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転生の責任はとらせていただきます  作者: 宵紘


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転生の責任はとらせていただきます 2


 卒業パーティーの大号泣謝罪から数日後、アルデバラン邸には、攻略対象者とヒロインと悪役令嬢が、揃ってお茶をしていた。彼らを招いたのは勿論、わたくしですわ。


「アルバート様は、いつからご存知だったのですか?」


「うん? お前たちの前世とやらのことか?」


 アルバート様とわたくしの二人を残して、あとの面子は好き好きに庭を眺めに席を立っている。我が家の庭などとっくに見飽きているわたくしたちは、自然と席に残る形になったので、せっかくだし単刀直入に疑問をぶつけることにした。


「そうだな……。最初はチェリーナの行動に違和感を覚えたのがきっかけだった」


「わたくしの行動、ですか?」


「そうだ。幼い頃から婚約者としてそばで見ているからな。理由までは分からなかったが、お前が無理をしていることはすぐに分かった」


 それはちょうど、お姉ちゃんが学園に編入する前後のこと。わたくしが、ある種の『貴族令嬢という型』に異様に固執し始めたように見えたと、アルバート様は言う。


「王太子妃という重責が目前に迫り、知らず知らずのうちに追い詰められているのではないかと初めのうちは心配していた。だが、サーヤが編入し、共に学園生活を送るようになってみると、彼女にだけ特別辛く当たるようになっただろう? レオンと二人で、これはおかしいと、そういう話になったんだ。なぁ?」


「はい。あの頃のチェリーナ嬢は、正直、挙動不審でした」


 いつの間にか戻ってきていたレオンハルト様は、席につきながらハッキリとそう指摘した。彼も、アルバート様付きの近衛騎士として、幼い頃からわたくしと面識がある。その彼に挙動不審とまで言わせるなんて……。ゲーム再現ってそんなに変なことだったかしら?

 なんの話? と、少し遅れて戻ってきたお姉ちゃんと、マルクス様とクリス様が席についたので、そのままお茶会を再開する。


「あぁ、あの当時のチェリーナ嬢の話ですか。あれは確かにやりすぎでしたね。大衆演劇の売れない役者かと思ってしまうほど芝居がかっていて、少し鼻白んだくらいですよ」


「え!? そんなに酷かったのですか!? 自然な悪役令嬢をやっているつもりでしたのに……」


 クリス様の客観的視点から繰り出される冷静な指摘は、誰に言われるよりも心を抉られる。わたくしの演技がお遊戯会レベルだったって言いたいのでしょうけど、もうちょっとオブラートに包んでくれてもいいじゃないかしら……。


「自然不自然以前に、そもそも悪役令嬢とはどういった人物を指すのか分からないが、まぁ、クリスの言った通りだな。お前の言動の不審さが目につき、これは二人の間になにかあると踏んだ私が、サーヤに心当たりがないか直接聞いてみたんだが……」


 アルバート様がお姉ちゃんに視線を送る。お姉ちゃんは困ったような顔で軽く笑うと、話のバトンを繋げてくれた。


「声をかけていただいた時、私は混乱していました。サーヤとして生きてきた記憶と、サヤとして生きていた記憶の両方があると気づいた頃だったので、頭の中を整理するのに手一杯でした。ただでさえ貴族社会に慣れていないのに、そんな事になって……。周りを見る余裕も、気を使う余裕もありませんでした」


「そんな状態の彼女に、心当たりもなにもあったもんじゃないからね、秘密裏に僕のところに連れてきてもらったんだ。魔力の研究ついでに、東方諸国の魂という概念に興味があったから」


 お菓子を口に放り込みながら、マルクス様が嬉々として魂と魔力の関係性について語り出した。わたくし以外の全員が、また始まったという表情で、話半分に聞き流している。

 わ、わたくしは興味がありましてよ!? 今まで聞いたことのない内容ですし、オタク特有の饒舌も前世で慣れておりますから、ドンと来い、ですわ!


