序章
慣れない第三者に挑戦をしたので違和感があるかもしれません。
暖かな日の光が渓谷に降り注ぐ
渓谷を春風が優しく駆け抜け、草木の匂いを人々に届ける
そんな穏やかな渓谷の途中人の話し声の聞こえる場所がある
「いよいよ今日か・・・・」
「早いもんだね・・・・」
「でも天気は、快晴だし。出発日和じゃない?」
広く開いた渓谷の先高い二つの山の狭間を守るようにある岩で作られた城壁の前で口々に談笑をするのは若い男女や少年少女。
一見何処にでもありふれた光景だがこの風景を見たものは、きっと目を奪われるだろう。
何故そんな事が言えるのか?
その理由は、談笑をしている者達にある
なぜならその談笑をしている者達は皆が皆、美男や美女、美少年や美少女と呼ばれるに相応しい容姿端麗な姿をしているのだから。
皆が、漢服を思わせる服を纏い以外・・・・・
髪型や色。
顔付きや年齢。
女性なら、グラマーな者からスレンダーな者まで
男性なら、細い者から鍛えた者まで様々だ。
そんな彼らあるいは、彼女らが笑いあっている姿はまるで完成された一枚の絵ののようであり見る者の目を釘付けにする。
そんな彼らをよく見ているとあることに気づくだろう。
その端麗な容姿に目が奪われがちだがよく見てみるとそこにいる者達の後方に伸びる鹿の角のようなのが二つ下降線を描くようにある。
そんな角を持つ彼らは、龍人族と呼ばれる種族。
武術の修練を好み龍術と呼ばれる独自の術を使う世界的に有名な種族だ。
「お~い、いい加減に起きろ!主役がそれじゃ始まらないぞ!!」
すると今まで談笑していた龍人の一人がそう離れた所にいる一人の人物に声をかけた。
その声に、今まで談笑していた龍人達も視線をその人物に向け幼い龍人の子供達は、その人物の元に駆けていく。
「ムゲン兄ちゃんおきて~!!」
「「「おきろ~~!!」」」
そう呼びかけられているムゲンと呼ばれた人物は、そんな声は聞かずあるいは本当に聞こえていないのか背中の白銀色のクッションに身を預け寝ている。
そのムゲンと呼ばれた人物は、前髪の部分が銀色で他は、黒曜石のような長い黒髪に質素な服を着て整った顔立ちや龍人族特有の角から同族ということが解るが何処か近づき辛い雰囲気を醸し出している。
それは彼の顔が原因であろう。
精悍な顔付きの右半分の口元までを覆うようになにやら雲を纏った龍のように見える紋章が描かれた黒い眼帯をつけている。
その眼帯の近くの肌に傷跡のようなものが見えそれが、言い様のない威圧感を与える。
それ故に近づきづらい雰囲気与えるはずなのだが・・・・・・・
「「「「おきろ~~~!!!」」」」
「ぐぇ!!!」
幼い龍人達は、そんなこと関係ないかのように彼の腹に飛び乗る
その突然の事に変なうめき声を上げて飛び起きるムゲンと呼ばれた青年。
「いっつ~~~う・・・・・ふっ・普通に・・おっ・起して・・く・・れ・頼むから。」
「「「「だって兄ちゃん普通に起しても起きないから~~~~」」」」
痛みから解放されての青年の一言は、幼い龍人達の正論に粉砕されうな垂れる。
そんな青年で遊ぶ幼い龍人たち・・・・・・
うな垂れるムゲンをいじる幼い龍人達とそれを微笑ましそうに見るほかの龍人達。
温かな春の風がその場を駆ける。
「ふふふっ」
すると何処からともかく若い女の笑い声が聞こえた。
その笑い声は、決して大きくはないが不思議とその鈴のような声はよく響いた。
すると近くにいた龍人の青年がその声の主に気づき声をかけた。
「シルフェニア様もいらっしゃったのですか?」
その声に、他の龍人達も笑い声の音源・シルフェニアと呼ばれた若い女性に視線を向ける。
シルフェニアと呼ばれた女性は、他の龍人達と同じ様に特徴的な角を持っていることから同じ龍人族の者だろう。
しかし彼女の場合それよりも目に行くのは、その容姿だ。
もともと容姿端麗な者たちばかりの龍人族だが彼女は、その中でも群を抜いての美貌だろう。
