陣内組
俺は無我夢中で狼男の上位魔石魔物を倒していた。
狼男の攻撃は、ラティの動きに比べると、とても拙く何をやろうとしてくるのかが、明解であった。
振り下ろされてくる腕を槍で弾き、槍で貫き易い角度の時は槍で貫き、狼男の攻撃の全てにカウンターを入れていったのだ。
前足で攻撃し辛そうな狼型より、腕が振り回せて攻撃し易そうにしている狼男の方が、俺には対処し易い相手となっていた。
二足の足を地に着けている相手と言うモノは、本当に対処し易かったのだ。
四肢が地に着いている相手というモノは、どうしても掴み切れない部分はあるが。二足歩行の相手なら、ラティ以上でない限り、俺は捌き切る自信があった。
常に動きに隙がなく、切れの良い凛とした所作をしているラティを見続けている俺には、狼男の動作は、子供のように拙いモノに見えたのだ。
特に今回は、レプソルさんの強化魔法も掛かっていたので、追い付かないタイミングも、力で押されてしまう場面も、その全てが問題無かったのだ。
本来は弱点である魔法防御力が全くない俺だが。回復魔法や強化魔法までも完全に受け入れてしまい、通常よりも効果が発揮されるので、無茶が出来たのだ。
俺が狼男を2体倒した時には、周りの仲間達は戦いの最中にもかかわらず、嬉しさと驚きを混ぜたような表情をしていた。
ただ1人、ラティだけは嬉しそうに、そして当然だとばかりの表情をしていた。
それからは、呆気ない程に魔石魔物を倒して終えた。
その時、呆気ないほどに倒し終えた要因の一つが、テイシであった。
猫人の女冒険者のテイシさんは、バッシュと言うモノが得意であり。
このバッシュとは、剣などで斬りつけるのではなく、剣を横にして剣の腹などで叩くようにするモノであり。これを喰らうと魔物達は、大きくよろめくのだ。
本来なら斬った方が効果が高いのだろうが、イワオトコや堅い毛で覆われている狼型の魔石魔物が相手であると、どうしても一撃では致命傷を与えられない。だが、サリオが居ると話が変わって来るのだ。
その大きくよろめく瞬間は、サリオにとって千載一遇の好機なのだ。
ラティとスペシオールさんの連携のように、テイシとサリオの連携もなかなかのモノであった。実際に、ラティ達よりも早く魔石魔物を倒す程であったのだ。
もし、テイシが今後このパーティに参加してくれるのであれば、それはとても貴重な戦力となるだろう。あの扱い難いサリオの魔法を生かせるかと思うと、是非テイシに参加して欲しいところである。
――やべ、なんて言って誘えばいいんだろ、
レプソルさんみたいに、多額の借金でも背負ってないかな‥
その後俺達は地上に向かい、深淵迷宮を脱出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺達は無事に脱出する事が出来た。
今回は、命懸けの戦いがあっただけに、この生還は感慨深いものだと想いつつ地上に出ると。深淵迷宮から出てすぐの入り口周辺に、集結している冒険者達の集団に気が付く。
俺は何かあるのかと、そちらに目を向けると。
「ああああ!!」
「なんで‥生きてんだよ、?」
「お、おい、マズイぞ‥」
集結している冒険者の集団の中心にいたのは。
真っ先に逃げ出したパーティメンバー達であった。
――ああ、すっかり忘れてた、
まぁ、逃げたんだし、居て当たり前か、でも‥
彼等の言動には違和感があった。
俺達が生還したのだから、喜びや驚くことはあっても、俺達の顔を確認するや否や逃げ出そうとするのには違和感を感じたのだ。
最初は魔石魔物から逃げ出したことに対して、後ろめたい気持ちからなのかと思っていたのだが。集まっていた冒険者達の話を聞いて納得する。
その内容は。
彼等は、俺達を見捨てて逃げた事実を誤魔化す為に。俺に伝令役として地上に向かわされたと嘯いていたのだと言うのだ。だが、それは事実では無いのであり‥当然。
「おいテメー等、あいつ等なんか普通に戻ってきてんぞ!」
「お前等‥、遺品は自分達が貰い受ける許可を取ったとか言ってやがったな、」
「ん?まさか、真っ先に逃げ出したのを誤魔化す為にか?」
「はぁ?でも確か、魔石魔物囲まれて、それの伝令で戻って来たって‥」
「情けねぇ、」
逃げた彼等の言い分は。
俺達がその身を犠牲にして魔石魔物を足止めしている。だから、その間に戦力を集めて対処して欲しいと。まさに、”涙なしには語れない”と言った形で嘯き、そして冒険者を集めていたのだが‥
「ハッ、レベルがたけぇだけの腰抜け野郎かよ、ダセェ奴等だ、」
「ノトス冒険者の面汚しが!」
「しかも、遺品まで掠め取ろうとしてやがるとか、どんだけだよ、」
「おぃ、ちょっと待てよ、それだと複数の魔石魔物を相手にこの人数で‥‥?」
「いや、そんなまさか‥なぁ?」
俺はそれを聞いて、戦利品である巨大な魔石を見せ付けるようにして地面へ転がしてやる。
無造作に放り出された合計14個の巨大な魔石。
ノトスでの取引価格では、金貨30枚は超える金額となる量であった。
それを見せ付けられる事となった冒険者から欲に塗れた羨望の声が上がる。
当然、その声は逃げ出した冒険者からも声は上がり。
「な、なぁ、俺達にも取り分はあるんだよな?」
「そうだよな、俺達も戦っていたんだし‥」
――すげぇぇぇ!