「……なるほど。マルクス様のお話を要約すると、サーヤ様とわたくしの魂の質が同じ、ということですわね?」


「そういうことだね。色々省くけど、魔力が尽きると人は死ぬだろう? そして、死んだ人間からは嘘みたいに魔力反応が消失する。それを根拠として、生命そのものと見なされている魂というものと、魔力の源はイコールなんじゃないかと仮定してみたってわけ。僕やアルバート、その他の皆が持つ魔力と、君たち二人の魔力は色というか質というか、まぁ呼び方はなんだっていいけど、そこに特有の違いがあったんだ」


 一度死んで世界を渡ってきたっていう証拠みたいなもんじゃない? と、マルクス様は軽く言ってくれますが、多分そんな簡単な話ではない気がしますわ。そして、今の話の中には世界がひっくり返るような情報が含まれていたと思うのよ。……この方、守秘義務とかそういうの守れないタイプっぽいわね。大丈夫なのかしら?

 まぁでも、それで前世というものに納得ができるのなら、今は置いておきましょうか。重要なのはそこではないのだし。わたくしは自分に関わる内容以外は聞かなかったことにいたしますわ!

 わたくしの思考を見抜いたのか、サーヤ様はクスクスと小さく笑い、マルクス様の明後日の方向に進み出した魔力についての話題を軌道修正してくれた。


「マルクス様の仮説を聞いて、イチカのことが真っ先に思い浮かんだの。学園に入学する時に、事故の直前までイチカが話してくれていたゲームの世界に生まれ変わってるかもしれないって思ったから……。今考えるとおかしいんだけどね。あの時の私は、イチカが私と一緒に生まれ変わってるんだって思い込みたかったんだと思う」


 事故、と聞いて、わたくしの心臓がきゅうっと絞まる。ヒロインの幼少期は恵まれたものではない設定だった。よくあるシンデレラ方式。お姉ちゃんを事故に巻き込み未来を奪っただけでなく、過酷な幼少期を過ごさせてしまった罪悪感が首をもたげる。


「そして、チェリーナ様の様子を聞いて、意図的にゲームの中の悪役令嬢になりきろうとしてるんじゃないかってアルバート様に話したの。だって、イチカならそうするでしょ?」


 間違ってなかったと得意気なお姉ちゃんは、昔となんにも変わってない。イチカのことをわたくしよりも知ってる、そんなお姉ちゃんが今ここに居てくれてる。それが嬉しくて、でも恥ずかしくて、さっきまでの罪悪感は簡単に吹き飛んでしまったわ。

 照れ隠しに拗ねた態度をとってみたけど、膨れた頬をお姉ちゃんが面白そうに指でつつく。もう! 面白がらないで!


「そもそも、表向きはきちんと公爵令嬢として取り繕えているが、お前の本質は怠け者だからな。よく王妃教育のあとに、私やレオンに愚痴をこぼしていたろう? それを急に、外も中も完璧な令嬢というのは……付け焼き刃の努力でどうにかできるものではないと思うが?」


「な、なんてことを仰るのですか!? た、たとえ愚痴をこぼしていたとしても、勉強自体は真面目に励んでおりましたでしょう!? 完璧な悪役令嬢どころか、な、怠け者だなんて、そんな……」


 ……ショックが大きすぎて、マリアナ海溝の底まで沈めそうよ。……この世界にはないけど。

 しおしおと表情筋が変顔を作る。チェリーナのような貴族の仮面なんて、最初から被れていなかったのかもしれないわ。記憶を取り戻す前から、イチカとしての自分が全然隠せていなかったということじゃない……。


「そういうことではないのだがな……まぁいい、そう落ち込むな。完璧な人間など存在しない。その悪役令嬢とやらも、お前には無理だったということだ。私もお前も、得意不得意があるのだから、お互い補えあえばいい話だろう? お前に欠点があっても私は構わない。幼い頃から私が伴侶として求めているのは、どんなことでも全力で乗り越えようとする、そういうチェリーナなのだから」


 横からついと顎に指が伸びてきて、促されるまま顔を上げれば、アルバート様の美麗なご尊顔が目の前にあった。お姉ちゃんだけでなく、彼まで得意気な表情に見えるのは気のせいだろうか。

 そうよ、アルバート様の言う通り、完璧な人間なんていないわ。わたくしたちは聖人や神ではないのだから、苦手なことがあってもいいのよ。悪役だって、最初から向いてないのは分かってた。

 それでも、わたくしがなりたかったのはエフラブの悪役令嬢、チェリーナ・アルバトラスよ。気位の高い、絵に描いたような生粋の貴族令嬢にならなければ、お姉ちゃんがハッピーエンドを迎えられないから、わたくしは頑張ったのに……。