降り積もった雪のような白銀の綺麗な髪を腰まで伸ばし、綺麗の中に可愛いを付け加えたような顔付き、スカイブルーの瞳。
服装も他の龍人達と違い背中に些か立派な模様の描かれた巫女服にきっちりと包み込んでいるがそれが余計に彼女の抜群のプロポーションを浮き彫りにしている。
しかし不思議に妖艶さが出てこないのは、彼女の持つ神聖さにも似た清楚感や醸し出している温かな雰囲気からだろう。
「ええ。ふふっ」
相変わらず鈴の音のような澄んだ声で返事を返す彼女だが視線は、変わらず幼い龍人族達にいじられるムゲンに向けられている。
その視線に気づいた龍人族達は、彼女に彼までの道を譲った。
その事に礼を言いつつ、歩みは青年の方へと向かう。
すると途中彼女の存在に気づいた幼い龍人の一人が彼女に駆け寄る。
それに微笑みつつ抱き上げるシルフェニア
それに気付いた他の幼い龍人達は、青年から彼女の周りに集まってきた。
「シル様~~こんにちは!」
「ふふっ、こんにちは。」
「あっ!ずるい~~僕も!」
「あたしも!!」
ひとりの幼い龍人を抱き上げるとそれに自分もとねだる幼い龍人達に囲まれ微笑みながら頭を撫でる。
「ふふっ、私そんなに力持ちじゃないからみんなを抱き上げること出来ないのだから、ごめんなさい。あと、ねぇ?・・・少しムゲンとお話しをしたいんだけどいいかな?」
「「「「え~~。」」」」
彼女の言葉に渋る幼い龍人達に困った表情を浮かべていると今までこちらを見ていた龍人族達の中から名前を呼ぶ声女の声が聞こえた。
その声に若干迷いを見せるがすぐ幼い龍人達は、その声の元に駆けて行った。
彼女が抱えていた幼い龍人もお礼を言いつつ駆けていく。
その声の主達は、恐らく彼女あるいは彼らの母親たちの声だろう。
彼女が視線を声の聞こえた方に視線を向けるとすまなそうに軽く頭を下げる数人の女の龍人がいた。
それに微笑みながら顔を横に振るシルフェニア
それに再度頭を下げ己の子供を抱える龍人達、すると再び談笑の声が響きだした。
さらに不思議と皆が彼女に背を向ける形になっている。
それに彼女は、何故か頬を薄く朱色に染め軽くお辞儀を彼らの背にする。
そして体制を直し視線を前即ちムゲンに戻すシルフェニア
そこには、何処か疲れた顔で胡坐をかきうな垂れるムゲンがいた。
その様子に再び静かな笑い声を上げるシルフェニア
すると彼女に気付いたのかムゲンは、視線を上げると彼女にどこか疲れたような声をかける。
「おう・・・お前も来たのか、シル」
「ふふっ。えぇ、相変わらずの人気ね。」
「いくら何でも限界があるだろう・・・・それに俺は、お前ほど子供好きではないしなぁ~~。」
はぁ~~っと疲れたようにため息をつくムゲン。
シルと言うのは、恐らく彼女の愛称だろう。
その様子に相変わらず静かな笑い声を上げ彼女は。そのまま何の躊躇もなく胡坐をかく彼の即ちムゲンの上に座る
ちょうど左腿に腰を下ろし両足を彼の右足の方に向ける所謂女性座りのような体制だ。
その彼女の行動は、予想外だったのか些か慌てた様だが彼の左腕は彼女の腰を支えている。
「おっおい、どうしたんだ。」
「妬いてくれた?」
「・・・・馬鹿か。そんなんじゃねぇよ。」
そう言うムゲンに、残念。っとからかい口調に言うシルフェニア。
その様子に再度疲れと新たに苦笑を混ぜたため息をつく
すると今度は、身体をムゲンに向けそのまま彼の胸に抱きつき顔を押し付けるシルフェニア。
その行動は、今度は何だという怪訝そうな顔をするムゲン。
しかし、彼女の様子が普段と些か様子違うことに気付いたのか戸惑う様に声をかけた。
「おい、どうした「無事に帰ってきて、絶対に。」ん・・・だ・・・」
彼の言葉を珍しく遮りそう言い切ったシルフェニアは、黙りきってしまったが彼に抱きつく力は、緩まずにそれどころか強くなった。
2人の髪を風邪が揺らす。
久しく何が言いたいのか気付いたムゲンは、苦笑を浮かべ彼女の頭を撫でる。
