聖剣の勇者
お待たせ致しました。
『死者の迷宮の剣聖』その物語は、聖剣を持った勇者のお話であった。
死者や亡霊などは通常の武器では倒しづらい魔物だ。
だが、その勇者の持つ聖剣は、苦も無く死者達を屠っていくのだ。
芝居では、斬りつける必要も無いほどに聖剣が力を発揮したと演じていた。
そして死者の迷宮の下層では、聖剣の真の力を解放し、強大な魔物を薙ぎ払い突き進む様が、舞台の上で演じられていた。
この異世界に、歴代勇者達が残した文化の一つである、無双系の物語であった。
確かに爽快感のある芝居である。だが最後が問題であった。
石に宿っている幽霊を倒すシーン。
もしかしたら、前に廃坑で出会った幽霊と同じ、偶然に魔石に取り込まれた、冒険者の心なのかも知れない。
だが、もし。
あの切り裂いた石と亡霊が、初代勇者の仲間の精神だとしたら‥‥
「ラティ、どう思う?」
「あの、判りません‥、ですが、もし本当だとしたら、東の死者の迷宮は機能しなくなり‥‥魔物が湧かなくなるのでしょうか?」
――そうだ!そうなんだ、
死者の迷宮が機能しなくなったら魔物はどうなるんだ、?
好き勝手に、そこら辺に湧くようになるのか、?
もしそうだとしたら大問題なのだ。
初代勇者の仲間であったユズールが言うには――
本来、地下迷宮などは、地上に魔物が湧かないようにする為のモノ。
地上にいる魔物とは、そこから漏れる形で地上に魔物が湧いているのだと。
漏れて溢れている程度でも、十分に危険だったのだが‥
もし、それが無くなったのだとしたら。
「――ッ!ラティ、サリオ!今日は戻ろう。俺はちょっとアムさんと話しておきたい事が出来た」
「はい、お屋敷に帰りましょう」
「ほへ?まぁ3本も見ましたですからね、あたしは満足ですよです」
こうして俺達の休日は、慌しく終わりを告げた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺はすぐにアムさんの元に向かった。
本来なら、公爵の代理をしているアムさんには、簡単に面会などは出来ないモノらしいのだが、俺は直接アムさんが仕事をしているであろう執務室へ飛び込み、今回芝居で見た事を伝えた。
どうやらアムさんは、地下迷宮奥で精神が宿っている魔石のことは詳しくは知らないらしく、単純に地下迷宮に魔物が湧くように誘導しているだけと言う認識であった。
俺はその辺りもアムさんと話を詰めて、今後の対策と東の情報集めをする事で話を終えた。
アムさん曰く、精神が宿った魔石の話しはどうにもあやふやになっているそうだ。何処かで捻じ曲がったのか、正確には伝えられていないと教えてくれた。
1300年も前の事だから、風化している部分があるのかも知れない。
そして夕食時。
現在俺達が住んで居る場所は、公爵家の離れ。
正確にはアムさんの兄であった、ヴェノムが専属で雇っていた冒険者用の住まいとして建設した。だが、雇っていた冒険者が去った事で、現在は俺達が住んでいるのだ。
今は俺達だけでなく、固定メンバーであるスペシオールさんとミズチさん、そして支援後衛役のレプソルさんも住んでいる。
一応は固定メンバーであるジムツーだが。奴はレイヤの件があり、公爵家敷地内に入れない為、外の宿に泊まっている。
俺は今の夕食の時間を使って固定メンバーの3人に、最近東での何かを知っていないか訊ねてみた。一応、地下迷宮が魔物を地上に湧かないようにしている件などの、限られた貴族しか知らない情報などは伏せておいた。
「うん?東?東ってエウロス領の事かな?」
「‥‥大雑把過ぎる‥」
「ジンナイ‥、何か隠しているよな?あまりに抽象的過ぎるぞ。それで知りたい情報を引き出そうとか、もう少し具体的に言ってくれ」
俺の聞き方が悪かった為か、返って来る反応はあまり良くなかった。
そして、改めて聞き直す。
