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月は闇を抱いて眠る  作者: 氷室あげは
†錆びた星が巡る†
6/11



「頭にきちゃう!」


 怒りを露わに森を歩くルナ。

 先程、見知らぬ妖犬に突然攻撃され、怪我をし。その後、これまた見知らぬ青年に治療して貰えたかと思えば、罵詈雑言を浴びせられた。

 腸が煮え繰り返る。中々怒りが収まらない様だ。


「何で知らない人にあそこまで言われなきゃいけないのよっ」


 時折、文句を零しながら箒を低い位置で振り回す。地から生えている雑草を箒で左右に振り払いながら歩く。


「あー、もう! ポンは見つからないしー!!」


 歩みを止め、無闇に前方へ箒を振り回して見る。同じ所を箒の先が行ったり来たりするだけだ。


「はぁ……」


 疲れたのか、手を止めて溜め息を吐いた。少し冷静になろうと思うが、やはり怒りが込み上げて来る。箒を握る手に自然と力が入ってしまう。


「ダメ……」


 呟くと同時に口から大きく息を一気に吐き出し、一秒息を止め、今度はゆっくりと森林の薫りを含む空気を肺一杯に吸い込む。また一秒息を止め、一気に吐き出す。それを数回繰り返す。繰り返す中、少しずつ上体を後方へ反らし、胸を張る姿勢を取る。最後は顔だけ上空に向けた。だが、空は殆ど見えず、木々の枝が重なって見える。


「……よし」


 十数秒間一点を見つめ、意を決する。顔の向きを戻し前を見た時、左前方からルナを呼ぶ声が聞こえて来た。


「ルナー!」


「ポンッ!?」


 幹と幹の間をすり抜ける様に飛んで来た一羽の白い鳩。ポンバだ。

 泣きべそを浮かべながらルナの胸へと飛び込む。


「ルナー、大丈夫だった!?」


「ポンこそ! ケガしてない!?」


 ルナが両腕で優しく包む様に抱えると、お互い相手の心配を口にする。


「ボク、落ちた時に翼を傷めちゃったんだけど、通りすがりのお兄さんが治してくれたんだ」


 ポンバがそう言うと、ルナの眉尻が少し上がり、眉間に皺が寄る。

 一人の青年の顔がルナの脳裏を過ぎった。


「……その人って、もしかして左目に眼帯してなかった?」


「左目? ああ、うん。してたよ」


 間違いない。あの男だ。見目麗しいながら冷たく、口の悪い、あの男。

 ルナは自分の中でやっと押さえ込んだ怒りが再び込み上げて来るのが判った。

 いけない、いけない……と思いつつ、顔に出ていたようだ。直ぐにポンバが気付いた。


「ルナ、どうかした?」


「何でもない。それよりギルドに向かわないと」


 あっ、と大きな声を上げると、ポンバは慌ててルナから離れる。

 ルナは箒を左手に持ち直すと、森の奥へ向かって走り出した。


「随分ロスしちゃった……急がないと」


 走り出したルナの頭の高さで併走する様に飛ぶポンバ。不安な気持ちを表情に浮かべている。


「大丈夫?」


「わかんない!」


 簡潔に答えるとルナは走る事に専念した。

 獣道を避け、雑草を薙ぎ倒しながら森の中を駆け抜ける。少し先に本道が見えた。


「えーと……どっち?」


 本道に辿り着くと、ルナは左右を見回す。一本道だがルナは右と左、どちらを行けばギルドに着くのか。それが判らない。

 察したポンバが上空へ向かって羽ばたく。森の上に出ると、辺りを見渡す。

 右方向には街に在る教会の鐘が見え、左を見ると森が続いていた。


「ルナー! 左だよ!」


「オッケー!」


 上空からポンバが声を張り上げながら降りて来ると、ルナは既に走り出していた。

 再び森の中を駆け抜ける。今度はちゃんとした道を。しばらく走ると木々の並びが途切れ、ぽっかりと開けた場所へと出た。

 今迄木々の枝に隠されて、僅かしか見えなかった空がハッキリと見える。

 開けた場所の真ん中に、とてつもなく大きな樹木が聳え立つ。きっと空から見れば、幾つもの木が集まって見える事だろう。其れ程大きく、枝々も太く、葉も青々と生い茂っている。


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