彼女の艶やかな髪は、彼の指の邪魔をせず流れた。
「え?」
「まぁ心配するな!ほどほどに頑張ってくる!」
自分の胸から顔を優しく離しそういい笑うムゲン
しかし今だに彼女の顔が晴れない事に気付いた彼は、その頭をやや乱暴に撫でた。
シルフェニアは、予想外の彼の行動にやや拗ねた様な顔をしながら髪を直した。
「もう髪は、女の命ですよ。もう少し優しくしてください」
「いつまでも暗い顔しているお前が悪いんだよ。お前は、家で土産でも楽しみにしてろ!!」
そういって笑いながら再度彼女の髪を乱暴に撫でる
それに彼女は、文句を言うがその顔は内容に反し笑みを浮かべて抵抗する。
「まったく、乱暴なんですから・・・・・・それにお土産って」
無茶苦茶ですよっと笑うシル
「まぁ~~そういう事だ。心配してくれるのはありがたいが気軽に待っていてくれ。」
そういい苦笑する彼をしばらく、見つめるシルフェニア。
すると何かを思いついたのかそっと微笑む
「それじゃ、御守りがあった方がいいですね。」
「御守りって?・・・ウッ」
首を傾けるムゲンの首に腕を回しすシルフェニア。
そしてそのままの勢いで唇を合わせる
「ウッ・・チュッ・・・ぷは!」
深い口付けと漏れる息遣いと共に離した唇から銀色の糸が伸びた
「な、何を?」
戸惑うムゲンを他所に自分の唇を撫ぜるシル
「御守りだよ。導魂教の大巫女である僕、自らだから大切にしてよ。」
そう悪戯が成功した少女のように笑うシルフェニア
突然の行為と彼女の表情に呆然とするムゲン
「全く仲がいいのはいいが、場所を考えてくれるとありがたいのぉ~~」
するといまだに呆然と固まるムゲンを見つめるシルフェニアの後ろから声が響く。
その声に僅かにピクッとシルフェニアの体が反応したが何事も無かったかのように振り返る。
「あら?夫を心配するのは妻として当然ではありませんか教主様」
そう返すシルフェニアの視線の先には一人の老龍人が居た。
教主と呼ばれた老龍人は、滅多に老いることの無い龍人にしては珍しくその顔には深くシワが刻み込まれていた。
しかし決して腰は、曲がっておらずピンと姿勢を伸ばしその白い髪を首の後ろで小さく縛り、胸まで伸びる白い髭を撫でていた。
彼も他の龍人族と同様特有の角を持つが二つある内の左の角が半ばから折れている。
服装もシルフェニアと何処か似ていながらなにやら背に大きく紋章の描かれた白い上着と先端に翼を広げた竜のような彫刻が刻まれた木の杖を持っていた。
本来なら威厳に溢れるだろうその顔は、今は悪戯そうに笑っている。
「夫を心配するの妻として当然、とな。”地”の自分をだしてよういうわ。じゃが、確かにソナタの言うことに間違いはないがソナタの今の服装と赤くなった顔。それに周りの様子を見てそれをいえるかのぉ~~~~」
「えっ?」
何のことか解らないと言った顔のシルフェ二ア
言われたように自分の服装を見てみるとそこには胸元が乱れ白い豊かな胸の谷間が顔を覗かせておりあと少し乱れていれば恐らく先端が顔をだしていた事だろう。
恐らくムゲンとのじゃれ合いで築かないうちに肌蹴て居たのだろう。
彼女の着ている巫女服が前で左右を合わせる物だというのと彼女のスタイルの良さが災いしたとも言える。
「あっ」
それに気付き慌てて服装を直し、周りを見てみると・・・・・・・・
「つっっっっ///////」
老龍人に視線がいっていたせいで気付かなかったのか、それともその存在を忘れていたのか。
そこには、自分に背を見せていた筈の龍人達がこちらを見ていた。
ーーー子供の龍人は、大人の龍人によって目隠しをされ
ーーー恐らく一人身の若い青年龍人は、気まずそうに視線をはずし
ーーー若い女の龍人達はお互いに手を取りあってなにやら喋る
ーーー夫婦か恋人同士だろう龍人達は、手を繋ぎ微笑ましそうに見る
それに気付いた彼女は、あまりの不意打ちに顔を更に赤らめる。
そこに更に追い討ちをかける老龍人族。
「言えるかのぉ~~~~シルや。」
