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小話(七夕・お月見)&リクエスト小話(中学同窓会)

以前の活動報告に載せた七夕小話です。



<Ver.紅>


「もしもし、ましろ?」

「あれ、どうしたの」


昨日会ったばかりの真白の携帯を呼び出すと、3コール目で出てくれた。

もしかして家に忘れ物しちゃった? 

不思議そうに問いかける彼女の声に、笑みが浮かんでくる。


「いや……ちゃんと電話に出てくれて、嬉しいよ」

「は?」

「それだけ。――おやすみ」


お前と付き合ってるって実感が欲しくて電話をかけてみただけ、なんて言えない。

今夜は七夕。

思いついたら夜でもいつでも、すぐに会いに行けたらいいのに。



<Ver.蒼>


「蒼はなんて書いたの?」


一緒に遊びにやってきたショッピングモール。

小さな子供たちに混じって、ましろは真剣な顔で短冊を書いていた。

そういうましろは? と手元を覗くと


『ピアノが上手くなりますように』


ああ、うん。そうだと思ってたよ。

可愛い文字がピンク色の短冊に綺麗に並んでいる。


「あー、まだ何も書いてないじゃない!」


ぷう、と頬を膨らますお前が愛しくて堪らない。

――『このままずっと真白と一緒にいられますように』って書いてもいいの?

耳元に顔を寄せ小声で尋ねると、彼女の耳は先まで真っ赤になった。


「そ、そういうのは直接言えばいいと思う」

「じゃあ、今返事を教えて」

「……だめ、後で」


消え入りそうな恥ずかしげな声に答えは分かったけど、勘弁してあげない。






◇◇◇◇◇




~私の大事な幼馴染~(紅ルート・絵里視点)


 


 『え? 同窓会』


 びっくりしたような真白の声が、スマホの薄い画面越しに響いてくる。

 ほんの半年前まで、当たり前のように毎日聞いていた声。

 


 幼稚園の年中さんからだから、数えてみたら12年も、私たちは会わない日はないくらい一緒にいることが当たり前だった。

 そんな幼馴染がある日突然イメチェンを図った時は、正直とっても驚いた。

 まるでうちのママみたいな説教じみたことを言いだしたり、急にガリガリ勉強し出したり。挙句の果てには、ピアノを習い始めちゃったり。どうしたのかな、って半分恐くなりながらも傍にいた私は、すぐに気がついた。

 なあんだ、やっぱり真白ちゃんは真白ちゃんじゃないって。


 融通の利かない頑固さも、変に真面目ところも、誰よりも実は友達想いなところも、根っこの部分は何も変わっていなかった。だから安心してそのまま傍にいることが出来た。


 だけどね。

 何だっけ、あの横文字の長ったらしいコンクールでの演奏をTVで見た時にね。

 

 ――胸にぽっかり穴が開いたみたいに寂しくなったよ。

 

 化け物みたいな点数でテスト一位をキープし続けてることも、言い寄ってくる男の子達を信じられないくらいあっさりと振ってることさえも、あなたを遠く感じる要因にはならなかったのに。

 私のいる場所から真白を連れていってしまうのは、ピアノなんだって、その時ようやく分かったのかな。遅いよね。

 でも、胸が痛くなるほど綺麗なメロディを、ただ綺麗なだけじゃなく、なんて言えばいいのかな。まるで血を流すみたいに弾いているあなたは、私の知ってる幼馴染ましろじゃなかった。

 だからね。青鸞に行くことも、きっと心から応援なんてしてなかったんだと思う。口ではもっともらしいこと言ってたのに、最低でしょ。

 

 ――だって、ずっと一緒に居たかった。

 

 私の知ってる幼馴染でいて欲しかったんだ、って卒業式のカラオケの時にやっと自覚したの。

 

 あなたの隣りに並び、あなたの自転車を押しながら遠ざかっていった赤い髪の男の子。

 「ましろ? 多分もう帰ったよ」って、サッカー部の男子が教えてくれたから、慌てて外まで追いかけて。そこで私は2人の背中を見送った。

 

 行かないで、って泣きたかったよ、本当はあの時。



 

 『いいね、久しぶりに私も会いたい! ……え? ええ~。ちょ、待って』


 誰かと一緒にいたみたいで、真白は電話口から少し離れてしまった。

 低い男の子の声が途切れ途切れに聞こえてくる。


 『あのー。つかぬことをお伺いしますが。彼氏同伴でいくって、あり?』


 すぐに戻ってきた真白は、びくついた口調で尋ねてきた。きっと今頃、携帯に向かってヘコヘコしてるに違いない。


 「もちろんいいよ。間島くんも来るし、木之瀬くんだって。咲和ちゃんも彼氏出来たみたいだし、多分一緒に来ると思うな。見たら、きっとびっくりするよ~。麻子ちゃんと玲ちゃんと美里ちゃんは、相変わらずみたいだけどね」

 『でもそれは、男なんていらねーとか叫んで自分達で女子高を選んだからでしょ』


 真白のツッコミに私も同意して、一緒に笑う。

 すでに予約済みのカフェの場所と電話番号を伝えて、電話を切ることにした。


 「じゃあ、来週の日曜日ね。忘れないでよ」

 『忘れるわけないよ!』


 きっぱりと言い切ったあなたの言葉は、約束のことだけを指してるんじゃない気がして、私の心はふんわり温まった。



 そして、プチ同窓会当日。

 咲和ちゃんにピッタリくっつくように並んでる田崎くんを見て、真白は真っ先に「この、女の敵めっ!」と叫んだ。更に手に持ってたバッグで殴ろうとするのを、連れの超絶イケメンが慌てて止めに入る。

