劇場で知る
間が空いて申し訳ないですー
嫌な予感は当たっていた。
設定は大袈裟になっていたが、物語の舞台は北の防衛戦であった。
3メートルほどの堀は、10メートルを超える絶壁の崖に変わっていた。
舞台の段差を崖に見立てたりなどの工夫が凝らし、芝居自体は中々に見応えのある演劇となっていた。
ただ、誇張や捏造が多かった。
まず戦い方がかなり違っていた。
事実では、堀の下にいる魔物に対して一方的に放出系WSを放っていたのだが、この物語では違っていたのだ。
崖を這い上がって来た魔物を、必死な形相で冒険者達が突き落すような戦い。泥臭くも何処か熱いモノがある戦いとなっていたのだ。
そして今も――
「うああああ!足が足が!?」
「今!助けるぞぉ~!えいえい!たー!」
苦戦を表現しているのか、冒険者の1人が崖に引き込まれそうになっている所を、周りの仲間が助けるという感動的な友情シーンが演じられている。だが俺達は‥
「ジンナイ様、あたしこの場面とか見てないよです」
「奇遇だな、俺も一度も見た記憶が無いな、」
「あの、お二人共、これはお芝居ですので、」
そして次ぎは、苦戦の最中で勇者達が力を振るい、魔物を押し返す場面。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「っはあぁぁぁ!」
剣を持った勇者と弓を持った勇者が、崖を這い上がってきた魔物を屠る。
「ジンナイ様、あたしの知っている勇者様、もっとサボってたです」
「そうか、俺の知ってる勇者は、俺の横でイヤミしか言ってなかったな」
「あの、確かにそうでしたが‥‥なんと言えば、」
俺はこの芝居を見ながら、ある事に気が付く。
「なぁ、これって俺達が参加した北防衛戦とは違う防衛戦じゃ?」
「ほへ?違うって?」
「あの、サリオさん。北防衛戦は今まで2回があったそうなので、」
『なるほどです!』と納得し再び芝居に集中するサリオ。
俺もこれは別の時に防衛戦なのかと納得して芝居を見ていのだが‥
『お前ら大した事無いな~、全く情けねぇ!』
『ぎゃぼっぼー!主様、はっきりと本当の事を言っちゃダメですぉ』
『えっと、お2人とも言いすぎですぅー』
――おい!なんだコレ?
すげぇ、不自然な3人組が出てきたぞ!
物語は進み、戦闘場面から夜の野営の場面に移ったのだが。
戦いに疲れているシーンで、嫌われ役兼ピエロ役っぽい3人組が登場したのだ。
言動などが、いかにもあざとい嫌われ役。
物語のスパイスとして登場したのだ。
「なんでしょうね、あの奇声を上げてるちっこいのは、」
「”ぎゃぼっぼー”がか?それによく似た口癖の奴なら知ってるぞ?」
「あの、お二人共これは劇ですから‥」
何処かで見た事があるような3人組である。
物語の場面は、疲れ切っている兵士と3人組の冒険者が揉めている所に、心優しい弓使いの勇者が間に入って仲裁をするという場面。
『はぁ~?勇者だからって偉そうによう!』
『そうなのです!そうなのです!引っ込んでいろなのですぉ』
『揉め事はダメですぅー』
勇者に仲裁に入られた三人組。
それが気に喰わない風に、勇者にまで暴言を吐いている。
「勇者に暴言とか命知らずな冒険者だな‥、いるのかこんな奴?」
「そうですか?あたしの知っている人は、よく勇者様に暴言言ってますよです」
「あの、確かによく言ってますね、乱闘もしていましたし、」
弓を持った女勇者を相手に、まるでショボいヤンキーのような絡み方をしている槍を持った目つきの悪い冒険者役。
「なんでしょうね、あの槍持ちの冒険者、いつも見ているような気がしますです」
「そうか?俺は全く見た事がないな、あんなみすぼらしい槍持ちの冒険者」
「あの‥‥」
そして物語が進み、崖での最後の防衛戦。
崖から這い上がって来る魔物を、冒険者や兵士達が、互いにフォローし合い戦う中で、俺達には関係無いと、ただ悪態だけを付く3人組。
「ジンナイ様、あの3人組って‥‥」
「知らないな、」
「‥‥」
そして物語は佳境に。
『うああああ!』
『ぎゃぼっぼー!シンナイ様が落ちてしまったぉー!』
『大変ですぅー』
槍を持った男が、魔物の巨人による攻撃の振動で足を滑らせて崖に落ちてしまい、それを小さい女の子役が名前を呼びながら叫び、犬人の女冒険者役がそれを見て慌てる。
「おい!やっぱアレって俺がモデルじゃねーか!?」
「ぎゃぼー!そんな気がしてましたが」
「あの、お二人共。必死で気付かない振りをしていたのですねぇ」
そして、散々悪態を付いていた3人組であっても、それを見捨てるような事はぜずに、崖の底へ向かって光を背負って舞い降りる弓勇者。
生活魔法”アカリ”を調節して、まるで天からの使いように神々しい弓勇者役。