「・・・・・・お爺様の意地悪。」
そう小さく吐きまるで隠れるかのようにムゲンの胸に顔をうずめるシル。
そんな彼女の様子と言葉にカッカッと愉快そうに笑う老龍人。
「マルガレット老、あまりシルをからかわないでやって下さい。」
今まで固まっていたムゲンは、回復したのか己が胸に顔をうずめるシルフェニアの頭を撫でつつ疲れたようにため息をつく。
「今までシルに接吻されて固まっておったくせによう言いおるわ。それにシルをからかえる時は、主と違ってあまり無いからの~~からかえる内にからかっておかねばつまらん。」
そう言いさらにカッカッと愉快そうに笑う教主もといマルガレット
その様子に更にため息を付くムゲン
「はぁ~~。そんな事してるとシルに嫌われても知りませんよ」
「おっと、そりゃ困るのぉ~~~名残惜しいがこれくらいにするかのう。」
シル、すまんのぉ~~。と謝る気があるのか無いのか判らないような謝罪をするマルガレット。
「知りません」
しかし肝心のシルフェニアは、そんなマルガレットの謝罪(?)に知らん振りを決め込みムゲンから離れない。
それは、彼女の見た目に反してまるでいじけた幼い少女のようで非常に愛らしく保護欲をかり立たせる。
「困ったのぉ~~~。ムゲン何とかしてくれぬか」
「・・・・なぜそこで私に振りますか?」
「主の妻じゃろうが。それに妻の機嫌を直すのも夫の勤めじゃろう。」
「胸を張って言わないで下さい。」
さも当然のようにいう目の前にいる老龍人に内心理不尽なと思いながら己の愛妻である女性の説得にかかる
「シル、機嫌直せよな」
「知りません」
「マルガレット老も反省してるだろうから・・・・・・・たぶん」
「知りません」
「それにこれじゃ、俺が出発できないだろう」
「・・・・・・」
「それに俺は、いじけた顔のシルに送られたくないぞ~~」
「・・・・わかった。」
そう言い渋々離れ立ち上がるシルフェニア
その様子に感心したようなマルガレット
「手馴れたもんだのう」
「からかわないで下さい。それにそんな事をする為に此方に来たのではないでしょう。」
その言葉にま~のうと吐き目を瞑るマルガレット。
そして再び目を開けたときそこに居たのはさっきのいたずら好きの好々爺ではなく、長としての威厳に満ちたマルガレットがいた。
それにムゲンは、自分の身を預けていたクッションから身を起こして片膝を付く形で頭を下げる
シルフェニアは、そんなマルガレットの横に立ち他の龍人たちも両膝をつき頭を下げる
「導魂教の大巫女シルフェニアの契り人であり、筆頭近衛聖龍騎士ムゲン。」
「はっ!」
マルガレットの重みのある声に先ほど子供に弄られてうな垂れたムゲンからは想像もつかない凛々しい声で返事を返す。
「主も知っての通り先日大巫女の予言の夢見に、”空白”が蘇るといった内容の予知が下った。本来なら全騎士団員によってこの災いに対処すべきなのだがいかんせその内容は、大巫女の先読みを持ってしても不確かであり確証も低い事からいらぬ不安は、大陸中の民の混乱に繋がる故に行動できない。そこで汝がその調査に乗り出してほしい。本来なら近衛聖龍騎士団のましてや筆頭近衛聖龍騎士である汝のする任務では、無い事は重々承知だ。しかし、不確かな予知では、あるが夢見に現れるぐらいだ無視するわけには、いかない。しかし不必要に動けば龍人族さらに導魂教の信用に関わる。そこで大巫女の契り人であり、信頼ができ実力も申し分も無い汝に白羽の矢が立ったのだ。これより汝は、災いが来る中心地になるであろうアルカディア学園へ供の者と入学し調査せよ。なおこの話に関して件の学園の長と話はすんでいる。詳しい話は、向こうの長と現場で話してくれ。なお期間は、学園卒業までとする。それまでの帰郷は、許すし連絡も許可する。しかしあくまで汝は、入学生ムゲンであり筆頭近衛聖龍騎士ムゲンではない。よって聖骸弓並び聖衣の持ち出し及び”眼”の有事以外の使用を禁じる。」