「ザックリ言うと、魔物が東で増えていないかだ。例えばいつもよりも魔物が湧いていないかとか、もしくは普段湧かない場所に魔物が湧いたとか」
「う~ん、エウロスは行かないから~、知らないかな」
「‥‥‥」
ミズチさんとスペシオールさんは、ずっと南ノトスに居る為に何も知らない様子であったが、野良の冒険者として、各地を廻っていたレプソルさんは違った。
「オレが見たりした訳じゃないが、魔物が増えているらしいぞ。特にここ最近は酷いとか、確か行商人の男がそんな事を愚痴っていたな」
俺は詳しくレプソルさんに話を聞いた。
レプソルさんも、其処まで東の事を気にしていた訳ではないのだが。行商人との雑談程度の会話の中で、エウロスからの道中で、魔物が増えていて困っていると言う話しを聞いたそうだ。
普通だったら、其処まで気にしない事なのだが。
レプソルさんは東にも行った事があり、その時の道中で魔物に襲われるといった事は少なかったそうなのだ。なので、その行商人の話が頭の片隅に残っていたと言う。
――くっそ!情報はまだ少ない、けど可能性が高いな、
聖剣を持った勇者が、マジであの魔石を斬りやがったのか、?
あ、他の勇者にも聞いてみるか、
俺はその後、ミズチさん達に東の事で何かあったら教えて欲しいと伝え、食堂を去る
レプソルさんからは、”しっかりと教えて貰うからな”と言った視線を頂く事になったが。現状では、まだ話すのは危険と思い、その視線には気づないふりをする。
レプソルさんを信用していない訳では無いが。地下迷宮の魔物を倒す事が、地上に魔物を湧かす要因の一つだと、世間に知れ渡ると無用な混乱が起きるとアムさんに釘を刺されているのだ。
いま思うと、俺はこの事を伊吹やハーティさんに話してしまっているので、早い内に他言無用と伝えなければいけない。
――はぁぁ、参った、
明日も休みにして、伊吹達に会いに行かないとだなぁ、
まぁ、丁度イイか、俺も聞きたい事あったんだし‥
俺はそう決めてから部屋に戻り、一度頭の中で考えを纏め直していた。
エウロスのこと。
仮に魔石が本当に斬られていたとしたらどうなるのかを。
最初は余所の地方の事だから関係無いかとも思ったが、東で魔物を湧かすのを調整出来ないとなると。もしかすると、南や中央などにシワ寄せが来るのでは?と。
他にもアムさんから聞いた話し、他の事でのシワ寄せの可能性なども。
俺は暫く考えていたのだが。
「くっそ、駄目だ全く纏まらない、」
――どんな問題が起きるのか、可能性を追っていくと纏まらん、
くうぅ、コレが可能性に喰われると言う事か‥‥違うか、違うな‥
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
人は考えが煮詰まったりすると、よくコーヒーブレイクなどをして気分転換を行ったりするモノなのだ。
だからコレは必要な事なのだ。
「あの、ご主人様、そろそろ本題に入られた方が宜しいかと、」
「あと3分」
「あの、えっと先程も同じことを仰っていたような‥」
「これが最後の3分」
「それも、10分ほど前に言っておりましたよ、」
「仕方ないんだ、」
――ああ、癒される、
これは髪から何か癒しの因子が出てるぜ、
煮詰まっていた俺は、気分転換にラティの頭を撫でに来ていたのだ。
ラティ達の部屋の中では、昼間の演劇ハシゴの疲れからか、サリオはすでにベッドの上で熟睡中であった。
サリオの視線を気にすることが無い所為か、ラティは俺の膝の上に頭を乗せて機嫌良さげに頭を撫でられていたのだが。一時間を経過した辺りから、悩み事を話すように促してきていた。
昼間の芝居の件で、俺が何か悩んでいるのだろうと察しているようだ。
俺はラティのその気遣いに感謝しつつ、絹糸のような髪を梳きながら話をする。
「ラティの察している通り、精神が宿っている魔石の件なんだけどな――」
「あの、やはり撫でたままで、お話をするのですねぇ、」
