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第10話 グレン、ぼったくり酒場を潰す

『ヴァルゼン公家歴10年 9月上旬 グレンフィルト 晴れ』


【雑兵上がり男爵グレン視点】


 俺の街、グレンフィルトの発展は、我ながら目を見張るものがあった。

 堀と土塁だった城壁には石が積まれ始め、丸太小屋だった家々は、商人レオの指導の下、次々とレンガ造りの建物へと姿を変えていく。人が集まれば、自然と活気が生まれる。特に、夜の賑わいは大したものだった。

 仕事終わりの傭兵や職人たちを当て込んで、街にはいつの間にか、いくつもの酒場ができていた。


(たまには、城主の身分を隠して、街の空気を吸ってみるのも悪くないか)


 そんな軽い気持ちで、俺は供も連れずに、一軒の酒場へふらりと立ち寄った。

 薄暗い店内は、よそ者でも気兼ねなく入れる、程よい喧騒に満ちている。俺はカウンターの隅に腰掛け、エールを一杯注文した。


「へい、お待ち! 兄ちゃん、見ない顔だねぇ。どこから来たんだい?」


 愛想のいい店主と当たり障りのない世間話を交わし、酒を飲み干す。ここまでは、どこにでもある普通の酒場だった。

 会計を頼むまでは。


「――銀貨五枚になります」

「……は? エール一杯で、銀貨五枚だと?」


 それは、どう考えても法外な値段だった。普通の酒場なら、銅貨数枚で済むはずだ。

 俺が抗議の声を上げると、さっきまでの愛想のいい店主の顔が、途端に険しいものへと変わった。


「兄ちゃん、ごちゃごちゃ言うんでぇ。うちはこの値段でやってんだ。払えねえってんなら……」


 店主の合図で、店の奥から屈強な腕を持つ用心棒たちが二人、ぬっと現れた。


(なるほどな。こういうことか)


 旅人や新参者を狙った、悪質なぼったくり酒場。街が大きくなる過程で、こういう輩が湧いてくるのは世の常だが、まさか自分がその最初の客になるとは。

 俺は抵抗も虚しく、裏口から路地に放り出された。金目のものは全て奪われ、上着まで剥ぎ取られて、みすぼらしいシャツ一枚の姿だった。



 一刻後。

 俺は、今度は『銀狼傭兵団』を始めとする兵を引き連れて、あの酒場の前に立っていた。

 先ほど俺を放り出した用心棒たちが、何事かと店の前に出てくる。


「あぁ? なんだてめえら。さっきの兄ちゃん、仕返しに来たのか?」

「……ああ、そうだ。利子もたっぷりつけて返してもらうぞ」


 俺がそう言うと、背後に控えていたイリアが、鞘から剣を抜き放ち、ニヤリと笑った。


「てめえら、運が悪かったな。こいつは、この街の主、グレン男爵様だぜ!」


 その言葉を聞いた瞬間、用心棒と店主の顔が、面白いほど真っ青に変わっていく。

 俺は、震え上がっている店主を指さし、兵たちに命じた。


「この店は、我がグレンフィルトの法を犯した! 営業停止を命じる! 即刻、店を解体し、不正に得た利益は全て没収だ!」


 兵たちが雄叫びを上げて店になだれ込もうとした、まさにその時だった。

 一騎の伝令が、馬の息も整わぬうちに駆け込んできたのは。


「も、申し上げます! ヴァルゼン公より、グレン男爵へ! 至急、公都アイゼンブルクへ参上せよ、とのことにございます!」


 ぼったくり酒場の前で、上着も着ずに仁王立ちする俺。その周りを取り囲む、物々しい兵士たち。

 伝令の兵士は、目の前のあまりにも奇妙な光景に、ただ呆然と立ち尽くしていた。


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