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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

曖昧染色体

作者: 志成乃

俺の名前は織原 忍[おりはら しのぶ]。


突然で申し訳ないのだが、俺には幼い頃の記憶がない。


誰しも幼稚園、保育園の記憶は少しはあるんじゃないかと思う。お遊戯会が楽しかった、通園するのが嫌で泣きじゃくった、ハシャいで怪我をした、エトセトラエトセトラ……。その程度なら覚えているのではなかろうか。だがしかし、俺には一切の記憶がない。


記憶の中で一番古い奴は、小学校で転校生と扱われた時。目の前に俺と同年代の子が沢山いたのを覚えている。



「忍おはよー」

「はよー」

「今日転校生来るんだと」

「へー……ってマジで?だから俺の隣作られてんの?」

「じゃね?」



小さい頃の記憶がなく、容姿も周りとどこか違う、そんな自分が大嫌いな俺。自分と似ている奴も好きじゃない……同族嫌悪って奴なんだろう。



「折原 凌[おりばら しのぐ]でーす」



そんな俺の前に、アイツは現れた。



***



「折原の席は織原の隣な。苗字似てるとやりにくいな…忍、手ぇ上げて」

「うっす」



笑いながら先生は、折原に俺の隣に来るように促した。クラスメートは折原が通りやすいように机を寄せる。俺も分かりやすいように手招きした。すぐに俺を見つけた折原はパッパと隣に着いた。



「織原、だっけ」

「そ。下の名前は忍って言うんだ。まあ隣同士宜しく。忍でいいよ」

「おー、宜しくな!俺も凌で宜しくー!」



何故か初対面で、何故か好きじゃないと感じたのは分からなかった。名前も似ていて、周りの奴等がふざけて名前をわざと間違えるとイラつきはしたが、凌と俺はよくいるようになった。好きじゃないとは言っても何となくで、趣味は合うし結構笑い合える良い奴だった。



「折原はどこから来たんだっけ?」

「んーと、あっち!」

「指差しても分かんねーって凌」

「凌くんって結構変わってるね」

「そお?ま、そんな自分が大好きだけどねー」

「マジかよお前ー」

「マジマジー」



俺の隣で話している凌を横目でチラリと見る。慣れんの早いなーと思いながら、テスト対策の問題を解く。入ったばかりの転校生には悪いが、一週間後にはテストがある。始めのテストはどうしても落としたくない。



「忍、ここ分かんないんだけど」

「生憎だが俺も分からん」

「マジ?早速俺達仲良し?」

「ウザい」

「ひっでえ」



違和感は既に始まっていたのかもしれない。


凌が転校してきて早くも半年が経った。凌も半年も経てばクラスメートの名前や建物は覚えていた。


体育の時だ。



「位置について、よーい……ドン!!」



体力テストの50m走で凌と一緒に走ると。



「「タイムが一致!?」」

「そうなんだよ。ストップウォッチ一つで足りたわー」

「やっぱり俺達仲良し?」

「アホぬかせ」



最小単位までタイムが一致していた。何度走ってもタイムは一致。握力も立ち幅跳びも長座体前屈もジャンルが全く違うのに、記録が一致していた。気持ち悪い結果となったがそれだけではない。


……テストの結果も一緒だった。



「どちらか片方カンニングしてないよな?」

「「してないっす」」

「嘘つくな」

「そりゃ俺達仲良しですから」

「関係なくね?」



点数はおろか間違った場所、間違え方が一緒だった。流石にカンニングではないかと思った先生が、追試で違う教室でやったが結果は変わらなかった。気持ち悪いを通り越して吐き気がするくらいだ。


やることなすこと全ての行動が一致している俺と凌。運命なんてものは感じない。何となく好きじゃない、から、とても好きじゃないへと変わっていった。どう足掻いても結果は同じだった。