ラティから何やら観念したような声音が聞こえてきたが、気にせずに俺は話を続ける。
話す内容は、とても纏まったモノでは無く、愚痴に近いようなモノ。
これから起きるであろう可能性を吐き出したモノである。
まず、東の死者の迷宮が機能しなくなったら魔物はどうなるのか。
アムさんからは、もし魔物が地上に大量に湧くと、当然、人が襲われないようにする為に、魔物を倒して回るだろうと言っていた。
それは魔物大移動時よりも、魔物を倒すことになるだろうと。
だが、これには弊害があり。過剰な魔物の討伐は田畑や作物にどんな影響が出るか不明だと言うのだ。
魔物を倒すことによって、大地に力が還り田畑などに栄養が、この場合は大地の力が漲ることになるのだ。俺は作物が育つのだから良い事なのではと思っていたのだが、少し違うらしい。
過剰に栄養が与え続けられる状態なのだから、人間で言えば肥満。
畑で言えば、作物の育ちすぎる可能性。
今までに無いことなので正確には予測出来ないが、豊作を超える大豊作、その大豊作をも超える超豊作になるだろうと。
実った物をすぐに収穫しなければ、熟れ過ぎて逆に駄目になる可能性があると。
リンゴの木で例えるならば、短い期間で熟して、そのまま木から落ちてしまうだろうと言うのだ。
それなら早く収穫してしまえば良いと思っていたのだが、それに対応出来るだけの人手が必要だと言うのだ。
そして、過剰過ぎる生産は、その生産した物の値を下げる事にもなる。南ノトスのように、元から不足気味などであれば問題は無いのかも知れないが、元からある程度の生産をまかなえていた東では話が変わって来るらしい。
それなら輸出をすればと言えば。
アムさんからは、輸出の難しさを語られた。
単純な話し、輸出の道中の安全確保も、魔物が増えれば大きな負担になり簡単なモノではないと。
自分達で方針転換して政策などを進めて行くのと、周りの状況の激変で政策を変えなければならない状況とでは、全くの別物らしい。
マラソンで例えるなら、走るペースを自ら上げるのが前者。走っている道が突然に、傾斜のキツイ下り坂になるのが後者なのだ。
ゆるい傾斜なら問題は無いが、キツイ傾斜だとペースを落とすにも大変であり、必ず何処かしらに負担が来るのだ。
ひとつの可能性だけでも、問題が山積。
そして、地下迷宮が減る事により、他の地下迷宮にも影響が出るのかどうかなど色々と。
余所の事だからと楽観視出来ないのだ。
そんな思いを吐き出していると、相槌なども入れずに聞き役に徹していたラティが、ポツリと呟く。
「あの、東の死者の迷宮で魔物が湧かなくなったら、その聖剣の勇者様はどうするのでしょうねぇ‥」
――ああっ!嫌な可能性がもうひとつ増えてた、
駄目だ考えれば考えるほど嫌な予感しかしない‥
くそ、これは責任を取って貰うか、ラティに、
増えてしまったのは仕方が無いので、増えた悩みの分だけ癒されたいので、俺は撫でる場所を、頭と尻尾に増やして解決し、その日は終えたのだった。
途中で何やら抗議めいた視線を向けていたが、俺は気付かない事にした。
閑話休題
そして次の日。
俺は朝食も取らずに、伊吹とハーティ達が泊まっている宿屋に向かった。
早い時間であれば、伊吹達も深淵迷宮に行く前であろうと思ったからだ。
そして予想通りに朝食の為か、宿屋の食堂に伊吹達は居たのだが。其処には。
「やぁ!陣内くん、噂は聞いているよ、色々とね」
「椎名‥」
俺の目の前で、勇者伊吹と同じテーブルの席に座っていたのは。
真の勇者と呼ばれている、椎名秋人であった。
――そうだった、
コイツは武器特性で【聖剣】持ちだったな、
って、ことは、
俺は、
余裕の笑みを浮かべている椎名を苛立ちを込めて睨みつけるのであった。
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