「御意」
マルガレットの言葉に頷いたムゲンは、膝をついた状態で両手を上げ掌を向けまるで何かを差し出すような格好をする。
すると掌の上が白く光り輝きやがてそれが消えると白い立派な弓が現れた。
マルガレットは、その弓を掴み隣に控えるシルフェニアに渡し言葉を続ける。
「なおこの任務は、導魂教の大巫女シルフェニア並び龍人族長老及び導魂教教主並びに六賢老が一人マルガレットからの任務である。そのことを忘れるな、他の者もよいか?」
「「「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」」」」」
その言葉にシルフェニアとマルガレットを除く全員が頭を深く下げる。
その様子にうなずくマルガレット
「よろしい。最後にムゲン聴いておきたい事は無いか?」
「恐れながら二つほど申し上げます。」
よい、と承諾の意を受けたのを確認したムゲンは・・・・・・・・
「先ずひとつに他の六賢老は、動きますか?」
うむっと自分の顎を数回撫でた後マルガレットは・・・・・
「恐らく殆んどが動くだろう・・・・もしかすると向こうで鉢合わせをするやもしれん。その場合必要に応じて協力をするかどうかは、そなたのさじ加減にまかす・・・・あと傷の残らんように努力せい。」
「畏まりました」
そう答えるマルガレットに了解の意で答えるムゲン
「最後にですが・・・・・・・・何故生徒として入学するのですか?恐れながら教師としてでも良いと愚考しますが・・・・・・」
その質問にマルガレットは・・・・・・・・
「だってそれでは、面白くないではないか?」
「「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」」」」
静まる現場
「というのは冗談で、今から行く場所はより専門の知識がいると言うのが答えだ」
そういうマルガレットだが額から冷や汗が流れている。
さっきまでの張り詰めた空気がウソのように消えてなくなった。
「どうかしたのか?」
するといや~な静けさのなか凛とした声が響いた。
「おぉぉぉ!!シンラ着いたか!!!!
その声に助かったとばかりに声をかけるマルガレット
しかしその様子を見てこの場にいる殆んどの者が・・・・・・
(逃げたな)
と思ったのは仕方の無いことだろう。
「はい、少々時間がかかってしまい申し訳ありません」
「何の!何の!!ジャストタイミングじゃ!!!」
そういう、マルガレットに困惑顔のシンラと呼ばれた女性。
この女性は、他の龍人族と同じく角を持っているがその長さは半分ほどで些か耳が尖っており、褐色の肌をしている。
ルビーのような美しい色の髪を肩位で切り、ムゲンと同じ黒曜石のような眼。
格好は、他の者達と違い長ズボンに黒いシャツと羽織を纏っている。
雰囲気が全体的に研ぎ澄まされた名刀のような感じであり服装も相まって男のようである。
しかし、ピッチリとした黒いシャツを女性特有の豊かな膨らみが些か窮屈そうに押し上げている。
男の凛々しさと女の魅力が合わさったような女性であり、額にはムゲンの眼帯と同じ模様が彫られた銀色のプレイトの付いた鉢巻をしている。
「ご指令の通り馬車をこちらに先行して参りました。」
「うむ!ご苦労。」
シンラの言葉通り彼女の後ろには、何やら六個の目を持つ馬が引く少し大きめの車両があった
失礼します。っとマルガレットに頭を下げ歩き出す。
その先にいるのは、再び疲れたように銀色のクッションに身を預けているムゲンだ。
彼もシンラの存在に気付いていたのか彼女が言葉を発するより先に話しかけた。
「ご苦労さんシンラ。疲れなかったか?」
「いえ問題ありません。ただいま帰りました主様」
何処か生真面目そうなしゃべり方だがその口元は微笑型に孤を描いている。
「これから迷惑をかけると思うが宜しく頼むな」
「いえ、私こそ全身全力でお力になります。」
そういいお互い握手をする二人
