第四話【モデル】
「……」
準備は整ったけど。
部屋へと向かう一歩が出ない。
心臓がバクバク言って、私の足は震えていた。
「どうしよう……」
今更、物凄い緊張が襲って来た。
何をしたらいいのか、どうすればいいのか、考えられなくなってしまう程。
――体が、動かないよ……。
「……エナちゃん?」
「っ!!」
中々来ない私を心配して、景都さんがリビングに様子を窺いに来た。
私はバスローブの胸元を掴んで、景都さんを振り返る。
「景都さん……」
「大丈夫?」
「大丈夫……です。準備遅くてごめんなさい」
一度約束したことだもの。
放棄するなんて、出来ない。
景都さんは、まだ心配そうに私を見ていたけれど、震える足に精一杯力を伝えて、私はあの部屋へと向かった。
私の後から、景都さんも部屋に入り、ドアを閉める。
「じゃあ……始めようか」
「はい……」
腰で縛った紐に、手をかける。
私の手は、まだ震えてた。
結びを解くと、シュルっと絹擦れの音が鳴る。
留め具を失ったバスローブは、私の肌を滑り、パサリと床に落ちた。
「――……っ」
顔が、マグマの様に熱くて、自分でも真っ赤になってるのが分かった。
恥ずかしくて、固く目をつむる。
「エナちゃん、緊張しなくていいよ。リラックスリラックス」
ニッコリ笑う景都さんは、今、私の裸を目の前にして何とも思ってないみたい。
そう、分かってる。
貴方が、女なんかに興味ないこと。
それでも、私は貴方が好きなんです。
貴方が、どんなに遠くても、私の気持ちは、変わらない。
「そこに座って楽にしてて」
「はい」
まだ、緊張も何も治まらないけど、景都さんの指示通りに動く。
椅子に座って、ずっと同じポーズで固まっていなくちゃいけないのだと思ってたけれど、そんなことはなくて、考えていたよりは自由だった。
ただ、私を見つめる景都さんの瞳は真剣で。
何も纏わない私の体を見られていると思うと、体中が熱を持ち、有り得ない程に心臓が脈打った。
「……エナちゃん」
「は、はい!?」
「エナちゃんの体、凄く綺麗。いい絵が描けそうだよ」
「え! あ……どうも、ありがとうございます……」
うう……そんなこと言われたら、もっと赤くなっちゃう……。
時間が来るまで、景都さんは私を褒め続けて。
終わる頃には、私は完璧な茹蛸になっていた。