表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月は闇を抱いて眠る  作者: 氷室あげは
†錆びた星が巡る†
3/11

 ブラッグドッグ(黒妖犬)とは所謂フェアリードッグ(妖精犬)の一種で、文字通り真っ黒な犬の姿をした妖精である。その大きさは仔牛程もあり、毛むくじゃらで、一対の巨大な目が真っ赤に燃えている様に見えるのが特徴だ。

 故にルナが異議を唱えるのは至極当然だった。


「――昔、おれ様とドゥーグはある魔女に捕まった事がある……そん時にちょっとあってな」


 余程口にしたくない事なのだろう。モーザはこの時初めてルナから視線を外し、口籠もる。

 ルナとしては正直、黒妖犬の事情はどうでも良かった。心底気になっているのはそこではない。


「そのブラックドッグが何故こんな所で私を狙ったの!?」


 瞳は未だモーザを睨んでいた。すると、モーザはキョトンとした目でルナを見返した。


「そんなの決まってらぁ。敵だと思ったからだ! そしておれ様達はこの森を縄張りにしている山賊だからだ!」


 堂々と、躊躇う事無く言い切った。




 ルナとモーザの間に静けさが舞い降りてきた。聞こえて来るのは、少し離れた所から鳥の囀りと羽ばたきの音だけ。

 完全に言葉を失ったルナはただただ呆然と、胸を張って偉そうな態度を取っているモーザを見上げていた。


(え? 山……賊? ここ、森、だよね……山、無いのに、山賊?)


 ルナが気になったのはそこだった。

 ザクツには『山』と呼べる程高い所は無い。精々、小高い丘が在る程度の森林国だ。そんな国で、何を以ってして『山賊』と名乗っているのだろうか。

 そんな事を考えて黙り込んでいるルナを見たモーザの顔に、みるみる笑みが満ちた。


「どうした? おれ様の恐ろしさに声を失ったか? はーはっはっは」


 軽快に笑うモーザの後ろに突如人が現れて、彼の後頭部を平手で叩いた。


「そんな訳無いだろ」


 ペシッ、と小気味の良い音が響いた。


「イテッ!?」


 モーザが振り返ると、見目麗しい隻眼の青年が立っていた。それは思わずルナが見惚れてしまう程の美青年だった。


(わ……綺麗な男の人)


 背は高めで、細過ぎず太過ぎない理想的体型。紺青色のノースリーブの服でその身を包み、程好く引き締まった二の腕は露わだった。髪の毛は白磁色で、左サイド一部分だけがサラリと長い。左目は眼帯で覆われていて見えないが、右目は切れ長で、髪の毛と同じ色をしている。

 右肩には一つ目の翼竜が乗っていた。


「ゲッ!? スリ……ふがっ!?」


 何か言い掛けたモーザの口を、青年は否応無しに左手で塞いだ。


「全く……あれ程人間は襲うなって言っておいただろう」


「んんんーん、んー」


 青年の言葉にモーザは反論しようとしたが、青年の左手がしっかりと口を塞いでいた為、息が漏れるだけだった。


「ん? 何だよ」


 青年が左手の力を少し緩めると、その隙をつき、青年の手を振り払う。モーザは青年から素早く離れ、力一杯喚いた。


「おれ様はヘンな魔力を感じた! だからそれに向かって矢を射っただけだッ」


 ドゥーグもモーザの動きに合わせ、今居た場所を離れてモーザの傍らに立ち、警戒する。


「変な魔力……?」


 怪訝そうに聞き返すと、モーザは無言で数回頷いて見せた。

 そこで青年は初めてルナを見た。

 白磁色の瞳と視線が合い、ドキッとするルナ。


「大丈夫か?」


「……あまり」


 座り込んでいるルナに、青年が優しく言葉を掛けて来た。優しい声色に、少しホッとしたルナは痛む左足首を押さえ、素直に答える。その様子とルナの容貌をじっくりと見やる青年。


「ああ、怪我したんだな」


 ルナの前にしゃがみ込むと、ルナが押さえている左足首に右手を翳す。


『ヒール』


 静かに呟くと、青年の手から癒しの力が注がれる。途端に痛みが引いていく。


「これで良いだろう」


 治療を終え、青年は手を離した。

 ルナは左足を摩ってみる。確かに、もう痛くない。動かしたり、力を入れてみても問題無い。


「あ、ありが……」


「つか、その耳、ハーフエルフだな? モーザの攻撃かわすなり、自分で治療するなり出来ねぇでどうすんだ? あ? チンクシャ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