そこに馬車を後ろに控えさせたマルガレットが来た。
「さて互いの挨拶が済んだようじゃな。知っての通りシンラは、主のサポート全般を担当する。いらぬ心配じゃと思うが仲良くな。そろそろ出発じゃぞ」
恐らくニヤッという表現がピッタリの顔のマルガレットを視界に入れないように車両へと向かうため立ち上がるムゲン
すると目の前にシルフェニアが俯きながら立っていた。
「シル・・・・・」
その様子に些かきまずそうに声をかけるにムゲンに視線を上げるシルフェニア・・・・・
「いってらっしゃい・・・・・あなた」
そう悪戯っ子の様な笑顔を見せる己の妻に・・・・・・・
「・・・ああ、行って来る。アイリンの事頼んだぞ」
何処かほっとしたようなため息をつき笑みを返すムゲン
「ええ、アノ子の事だからあなたの後を追っていきそうだしね。私と同じでお父さん大好きっ子だから・・・・」
まったくと困った風に言うシルフェニアに苦笑いをし再び歩き出す前に後ろを振り向くムゲン。
「今まで背もたれにしてて悪かったなだけどおかげで楽だったよ・・・・ありがとう”フェイト”」
彼の呟いた言葉に・・・・・・
「ガルゥ」
彼が今まで彼が身を預けていた銀色のクッションから聞こえやがて立ちあがった。
今までクッションのように見えていたのは銀色毛皮のオオカミだった。
だがふつうのオオカミと違い前に羊の角の様な物が生え瞳の色は、澄んだ紫色である。
あと胸毛の部分にある黒い弧を描いた月のような模様が特徴的だ。
額に十字架を鎖で縛るのような形をした紋章が描かれておりその事から”契獣”だということが判る。
フェイトと呼ばれた契獣は、ムゲンの後に続くように立ち上がり歩いてくる。
「がんばれよ!!」
「しっかりね!!」
「これ以上女房増やすなよ!!!」
歩くムゲンにそう言葉をかけて来る同族達に答えつつ一部拳で語り馬車の前に着くムゲン。
「かっかっ!!相変わらずの人気じゃのう」
「ええっ。快く送り出してくれるの嬉しい事ですが、何か恥ずかしいですね・・・・・」
そう言い恥ずかしそうに自分の左あごをかくムゲン
「それだけ慕われているという事じゃ。」
「そうなのでしょうか?」
「そういうことじゃ。もちろん先にも言ったがワシも主を信頼しておる。それに実質入学のようなものじゃからそう気をはらんでも良い何も無ければそれで終いじゃからな。シンラともイチャイチャでもしてこい。」
「イチャイチャってやはりシンラを補佐役につけたのは・・・・・」
「もちろん。ア奴は、主とシルに遠慮しておるからのう。たまには甘えさせてやらぬか。」
「確かにその事は、自分自身思う所があるのでありがたいのですが・・・・・・」
「何、シルの事なら気にするな。その証拠にほれ、見てみるがよい。」
そういいマルガレットが指さす方に視線を向けるムゲン
すると・・・・・・
「た、確かにいらない心配だったようですね」
「じゃろう?」
そういうムゲンの視線の先には、シルフェニアに何やら耳元で囁きられ普段の凛々しい表情は消えてなくなり褐色の肌でも判るほど赤くし慌てているシンラの姿があった。
「まったく・・・何を囁いたのじゃろうな?少なくともアノ慌てようなら主は、退屈も寂しい思いもせずに済むじゃろうな、この幸福者が。」
その光景を見ながら彼の肩を叩くマルガレットに複雑そうな顔をするムゲン。
だがやがて背を向けて馬車に向かう二人。
「さて、そろそろ世間話も程ほどに出なければならぬ時間じゃろう。」
そう言い自ら馬車の扉を開けようとするマルガレット
それに慌てて自分で開けようとするムゲンを尻目に「かまわぬ。」といい自ら扉を開ける。
中は、向かい合う形に四人座れる大きさで座る部分も柔らかそうなソファーのようであり窓は、入り口となる左右には無く前後の部分に横長な小窓が付いているだけである。
「学園まではこの馬が連れて行ってくれる。座り心地は、良いが景色が見えぬのは少々我慢せい。」
そういいこちらに振り返るマルガレット