「──チカ、イチカ! 悩んでたのは分かったけど、考えてることが口から全部漏れてるよ! まったくもう、前から気をつけないとダメだって言ってたじゃない。相変わらずなんだから……」


 慌てて口を抑えてみるけど、なんの意味もないことは分かってる。両隣りに座ってるアルバート様とお姉ちゃんくらいにしか聞こえてなかったみたいだけど、ヤダもう、ただただ恥ずかしい……。


「ねぇ、イチカ。ずっと聞きたかったんだけど、私の……つまりヒロインのハッピーエンドって、なに?」


「え? ヒロインのハッピーエンド?」


 アホみたいに聞き返してしまったけれど、わたくしの穴があったら入りたい気持ちを察してか、お姉ちゃんが話題を変えてくれた。

 そうね、改めてハッピーエンドとは? と考えてみる。確かに、普段ゲームをやらないお姉ちゃんは、ゲームのエンディング自体、ハッキリ知らないのかもしれない。

 このゲームの、という意味なら、婚約破棄イベントが有耶無耶になってしまった今、お姉ちゃんのルートがどこにあるのか分からなくなってしまった。この四人の中の誰かと結ばれる個別エンドなら、まだ修正可能範囲内かしら? でも、この四人かぁ……。


「乙女ゲームっていうくらいだから、多分、私が恋愛するのが前提なんだよね?」


「うん、お姉ちゃんがヒロインで、攻略対象の誰かといい感じになって結婚するのがゴールだよ」


 攻略対象という言葉と共に、この場にいる4人の顔を順に見渡す。アルバート様はわたくしと目が合うと微笑返してくるし、レオン様は真顔。クリス様は渋面というか、なんとも嫌そうな表情ね。マルクス様に至っては最早興味すらなさそうだわ。なんなのよ、あなたたち。


「あのね、頑張ってくれたイチカには、ほんっとぉに言いづらいんだけど……私、ここにいる誰ともそういう感じになってないんだよね」


「え!? 誰とも!? だってお姉ちゃん、あんなに皆といちゃいちゃしてたじゃん!?」


「いちゃいちゃとか言わないで! あれは全部フリとか不可抗力だったの!」


「フリってだって……本当に……? ホントに誰ともフラグ立ってないの?」


 唖然としたわたくしに対して、お姉ちゃんは申し訳なさそうに頷いて肩を落とす。えぇ……嘘でしょう? 学園内どころかお忍びデートに行ったりしてたじゃん。パーティイベントのエスコートも当然のようにされてたし、親密な雰囲気で二人っきりで話したりさぁ。ゲーム中の好感度上げそのまんまの行動してたよね!?


「サーヤとの話し合いの結果、お前の行動や目的にある程度予測を立てた。あぁ、乙女ゲームの話も聞いたぞ。お前たちの言うゲームとやらを真に理解することは難しいが、チェリーナが悪役を演じているのではと聞いて、思うところはあったからな」


 苦労したと言わんばかりにため息をつきながら、足を組みかえる姿さえも絵になるアルバート様。これ、もしかしなくても、わたくし責められてます? 初めから相談しろって暗に示してます?


「友達で乙女ゲームをやってる子がいたから、大体の流れは知ってたの。イチカが悪役をやってるなら、その相手に選ばれた私がヒロインということで間違いない。イチカは多分、全力で私のハッピーエンドを叶えようとするだろうし、そうすると、悪役の最後は不幸になるかもしれない。じゃあ誰も傷つかない結末にできるように、今後の対策を立てようってことに落ち着いたの」


「そ、それじゃあ……最初から、お姉ちゃんは……お姉ちゃんたちは、恋愛する気はなかったってこと?」


 頷いたり無言だったり不機嫌だったりと、反応はそれぞれ異なるけれど、全員にその気はなかったのだと示されてしまった。それぞれのお相手にも話は通してあるらしい。そりゃあ大問題になってたりするわけないわなぁ。知らなかったのはわたくしだけなのですって。


「イチカにわざと黙っていたわけじゃないんだよ? 早めの段階から、悪役をやらなくてもいいって言おうと思って色々やったんだけど、なぜか上手くいかなくて。結局、卒業パーティーの日になっちゃった」


