劇場編
新章スタート!
街での魔物暴走騒動から二週間が経過した。
魔石魔物狩り参加者のレベルも70超えが増え、このノトスでも問題なく魔石魔物を倒せる者が増えてきた。
ただ懸念していた事、地上に魔石魔物が湧いてしまう可能性。
これは予測していた事だが、起きてしまっていた。
だが、湧いた場所は村から離れている場所の為、誰も村からは犠牲者出ずに、派遣された冒険者に問題なく討伐されていった。
地上に湧く魔石魔物は、深淵迷宮に湧く魔石魔物よりも遥かに弱く、決して楽観視は出来ないが、一応は問題なく討伐出来るとの事で、俺とアムさんは安堵していた。
俺とアムさんは、魔石魔物狩りでのリスクとして、地上に魔石魔物が湧く可能性を知っていた。
特にアムさんは、それを理解して尚、発展の為に魔石魔物狩りに踏み切っていたので、この魔石魔物が地下のより弱いと言う報告には、ほっと胸を撫で下ろしていた。
そして俺達は昨日遠征で魔物を倒しに行っていたので、今日は休日にした。
ルリガミンの町での休日の娯楽と言えば、酒場か下る階段、あとはイカサマありありのマージャンぐらいであったが。このノトスは、冒険者以上に数多くの住人が住んでいる為に、娯楽施設が充実していたのだ。
他にも、オセロや将棋などのテーブルゲームを扱っている店なども多数営業していた。当然雀荘のように賭けが主流であったが。
あと、トランプは何故かカードゲームという名で存在していた。
そして異世界での娯楽の花形は舞台演劇であった。
映画館やテレビなどの無い異世界では、有名な人物の演劇などは鉄板であり、街の住人からはとても支持されているらしく、複数の舞台小屋が営業をしていた。
俺はあまり興味が無かったのだが、サリオが行ってみたいと言うので向かう事となった。
最初はサリオだけで行けば良いと思っていたのだが、奴隷だけでの入場は規制されていたのだ。治安や防犯の為、この決りはアムさんでも容易には変えれず、俺が付き添う事になる。
――くそ、街だから余計に奴隷に厳しいな、
でも確かに、奴隷がウロウロしてんのは、住人側からしたら不安か、
普通は奴隷が娯楽施設に行く事自体が珍しいんだもんな、
俺はサリオのお守りとして人ゴミの中、舞台小屋へ向かう。
当然ラティも付いて来ているのだが、意外にもラティは、
「あ、あの本当にわたしも良いのですか?舞台小屋に入っても、」
「うん?人ゴミとか苦手?それともお芝居とか好きじゃない?」
「いえ、あの、初めてなので、とても楽しみでして、」
「ありゃ?ラティちゃんもお芝居を見るのは初めてなのです?」
ラティは恥ずかしそうに肯いていた。
いつも戦闘ばかりの彼女達の事を思うと、こういった普通の日常はとても貴重な時間だと感じられた。
普段、戦いばかりを強いているのだから今日は存分に楽しんで貰おうと思い、二人に芝居をハシゴで回ろうと提案する。
「ほへ~!今日のジンナイ様はお優しいのですよです!」
「あの、本当に宜しいのですか?」
「ああ、もちろん。俺もちょっと芝居とか興味あるからな」
――ホントはそこまで興味は無いけど、
今日は2人を楽しませてやりたいからな、
俺は、キザな言い方で言う所の”優しい嘘”をつき。3人で舞台小屋が集まっている場所へと向かう。
そして向かった先には、元の世界での映画館のように、まるで並ぶように舞台小屋が建っていた。当然、芝居を目的でやって来る客を相手に、数多くの屋台並んでいた。
「ぎゃぼー!興味をそそられる食べ物ばかりですよ~です」
「先に食い物買ってから、見るの決めるか」
「あの、普通逆では‥」
舞台小屋が並ぶ広場に来てからは、サリオは一段とテンションが上がっていた。