「先にもゆうたがこれは、実質入学と同じことじゃ。あまり難しく考えずに友をつくり、共に学び親交を深めて来いお主は、まだ若いのじゃからな」
「若いといわれても今年で五百二十五ですよ、俺。」
「そんなのワシに比べたら天地程の差があるわい」
そういい残して入り口を譲るマルガレットに思わず苦笑しながら思う。
(あなたより年上の人などこの世にいるんでしょうか)
「それじゃ行ってまいります。妻子や部隊の事よろしく頼みます」
「うむ、心得ておる」
「フェイトも妻子や皆の事護ってくれよ」
「クゥ~~~ン」
そういうムゲンに寂しそうに鳴くフェイト
ムゲンは、その頭を撫で馬車に乗り込む。
そのあとにいつものようなキリッとした顔つきのシンラが来たが本人は、いつもどうりを装っているつもりだろうが些か顔が赤い。
馬車の前に着きムゲンの隣の席と正面の席をしばらく見比べ正面に座る。
その様子に苦笑するマルガレットが声をかける
「気をつけてな」
「はい、行ってまいります教主様・・・・お気遣い感謝致します。」
返事を返すシンラの声は後半は、萎みムゲンにはよく聞き取れ無かったがマルガレットは、思い当たることがあるのか小さく首を振る
「それでは閉めるぞ」
そういうとマルガレットは、扉を閉める。
すると馬は、独りでに走り出した。
その様子に見送りの龍人たちは、馬車に手を振って見送りだした。
「ついに行ってしまったの」
「はい」
いつの間にか自分の隣にいたシルフェニアに語りかける。
「お主も一緒に行きたかったであろうにすまんな」
すまなそうに言うマルガレットにシルフェニアは、首を横に振る
「確かに・・・一緒に行きたかったかと聞かれれば、はいと答えます。愛する者と共に居たいと思うのは、妻として一人の女として当然の感情です」
ですが・・・・。そう言い区切りまっすぐとマルガレットを見るシルフェニア
「僕は、ムゲンの正室の妻だよ。お爺様やみんなには悪いけど僕にとっては、大巫女であるよりもそれがとても大切なことなんだ。わがままを言ってムゲンを困らせたくない。手をひかれるんじゃなくて隣に立ちたい。支えられてばかりじゃなく逆に支えたい。ムゲンの一番の隣は、誰にも譲りたくない・・・シンラには悪いけどこれは譲らない。きっとこれからもムゲンに魅かれる人は、一杯出てくると思う。それこそ男女問わずに・・・ううんきっともういると思う。そんな事僕が一番解っている。だからこそ証明したい誰がムゲンにとっての一番なのか」
そういい真っ直ぐと言い放つシルフェニアにマルガレットは、本来なら組織において個の意見は、尊重されない寧ろ咎めるべきなのだろうが事情を知るマルガレットは、その顔に笑みを浮かべ何処か孫の成長を喜ぶような顔つきだ。
それに・・・・そういい区切り馬車の走っていった方角を見るシルフェニア
馬車の姿は、小さくなっていたが回りの龍人たちは手を振るのをやめない
それに優しい微笑を浮かべたシルフェニアが語りかけるように言う。
「今までムゲンは、あらゆる壁を射抜いてきたから今回もきっと大丈夫だよ。僕たちは、帰って来る場所を守ろう。」
「そうじゃの・・・・・」
そう言い二人は馬車に視線を向けその姿が完全に見えなくなるまで見送った。
「ああ、そうだお爺様・・・・・・先ほどの事について詳しく話を御聞かせ下さい」
「え・・・・・」
風は、渓谷を抜け世界を旅する
そこで様々な事を目にする。
悲しい事、嬉しい事と様々だ。
しかし風は、何も感じない。
風は、旅人ではあるがその人では、ない。
故に風は、何も感じない。
しかし風は、見るこの世界の全てを・・・・
この広大な世界を今日も・・・・・・
どうも帰って来てしまいました。
しかも新作の投稿です。
前回書いていた作品は、コンピューターの故障で設定が粉砕され意気消沈しましたがまた気持ちを新たに頑張りたいです。
更新並びに分量が不確かですがどうか温かい目で見ていただければ幸いです。