 お姉ちゃんは、隙を見ては何度もわたくしと接触しようとしていたらしい。悪役の話はともかく、本当にチェリーナがイチカの生まれ変りなのかを、とにかく確かめたかったのですって。


「容姿は変わってもイチカはイチカだから、生まれ変わって今を生きててくれてるなら、単純に嬉しいなって。それに、血の繋がりはなくなっちゃったし、身分の差はあるけど、私たちなら、サヤとイチカの時みたいな仲に絶対なれるって思ったから。だから、早く確かめたかったの」


 お姉ちゃんは時々、驚くほど頑固になる。それに、根拠だって薄いのに、こんなにわたくしの中身がイチカだって強く確信していたなんて……。お姉ちゃんの愛を感じて胸が熱くなるわ。これが姉妹の絆とでもいうのかしら。魂の結びつきとか呼んでしまう? やだぁ、特別感が最高じゃない。

 照れくさそうに、はにかむお姉ちゃんは天使の如き愛らしさだというのに、この男どもときたら……見る目がないどころの話ではなくってよ!


「当初、我々は、チェリーナ嬢とサーヤ嬢のわだかまりを早々に解決し、普段通りの生活を取り戻す計画でした。ですが、サーヤ嬢の周りで不可解なことや不自然な現象が立て続けに起こり、それらを我々四人で対処するうち、生徒間の噂などが予期せぬ方向で広まりはじめてしまった。……チェリーナ嬢の演技に付き合ったのは苦肉の策だったんですよ」


 お姉ちゃんとわたくしの甘い雰囲気を切り裂くように、クリス様が忌々しげな顔で、この1 一年の間に起きたことを説明しはじめた。わたくしの行動に合わせて動くのは本当に不本意だったと全力で主張してくる。相変わらずいい性格してるわぁ。なによ、わたくしだってちょっとくらい、お姉ちゃんといちゃいちゃしてもいいじゃない。悪役中はだいぶ我慢してたんだから。

 それはそうと、クリス様の事務的な淡々とした語り口がなんか……喋っている間に徐々に興奮してきてない? 雲行きが怪しいわね。ちょっと、大丈夫? 普段の冷静さはどこに行ったのよ。


「……まったく、冗談じゃない!! なぜ私が、未来の宰相という地位を捨ててまで恋に走った、などと言われなければならないんだ!? 身に覚えのないことで、両親と婚約者に責められる私の気持ちが分かりますか!?」


 余程鬱憤が溜まっていたのであろうクリス様が、荒ぶる心情のまま、ダンっ! っと茶器が浮く勢いでテーブルに拳を落とす。あぁ、台パンの影響で零れた紅茶が、テーブルクロスに染みを作っちゃったじゃない。クールが売りのキャラなのに珍しいわ。

 あの『どうどう』という、馬を落ち着かせる呪文で、クリス様を宥めるのは流石に失礼かしら、なんて。怒りの矛先がこっちに向いても嫌だし、心の中でだけに留めておきましょうか。クリス様、どうどう、ですわ。

 ……まぁ、気持ちは分からんでもないのよ。なにせクリス様のご両親である現宰相閣下夫妻と彼の婚約者様は、腹黒で容赦がないことで有名でいらっしゃいますもんね……。笑顔のまま辛辣な言葉を浴びせられる場面が容易に想像できますもの。ご愁傷さまです。


「僕も似たようなもんかなぁ。共同研究してる幼なじみがさぁ、僕と彼女の噂を聞いて研究やめる! って突然言い出して。もう、すごい困ったんだよねぇ。私の代わりに彼女が支えてくれるとかなんとか言ってくるんだよ? 意味分かんないよね。研究に関係ないじゃんって、言ったら泣くし。なんで責められてるのか分かんないんだけど。今もなんか納得してない感じだしさぁ……」


 相変わらずお菓子をつまみながらではあるけれど、マルクス様も疲れた表情を見せる。

 ゲームでは、研究一筋で他のことにあまり興味を持てない彼は、共同研究の条件として、幼なじみから恋人関係を強要されている設定だった。その関係性に悩んでいる所から彼のルートはスタートするんだけど、どうやら現実の彼は、終盤の今になっても恋愛のれの字も浮かんでない様子。幼なじみの性格も違うようだし、鈍感系主人公みたいな、相手の好意にまったく気づいていない状況なのかしらね。

