1:目覚めの時
2話目投稿遅くなりました。亀の歩みよりさらに遅いナメクジの歩みですが、気長に見てあげてください。^^;
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どこかで、軽やかな音色が鳴った気がした。闇に沈んでいた意識が急速に鮮明になっていく。
「ここどこだ?」
目を開けてみれば、そこはどことも知れない部屋の一室だった。家自体は木造で、調度品は使いこまれたアンティークのような風貌で、しかしそこまで良い品ではないので少しみすぼらしくくたびれて見える。
「俺は確か……」
いまだはっきりとしない頭で記憶を掘り起こしていく。何か大事なことを忘れている気がしてならない。
「俺の名前は七森月華。21歳。男。〇〇大学工学部3年。夏休みで楽しみにしてた……。」
そう、そうだ。今は夏休みで今日は確か例のゲームを……。
「……っ!」
思い出した!はっきり思い出した!
慌てて立ち上がると、部屋にある唯一の窓に飛びつく。そこから見えるのは、薄暗い雲に覆われた空と石や木で作られた家々、造りはどこか古き西洋を思わせる。ぶっちゃけ言えばファンタジー世界の町並みと言っていい。
「どうなってるんだ?」
ふと、視線を動かすとそこには大きな姿見があった。映っているのは見覚えのある人物。俺が丹精込めて作った(作成時間1時間)外装そのものがそこにいた。
基本部分を現実の自分とし、髪は長めで後ろで結んでまとめてある。色は黒だ。顔をいじるのは有料だったので、貧乏性の俺としては無料の範疇である瞳の色を朱に変えただけだ。背丈は変更不可能なので、現実と同じ174cm。ここを変えると現実世界との感覚の誤差が生じてかなり苦労したり、下手すると感覚障害なんかが起こるらしい。だからVR世界に入る際は必ず最寄の病院で専門のスキャンを行い、それを登録する必要があった。体格は中肉中背、この辺も変更はしていない。肌の色は褐色にしてみた。
あとは、種族の関係上耳がちょっと短めの笹型に。俗に言うエルフ耳を短くした奴だ。右耳のほうにシルバーリングのピアスを3つつけているのがチャームポイントだ!そして一際目を引くのが、顔の右半分に描かれた黒い文様だ。円と曲線で構成されたそれが、顔面から今は服で隠され見えないが流れるように左半身の足先まで描かれている。この外装を作る際に一番苦労し、時間がかかった部分だ。ちなみに背中側は左の肩甲骨のあたりから右のかかとまでとなっている。
見えないところでおされするのが大人ってもんでしょう。
ちなみに服装は、多分初期装備で支給される『布の服』など初心者一式セットだろう。いかにもチープで簡素な造りのただの服だ。装飾もなく、着心地もどこかごわごわとしていて現代社会に生きる身としてはあまりよろしくない。防御力も紙同然で、一箇所につき+1くらいしかついていないはずだ。
頭上には七森月華のPCネーム、『ななつき』が浮かんで表示されている。
「あー、これってつまり……」
(メニューオープン)
オープニングセレモニーでの説明どおり思考操作でメニューを表示させる。すぐさま目の前にいくつかのアイコンが現れる。
これは完全にクローズドβ動画でみた物と一致している。
その中でも一番端にあるオプションの部分に視線を向け集中する。すると、パソコンでマウスをクリックしたときのように、オプションと書かれたページへと画面が移る。
いくつかの項目の中にそれは確かにあった。
『ログアウト』
それが目に入ったとき、俺は不覚にも力が抜けて崩れ落ちそうになった。
「ハハッ……、なんだ驚かすなよ」
喉がからからで少しかすれた声で呟くと、すっと『ログアウト』の文字に手を伸ばす。別に思考操作で選んでもいいのだが、なぜか体が動いていた。
指がその文字に触れる。
予感はしていた。
だからこそ、体が勝手に動いていたのかもしれない。
指先は震えている。
変な汗がにじみ出る感覚がちょっと不快だった。
『ログアウトできません』
小さな枠で囲まれたシステムログにそっけない文字でそう表示される。
もう一度触れる。
『ログアウトできません』
同じ文字が同じく表示される。
おいおい、もう分かってるんだろう?
そう囁くドヤ顔の俺がいる。
これは現実で、夢なんかじゃない。
その実感がすっと体の芯までしみこんでいく。
「何で笑ってるんだよ?」
そう問いかける俺の視線の先には、鏡に映るもう一人のオレ。
そのオレは、うざったいドヤ顔をしていた。
残酷な事実を受け入れてしまったオレに残ったのは、歓喜の感情だった。
ここまで使い古されたテンプレ的な状況を、実際に体験できるとは何たる僥倖か!
