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奇妙な小話シリーズ

死神

作者: 藤原建武

 前日、母方の祖母が亡くなった。複雑な事情で、血縁的なつながりはない。近くに住んでいることもあり、お世話になったことがある。

 前日とはいったが、時間的に、一昨日のことになるかもしれない。深夜零時を回った頃だった。

 習慣になりつつある執筆で、パソコンに向かっていた。家の間取りを説明すると、二階建てで、玄関を抜けると廊下があり、途中に居間とトイレを挟んで、台所がある。食事をする机にパソコンを置いて、そこで作業をしている。

 そうして零時を回った頃。ガチャリ、と玄関の鍵が解錠された音がした。

 夜遊びしている妹が帰って来たのか?

 聞き咎められるのをおそれて、タバコを半ばで揉み消す。少しして、違和感を覚えた。ドアノブには鈴がさげられている。玄関を開ければ、音が鳴って、誰か来たのが分かる。

 それがなかった。半ばで捨てたタバコを惜しむと同時に、何やら不気味な思いがした。

 祖母が来たのか。そんな気がした。深く考えないことにして、音楽をかけて気を紛らわせた。

 再びパソコンに向かうが、調子が乗らず、ネタづくりという名のネットめぐりを始めた。

 そうして午前3時。ガチャリ、と玄関から音がした。さすがに、びびったというのが本音だった。いや、これは帰ったのかもしれない。

 なんとなくテレビを点けた。音でごまかそうとした。適当に回したチャンネルで、懐かしい映画がやっていた。途中からだったが、それを見る。

 十数分が経った。CMに入る。やたら長い。それでもすることがないので、画面を見ていた。その時、左目の視界の隅で、ゆらゆらと飛ぶものを見た。蝿とも違う。ゆっくりと、上下に舞う。蝿ならもっと直線的に、早く飛ぶ。というのもこの部屋には蝿がいる。

 別に怖いのが苦手というわけではない。ただ幽霊が怖いかと聞かれれば、素直に怖い。しかし経験上、この手のは振り向くといない。だから振り向こうとはしなかった。

 そして次のCMで、寝室がわりにしている居間に入り、そこで続きを見た。

 午前4時を回った。ガチャリ、とまた音がした。真後ろで。僕は内心びびりながらも、強い心で気にしなかった。

 部屋は暗く、離れてテレビを見ていた。これが終わったらもう寝ようと思った。なんとなく携帯電話を開いたから、時刻を見た。4時8分、だったろうか。右の視界の隅に、黒い影が立っていた。人型ではなく、のっぺりとした影。

 これは、あれだな。と、気付かないふりに徹した。振り返らなかったので、いつの時点に消えたかは分からない。しばらくしてから、びびりながら振り返った。いるわけがなかった。

 映画も終わり、テレビを消して、布団に入る。久しぶりに怖い思いをした。すぐには寝付けなかった。

 5時になった頃、救急車の、サイレンが一度だけ鳴った。救急車を呼ぶとき、サイレンを鳴らさないよう頼むことができる。到着の合図だったか。空回りしたような音だった。外でたくさんの足音がした。昨日は消防車や救急車をよく見た。そういう日なのかもしれない。

 またサイレンが、一度だけ鳴った。思った以上に近くで停まっていたらしい。それから眠り、昼頃に父から、近所に霊柩車が停まっていることを知らされた。夜、町内会の会長が母に伝えたところによると、某家のおばあさんが、5時頃に呼吸していないのが発見され、病院に運ばれたが、蘇生かなわなかった。

 その時間、僕が見たもの。本当は、4時前に亡くなっていただろうか。それとも、影を見た時にではないだろうか。

 葬儀は来週だという。祖母と同じ日に、同じ場所で。階が違うだけだった。

 その時また、あの影を見ることになるだろうか。


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