「俺達周波数合ってんじゃねーの?」

「はいはい。まず書こうか」

「書くの面倒くさい」

「俺だってメンドクセー」



凌の話を受け流しながら日直日誌を書く。俺の学校の日直は二人一組で務める面倒くさいタイプで、苗字も名前も似ている俺達は必然的に一組になった。


外は夕暮れ、橙の夕暮れが教室を照らす。野球部の声が此方まで響いてくる。


部活も入らず彼女もいない、ましてや片方が相手を嫌っている男二人が日誌を書いてる姿は青春なんて微塵も感じさせなかった。



「忍ってさ、小さい頃の記憶無いんだっけ」

「おー」

「親もいないんだっけ」

「……おー」



何で知ってんだ。



「確か、今は自称親戚の人と過ごしてんだっけ」

「……おー」

「自分が、大嫌いなんだっけ」

「……何が言いたい」



シャーペンを置いて、凌を睨む。確かに凌の言うとおりだが、俺は友人にはそんな事は一切話していない。ましてや、好きじゃない奴になんて話す訳がない。



「自分の髪と目の色が嫌いなんだよね」



周りと違うのが嫌だった。灰色と言う中途半端な髪色に、薄青紫の目。周りは黒髪で焦げ茶色の目なのに、俺だけが違う。



「俺ね、忍が嫌だって言うから髪も黒にして、目も忍が好きな青にして貰ったんだ。似合ってる?」

「して、貰った……?」



ドクドクと胸の動悸が止まらない。ニッコリと笑ってみせる凌の青い目を見て身体が萎縮した。てっきりカラコンだと思っていた凌の目。透き通った青い目だけがコイツの中で唯一マシと思っていた。



「声も一緒が良かったんだけどさ、一緒じゃ怪しまれるってお父さんが言うから低くして貰ってね。俺が作られたんだ」



コイツは俺の髪に手を伸ばして弄ぶ。妙な不安。妙な恐怖。怖い怖い怖い……ッ!!そんな二つに押しつぶされた俺は真っ先に扉へと反射的に身体が動いていた。



「待ってよ忍」

「っ、ぐっ……!!」



凌は逃げる俺の腕を掴んで引き寄せ、床に押し倒した。勿論マットなんか敷かれていない。背中の痛みに声を上げると、凌は両手首を俺の頭上へと持っていく。逃れたくても上からの圧が強くて身体が動かせない。



「やっと忍に会えた。待ち望んでた。織原の血で作るのは大変だったんだって。成功したの俺だけ。何十人も同じ血なのに失敗して死んじゃったらしいよ。忍への愛が足りないんじゃないの?」

「成功?死んだ?……何だよソレッ!!」

「俺はこうして成功して奇跡的に生きてる自分が大好き。だから“オリジナル”である忍が好き。大好き、めっちゃ好き」

「っ、オリジナル……?」



狂気で満ちてるんじゃないかと思った。声が引きつって呼吸がしにくい。……何より、怖い。



「忍のグレーの髪も、薄青紫の目も、女顔なとこも好き。声も、細い身体も、そうやって恐怖で満ちてる顔も大好きだよ」

「お前、何モンだよ……ッ!?」

「俺が何者かって?」



自分でも薄々気付いてるんじゃないの?


クスクス笑う凌の顔から目が離せない。テストの点数や体力テストの結果が一致してたのも、やることなすこと全て同じだったのも。それから、コイツが好きじゃない……嫌いだと思ったのも。俺があの時感じたのは間違いじゃなかったんだ。



「俺はね、忍のクローンだよ」


めちゃくちゃ好きだからさ、忍……研究所[俺達の家]に帰ろう?


凌の冷たい涙が俺の頬に落ちる。覆い被さって、まるで壊れたテープレコーダーのように凌は、愛してるを延々と繰り返す。


俺の家が研究所?コイツは俺のクローン?じゃあ、俺は何かの実験体だった?


頭がこんがらがってる。どうすればいいのか分からず、凌に覆い被さられたまま教室の天井を見上げる事しか、混乱している俺には出来なかった。

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