奴隷没収
不快な表現が多いです
「赤色の首輪の奴隷違反行為で連行する!」
突然兵士達が部屋に雪崩れ込んでくる。
「突然なんですか、いきなり部屋に押し入ってきて、ちょっと待ってください」
兵士達が無理矢理入って来て、俺を扉から部屋の中央まで押し込んでくる。
「居ました!通報通りオレンジ色です」
「奴隷は即確保!奴隷商に送りつけろ!」
「ハズレを取り押さえろ!」
状況が理解出来なかったが。
兵士の発言に反応して、真っ先にラティを護ることに意識を向けた。
( ふざけんな、またラティに、、)
「ラティ起きろ!」
「はい!ご主人様、これは一体、、どういう?」
ラティは俺が声をかける前に、すでに起きていてベットの上で体勢を低く身構えていた。
「かかれーーー!」
「おおおーーーーー」
「一応勇者様達もお呼びしろ!」
兵士が一斉に俺に掴みかかってくる。
俺は手を払い、体を捩るようにして掴まれることを何とか避ける。
「なんだよ、これ!?」
声を出しながら必死に抵抗していると、白い軽装の装備をした、二人が凄まじい速さと力で俺を掴み、床に強引に押さえつけられる。
「ッガハァ!」
「ご主人様!」
二人かがりで床に押さえつけられ、肺から空気が漏れるように声をあげる。
うつ伏せに押さえつけられながら、首を捻り白い二人を睨みつける。
「お前ら!?八十神と秋人!なんでお前らが、俺を押さえつけてんだよ!」
「ご主人様を離してください!」
ラティも叫んでいるが、その彼女にも兵士が迫る。
迫り来る兵士に、ラティは低い体勢から上へ蹴り上げ、兵士の首に足刀が突き刺さる。
「くそ、混乱してるのか、暴れるな!聖女様お願いします」
「はい、わかりました!聖系睡眠魔法”ネムリ”」
ラティの頭の周りに直径60㌢程の、光る輪が出現して一瞬に縮まり、ラティの頭を覆った。
「――――ッ」
「寝かしましたぁ、彼女はわたしが私が看ます!」
白い僧侶服を着た女が、少し間延びした言い方を、短く真面目な声で言い直し、ラティの元に駆け寄る。
「ラティ!ラティ!」
慌てて声をかけるがラティの反応が無い。
床に顔も押し付けられ、ラティの状況が確認出来ずに焦り叫ぶ。
「なんだよテメーら、俺をほっといて勇者様やってたんじゃねぇのかよ!」
そこに、もう一人の女の声が、俺を責める声を張り上げる。
「ふざけんじゃ無いわよ!この強姦魔!異世界だからってヤケ起こしてるんじゃないわよ」
「は、なに言って?」
( 北原じゃあるまいし )
ショートポニーの髪型をした女、橘風夏が、ゴミでも見るような軽蔑の目つきで俺を見下ろしていた。
「風夏ちゃん!それ言い過ぎかもだから」
「なに言ってるのよ由香!コイツは絶対にやっちゃいけない事をやったんだよ、クラスの時から変だったし、目つき怖いし」
「おい!そこに居るにいるのは葉月か?何だよコレ」
俺は混乱しつつも、今ここに来ている勇者のメンツを把握しようとした。
取り敢えずこっちに味方欲しいのだ、まさか全員が敵と言う訳ではないはずだ、誰でも良いから味方が欲しかった。
だが。
「マジで北原の言う通りだったのかよ、流石に無いだろうと思ってたのに、秋人しっかり押さえろ」
「わかってるよハル、ただ、思ったより力強いからちょっと驚いただけだよ」
いま、今一番聞きたくない名前が聞こえてきた。
なんで奴の名前が出てくるのか、思わず二人に聞き返す。
「おい!北原って、アイツがなんか言ってたのかよ!」
「ああ、僕も聞いたよ、襲っちゃいけない奴隷を襲ったって」
「なんだよ!八十神も知ってるのかよラティの事」
――八十神は、ラティの事を知っている!?
