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カワイイヒト  作者: リオ
5/10

第四話【モデル】


「……」

 準備は整ったけど。

 部屋へと向かう一歩が出ない。

 心臓がバクバク言って、私の足は震えていた。

「どうしよう……」

 今更、物凄い緊張が襲って来た。

 何をしたらいいのか、どうすればいいのか、考えられなくなってしまう程。

 ――体が、動かないよ……。

「……エナちゃん?」

「っ!!」

 中々来ない私を心配して、景都さんがリビングに様子を窺いに来た。

 私はバスローブの胸元を掴んで、景都さんを振り返る。

「景都さん……」

「大丈夫?」

「大丈夫……です。準備遅くてごめんなさい」

 一度約束したことだもの。

 放棄するなんて、出来ない。

 景都さんは、まだ心配そうに私を見ていたけれど、震える足に精一杯力を伝えて、私はあの部屋へと向かった。

 私の後から、景都さんも部屋に入り、ドアを閉める。

「じゃあ……始めようか」

「はい……」

 腰で縛った紐に、手をかける。

 私の手は、まだ震えてた。

 結びを解くと、シュルっと絹擦れの音が鳴る。

 留め具を失ったバスローブは、私の肌を滑り、パサリと床に落ちた。

「――……っ」

 顔が、マグマの様に熱くて、自分でも真っ赤になってるのが分かった。

 恥ずかしくて、固く目をつむる。

「エナちゃん、緊張しなくていいよ。リラックスリラックス」

 ニッコリ笑う景都さんは、今、私の裸を目の前にして何とも思ってないみたい。

 そう、分かってる。

 貴方が、女なんかに興味ないこと。

 それでも、私は貴方が好きなんです。

 貴方が、どんなに遠くても、私の気持ちは、変わらない。

「そこに座って楽にしてて」

「はい」

 まだ、緊張も何も治まらないけど、景都さんの指示通りに動く。

 椅子に座って、ずっと同じポーズで固まっていなくちゃいけないのだと思ってたけれど、そんなことはなくて、考えていたよりは自由だった。

 ただ、私を見つめる景都さんの瞳は真剣で。

 何も纏わない私の体を見られていると思うと、体中が熱を持ち、有り得ない程に心臓が脈打った。

「……エナちゃん」

「は、はい!?」

「エナちゃんの体、凄く綺麗。いい絵が描けそうだよ」

「え! あ……どうも、ありがとうございます……」

 うう……そんなこと言われたら、もっと赤くなっちゃう……。

 時間が来るまで、景都さんは私を褒め続けて。

 終わる頃には、私は完璧な茹蛸になっていた。








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