そして舞い降りると同時に矢の雨を降らし、魔物を屠るという幻想的であり神秘さを演出したシーンが続く。のだが――
「おいコレ!逆だろうが!ふざけんな!」
「なんだか、素敵に入れ替えてありますねです」
「あの、どうしてこうなったのでしょうねぇ」
崖の底で弓無双している弓勇者の姿に、最初は躊躇っていた冒険者達も心を打たれた風に演技をして、勇気を振り絞って崖に飛び込み魔物を倒していき、戦いは終わりを迎えた。
最後には、悪態を付いていた3人組が助けられた事で、素直に改心しました的な流れになり、まさに勇者賛美の物語であった。色々と納得いかないが。
結局、二つ目の芝居はツッコミ所満載の捏造物語であった。
”面白かった”というよりも”疲れた”と言った感じの心境。
「アレですね、おかしいですね、何ででしょうね?。小さい子役はもっと可愛い筈なんですけどね?なんかネズミみたいに薄汚れた灰色のローブなんて着ているしです」
サリオはサリオらしい場所にご立腹であった。
今もぶつぶつと文句を言っている。
其処で、ふと思い出す。
サリオがいま着ている意匠の凝らした白いローブは、北防衛戦でサリオにも自衛が必要だと痛感し、そしてタイミング良くららんさんに売りつけられた物だと。
あれ以来、ラティとサリオは常に防具はしっかりと装備している。
それが今の街中であっても。
ラティとサリオは狼人とハーフエルフの奴隷。
2人には突然に理不尽なことが起きる可能性があるのだ。
サリオの隣を見ればラティも深紅の外套の下には、ららんさんの最高傑作の鎧を着ている。彼女の鎧は、彼女自身のMPを吸って強化され、そして適度に肌に張り付くようになっているので、動きを阻害される事もない優れモノ。
もし欠点があるとすれば、目立ち過ぎる事と脱ぐ際に苦労する事。
鎧が張り付くようになっているので、前に部屋で無理に脱ごうとした時に、中に着ているシャツと下着が一緒にズリ上がり、芸術的な双丘が露わになって。それを凝視していた俺はその後、理不尽にラティから無言の説教を2時間ほど頂く事となったのだ。
――そういや、
あれ以来ラティは鎧を脱ぐ時に細心の注意を払うようになったなぁ‥
俺は何となく、あの日の事を思い出していると。
「あの、ご主人様、何か‥、宜しくない事を思い出していませんか?」
――お、おう‥勘が鋭い、
と、言うより心を読んでいませんかラティさん?
ラティは頬を薄っすらと朱に染めて、深紅色のローブを胸元に寄せるようにしながら、少し咎める様な視線で上目遣いに俺を見ていたのだ。
――あ!
そういや、あの時は最後に、思い出さないようにって釘刺されたんだった、
閑話休題
二つ目の舞台小屋を出た俺達は、一旦食事と休憩を取り、再び舞台小屋に向かった。食事と休憩を取ることで時間をずらし、地雷臭のする演目は避けたのだ。
「南の防衛戦って、あの時のだよな‥」
「あの時ですと、きっと勇者様が戦線で切り開いた話しになるのでしょうねです」
「あの、お二人共。斜に構えた見かたは宜しくないかと、」
――ラティは解ってない、
南防衛戦なんて絶対に捏造のオンパレードだぞ、
あの時に勇者は活躍しているように見えたけど、ホントは酷かったんだよな、
俺は勇者の所為で半壊しかかった防衛戦を思い出してた。
特に最後は、伊吹組が到着しなかったら中央は全滅する勢いだったのだから。
そして俺達が三つ目に選んだ演目は、『死者の迷宮の剣聖』
前にハーティさんから、東には死者の迷宮があると聞いていた。
ならば、この物語なら俺は知らない筈なのだ。そして純粋に楽しめるだろうと、俺達は『死者の迷宮の剣聖』の芝居を見ていたのだが。
定番の勇者賛美の流れの物語であった。
仲間を率いて迷宮に挑み、魔物を倒して踏破していく物語。
だが――
最後のシーンに驚愕したのだ。
もし、この物語が事実だとしたら大問題なのであった。
それは‥
勇者が聖剣の力を解放し、強い力を纏った勇者が死者の迷宮の奥深くに居た、石から浮き上がる幽霊を石ごと切り裂いたのだ。
地下迷宮の崖下で出会った、初代勇者の仲間ユズールの言葉を思い出す。
『地下迷宮ダンジョンは魔物の湧く場所の調整をする所じゃないか、
地下迷宮ダンジョンに魔物が湧くから、地上に魔物が湧かないんじゃないか』
そして、その調整をしているのが、精神を魔石に入れた初代勇者の仲間達だと。
「おい、もしかして‥‥、聖剣を持った勇者がその魔石を切ったんじゃ、」
最後に見た芝居は、別の意味で俺に衝撃を与えるモノであった。
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