それなら昨日北原に襲われたこと知っているのか?くそ!どうなってんだ、
「それで何で俺を押さえつけに来てんだよ、取り敢えず離せよ!」
「だから押さえつけに来てるんじゃないか、奴隷を襲った陣内を」
「 は? 」
ちょっと何を言ってるか分からない、八十神が何を言っているのか。
「もう騒ぐから由香!寝かしちゃって!この強姦魔を」
「うん‥わかった風夏ちゃん、聖系睡眠魔法”ネムリ”!」
「待て!俺はッ――!」
寝不足もあった為か、俺はすぐに意識を手放し眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は気が付くと、裁判所の法廷みたいな場所にいた。
手は後ろで縛られ、両脇には八十神と秋人が立っている。
後ろを見てみると、葉月と橘が杖を構えたまま立っている、多分俺が暴れたらすぐに寝かすつもりなのだろう。
よく見れば、周りにも他の同級生も何人か壁際に立って居た。
そして正面の男が俺に話しかけて来る。
( 法廷が、完全にあの法廷の形だ、過去勇者の影響だろうな、)
「これより奴隷解放に儀式と、他の勇者様への、犯罪者を牢に入れる理由のご説明を行います」
「おい!ギームル、なんだコレは!」
あまりの言い分と、奴隷解放の言葉に食い気味怒鳴り返してしまう。
「聖女様、騒がしくてご説明が出来ないので、先程お伝えした通り、お願い出来ませんか」
「はい‥‥風系静寂魔法”ダマル”!ごめんね、少し静かにお願い」
「――――――――――ッ!!」
「―――――――――――ッ!!」
「まだ騒ごうとしてるのコイツ」
後ろに控えてた、葉月と橘が俺の前に歩いてくる。
俺は声が出せず、抗議の意思で立ち上がろうとしたが。
「陣内立ち上がるな」
「させないよ陣内」
再び二人がかりで押さえつけられ、顎から硬い床へ打ち付けられる
「――――――――――ッ!!」
「騒がない方が良いですよハズレ殿、そのお二人は真の勇者の証持ちなんですから、手の甲に紋章が出ておりますでしょう、優れた勇者のみに浮かび上がる紋章、ハズレの貴方とは違うのですよ」
「――――――――――ッ!!!!」
「貴方は、王と王妃が命を懸けた儀式を汚した存在。本来なら、まぁ良いでしょう結果は同じこと、牢に入れるのですから」
「――――――――――ッ!!」
――それが俺を恨んでる理由か!?
理不尽にも程がある、好きでハズレ勇者になったんじゃねぇ!
「では、罪状を読み上げます。【赤色の首輪】奴隷への性行為強要は、奴隷没収と犯罪行為で処罰の対象‥」
「――――――――――ッ!!」
法廷であるにもかかわらず、審議も無く、ただ罪状だけが語られていく。
他の勇者達も場の空気に呑まれて、皆沈黙していた。
「裏付けの聞き込みでも、奴隷の連れ回しは確認も出来ています。犯行があった夜にも、血走った目で走り回り奴隷を探していた証言もあり、何より、奴隷の首輪の色が橙色なったのが何よりの証拠」
「――――――――――――ッ!!」
( あれは助けに走り回っていたんだ!! )
「すいません、橙色が証拠と言うのは、どういうことでしょうか?」
「はい、聖女様、お伝え難いことなのですが、奴隷が無理に迫られますと、その時の感情に反応して色が変わるようになっているのです、色々と誤魔化す輩が多い為の措置で御座います」
「――――――――――――ッ!!」
――ラティは知らなかったのか!
確かに、首輪色とか自分じゃ確認しづらいか、
「それに今回は、通報者もおります。その勇者キタハラ様とギルド冒険者ゲイルをお呼びしております」
ギームルに呼ばれ、北原とゲイルが姿を現す。
「――――――――――――ッ!!
「―――――――――――――ッ!!
「――――――ッ――――――――ッ!!
「―――――――――――――ッ!!!!!」
「暴れるな陣内!」
「―――ッ!!」
八十神に顔を地面に強く押し付けられる。
そしてそれを狂喜の表情で北原が楽しそう見ていた。
「では、北原様証言をどうぞ」
「――――――――――――ッ!!」
「昨日の夜なんですが、廃屋の中に飛び込む陣内君を見たんですよね、最初は気にしなかったのですけど、後になって覗いてみたら、」
「――――――――――――ッ!!」
顎と頬を硬い床に擦り着け付けながら目を剥いて、俺は抗議する。
それを楽しそうに眺めながら、北原とゲイルがしたり顔で語っていく。
「あの、これって陣内君の話を聞かなくていいのかな?」
「――ッ?」
「由香なに言ってるのよ、あの目を見なさいよ、どう見ても弁護の余地はないでしょ」
「風夏ちゃん、、」
「――――――――――――――――――ッ!!
( ふざけんなあああぁぁぁーーーーーーーー!! )
「そろそろ、奴隷の契約解除の儀式でも始めますか」
――契約解除!?ラティの!?
「あの奴隷はもう既に、奴隷商に戻してありますので」
――あの奴隷商!?ラティはここに居ないのか?
「あとは、ハズレ殿の契約を解除すれば、」
「――――――ッ!!」
「勇者様、彼の右手を地面に押し付けてもらえませんか?」
「ああ、、わかった」
八十神が俺の右手を無理矢理押さえつける。
奴の手の甲にはνの紋章が見え、真の勇者と呼ばれるだけの事はあり、必死に足掻きもがいても、押さえつけられて手はびくともしなかった。
「――――――――――――ッ!!