 これは……流石に幼なじみの方が可哀想だわ。思わず口出ししてしまいたいくなるじゃない。鈍い。鈍すぎる。


 二人のため息を横目に、レオンハルト様に目線を移す。彼には結婚の約束をした相手がいたはずだ。設定では確か、婚約未満の関係だったっけ。

 彼のお相手は平民の方で、以前彼が任務で負傷したところを看病してくれた町医者の娘さん。彼女の献身により一命を取り留めたレオンハルト様は、その恩義に報いるため、彼女と添い遂げる約束をしていたけれど、身分の差が障害となり中々認められなかった。そのうち、娘さんの方が地方に嫁いでいってしまうのよね。傷心の彼をヒロインが慰めるわけだけれど……。


「チェリーナ嬢のご期待に添えず、申し訳ありません。自分は、生涯を国に尽くすと決めておりますれば、この身に流れる血の一滴まで、アルバート殿下のものなのです」


「おい、気持ちの悪いことを言うな。お前が頑なに縁談を断るのは単にめんどくさいからだろうが。私の名を出すのが手っ取り早いのは分かるが、チェリーナにまでソレを押し通す必要はない」


 びっっっっくりしましたわぁ……。レオンハルト様とアルバート様の間で、BでLな関係が展開しているのかと勘違いしかけましたけれど、どうやら違うようね。ホッとしたような残念なような……?

 そういえば、レオンハルト様のお家は代々軍務の要職につく優秀な方を輩出されていることで有名な家門ですけれど、女だてらに剣を振るう女傑の一族としても知られているわね。……なんとなく、彼が結婚をめんどくさいがる理由が分かった気がするわ。


 給仕係の侍女にお茶の追加を持ってくるよう指示を出す。最後に注がれた紅茶で喉を湿し、ひと息ついた。

 なるほどねぇ。みんなゲームのような単純なお花畑恋愛脳ではなかったということが分かったわけだけれど、そうなると、ヒロインの明確なゴールがないということになってしまうわ。これはいよいよヒロインのハッピーエンドとは? みたいな感じに……。


「チェリーナ」


「はい、アルバート様」


「私の婚約者については聞かないのか?」


 思わず、うっと喉がつかえたような音が出た。婚約破棄をしていない以上、彼の婚約者は当然わたくしのままだし、なによりヒロインとくっつけようと一番躍起になっていたのは、わたくし自身。誤解もなにもあったものではないし、なんなら周りを扇動した罪で裁かれてもおかしくないわけで……。


「お前は随分と、サーヤのハッピーエンドとやらの為に骨を折ったようだな。恋人候補の筆頭は私だと、母上の耳にも届いていたくらいだ。私に婚約破棄をするつもりなど微塵もないというのに、不誠実だと槍玉にあげられてな? それに、様々な理由をつけてはお前が社交を欠席するものだから、不仲だという噂も多かった。訂正するのに随分時間を取られたぞ」


 アルバート様の視線が、痛い。ニコニコと見惚れるほどの笑顔を浮かべておられるけれど、言葉の棘がチクチクと刺さる。そうね、そうよね。立場上、クリス様以上に噂に振り回されるわよね。はい、すみませんでした!!


「お前が違和感を持った時点で、私に相談していれば、ここまでややこしい事態になってはいなかったのだがな。……まぁ、荒唐無稽な話ではあるし、言い出し辛いのも分かるが、それでも、婚約者という立場で頼られないというのはなぁ。寂しいものだ」


 ため息混じりに憂いを帯びた瞳で遠くを見つめるアルバート様。わたくしは彼のとなりで恐縮し小さくなっていたのだけど、最後の部分がどうしても引っかかった。え、寂しかったんですか?


「お前は私をなんだと思っているんだ」


 わたくしの表情と態度を見て判断したのか、はたまた気づかぬうちに心の声がまた漏れていたのか、アルバート様でも寂しいとか思うんだぁと考えていたのを、的確に突っ込まれてしまった。

 だって、セオリー通りの王子様キャラのはずなんだよ!? 自信に満ち溢れたキラキラ王子様なの! 幼い頃から知ってるチェリーナ目線から見ても、これぞ王族! を体現してるような人なのに、頼られなくて寂しいとか、そんなの、本物の恋人みたいじゃん。え、そんなことある?

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