【プロローグ】
古い小説を少し修正しつつ更新して行きます。
「おはよう、エナちゃん」
高校への通学路。
いつも通るこの道には、三階建ての小さな可愛いマンションがあって。
いつも、頭上から降ってくる声。
二階の右端、窓から、笑顔で私に手を振る人。
「おはようございます、景都さん」
私も、笑顔を返す。
「今日も頑張ってねー！」
はしゃいだ様に身を乗り出して、ぶんぶん手を振る姿が可笑しくて、つい笑ってしまう。
「あはは！うん、頑張るー！」
これがいつもの、朝の挨拶。
景都さん――水橋景都は、今売り出し中の画家さんで。
三ヶ月前、窓から景色をデッサン中の景都さんのマンションの前で、私は派手に転んだことがあった。
大いに笑ってくれちゃってさ。
それからは、この挨拶が日課になった。
でも、それだけ。
景都さんのことは、あまりよく知らない。
画家さんで、あのマンションに一人暮らしで、二十六歳だってこと。
ハッキリ言って二十六歳には見えないのですが……。
私より幼く見える、あの笑顔。
茶色い猫っ毛が、更に幼く見えて。
窓からの景都さんしか知らないから。
余計そう思えるのかな。
「エナ？エーナ！」
「……へ？あ、何？」
「何じゃないよ、ホームルーム終わったよ！」
「ええ！？」
あちゃー……。
考え事してて授業全部終わっちゃうなんて……相当な空想力ね。
「じゃーねー」
友達と別れて、家に繋がる道を歩く。
景都さんのマンションが、見えて来る。
目の前に差し掛かると、階段を降りる音が聞こえて。
同時に、素っ頓狂な声。
「あれ！？」
「わ！景都さん！？」
声の主を振り返ると、いつもより低い位置にあの幼い顔があって。
でも、予想よりは背が高かった景都さんがいた。
「エナちゃんだぁ」
ふにゃっと崩れる顔。
その笑顔は、地上でも変わらなかった。
……って当たり前だけど。
けれど、均整の取れた細身の体にスラリと伸びた四肢。
近くで見ると、可愛いと言うよりも、綺麗な人で。
男っぽい黒のパンツとジャケットは、不似合いな筈なのに、キチンと着こなされていて。
何故だか、鼓動が速まった。
「エナちゃん今帰り？」
「あ、はい！ そうです、帰りです！」
慌てて答えた私に、景都さんの目が丸くなる。
けど、すぐに崩れて。
「そっかぁ、気を付けて帰ってね」
ニコニコしてる景都さんに、頭を撫でられた。
触れられたのも、もちろん初めて。
その瞬間、フワッと香った優しげな景都さんの匂い。
妙に私の胸を擽った。
景都さんは絵の参考にする写真を撮りに行くとかで、私達はすぐに別れた。
「また明日ね」
景都さんのその言葉が、何でか凄く嬉しかった。
初めて間近で見た景都さんだったのに、まともに見れなかったのが悔しい。
何で見れなかったのか、分からないのだけれど……。
読んで下さりありがとうございます☆是非、最後までお付き合い下さい。
