全くだ、モロバレだろ、ありゃぁ、」



 伊吹は呟いただけだったが、ハーティとガレオスさんは、何かを察したような口ぶりで呟いている。


 そして俺は。


「もう面倒くせぇ、ぶん殴って止めてくる!それしか無いな」

「えぇ!待ってね陣内君、幾らなんでも暴力だけで止めるのは駄目ですよ」



 言葉ことのはが俺を止めようと、語りかけて来たが俺はソレを無視して個室を出る。


 筈であったが――


「あの、ご主人様、まずは落ち着いてください。それと何があったのでしょうか?先程ご主人様から、あり得ない程の怒気を発しておられましたが‥」



 個室のすぐ外には、先程の俺の怒気を察知したのか、ラティが駆け付けていたのだ。俺は彼女に今日の狩りを臨時の休みにすると、仲間へ伝令を頼んでいたのだ。


 だが、それよりも俺の感情の爆発に異変を感じて駆け付け。そして今、俺を落ち着かせようと正面に立ち塞がって、俺の左手を両手で握り、切実に懇願するような目で俺を見つめていた。



 さすがに此処までされると、気も抜けて固まっていた思考が晴れていく。


 ――ああ、駄目だな、

 殴るだけじゃ止めれないな、しっかりと納得させないと、

 そう、納得させないと‥



「そうだ、魔石に宿った精神体に会わせて納得させればイイんだ、」


 その時俺は、自分なりの妙案が浮んでいた。

読んで頂きありがとう御座います!


ご質問やご指摘や感想なでどじどじお待ちしております。

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