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三角関係、再び!?(蒼編IFルート)~リクエストSSその8

蒼編アフター。

もし二人に娘ができたら……というIF話です(蒼視点)


 産まれてきた子供は、女の子だった。

 ピンクの髪に、茶色の瞳。

 真白そっくりの女児誕生に、俺はものすごく嬉しくなったが、駆けつけてきた母さんは「少しくらい蒼くんに似てるところがあってもね……」と微妙な顔をした。

 そういえば病室の真白も、同じことを言っていた。

 俺になんて似なくてもいいのに。

 父さんと花香さんは、「真白そっくりで可愛い! 美人! スーパーモデル!」と大喜びしている。

 可愛いのは確かだけど、スーパーモデルかどうかはまだ流石に分からないと思う。なんせ2600グラムしかない。

 二人共、新生児室のガラスに張り付いて離れないものだから、じいじとママを取られた気分になったらしい甥と姪の機嫌は最悪だ。


「ソウくん、外でボール投げしよ!」「ソウくん、おんぶして!」


 みー君に腕を引っ張られ、りっちゃんに背中に飛び乗られ、盛大に振り回されている俺をみて、三井さんが慌てて子供たちを引き剥がしにかかった。

 

 賑やかなお見舞いのあと、静かになった病室に、赤ん坊が運ばれてきた。

 小さい手をぎゅっと握りこんで、目をつぶっている。

 こんなに小さくて大丈夫なのか。不安になるのと同時に、激しい庇護欲が全身を駆け巡った。ぞくり、と身を震わせながら、おそるおそる透明の箱のふちに手を置く。

 じっと覗き込んでも、起きる気配はない。ふくふくとした丸い腹が、呼吸のたびに上下するのが、産着の上からでも分かった。不思議なことに、どれだけ眺めていても飽きない。


「抱かないの?」


 ベッドの角度をリモコンで変え、上半身を少し起こした格好の真白が、可笑しそうに声をかけてきた。


「うん。なんか……ちょっと怖くて。窒息したりしないかな」

「大丈夫だと思うけど。じゃあ、起きたら抱っこしてあげて。パパですよ~って」


 茶目っ気たっぷりの真白の表情に、満ち足りた幸福感が押し寄せてきた。

 とりあえず、真白のつむじにキスをして、ありがとうを伝えることにする。

 

 こんな幸せなことがあっていいのだろうか。

 怖い、と言ったのは本音だった。

 手に入れてしまえば、失うのが怖くてたまらなくなる。

 二人を守らなくては、と改めて固く決意した。

 俺から彼女たちを奪おうとするものは、なんであろうと絶対に許さない。


 

 退院が間近になる頃には、娘を抱けるようになっていた。

 軽すぎる腕の重みが愛おしくてたまらない。指をつつくと、反射で俺の指を握ってくる。新生児特有の甘い香りと、高めの体温がもたらす愛おしさは、言葉ではとても言い表せない。

 娘の名前は、真白がつけた。

 男の子でも女の子でも「紺」という名前にしたい、と彼女は言った。


「ごめんね。蒼には、辛かったことを思い出させてしまうし、同じ名前をつけるのは複雑だろうなとも思う。分かってるんだけど、でもどうしても、紺にしたいの」


 真白の声は微かに震えていた。

 今にも泣き出しそうな真白を抱きしめ、構わない、と答える。

 もう二度と会うことの出来ない親友を、姉を、忘れたくないという気持ちは嫌というほど分かったから。

 確かに存在した筈の人の痕跡が、どこにもない辛さは、俺も知っていた。



 真白が退院し、しばらく経った休日。

 城山の父と麗美さんが、弟を連れてお祝いにやって来た。

 

「兄様、おめでとうございます」


 10歳になった弟は、俺とはあまり似ていない。どちらかというと、麗美さんに似ているんだと思う。黒髪の落ち着いた子供だ。おかっぱ頭と中性的な容姿のせいで、女の子にも見える。


「紺ちゃん、可愛いですね。大きくなったら、一緒に遊べますか?」

「ああ。可愛がってくれたら嬉しい」


 頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。

 そんな弟を見て、父も麗美さんも眩しそうな顔をした。大事に育てているらしいことは、弟の様子からすぐに分かる。血を分けた弟が愛されて育っていることを、素直に良かったと思えるほどの年月が経っていた。

 

 そう思えるようになったのも全部、真白と島尾の両親のお陰だ。

 父さんと母さんは、俺の年を勘違いしているんじゃないかと思うほど、甘やかしてくる。困ったな、という顔をしながら、内心嬉しくてたまらないことは、真白だけが知っていた。



 そして、次の日。

 ようやく休みを確保できたらしい紅も、紺を見にやってきた。


「ほんとに、真白そっくりなんだな」


 目を丸くして、ベビーベッドに寝かされた娘を覗き込んでいる。

 休養中の真白の代わりに、家の手伝いに来てくれていた花香さんが、お茶を出しながら「でしょう? 可愛いでしょう?」とすかさず答える。

 ソファーに座った真白が「お姉ちゃん、姉バカは家族限定にしといてね」と釘を刺した。

 紅は柔らかい表情で真白を眺め、「いや、可愛いよ。本当にお前によく似てて、可愛い」と言った。


 こいつは、本当に性格が悪い。


 幾つになったんだ、と首を掴んで揺さぶってやりたい。

 お前もいい加減、相手をみつけて結婚しろ! とも。


 真白は紅の思惑にすぐに気づいたらしく、呆れ顔になっている。

 素直な花香さんは、まじまじと紅を見つめ、それからとんでもないことを言い出した。


「紅くんは相変わらず真白が好きなのね~。そうだ。紺をお嫁さんにしたら? マイフェアレディみたいで素敵じゃない。小さい頃から大切にすれば、紺は紅くんを好きになっちゃうかもよ」


 なーんてね、と花香さんは笑ったが、まったく洒落になってない。

 

「絶対に許さないからな」


 つい、反射的に声をあげてしまった。

 こんな風に反応すれば、紅はますます調子に乗ると分かっていたのに、我慢できなかった。

 どこにも嫁にやりたくないのが本音だし、特にこいつだけは嫌だ。


 案の定、にんまり笑って、紅は紺に視線を戻し、つん、と長い指で彼女の丸い頬をつついた。


「そっか。君が俺のお姫様になってくれるの? 紺」


 背筋がゾッと寒くなる。

 真白は泣き笑いみたいな表情を浮かべ、小さな声で「懐かしいな」とこぼした。


 





 

沢山のリクエストありがとうございました!

これにてボクメロ完結です。


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