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劣勢の戦場で敵将を討ち取った俺、気づけば公の右腕にされた件  作者: 塩野さち


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第34話 ミュラーブルク攻城戦

『ヴァルゼン公家歴11年 3月上旬 ミュラーブルク 晴れ』


【公の右腕グレン子爵視点】


 ミュラーブルク攻略は、驚くほど順調に進んでいた。

 義父を死に追いやった卑劣な領主への怒りが、俺の軍の士気を最高潮にまで高めていたのだ。


「押せ押せーっ! 門を打ち破れ!」

『ウオオオオオッ!』


 イリアの『銀狼傭兵団』が中心となり、先日完成したばかりの巨大な破城槌が、けたたましい号令と共にミュラーブルクの城門を何度も何度も叩く。

 ゴウゥン! と、腹の底まで響き渡る鈍い衝撃音。

 城壁の上からは矢や煮え湯が降り注ぐが、こちらの数と勢いが勝っていた。


「ハシゴ隊、かかれ! あの旗に続け!」


 俺の号令で、ハンスやヨセフたちグレンフィルト本隊の兵士たちが、四つの丸が描かれた旗を先頭に、次々と城壁にハシゴをかけていく。


(よし、このまま一気に……!)


 ちょうど、先陣を切った兵士たちが城壁の上に取り付き、敵兵との白兵戦が始まった、まさにその時だった。

 背後の大地が、ゴゴゴゴ……と、わずかに震えるのを感じた。


「……? なんだ?」


 俺が振り向くと、隣にいたソフィアが、猫のような鋭い目で遠くの丘を睨みつけていた。


「グレンの旦那! あれはまずい! 別の軍勢だ!」


 ソフィアが指差す先、西の地平線から、新たな軍勢が砂塵を巻き上げてこちらへ向かってくる。

 その数もさることながら、問題はその装備だった。

 陽光を反射して銀色に輝く、統一された重装鎧。寸分の乱れもない行軍。およそ、この近辺の雑多な諸侯の兵とは比較にならない、精強な軍隊だった。


「本当だ! あの旗は……! 赤地に緑竜の旗だ! レグナリア王家軍だよ!」


 イリアも、血相を変えて叫ぶ。


(レグナリア王家……! あの臆病者のミュラー伯爵が、いつの間に救援を!?)


 思考するより早く、体が動いていた。

 このままでは、城兵と王家軍に挟み撃ちにされる。全滅だ。


「なんかまずい気がするな……よし、ソフィア、イリア、俺に続け!」


 俺は叫ぶと、近くの兵士がまさに登ろうとしていたハシゴを自ら掴み、凄まじい速さで駆け上がった。


「うおおおおぉぉッ!」


 城壁の上に踊り出ると、驚愕するミュラーブルクの兵士たちを、文字通り斬り伏せ、蹴散らしていく。

 俺の背後で、兵士たちの絶叫が響いた。


「グレン様が自ら!?」

「子爵閣下に続けええっ!」


 俺の行動が火付け役となり、グレンフィルト軍の兵士たちは、恐怖を熱狂に変えて、怒涛の勢いで城壁の上になだれ込んできた。


 やがて、城内の広場で甲高い悲鳴が上がった。


「ミュラー伯爵を発見!」

「捕らえろ! 逃がすな!」


 見れば、ハンスとヨセフが、みすぼらしい寝巻き姿で逃げ惑う男――ミュラー伯爵本人――に組み付き、地面に押さえつけていた。


「二人ともよくやった! 全軍へ告ぐ!」


 俺は、伯爵を縄で縛り上げさせながら、喉が張り裂けんばかりに命令を下した。


「急いで城内へ入れ! 輜重(しちょう)隊もだ! 破城槌も中へ引き入れろ! 全員防御を固めるんだ! レグナリア王家軍が来るぞ!」


 一瞬、何が起きたか分からずに呆然としていた兵たちも、地平を埋め尽くす王家軍の姿を認め、慌てて指示に従い始めた。

 陥落させたばかりの城門から、バルザフの荷馬車や、兵士たちが雪崩れ込んでくる。


 俺たちが城内に滑り込み、内側から門を固く閉ざした直後だった。

 城外に、あのレグナリア王家軍が、整然と布陣を完了した。

 その数、およそ五千。


 城壁の上から敵陣を見下ろし、俺は冷や汗をかいた。

 俺たちグレンフィルト軍は、二千。

 今、俺たちは、陥落させたばかりの城に、逆に閉じ込められたのだ。

 太陽には厚い雲がかかり、昼にしては少し暗いように思えた。


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