ドーン 1
ルーク達と共に旅をして来た。そして今日もまた旅へと立つ。
ラクト砦への遠征は二回目だ、前回はウェイン達も居た。
圧倒的な攻撃と、鉄壁の護りを見た。
俺は不屈とは言われるが鉄壁ではない。退かず、屈せぬこの心で戦って来た、これからもそうだ。
仲間を護る盾となる。それが俺、ドーンだ。
俺の父親は家族の中心だった。
父の言葉で皆笑い、困りごとがあれば相談し、常に護ってくれた。
家族皆で共に食事を取り、皆で共に寝た。
ある日魔物が村を襲い父は俺達を護って命を落とした。最後までいつもの父親だった。
やがて俺は冒険者となった。父親譲りの大柄な体躯を活かし大楯を持つタンクとなった。
ひたすらに仲間を護る、何があろうとも。そう、あの時の父の様に。
だからなのだろう、パーティーの仲間たちに感じるこの感情は家族に対するそれに近い感じがした。
フェイスが娘で、娘婿のザイラス。ルークはフェイスの弟だな。賑やかで、良い家族だ。
フェイスはまだまだ我が儘で手は掛かるが、責任感の強い子だ。
ザイラスは口は悪いがとても家族想いだ。俺とは違う形ではあるが家族を護ることを最優先にしている。良い父親になる。
ルークは折れない強い心を持っている。決して退かず、前に進もうとする信念。父として俺も負けてはいられない。
みんなには俺の背中を見せ続けた。俺の父がそうしてくれたようにこの背中の後ろにいれば大丈夫だと。
そしてザイラスの家族への想いに従い、ルークが折れない信念の刃叩き込み、フェイスの責任感が家族の命を繋ぐ。
家族で共に生き抜いてきた。
ある日そんな家族に客がやって来た、初めは客だと思っていた。
次第に兄の様に感じ、いつしか父の様に感じていた。この背中が護ってくれていると。
まだ年端も行かない、大人とも子供とも言えない剣士に。
そんな剣士が俺達を仲間だと言った。
そうか仲間か、家族と似ていると感じていたがやはり少し違う物なのだなと思った。良い仲間が増えた。
二回目の遠征ともなるとラクト砦にもいくらか見知った顔が見られた。
前回の遠征にウェイン達も居たが砦に滞在したのは世界連合軍が態勢を整え終えるまでの五日間。世界連合軍も全力で補給を間に合わせ予定を繰り上げて立て直した。さすがに最前線、急な事態にも迅速に対応している。ウェイン達がいた五日間は俺達が一年の防衛任務に就いて一か月目の事だった。
赴任当初から活躍は上げていたが、ウェイン達との連携で更に評価は上がっていた。特にウェインパーティーをも利用したザイラスの名は色んな意味で有名になっていた。
「ザイラス、今回はお手柔らかに頼むぜ」
「うるさい、すぐに死にそうな奴は国に帰れ」
「お前が居れば死なずに済む、ルークと前線で暴れてやるよ。頼んだぜ」
ザイラスの口の悪さも今ではすっかり浸透している、皆慣れたものだ。
「これは姐さん、ご苦労様です」
「姐さんって呼ぶんじゃないわよ!」
ザイラスに悪態をついていた兵士たちがフェイスを見止め敬礼をする。
「ザイラス、また何か吹き込んだでしょう?」
フェイスがザイラスとその手下共を交互に鋭く睨め付ける。
「姐さんに逆らったらザイラスに死地に送られちまうもんで」
「姐さんって呼ぶんじゃないわよ」
フェイスに更に詰め寄られ直立不動のまま震え上がる手下達。
「まあいいわ。戦場では私の魔法に巻き込まれないように気を付けなさい。死んだら困るでしょ?」
どうも姐さんと呼ばれるのはザイラスのせいばかりではないようだ。
初めての遠征はウェイン達が来ていたせいもありかなり賑やかだった。
来て早々ウェインの一振りで戦線を大きく押し返した。
そして二日目、ザイラスのお膳立てによりウェイン達が派手に敵軍を殲滅。魔王軍は陣を大きく下げ小康状態となった。
「おい、あれリブセレ軍じゃないか?」
「ああ、そうだ、リブセレ軍だ。ウェインパーティーにケンカ売るなんてイカれてやがる」
昨日の一件で俺達リブセレ軍は、ここラクト砦でかなり好機の眼差しを向けられている。