気が付くと、北原が目の前に来ており、俺だけに聞こえるように囁いていく。
「これから俺は、あの奴隷を買いに行って来るよ」
「――ッ!!」
「俺が彼女をたっぷりと”使ってやるよ”」
「―ンン―――――――――――――――――ッ!!!!」
北原が去って行く。
俺は目から火花が出そうなほど、目に力を込めて北原を睨みつける。
眼球がこぼれ落ちそうな程、目を剥いていると。
葉月が『ひっ!』と後ずさる。そして。
「では、始めます」
ギームルが堂々と宣言をし、俺の右手に石版をかざす。
すると、指の先から熱を持って行かれる感触がした。
奴隷契約とは逆で、指から熱が吸われていき、視界の上に見えていた、パーティメンバーのラティを指す矢印が消えていった。
「――――――――――――ぉぉぉッ!!」
指から熱を奪われないように、無駄と思いながらも慟哭を叫ぶ。
まだ喋れはしないが、唸り声をあげれるまでには声が回復してきた。
「ぐぅがああああああああぁぁぁ!」
唸り声をあげながら額を打ち付ける。
――なんでも良い、俺を行かせてくれ!!
俺を行かせてくれ、まだ間に合うかも知れない誰か誰か、神にだって祈る、行かせてくれるなら邪神でも魔王だって構わない、誰か誰か誰か俺を行かせてくれまだ間に合うかも知れない、誰か誰か、、
「 ――バンッ! 」
扉が激しく開く音がした。
「何をやっているのですかギームル!」
扉から現れたのは王女様だった。
「話は聞いております、性奴隷行為強要は、奴隷没収の罰はありますが、拘束や牢に入れるなどの罰は無いはずです、もし罰があれば、この場に居れない者もいるはずです」
王女の発言に、ゲイルはバツの悪そうな顔をし、ギームルは引き下がった。
「勇者様達も彼を解放してあげて下さい、申し訳ありませんジンナイ様、この様な仕打ちをしてしまって」
「 ぁぃぁぉぅ 」
声はろくに出せないが、出来る限りの声でお礼を言い、王女に頭を下げ。
そして即座に駆け出す。
「あ、陣内!」
「どこいくだ陣内」
「あんた、いきなり走り出して」
「あの、陣内くん」
勇者共が声を掛けてきたが、一瞥もくれず走り出す。
一秒でも速く奴隷商の館に、【加速】を全力で使用し、走り抜ける。
城を出るのに手間取ったが、外に出てからは真っ直ぐに向かった。
「ラティいま行く、奴よりも‥‥」
全力で走り、心臓と肺と足と体が限界だと悲鳴をあげていたが、すべてを振り切って駆け続けた。
奴隷商の館に辿り着くと、丁度そこからから出てきた北原と目が合う。
奴に先を越されたと思っていると、北原が俺に話し掛けてきた。
「早いなってか、?牢獄じゃなかったのかよ、話と違うぞ、アイツ」
「何の話か知らないが、ラティを返して貰うぞ、どんな手段を使ってでも!」
俺はラティを返して貰うことだけを考えていた。
手段は何も浮かんでいなかったが‥。
「ああ、あの高嶺の花ね、くっそ!金貨八枚って聞いていたのに、なんだよ金貨八千枚って!どんだけ値上がりしてんだよ、今の俺は百も出せねぇのに」
北原は悪態をつきながら、俺にまだ絡んで来る。
「まぁ、これで陣内、お前も買えなくなったけどな」
俺はその場でくるりと横に回転し、回転の勢いに怒りを乗せて、拳を叩き込んだ。
「――――ガァッ!!」
裏拳を喰らって何処かに飛んで行った北原を無視して、俺は奴隷商の館に踏み入る。
俺に気付いた奴隷商は、眉をちょっと上げて話し掛けてくる。
「これはこれはご主人様希望者でしょうか?」
「少し、奴隷を見せてほしいのですが、いいですか?」
奴隷商と、くだらないやり取りをする。
そして俺は、凛とした綺麗な立ち姿をしている高嶺の花を欲しいと言う。
「スイマセン、この子をください」
俺は一度息を吸ってから、無茶な願いを吐き出す。
「必ず残りは払いますから、今ある金貨六枚と銀貨九枚置いて行きますので、お願いします」
必死に懇願した、多分かなり見っとも無い姿だ。
大体、金が足りないのに奴隷を買いに来るって酷い発想だ。
「残りの、金貨七千九百枚ちょっとは必ず払いますので、お願いします」
「ハイ、良いですよ金貨2枚はツケで、銀貨9枚は利子ということで」
「へ?」
「では、早速儀式を行いますか」
「えっと、、、?」
「あの奴隷の、お客様に対しての適正価格は金貨八枚です」
「まさか、」
「これはワタクシの判断と価値観で決めました」
「やっぱり、」
「はい、弟がいつもお世話になってます、先程の馬鹿には彼女を買う資格はありません」
そう言って頭にターバンを巻いた褐色肌の男は『ニカッと』笑った。
それから無言で立ち尽くすラティと契約の儀式を終わらせ、彼女の手を引いて奴隷商の館を出る。
外をしばらく歩いてから、顔を伏せてるラティに声を掛ける
「ラティ」
「はい、ご主人様」
「ラティ、待たせてごめん」
「はい、ヨーイチ様、お待ちしておりました」
ベタな言い方で言う所の、『死ぬほど可愛い笑顔』でラティは返事をしてくれた