最近は、魔石魔物狩りでかなり稼ぎがよくなり、ラティとサリオにも、お小遣いとして金貨を渡せるレベルまでになっていた。
今では二人共、自分で買い物などをするまでになっていた。
そしてサリオは、その小遣いで屋台から何かの串焼きを買い食いしている。
「おっほ~、この串は美味しいですよ!」
「おら、さっさと見る演目を決めに行くぞ」
ふらりと回りながら、丁度今から開演される芝居を見ることにする。
意外にも芝居と芝居の間に時間があり、丁度今やっているのはその芝居だけだったのだ。そしてその演目は『奈落の底で輝く聖女』と言うモノであった。
入場料1人銀貨2枚を支払い舞台小屋へ入る。
俺達3人の一回の食事代が銀貨で2枚程度なので、決して安い金額ではなかった。
100人程度が入れそうな建物、中の座る場所は、柵のような手摺が椅子代わりであり、低目の柵に腰を下ろして芝居を見る形になっていた。
前の方には一応立派な席もあったのだが、そちらは貴族用なのか、明らかに身なりの良い人達だけで占めていた。
空いている場所に三人で並び腰をかける。
左が俺、真ん中がラティでサリオが右側の順で腰を下ろし開演を待つ。
サリオが浮かれているのは予想出来るのだが、ラティもかなり浮かれていた。
うずうずとした顔をしているラティを見ていると、自然と右手で彼女の頭を撫でていた。今彼女はトラブル防止の為に、アムさんから頂いた深紅のローブを纏い、フードを被って狼人の耳を隠している。
フードの中に手を入れて撫でると耳が見えてしまうために、フードの上から頭を撫でる。
ラティの口元からは『っぷしゅ~』と聞こえているので、機嫌が良さそうであった。いつもよりも勢いのある息漏れなので、普段よりも機嫌が良いのだろう。
もしかすると、かなり演劇が楽しみなのかも知れない。
俺はふと気になりラティに訊ねる。
「なあラティ、ラティって芝居初めてなんだよな?」
「ハイそうですねぇ、本で物語などを読むのが好きでしたので、こういったお芝居で物語を見れるかと思うと、とても楽しみです」
――ああ、ラティって本とか読んでたのか、
ん?前に聞いた話だと11才で奴隷に売られたって言ってたな、
それまでは、何処かで生活してたんだよな、
俺は突然引き込まれるように考え始めていた。
昔のラティは、どうであったのだろうと。
ラティは高い教養が身に付いている。
もしかすると奴隷の時に身に付いたのかも知れないと考えたが、狼人であるラティに、主が何かを学ばせたとは考えられなかった。
それならば、あの教養は11才までに身に付けたモノなのだろう。
そして立ち振舞いや言葉遣いなども、まるで貴族令嬢のような所作なのだ。
だが忌み嫌われている狼人が貴族とは考えられない。
俺は気にしないが、この異世界の住人はきっと許さないであろう。
( ラティは‥‥ )
頭を撫でられて心地良さげにしているラティを見つめながら、俺は思い浮かんだ疑問を彼女に訊ねようとしたが。
「――チリン♪チリン♪チリン♪――」
開演を知らせるベルが鳴り響き、俺はラティに訊ねるのを中断した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
演目『奈落の底で輝く聖女』。
これを見た時にある程度は予測していた、葉月の物語ではないかと。
そして予測通り、このお芝居は聖女葉月の物語であった。
やはり勇者の人気は高いのか、吟遊詩人が詩を歌うように、芝居などでも勇者を題材にしたモノが多いのかも知れない。
その『奈落の底で輝く聖女』は、地下迷宮での出来事の話のようだった。