「おはようドーン。相変わらず早いな」
「おはよう、ウェイン。起きてきたか」
「なんだ朝から浮かない顔してるな」
「どうやら俺達はウェイン達にケンカを吹っ掛けて、ウェイン達が怒鳴りこんで来たことになっているみたいだ」
「それは面白そうだな、結果はどうなったんだ?」
「仲良く朝飯でも食うんじゃないか?」
「よし、じゃあみんな起こして朝から宴会にしようぜ」
「それはザイラスでも許してくれないと思うぞ」
そんなやり取りの後、銘銘に起き出し揃っての朝食となった。
そしてまたラクト砦に噂が駆け巡った、リブセレ軍がウェインパーティーを手懐けたと。
魔王軍はその後も陣を下げたまま動かず、ラクト砦との睨み合いが続いていた。
「どう見ます?」
「どうもこうもあれだけ派手にやったんだ、さすがに魔王軍も早々動けないだろ」
ザイラスとウェインの仲間の弓使いが城壁の上から敵陣を見ながら話している。
「それも作戦のうちに入ってたりしますか?」
「俺は出来るだけ働きたくないんだ。我武者羅に戦うより何もせずに時間を稼げるならその方が良いに決まってる」
やる気のなさそうにザイラスが答えていると、二人にウェインが近寄って行く。
「ザイラスは誰も死なせないって言うのが信条だ、良い指揮役だよ。ただちょっと捻くれが過ぎるけどな」
「なんだよ、ひねくれが過ぎるって」
図星を指されザイラスが慌てている。
「そうは言っても昨日はこっちに大量に敵軍擦り付けてきましたよ」
「あれぐらいじゃ俺達は死なないって事なんだろ」
「ウェインだけ残して下がっちまえばよかったんだよ」
さっきの仕返しとばかりに悪態をつくザイラス。
「まあ確かにウェイン一人に全部任せてもよかったかもしれませんね……」
弓使いは顎を指でなぞりながらボソボソと喋る。
「おいドーン、なんで指揮役ってのは人でなしばっかりなんだ」
人でなし二人には敵わないとみてこちらに助けを求めてくるが、ウェインの肩に手を乗せ「諦めろ」とだけ答えておいた。
戦況が小康状態を保ったまま過ぎていく中、ウェインは毎日のようにリブセレ軍の幕舎に顔を出していた。
「ルークに渡した剣、あれ結構な業物だろ?」
「価値はよく分からんがルークが命を預ける剣だ、良い物なのは間違いない」
その日はルークが軍議に出ている時にウェインがやって来てザイラスと話している。
「お前が良い物って言うんだから相当な物だろうな、俺にも何かくれよ」
「ザイラスに何かやっても酒代に変わるだけだろ、嫌だね。でもドーンになら考えてもいいぞ。ドーン、やっぱり大楯か?」
「俺にはこいつがあれば良い、気持ちだけ貰っておくよ」テーブルに立て掛けた大楯に手を乗せ答える
昔からそうだが、ウェインは直ぐに俺を会話に巻き込んでくる。
「こういうとこだぜザイラス、お前は現実主義過ぎるんだ」
「采配を振るうには現実を如何に冷静に受け止めるかが大事だ、現実主義なのは仕方がない」
「そのうち理想主義のルークに予測の遥か先にぶっ飛ばされるぞ」
ウェインの予感は良く当たる。きっとザイラスはぶっ飛ばされるのだろうなと何の躊躇いもなく思った。
ラクト砦にウェイン達がやって来て五日間、そんな昔と変わらないいつも通りの時間が過ぎて行った。
そしてそのまま戦闘が始まることなく、ウェインパーティーがラクト砦に来てから五日が過ぎ世界連合軍の補給が予定を繰り上げて完了したとの報告を受ける。
ウェイン達はそう報告を受けると「今回も貸しだ」と世界連合軍に言い残すとラクト砦を去ることになった。
翌日、俺達は揃ってウェイン達の出立に立ち会った。
再び会う事が出来た今となってはこの別れと言う物も再会のための儀式のような物だと思えてくる。
「ありがとう、ウェイン」
「どこにいても仲間だ、何かあれば頼ってくれ」
ルークとウェインは一度目の別れの時と同じ言葉を交わす。
そして、銘銘に言葉を交わすとウェインは仲間と共に振り返ることもなくラクト砦を後にした。
また会えることを信じて疑わぬかの様に。




