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そのひとくち、至福

彼の耳、あり。

作者: 春隣 豆吉

橋野先生が初恋ショコラを利用する話(笑)

 泰斗高校OBで、現在は母校の化学教師である俺は職員室や化学準備室よりも、彼女である恵理子が司書をしている図書室にいることが多い。


 仕事の合間にちょっとだけ息抜きがしたくて、俺は図書室へ向かった。放課後の開放時間は午後6時まで。それ以降は彼女だけになるはずなので、彼女とお茶でも飲もうと思ったのである。

 図書室に入ると、本を閲覧している生徒たちはいないけどパーティションの向こう側から賑やかな声がする。どうやら最後の点検をしているようだった。

 残念だけど、お茶は飲めそうにないな・・・そう思って図書室から出ようとすると「えー、藤村さんならとっくに食べてるかと思ってました」と委員長である松尾の声がした。

「いつ行っても売り切れてるのよ。私も早く食べたいんだけどさ~。ファンとして申し訳ないわ」

 すると今度は恵理子の声がする。

 恵理子がファンだというと・・・・ああ、あれか。7人組の男性アイドルグープ。彼女いわく“かわいいワンコ、爽やか、クール、和風男子と癒し男子に不思議くん、セクシー系と選り取りみどり”。 

 あのグループがらみで売切れ商品といえば「初恋ショコラ」。

 そういえば2人で夕飯食べてるときに、テレビからそのCMが流れて恵理子がぼそりと「今日はワンコか・・・・セクシー系が見たかったなあ・・・・」とつぶやいていた。

 HPを見てみると、個人バージョンとグループバージョンがあるらしくどちらもHPでチェックが可能。恵理子にHPを教えてたら、テレビでもコンプリートがしたいのだと言う・・・俺は違いがわからないけど、ファンってそうなんだろう。


 思わず聞き耳をたてていると、松尾と恵理子の会話に、2年生の武内も加わっているらしい。

「松尾はもう食べた?」

「食べましたよ~。濃厚なチョコレートが最高です。もうチョコ好きのためのケーキって感じで。あれでカロリーが控えめなんて嬉しすぎます。」

「パッケージもかわいいんですよね」 これは武内の声。

「そうそう。容器は普通なんだけど黒のフタと金のリボンがかわいいんだよね~。ふーん、そのぽんも食べたんだ」

「・・・は、はいっ。美味しかったです。とっても」

「・・・・そのぽん、なんかあったわけ?あ。もしかして・・・」

「へっ?!キャッチフレーズのようなことは何もありませんよ!!」

「松尾、武内をからかわないの。そういう松尾だってさ~、土屋くんなら喜んでやりそうだよね~。“ケーキとぼくのキス、どっちがすき?”って」

 しばし沈黙のあと、恵理子の声で“もしや図星?!も~、いいなあ若いって♪”と聞こえてきて、その後松尾が咳払いをして席を立った音がする。

「・・・・藤村さん。もう閉館時間とっくに過ぎてます。帰る準備をしないと」

 パーティションの向こうから松尾が出てきそうなので、俺はそっと図書室を出た。



 恵理子が食器を洗っている音がする。互いの暗黙のルールで、食事を作ってもらったほうが食器を洗う約束がいつのまにか出来上がっていた。

 そうだ、そろそろ教えてあげないと。彼女の驚いて喜ぶ顔が見たい。

「恵理子」

「なに~?」彼女は振り向かずに返事をする。

「今日、恵理子を待ってる間にデザート買っておいたんだ。冷蔵庫に入ってるから食べれば?」

「甘いものが苦手な誠介が珍しいね。ありがと~」

 彼女がこっちを向いてにっこり笑う。ちょうど食器荒いが終わったらしく、いそいそと冷蔵庫へ向かう姿がかわいい。・・・俺、相当重症かもしれない。

 俺が素知らぬフリでテレビを見ていると、「え。えええーっ?!初恋ショコラ!!」と俺の狙いどおりに恵理子が叫んでいた。

「誠介、これ・・・」

「初恋ショコラ。食べたかったんだろ?」

「どどどうしてそれを」

「“も~、いいなあ若いって♪”・・・図書委員をからかってんじゃないよ」

「・・・どこから聞いてたの?」

「松尾が、恵理子がまだ初恋ショコラを食べてないのに驚いたあたり」

「やだっ!最初から聞いてたの?も~、声かけてよ~~~」

 どうやって声をかけろというのだ・・・俺に女子高生と初恋ショコラ談義をしろとでも?

 だいたい図書委員たちは俺と恵理子がつきあってるのを知っている。ということは、“橋野先生、あのセリフは言ったんですか~?”って聞かれるだろうが。

 武内は聞かないだろうが、松尾は高確率で言い出す。

「授業中でもないし、楽しそうに話してるから悪いと思って。」

 さすがに思っていたことは言えないので、俺は無難な回答でやり過ごした。


「ふーん。まあいいわ・・・はい、誠介」

 そういうと、恵理子は俺の前にスプーンを差し出す。その上には、初恋ショコラ。

「は?何それ?」

「何って、初恋ショコラ。せっかく買ってきてくれたんだから、一口食べて。はい、あーん♪」

「いやいやいや。恵理子が全部食べれば・・・・う?」

 俺の口に濃厚なチョコレート味が広がる。まずくはない・・・だが・・・俺には甘すぎる。

「どう?」

「甘いな。」

「ほんとに甘いもの苦手なんだねー」

 そう言うと、恵理子は念願の初恋ショコラをスプーンですくって食べた。

「んー。おいしい。チョコが濃厚~」

 その幸せそうな顔に、俺が誘われてキスをしたのは当たり前の話。

「ちょっと、誠介。私まだ食べてるんですけど」

「恵理子はケーキと俺のキス、どっちがすき?」

「えっ!!それは、あれよ。うん」

 真っ赤になってしどろもどろになる恵理子がかわいくて仕方がない。だから、つい意地悪になってしまう俺を許してほしい。

「俺って言うまでキスしないと駄目そうだね」

「どうしてそうなる・・・・」

 彼女の言い分なんて聞いてあげない。


読了ありがとうございました。

誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。

ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!


「図書委員会の恋愛事情」より司書の藤村の彼氏である橋野先生です。

ちょっと意地悪男子になってしまいました・・・なぜだ(汗)。


リクエストしてくれたお姉さまたち、こんななってしまいました(大汗)。


作中に出てくる、委員長・松尾と土屋くんの馴れ初めななどの話は

「図書委員会~」に掲載されております。

ちょっとした宣伝でした。


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