リクエストSS詰め合わせ
☆RakAさまに頂いたリクエストで、紅編の紺くんSSです☆
~成田 紺の楽しい冬休み報告~
冬休み明けの青鸞学院幼稚舎――。
翡翠組の田中先生は心の叫びを表に出さないよう、己の太腿を抓りながら、必死で耐えていた。
園児一人一人に、冬休みで印象に残った出来事を聞いていた時のことだ。
「それでね。たくさん、どうぶつみました」
「そうなの~。パパとママと三人で、楽しかったね」
「はい! とうさま、かたにのせてくれました。かあさまは、おべんとつくってくれました」
長い睫にびっしりと縁どられた黒目がちの瞳をキラキラと輝かせ、すべらかな頬をほんのりピンク色に染めた成田 紺(4歳)の愛らしさといったらない。
目が合っただけで眩暈を覚えてしまうほど色っぽい父と、清楚で凛とした母を見れば、さもありなんという感じなのだが、園児を贔屓するわけにはいかないので、田中先生は平常通りの温和な笑みを浮かべようと努力しながら、話の相槌を打った。
「そっか~。紺くんが連れて行って、ってお願いしたの?」
「そうです。かあさまもとうさまもおしごとたいへんです。でも、いいよって。さんにんでてをつないで、ぶ~らん、もしてくれました」
よっぽど嬉しかったのか、紺は身振りでその時の様子を示し、その後、はしゃぎ過ぎたと慌てて俯いている。ちんまりとしたつむじを眺め、田中先生は「かーわーいーいー!!」と心の中、一人拳を握って身悶えした。
「紺くんが気に入ったのは、なんの動物かな?」
「えっと……」
紺は思案気に首を傾げたが、ぱあっと顔を明るくし、田中先生を見上げた。
「とうさまににてるライオンも、そうおじちゃまににてるヒョウも、かあさまみたいなハクチョウも、みんなだいすき! だけど、コアラがいちばんかわいかったです」
「コアラか~。可愛いよね、コアラ」
うんうん、と頷く田中先生に向かって、紺は無邪気な一言を、天使のような微笑みとともに投げつけた。
「はい。めぐせんせいに、にてます」
田中恵(24歳)は、のちに同僚に語った。
「紺くん、まじでヤバイ。将来が恐い」と――。
☆葉野菜さまから頂いたリクエストで、蒼編の紅です(不憫注意)☆
ボクメロ蒼編~流れで紅とショッピング~
蒼とのデートもこれで4回目。
毎回、前とは違う恰好をしてくる蒼に少しでも釣りあいたいと、私は焼け石に水な努力をすることにした。
土曜日の午後、亜由美先生のレッスンが終わった後、一人で大通りを歩く。
着いてきたがった美登里ちゃんは、丁重にお断りした。私が求めているのは一着ウン十万もするようなセレブスタイルではありません!
ショーウィンドウに飾られている洋服はどれもすごく素敵だけど、スタイル抜群のマネキンが着ているせいじゃないか、という疑いは拭えない。
今日買いたいのはスカート。
ジーンズやハーフパンツが多いクローゼットに、少しでも乙女要素を取り入れたいんです。それでちょっとでも蒼に「可愛い」って思ってもらえたら……って! 恥ずかしい!
でも、なかなかコレといった一枚が見つからない。
値段との兼ね合いもあるしな~。どうしたものか。
磨かれたピカピカのショーウィンドウ越しに、正札をじっと睨みつけていた私は、突然肩を叩かれて、「ひぇいっ!」と奇声を発してしまった。――はい、と言いたかったんです。本当は。
「――さっきから何やってんの」
「さっきから見てたのなら、何故声をかけない!」
後ろにいたのは、紅だった。
毎度おなじみの呆れた視線で、私とマネキンを交互に見遣り、ふっと鼻で笑う。
「蒼とのデートに着ていく服を物色中。だけど、予算とデザインの折り合いがつかないってとこかな」
「エスパー? 恐いよ!」
「嫌でも分かるよ。考えてること透けてるもん、お前」
慌てて頭を押さえて透視を防ごうとしたが、紅はますます馬鹿じゃないの? という顔になった。
「蒼の好きそうな服、見繕ってやろうか」
「どうしたの、急に。ドッキリか何か?」
「そんなわけないだろ。たまたま夕方まで時間が空いたから、暇つぶし」
来るの、来ないの。
そっけない調子で急かされ、私は何が何だか分からないまま、紅の後を着いて行く羽目になった。
高級ブランド店に連れてこられるんじゃないか、と内心ビクビクしてたんだけど、紅が訪れたのは大通りから少し外れた脇道にひっそりと店を構えたセレクトショップだった。
「こんにちは」
「おう、久しぶりだな~。何、今日は妹ちゃんじゃなくて、彼女連れ?」
「違いますよ。ただの友達です」
ただの、の部分がアクセント強めなことに少し笑ってしまった。
そんなに嫌がらなくても。
「俺の親友とデートするっていうんで、少しはマシな恰好が出来るように見てやってくれませんか」
「紅がそんな言い方するなんて、よっぽど気ごころ知れた仲なんだな。どれどれ……可愛い御嬢さんじゃないか」
40過ぎのお洒落な店長さんらしき人は、ニコニコしながら初対面の私に話しかけてきた。
気詰まりな雰囲気にならないようにさりげなく気遣いながら、あっという間に私から予算と欲しい服を聞きだし、あれこれと並べてくれる。
試着室から出てくる度に、「よく似合ってる」と褒め、手持ちの服ならこんな風に合わせるといいよ、などとアドバイスをしてくれる。
押しつけがましいところは全くないし、なんて素敵な人なんだ!
店長さんのお陰で、楽しくスカートを選ぶことが出来た。
紅はその間、店の隅に置いてある小さなソファーにゆったりと腰掛け、曖昧な笑みを浮かべながら黙って着せ替え人形状態の私を眺めていた。
結局二枚買うことにして、レジを済ませる。
沢山割引してくれた店長さんにお礼をいい、外へ出ると、紅も遅れて店から出てきた。
「今日はありがとね。すごく助かっちゃった」
「いいよ。大したことしてない」
紅は珍しく素直に礼を受け入れ、それから私に小さな包み紙を差し出した。
「帰り際、見てただろ。ハンカチ」
確かに素敵だな~って見てたけど……。一枚、二千円もしたんだよね。手が出ませんでした。
「お前と、蒼とお揃い。明日のデートでプレゼントすれば」
「ええっ!? う、嬉しいけど、紅に貰うのは駄目だよ。今は持ってないけど、今度会った時にお金払う」
「いいよ。俺は、ちゃんと貰ったから」
紅は謎めいた台詞を残し、ちらと腕時計に目をやって、私に別れを告げた。
「送ってやれないけど、一人で帰れるな? 人通りの多い道を通れよ」
「分かってる! ……でも、本当にいいの?」
握らされた包みにじっと視線を落とす私に、紅は「いらないなら、捨てて」と言って、去っていってしまった。
4000円を捨てられるわけないでしょうが!
セレブの金銭感覚って、ほんとどうなってるんだろ。
私はちょっとの間考えてみようとしたけど、最近の紅のことは何も分からない、という結論に達し、ありがたく貰っておくことにした。
明日のデート、本当に楽しみだな。
紅編完結の際に献上したSSです。
こちらにもこっそり載せておきます。