宇宙と雨
窓の端に溜まった雨粒を撫でた。思ったよりも冷たくない。指が濡れただけ。ワンピースで拭う。水色の生地に水が染み込んだ所だけ濃い青になって、それが水色に戻っていくのはまだか、まだか。
「ごめん」
彼が来た。遅刻のことならもう先にメールで謝っているのだからいいのに。
「大丈夫」
申し訳なさそうに下がる眉毛がかわいくて、好き。喫茶店の窓際の席。いつも通りの待ち合わせ場所。私の方が先に着いて、彼が少し遅れて来るいつも通り。
「どうしたの?」
これはどうして遅れたの、の略で彼はそれをわかってる。
「道行くご老人が宇宙人にさらわれそうになのをどうにかしようとしていたんだ」
「あら」
「ものすごく強い力でUFOにひっぱられるからひっぱり返すのが大変だったよ」
「明日筋肉痛かもね」
「うん、たしかに。だめだ。身体が鈍っているなあ」
肩を回す彼はシャツが前と後ろが逆で頭の後ろの髪ははねている。コーヒーの最後の一口を飲み干した。カップの口をつけた部分を指で拭う。これはさすがにワンピースにはなすりつけられない。紙ナプキンを一枚拝借した。
「雨でもUFOは飛ぶのね」
「雨の方が視界が悪いし誘拐には好都合なんじゃないか」
「すごく濡れてる」
「老人は助けられたけど傘は持っていかれてしまった」
「雨止みそうにないわね」
「ないな」
「今日はプラネタリウムに行くのはどうかしら」
「おお、同じこと考えてたよ」
彼はダウンジャケットに散らばった水滴を拭った紙ナプキンを私が使ったナプキンの上に重ねた。
「いきますか」
「うん、行こう」
席を立ち会計を済ませる。傘立てから自分の傘ともう一つ骨がいくつか折れているような傘を取る。自分の傘をドアの外で差した。傘の持ち手は後から入ってきた彼に預ける。
「いつも待たせてごめん。退屈だろ」
壊れた傘も彼に渡す。彼の眉毛はさらに下がった。
やっぱりその顔が好き。
「いいのよ。待っている間にどこに行こうか考えているし、あなたがどんな話をしてくれるのか楽しみだもの」
彼は私の方に少し多めに傘を傾ける。彼が申し訳なさそうに照れくさそうに眉毛を下げるほど私はキュンとして笑顔になる。
「雨、少し強くなったわね」
「うん」
「急ぐ?」
「できれば、ゆっくり行きたい。だめ?」
「ううん。私も同じように思っていたの」
ワンピースやダウンの肩、足先が少し濡れてきたけれど、私と彼はいつも通りゆっくり、歩いた。
おわり。




