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月は闇を抱いて眠る  作者: 氷室あげは
†錆びた星が巡る†
8/11

 唇に右手人差し指を当て考えていると、青年がルナの前に立ち、右手をモルガーナへと向けて翳す。


「さて……少しお灸を据えましょうか」


 目前のモルガーナとカストルの喧嘩が、今にも始まりそうだ。

 先に仕掛けようとしたのはモルガーナだった。その時。


『水よ。我が手に来たれ。我は誰ぞ。彼の者よりも水に近い者ぞ。寄りて依りて我が手に満ちよ!』


 青年が一気に呪文を唱えた。

 すると、それまでモルガーナの周りや右腕に纏まり付いていた水が一瞬にして全て消えた。代わりに青年の右手から水が溢れ出した。


「えっ!?」


 突然水を失ったモルガーナは勿論、彼女と対峙していたカストルも。ただ見ている事しかしなかったルナも。青年以外の全員が驚いた。

 その隙を突いて。


『ウォーター・バースト!』


 水が溢れ零れ落ちている右手をカストルの方へと向け、一気に放出する。


「え……? う、わぁぁ!?」


 ルナ以外の者が居る事に一切気付いていなかったカストルは、思いも寄らぬ方向からの水撃に対応出来ず、十数メートル程吹っ飛ばされた。


「カストル!?」


 吹っ飛ばされたカストルを心配して、ルナは慌てて傍らへと駆け寄る。


「大丈夫?」


 カストルの顔を覗き込みながら声を掛ける。


「あ、ああ……けど今のは?」


 水を被ったせいですっかり落ちてしまった前髪を掻き上げ、手に付いた水滴を振り落とし、カストルはゆっくりと立ち上がってモルガーナを見やる。彼女は愕然としていた。

 モルガーナ自身、何が起きたのか判らない。と言った顔をしている。

 当然だろう。彼女の意思とは全く関係の無い所で力が働いたのだから。気付く訳が無い。


「水が……」


 自分の両手を見つめる。先程まで其処に確かに水は在ったのに。


「モリー! どうしたの!?」


 蒼褪めた顔で立ち尽くしているモルガーナを見て、カストルの傍らから離れ、急いで駆け寄るルナ。


「ルナ! 水が……私の水が!!」


 動揺している。普段はルナの知っている者の中で、誰よりも冷静で落ち着いているモルガーナが。言葉を明確に伝えられない。ルナの両肩を掴んで激しく揺さぶる。


「お、落ち着いて、モリー。ウンディーネは無事なの?」


 モルガーナの両手を自分の肩から離し、そっと握る。紫金の瞳を見つめ、確認を促す。

 ルナの言葉に、モルガーナはハッとした。

 深呼吸をして、右手を左胸に当て、もう一度深呼吸する。


「……大丈夫、ここに居る……でも眠ってる……何故!? さっきまで元気だったのに!?」


理解出来ない事ばかりで、モルガーナは少々パニックになっている様だ。


「私が強制的に水の力を奪ったから、ショックでスリープ状態になってしまった様ですね」


 スーッと心が冷めていく感覚を、モルガーナは感じた。聞き覚えの無い声に対し、モルガーナは幾らか冷静さを取り戻した。

 ゆっくりと振り向き、青年の顔を見やる。


「あなた……確かギルドの人よね?」


「見知って頂けて光栄です、オクトス・セイレーン」


 オクトス・セイレーン。青年がそう呼んだ瞬間、モルガーナは険しい顔付きになった。


「……それはあたしの名ではないわ。祖母のよ」


「でも、いずれ君が継ぐのでしょう?」


「立場を継いだとしても、その名を継ぐ気も権利も無いわ。それより、あなた誰よ? あたしの水をどうしたの!?」


 モルガーナは冷静に話をしていたはずだった。しかし、感情がついていかず、気付けば語気を荒らげていた。


「モリーが荒れてる……珍しいな」


 そっと横に来たカストルが、ルナに耳打ちする。

 うん……と静かに頷くルナ。

 モルガーナの態度に、ルナはただ、心配するしか出来ない。


「私はディティ。ディティ・A=ドリグヴェシャ。ここではD・Dと呼ばれています」


「ドリグヴェシャ!? 水龍族が何故この国に居るのよ!?」


 ディティの自己紹介に、驚愕を露わにするモルガーナ。

 水龍族とは、澄んだ湖に生息すると言われている幻獣族の一種である。

 セルバは森林国。水龍族が生息出来る様な湖は無い。故にモルガーナには不思議でならないのだ。


「珍しくも無いと思いますけどね。どんな種族がこの国に居たとしても。貴女のお祖母様もそうである様に。まぁ……私がここに居るのは企業秘密ってコトで。それよりも、私が何者か判ったのなら、何故貴女の水を支配出来たのか……もう、お判りでしょう?」


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