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カワイイヒト  作者: リオ
7/10

第六話【溢れ出す想い】


 あの出来事以来、景都さんは私を迎えに来てくれる様になった。

 前も、モデルを終えた後に送ってくれていたけれど。

 今は、どんなに早い時間だって、私を迎えに来てくれる。

 今日も学校が終わる頃、校門前に景都さんの姿。

 制服の群れに一人、サングラスをかけてスーツに身を包み。

 明らかに目立ってる。

 景都さんには似合わなさそうなコーディネートなのに、完璧なまでの着こなしは何故なんだろうか。

「景都さん!」

「エナちゃん。お疲れ様」

 サングラスに隠れて、景都さんの確かな表情は伺えないけれど。

 彼がいつもの様に、花の様な笑顔を浮かべてることは手に取る様に良く分かる。

「ちょ……ちょっとぉ! 誰よこの人、すんごいイケてんじゃん!」

 私の斜め後ろから、友達の一人が驚愕の声を上げる。

 ほんのり頬を染め、瞳を輝かせている彼女に、

「この人ゲイなの」

と打ち明けたら、きっとぶっ飛んでしまうだろう。

「まさか……エナの彼氏、とか?」

「え!? 違……っ」

「そうでぇす」

 赤くなって、慌てて否定しようとしてる時に、景都さんが私の肩を抱き寄せる。

 案の定私は、顔から火が出ちゃうんじゃないかってくらい、真っ赤っ赤。

「景都さん!?」

「あはは! 冗談だよ」

 景都さんはパッと私から離れた。

 冗談だと笑いながら。

 それでも、嬉しいと思っちゃう私は馬鹿なのかな?

「なぁんだ。じゃあ、二人はどんな関係なの?」

「あー……っと、話すと長くなるからまた今度!」

 私は友達の詮索から逃れる為に、その場限りの言い訳をして景都さんの背中を押す。

「景都さん早く行こ!」

「あ! ちょっとぉ!」

 友達はまだ何か言ってたみたいだけど、まさかヌードモデルやってますとは言えるワケないし。

 ゲイの彼に恋してるとか……もっと言えない!!

 焦ってその場から逃げ出した私に、景都さんは苦笑していた。

「……ごめんね? 変な冗談言って」

 私の顔を覗き込みながら、景都さんは笑顔を浮かべてる。

 その行動が、本当に冗談だったと物語ってる様で。

「……」

「怒っちゃった? ……よね。私みたいな奴にあんなこと、冗談でも気持ち悪いよね」

「別に、そんなんじゃ……」

 そんなんじゃない。

 怒ってるワケでも……。

 嬉しかったし。

 ただ、景都さんに、お前なんかこれっぽっちも見込みはないって言われてるみたいで……辛い。

 まあ、本当に見込みはないんだろうけど、僅かな希望に縋ってる私としては、すっごく痛いワケで。

 ゲイのくせに……乙女心くらい理解しなさいよ!!

 はぁ……。



 この日は、モデルをしてる間中も、私は浮かない顔をしていたと思う。

 その証拠に、景都さんもずっと困惑した表情だった。

 見込みがないからって、景都さんのせいじゃないのに。

 私って本当に嫌な女。

 こんなんじゃ、見込みどころか景都さんに嫌われちゃうよ……。

「はぁ……」

「……今日はもう止めようか」

「え?」

 カタ、と筆を置いて、景都さんが伸びをする。

 時間を見てみると、まだ七時で。

 約束の時間まで、あと二時間はある。

「エナちゃん、何か無理してるみたいだから……」

「な、何でもないんです! 平気です!」

「うん……。でも、今日は止めとこう」

 肩と首を解しながら、景都さんは部屋を出て行く。

 残された私は、一人呆然と、景都さんの出て行ったドアを見つめていた。

 しん……と静まり返った部屋。

 ポタリ。

 雫が零れ落ちる音だけが響く。

 景都さん……怒っちゃった?

 私がずっと、嫌な態度とってたから。

 本当に、嫌われちゃったのかな……。

 私は何も身に纏わぬまま、羽織るバスローブさえ忘れて。

 立ち尽くしたまま、溢れ流れ落ちる涙は耐えることが出来なくて。

 血が滲む程唇を噛み締めて、泣いてしまった。

 声だけは、殺して。

 溢れて、溢れて。

 止まることを知らない涙は、零れる度に染みを作り。

 どうして好きになってしまったんだろう。

 どうしてあの時、諦めなかったんだろう。

 そんなことばかり、頭に浮かんでは消えて行く。

 彼がゲイだと知った時に、諦めていればこんなに辛くなかった。

 今はもう、引き返せない程に好きになっていて。

 報われないこの想いをどうしたらいいのか。

 私はもう、壊れてしまいそう。

「……っ、ひ……っく」

 辛くて悲しくて、声を我慢なんて出来るワケないのに。

 やっぱり馬鹿な私。

 駄目……泣いちゃ駄目……。

 声を上げちゃ駄目。

 景都さんに気付かれてしまう。

 泣いていること。

 私の気持ちが。

 でも、もう堪えられなかった。

「ふえぇ……」

 その場にしゃがみ込んで、私は泣きじゃくった。

 離れた所から、ガシャンッと言う音がして、走る騒々しい足音が近付いて来る。

「エナちゃん!?」

 入口の枠につかまりブレーキをかけ、景都さんが部屋に飛び込んで来た。

 泣いてる私に気付くと、鱗たえながら走り寄った。

「どうしたの!? こんな格好のままで……!」

 景都さんは側に落ちてるバスローブを拾うと、慌てて私の肩からかけてくれた。

 私の顔を伺ってオロオロしてる景都さんは、それでも私の頭を撫でてくれていて。

 今は、景都さんの優しさが、何より辛い。

「うっ、うっ……ひっく、ふえぇ……!」

 もう、止められない。止まらない。

 好きの気持ちが。景都さんを想う心が。

 景都さん。景都さん……。

「景、都さん……っ」

 目の前に、私に合わせてしゃがんでいた景都さんに、私はギュッと抱き着く。

 胸元に頬をくっつけて、落ち着こうと必死になってしがみついた。

 景都さんは何も言わずに、そんな私を抱きしめてくれて。

 景都さんの腕の中で、私は決めたの。

 報われない想いであっても、告白しようって。

 この想いが、行き場をなくして、私の中で膨らみ続けるから、こんなにも辛いんだ。

 それならいっそ、ハッキリと振って貰った方が、きっと楽になると思ったから……。








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