マジですげぇ!ソレを言えるのか、
いや、ここでしっかりと言えないと冒険者としてやっていないのだろうか?
厚顔無恥と言う言葉では足りないぐらいの、厚かましさであった。
しかし、業腹ではあるが、此処で分け前を支払わないというのは、それはそれで問題がある。仕方なしに俺は戦利品を配分する事を約束した。そして――
「分け前を支払う、だがもうお前達のパーティ参加は認めない!」
それぐらいの事は覚悟していたのであろうか、顔を少し顰める程度の冒険者達。
だが俺は、其処からまだ言葉を紡ぐ。
「こいつ等が抜けた分のメンバーを募集する!我こそはと思う者は、明日9時にこの広場に来い!明日また数名を募集するぞ」
俺の宣言に集まっていた冒険者達が歓喜の声を張り上げる。
目の前に積み上げられている巨大魔石を目の当たりにした冒険者達は、俺のパーティに参加出来るメリットを欲深く理解し、そして興奮をしていた。
そんな歓喜に湧く中で、憤るモノが現れる。
実際に煽ったつもりなので、腹を立てるだろうと思ってはいたのだが‥
「ふざけんな!もう参加させねぇってのかよ!」
「こちとら命懸けで戦ったんだぜ?だからよう、もう一度‥」
「そうだぜ!オレたちゃレベルも高いし、それにあの魔物だって」
「そうだよ!魔石魔物だって俺達には非は無いぜ?あんなに湧きやがってよ」
「事故だったんだよなアレは、いきなり湧くから焦っただけでさ、」
歓喜に湧き上がる冒険者達を眺め、このまま放逐されるは惜しいと思い直したのか。一度は参加出来ない事に納得をしかけていた者達。そう、逃げ出した冒険者達が再度参加を希望し始めたのだ。
流石は厚顔無恥だけでは表しきれない、厚かましい連中達である。
――すげぇなコイツ等、
ここまでくると、いっそ清々しく感じるな、
だけど‥
俺は当然、再参加を認めるつもりはなかったのだ。
参加は認めないと、きっぱり言い放ってやろうと思い、口を開きかけたが。
「あの、何なのですか貴方達は、身勝手な口上ばかり述べて。厚顔無恥にも程があります、それすらもぬるい。あの場から逃げ出しただけでなく、それを隠そうとし。それだけじゃ飽き足らずに尚且つまたパーティに参加させろとは‥、恥ずかしくは無いのですか」
ラティは俺の前に出るのではなく、隣に並び立つようにして、恥知らずの冒険者共を咎め立てた。
横目で覗き見たラティの表情は、普段の無表情よりも一段冷たい、鉄仮面のような表情で言い放っており、余程腹に据えかねた様子であった。
そしてラティのその言葉がトドメとなり、逃げ出した冒険者達は、再び逃げ出す事となったのである。
それからすぐ後に、ラティから。
「あの、申し訳御座いませんご主人様。我を忘れてあのような出過ぎた真似を致しまして‥」
激しく恐縮してしまった彼女から、俺は謝罪を受けていた。
当然俺は、先程の件でラティを怒る事も叱るつもりも無い。のだが‥
――あ~コレは、気にするなって言っても気にするだろうな、?
自分自身で、彼女が出過ぎた真似って言ってるし、
どうしたら、、あ!
「ラティ、それじゃ今日の撫で撫では2時間コースな」
「あの、それは‥‥、はい分りましたご主人様」
俺はラティにそう伝えて彼女を納得させる。だが――
少し言葉が足りなかったのだろうか。ミズチさんやスペシオールさん達や周りの人から、何とも言えない視線を頂く事になった。
すぐに誤解に気付き、それを解こうと必死に説明を試みたが、あまりの必死さが逆に仇となり、誤解を解くのに時間がかかるのであった。
閑話休題
その後。
俺は朝9時に深淵迷宮前で、魔石魔物狩り参加者募集を毎日繰り返す事となった。
反抗的な者や、隠れて魔石を置く者、そう言った者は次の日には参加させず。俺に都合の良い者だけを集めていくという、あまりに褒められたモノでは無い方法で、パーティを集めていったのだ。
まさに、俺の我が侭で陣内組を作り上げていくのであった。
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羽毛布団を購入、何故か展示品のを購入し、約2万引きになった、、