 

 彼の髪の色を真っ先に確認した私は、諦め混じりの感傷を味わうことになった。

 やっぱり、この人だったんだ。

 誰の事も本当の意味では近づけようとしなかったあなたが、選んだ人。


 「落ち着け、ましろ」

 「はなして、こう! こ、こいつだけは許さん!」


 田崎くんは必死に弁明しようとしたんだけど、しばらく真白にポカスカ叩かれた。(もちろんバッグで。素手では叩かないところがピアノ馬鹿でしょ。)咲和ちゃんはお腹を抱えて笑っちゃって、出来立てホヤホヤの彼氏を助けようとはしなかった。


 ようやく気が済んだらしい真白と、成田君と云うとても私達とは同い年に見えない大人びた青鸞学院生を改めて歓迎し、それぞれ自己紹介する。

 礼司れいじくん……あ、間島くんのことね。

 彼だけは面識があったみたいで「久しぶり」「ああ、あの時はどうも」と言い合っていた。ええ~、知ってたなら私にも教えてよ!


 「ごめんね、仲間内の集まりなのに。邪魔しないようにするから」


 彼の王子様のような完璧な微笑みに、一斉に溜息がもれる。

 男子勢までぽわ~んとしてました。本物の美形は、男女問わず惹きつけるものなの?

 カフェの店員さんまで、ほけっと成田くんに見惚れちゃって、注文を何度も聞き返す始末。

 ましろは不愉快じゃないのかな? 

 心配して横目で窺ってみれば、彼氏のモテっぷりには馴れているのか、平然とした顔で「マロンパフェ……でもカロリーが」と呟いてる。

 変わってないな、ってすごく嬉しくなった。


 そこからは、中学時代の思い出話に花が咲いた。

 成田くんを気遣って、木之瀬くんや礼司くんがその一つ一つに解説を入れる。麻子ちゃんも美里ちゃんも玲ちゃんも、コロコロとよく笑った。

 一気に時間が、あの時代まで巻き戻る。

 セーラー服のリボンをいかに可愛く結ぶかに苦心した中学時代に。


 「退屈じゃない?」

 真白の不安げな問いに成田くんは、「真白のことなら何でも知りたいから、すごく楽しいよ」と答え、またもや女子勢の憧れの溜息をさらってしまった。

 

 「そういうの外で言わないで」

 「ん。じゃあ、二人きりになったら、ね?」


 甘い囁きに、私の胸までキュンとする。

 よっぽど羨ましそうな顔をしてたんだろうか、礼司くんにテーブルの下でぎゅっと手を握られてしまいました。

 木之瀬くんも頬を上気させた朋ちゃんの頭を撫でている。

 田崎くんもラブな雰囲気に乗っかって、咲和ちゃんをハグしようとしたまでは良かったんだけど、直前に真白に膝を抓られて阻止されちゃった。ひい、と涙目になってる。


 「ましろ、もう怒らないで。私は平気だから」

 「咲和ちゃんがそう言うなら。――でも、そのあっさり別れた他校の彼女みたいに、簡単に咲和ちゃんを捨てたら、地の果てまで追いかけてピンの野郎と同じ目に合わせるからね」


 ――ピンの野郎って?


 キョトンと首を傾げてしまったのは、私だけではなかった。

 成田くんだけが一瞬思案気に瞳を彷徨わせ、一拍遅れて噴きだす。


 「まだ嫌いなんだ、蝶々夫人」

 「蝶々夫人が嫌いなんじゃなくって、ピンカートンが嫌いなの」


 ふくれっ面のましろを、それはもう愛しげに見つめ、成田くんはクスっと笑った。

 ああ、本当にこの人は、ましろのことが好きなんだ。


 この時、私はようやく心の中でしがみついていた真白の手を離すことが出来た。


 なかなか会えなくなっても、一緒に遊べなくなっても、あなたは私の大事な幼馴染だよ。

 だけどとりあえず、今はさよならだね。

 

 解散の時間になり、店の外に出る。

 真白は私の顔を覗きこんで言った。


 「またね、絵里ちゃん」

 「うん。――ましろ」

 「ん?」

 「ピアノ、頑張ってね」


 精一杯の笑顔で、エールを送る。

 あなたは一瞬怯んだように息を飲み、それからまっすぐに私を見つめ「ありがとう」と笑った。





◇◇◇◇◇◇



~お月見~(紅ルート・水野さまに頂いたイラストにつけた小話)


 

初秋の陽が沈むのは遅い。

まだ明るいうちから早々と玄田の家の縁側に陣取った紅は、人待ち顔で庭の突き当たりにある木戸に視線を向けた。

断られるのを承知で声をかけた相手は、珍しくすぐに「行きたい」と返事をくれた。じきに、あの木戸をくぐって来るだろう。


今日は中秋の名月。

この日の為に選んだ友禅染の着物と変わり織の帯は、きっと彼女に似合うはず。


――出来れば困った顔じゃなく、喜ぶ顔を見せて欲しい。


紅は手にしたうちわを弄びながら、そわそわと落ち着かない己を笑った。



おぼろに浮かぶ遥かな月よりも、お前の方が俺には遠いよ。

早く、ここにきて。

その温もりが幻じゃないと証明してくれ。



挿絵(By みてみん)



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