きっと自分と同じことを考えている特殊な野郎共はこんな顔をしているに違いない。
さて、これからの身の振り方を考える前に現在の状況確認だ。
これがどういったパターンのテンプレなのかによっても、方針はぜんぜん変わってしまうのだから重要だ。とりあえず、情報収集からはじめよう。
事前情報が確かならば、現在位置はプレイヤーがそれぞれがキャラクターとして始めて降り立つことになる部屋で、ここで容姿や憑依がしっかりできているか確認し扉の向こうのチュートリアルへと続く流れになるはずだ。
容姿と憑依に関してはオールグリーン。問題はない。
というか、現実の世界の体と寸分変わらない気がする。さっきかいた嫌な汗で、ちょっと体が冷えてきてもいる。そんなところまで作りこまれているのか、と感心してしまうくらいだ。
続いてシステムに関して。
先ほど開いたシステムログに流れてしまった部分があることに気づいたのは幸運だったと思う。
そこには、
『《NEW!》クエストが更新されました。
全てのプレイヤーに新たにストーリークエスト【旅立ちの朝】が追加されました。
全てのプレイヤーはログアウト不可になりました。
全てのプレイヤーの感覚抑制プログラムは一部解除されました。
全てのプレイヤーはそれぞれのPCの元への転送・憑依が完了されました。
全てのプレイヤーの意識断絶を解除します。
それでは良い旅を。
良い冒険を。
良い生を。
三千世界の加護を……。 』
と、書かれていた。
これは確実に何かしらの力が働いて、現在の状況になったことを伺わせる。決して事故ではなく、どこかの誰かが係わっているはずだ。そして、異世界トリップ物でもないことも確定したといってもいいだろう。あまりにもシステマチックで、これはゲームの世界の中であるといえるはずだ。もしかしたらそういった異世界であるというのも捨てることはできないが、おおむねその線は無いと言える。ログアウトの表示がある、というのが主だった理由だ。
さらにメニュー内にあるステータスの項目もそれを裏付けている気がする。
《NEW!》のマークがついているステータス画面を開いた瞬間、目の前に新たなシステムログが流れる。
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『《NEW!》ステータス決定を行います。ポイントを割り振り、ステータスを決定してください。残りポイント:15』
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ステータス
プレイヤーネーム(PN) :七森月華
キャラクターネーム(CN):ななつき
出身世界 :第10世界『呪縛のティリリシア』
種族 :ディープエルフ
LV :1
職業 :旅人
称号 :《NEW!》レア【プレオープンβ参加者!】
・全能力値+2 HP、MP、SP+15
《NEW!》ユニーク【エルダー・カースホルダー】
・LUC-50 FAI+50 WIL+20 状態異常:呪いLV5(永続、内容はランダム)
《NEW!》ユニーク【黄金律】
・モンスター討伐時に手に入るジェム(J)は必ず最大額となる。
ジェム(J)が関係する判定に50%のボーナス付与。
《NEW!》レア【億万長者】
・モンスター討伐時に手に入るジェム(J)が30%の確立で2倍に。
《NEW!》レア【大金持ち】
・モンスター討伐時に手に入るジェム(J)が+20%増加。
《NEW!》ノーマル【小金持ち】
・モンスター討伐時に手に入るジェム(J)が+5%増加
《NEW!》ノーマル【三千世界の旅人】
・STM+2 SP+10
《NEW!》ノーマル【初心者始めました】
・旅人職業スキル習得可能 一般スキル習得可能 HP+100
《NEW!》レア【呪縛の民】
・ディープエルフ種族スキル習得可能
PER+5 DEX+5 FAI+5 STR-5 AGI-5 SOC-5
HP :143/143
MP :89/89
SP :47/47
STR :9 INT :17
VIT :14 WIL :37
STM :16 FAI :67
AGI :15 SOC :10
DEX :20 CHR :21
PER :22 LUC :-48
残ステータスポイント:15
装備・防具
頭 :
胴 :初心者の服(物理防御力+1)
腕 :
腰 :
下半身 :初心者のズボン(物理防御力+1)
足 :サンダル(移動速度+3%)
アクセサリ①:呪われたシルバーリングピアス(呪いLV5 被物理ダメージが常に1 攻撃力が常に1)
アクセサリ②:
アクセサリ③:
アクセサリ④:
装備・武具
右手 :木の棒(攻撃力+5)
左手 :
その他 :
物理攻撃力:1
物理防御力:9
魔法攻撃力:1
魔法防御力:33
最大所持重量:118
所持金:50000002000J
次のレベルまでEXP:100
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「こいつは面白くなってきたな……」
思わずこぼれる笑みと共に、俺は思考の海へと埋もれていくのだった。
さて、短いですが今回はこの辺でかんべんです。
次話より少しゲームシステムの説明が長くなりそうなのですが、これは本文の流れとは別にW〇ki情報!または、取り扱い説明書みたいな感じで1つ話を作ろうか悩んでおります。どっちがいいですかね?