地下迷宮にて葉月が、分け隔てなく魔法で冒険者を助けていくと言う、いかにも的なストーリーで、葉月を助けるように寄り添うもう一人の勇者、八十神もイケメンの役者が演じて、2人の勇者が地下迷宮を攻略していく流れになっていた。
だが――
「なんでしょうね‥、何処かで見た事があるよ~な、風貌の人がいるです」
「あの、」
「いや、気のせいだろ!」
物語の中で、素行の悪い冒険者、嫌われ役が出ているのだが。
「気のせいですかね、あの槍持った人です」
「槍持ちなんてよくいるだろ」
「あの腐った皮の鎧とか、なんとなく思い当たるモノがあるのです」
「みすぼらしいって演出なんだろ、」
「あと、連れている仲間の女の子が、」
「男だけだと華が無いからだろ、」
葉月達の邪魔をする訳では無いのだが、周りに迷惑を振りまく役として2人組が出ているのだが、そのウチ1人は目つきが悪く槍を持っており、腐った皮の鎧を装備した男で。もう一人が、犬人の女性が演じている、両手に剣を持った女性冒険者だったのだ。
何故か男役の方は目つきの悪さを演出する為に、目の下を黒く塗っていた。
そして物語が終盤に差し掛かり、迷惑を掛けていた2人組がうっかりと魔石魔物を湧かしてしまい、それを勇者が倒すシーンになっていた。
だがその時、2人組のウチの女冒険者が魔石魔物が湧く際に深い怪我を負ってしまい。それを治してくれと、目つきの悪い男役が泣き叫んでいるのだ。
ギリギリの魔石魔物との戦いの最中、葛藤の末に、聖女葉月役が回復魔法をかけに行く感動のシーン。
芝居に惹き込まれている観客からは、『助けるな~』などの声があがる程の嫌われっぷりを魅せる2人組み。
まさに見せ場である。
そんな嫌われ者でも、命を優先させる高潔な聖女といった場面であるのだが‥
「あの、あの、コレって‥」
「おっほ~ぅ、何だか見っとも無く泣いているよです」
「いや!泣いてないよ?叫んだだけだよ?マジで!」
ラティは驚き俺の方を何度も見つめ、サリオは腹立つ感想を述べていた。
――そっか、あの時ラティは怪我で気絶してたんだ、
だから俺が叫んでいた事知らなかったのかな?葉月から聞いてないのか、
あと、サリオはコレが終わったら折檻だな、
そして物語はクライマックスへ。
「喰らえぇぇボクのWSを!え~~い」
「ギャアアア」
地味に棒読みな八十神役の男が吼えながら剣を振り下ろす。
そしてハリボテの魔石魔物役が、断末魔上げながら舞台袖に消えていった。
そして八十神に駆け寄る葉月役。
その後は、感謝と謝罪を繰り返す嫌われ者役の2人組、そして許されて地上に戻って行き物語りは終わりを告げた。
何故か酷い黒歴史を見せ付けられるような芝居であったが。周りの反応は、とても高評価の様子であった。
「いい物語だったなぁ、」
「これって実話なんだぜ!なんでも同行していた冒険者から聞いたとか」
「ああ、それ聞いた!荷物持ちだっけか?ソイツって」
「実話なのか、じゃあ、あの2人組も居るのか」
「あのムカツク槍持ちが?」
「居るらしいぜ、あの腐った皮の鎧の奴」
「そいつら一回見てみたいな」
「あはは、会えないだろ」
俺は思わず自分の姿を確認してしまう。
今は何かあっても良いように、休日の街中であっても俺は忍胴衣を装備していた。若干悪目立ちはしていたが。
俺が自分の姿を確認していると、サリオは次に見る芝居を決めていた。
丁度これから始まるらしく、再び舞台小屋に向かう。
その演目は『谷底の弓乙女』であった。
俺は入場料の1人銀貨2枚を支払いながら呟く。
「これも嫌な予感がする‥」
俺達は次の舞台小屋に入って行くのであった。
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