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カワイイヒト  作者: リオ
9/10

第八話【展覧会の前に】


 想いが通じ合って、数日後。

 景都さんは絵を描き上げて、それは審査を受ける為に、家の画廊から姿を消した。

 審査の結果は、展覧会で発表されるらしい。



「あー! 疲れた……」

 ソファに大の字に凭れかかり、目元に手の甲をあてて景都さんは安堵にも似た溜息を吐く。

 絵を完成させ、後は評価を待つのみとなった今、全てをやり遂げたと言った感じなのだろうか。

「本当……疲れたぁってオーラが出てますね」

「……」

 …………。

 何故か、沈黙が流れる。

 私変なこと言った?

 気まずくって、耐え切れずに口を開こうとしたら、景都さんがポツリと呟いた。

「ゲイのふりするのが一番疲れた」

「え?」

 すると、景都さんはいきなり凭れていた背をガバッと起こし、ソファ横に立つ私へと視線を向けた。

「だってさ、なよなよするのも女言葉も気持ち悪いし、ボロが出ないかビクビクするし……」

 真剣に見つめてるくせに、力説するのはそんな事で。

 私は笑いそうになるのを堪えながら、景都さんの愚痴を聞いていた。

「それにね」

「はい?」

 はぁ、と深い息を吐いたと思ったら、景都さんは頭をガシガシ掻き出して。

 再び私に向けられた景都さんの顔は、微かに眉が下がって、頬が赤かった。

「エナちゃんを心底描きたかったから嬉しかったんだけど……。やっぱり裸見ちゃうと、耐えるのが大変と言うか……」

「……へ!?」

 話しながら徐々に赤くなる景都さんなんか比にならないくらい、私はお馴染みの茹蛸に。

 でも、恥ずかしいと思う気持ちとは逆に、私を見て平気なふりをしていただけなんだと思うと、嬉しくなってしまう。

「あは……ごめんね。俺まったく普通の男でした」

「景都さん……」

 何だか照れ臭いけど、私は怖ず怖ずと景都さんの隣に腰掛ける。

 赤い顔を俯かせていると、ふわりと肩を抱かれた。

「あ……」

「エナちゃん、本当に俺でいいの?」

 景都さんのいきなりの質問に、私の頭上には複数のエクスクラメーションが浮かんで見えたことだろう。

 何で急に、そんなこと?

「俺とエナちゃん、九つも離れてるし……本当に俺なんか、好きでいてくれるの?」

 え……歳のこと、気にしてるの?

 私も最初は、そんな考えもあったかもしれないけど。

 本当に好きな相手なら、歳なんて……。

「歳なんか関係ないです! それに景都さんは見た目高校生でも通用しますし、もしかしたら私より幼い顔してるかも……」

 まだ言い終わらないうちに、景都さんの表情がどんどん沈んで行く。

 遂にはどんよりと俯いてしまった。

「あ……あの……?」

「はは……すっごいコンプレックスなんだ、この童顔」

「え!? ご、ごめんなさい!」

 必死に頭を下げて、自分の軽率な言動を謝った。

 コンプレックスだったなんて……魅力的な人だから、凄く好きな人だから、気付かなかった。

「いいよ、そんなに謝らないで?」

「でも……っ」

「だってエナちゃんは、俺のコンプレックスな所も引っくるめて、好きになってくれたんでしょ?」

 景都さんはそう言って、本当に嬉しそうに笑うから。

 私は顔が熱くなって、何度も頷いた。

「ありがとう……」

 その言葉と同時に、私の唇に触れた景都さんの唇。

 前触れのないキスに固まって目を見開いていたら、その気配に気付いたのか、閉じた瞼を開けた景都さんと目が合って。

 あまりの恥ずかしさに、私は慌てて後退した。

「……エナちゃん可愛い!」

「うひゃ!?」

 ぎゅっと抱きしめられて、心臓は爆発寸前。

 それでも、優しく髪を撫でる景都さんの手が、凄く心地良い。

「エナちゃん……展覧会、俺の絵の評価を、一緒に見に行ってくれる?」

「……うん」

 景都さんの絵。

 結局私は見せて貰えず、初めて見るのは展覧会か。

 一番最初に見たかったなぁ。

 きっと他のお客さんが先に見ちゃうんだろうな。

 景都さんに抱きしめられたままそんなことを考えてると、また、私の唇にキスの雨が降った。

「その時に、聞いて欲しい話しがある」

 唇が触れたまま、景都さんが囁く。

 私が何か言う前に、深いキスに蹂躙されて。

 話しって、何だろう…。

 それだけ浮かんで、その後は、頭が真っ白になって行った。







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