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勇者ウェイン物語  作者: クモ子
小国の王
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ルーク 2

「よう、久しぶりだな」

 そう言いながら片手を挙げ、ウェインが率いるパーティーがやって来た。

 久しぶりだというのに挨拶もそこそこにこっちをジロジロ眺めながらウェインが言う。

「その恰好ならこいつを持っててもおかしくはないだろう」

 そう言うと左の腰に下げていたのとは別に右手に持った剣を差し出してくる。

「なんだよこれは?」

「この前手に入れた剣だ。二振りも剣はいらないからルークにやるよ、今でも剣士だろ?」

「ああ、死ぬまで剣士だ。有難く頂いておこう」

 俺が剣を受け取ると後ろから高級そうな装備を身に纏った女神官がウェインに話しかける。

「この前って、わざわざその剣を預けた所まで遠回りして取りに行ったのに素直ではないのね、ウェイン」

 女神官の言葉にバツの悪そうな顔をするウェイン。

「ウェインの装備品預かってくれる奴なんてよく居たな」今のウェインの持っている装備品なんてとんでもない代物だらけのはずだ。

「信頼の置ける倉庫番が見つかったんだよ。だからそいつのところに行ってその中でルークに一番合いそうな剣を持って来たんだ、これでいいか? 聖女様」

「そうね、その方が素直でいいわ」

 腕を胸の前で組む初めて会うその聖女様は、恐らくいつものように刺すような視線をウェインに送っていた。

「フェイスより気が強そうだな」聖女様に気付かれぬよう声を潜めウェインに耳打ちする。

「ああ、百倍な」こちらの気遣いを気にするでもなく快活に答えるウェイン。


 ウェインパーティーがこの世界連合軍と魔王軍との最前線のラクト砦に着いたのは昨日の事。

 着くなり早々軍議を行っていた部屋に入ってきてこう切り出した。

「ようお前ら、苦戦してるらしいじゃないか」

 ウェインは着くなりきつい一言を平気で言ってのける。

「言い訳のしようもない、その通りだ」

 幾度とこの最前線の窮地を救ってくれているウェインパーティーには世界連合軍の総司令官も頭が上がらない。

「今回は立て直すのにどれだけ日にちが必要だ? いつも通りしっかり戦線を維持できる状態に戻すための日にちだぞ」

 ウェインの問いに総司令官が答える。

「補給が間に合えばどうにかなる。一週間あれば立て直せる」

「誤差はどれぐらい見ておけばいい?」

「前後二日と言うところだ」

「なら十日をめどに前線にでる。それを超えるようなら早めに連絡をくれ」

 そう言い残すと仲間を連れ前線へと赴いて行った。

 

 軍議もそこそこにウェインの後を追い城門へと向かうと門が開かれウェインパーティーが前線へと一歩踏み出すところだった。

 開かれた城門をウェインパーティーが進んで行くと周りの時間がゆっくりと流れているように感じられた。

 戦場の喧騒は消え、漂う砂塵もゆっくりと流れていく。

 その時間の流れをウェインの一太刀が斬り裂く。

 左足を摺り足でゆっくりと後方に半歩引く。同じように右足を摺り足で半歩前方に出すと膝を少し曲げ体重を前方に傾ける。

 左手で剣の鞘を握ると剣を寝かせ体の外側に向ける。右手で束を握ると、目を閉じ、細く長く息を吐く。

 一瞬の静寂。

 次の瞬間ウェインは目を見開くと一気に剣を横一閃に薙ぎ払う。

 大きな白く輝く斬撃が放たれ、その道を阻むものは全て斬り裂かれる。

「とりあえず今日の分ぐらいは稼いだだろ」

「もう全部お前やっちまえよ」

「うるさいな、俺は俺にしかできないことしかしないんだよ。あと九日分はお前らも手伝え」

 仲間と言葉を交わすウェイン。あの頃とは最早世界が違う、ウェインの全力に応えられる仲間を見つけたのだなと嬉しくもあり寂しくも感じた。

 

 「一分だ、一分戦闘状態のまま、気を研ぎ澄ませたままにするんだ。敵を倒したと思った瞬間が一番気が緩む、その緩みを無くすんだ。それだけで生存率が大きく上がる」

「一分か、分かった心得ておく」

 昔のウェインとのやり取りを思い出す。残心と言うのだそうだ、俺達といた時は常にウェインがやってくれていた。ウェインは今、それを仲間に任せている。俺達のパーティーと同じ全幅の信頼。良いパーティーだ、間違いなく人類最強のパーティーだ。

 

 そしてその日の夜にリブセレの幕舎へ俺に剣を渡しにやって来たのだった、パーティー全員を連れて。

「ルーク達には俺のパーティーを見せたかったんだ、どうだなかなかのものだろ?」

「会って早々に良いも悪いもわからんが、ウェインが全幅の信頼を置ける仲間ならなかなかなんだろうな」

「そうだ、なかなかだ」

 嬉しそうに仲間をお披露目するウェイン。

 ウェインがいなければ俺は今生きてはいない。そしてウェインと旅をしていなければ今の様に強くなれなかったかもしれない。

 このラクト砦にウェイン達が来るのは世界各国に“貸し”を作るため。この最前線の危機を助け報酬などは一切受け取らず、ただ“貸し”としている。

 にも拘らず、俺には一切“貸し”などとは言わない。ウェイン曰く、「仲間に貸し借りなんてない」のだそうだ。

 今や、片田舎の村の農夫から世界中の王や権力者に至るまでこの世界にウェインに借りのない人間なんてどれ程いるのだろうかと考えてしまう。

 そして、次の日も戦闘を控えていたのでその日はウェイン達には俺だけが会い、他の仲間達とは明日会うと言うことになった。

 

 そして翌日。

 ウェインパーティーを遊撃隊として編成し世界連合軍が布陣する。

 俺達リブセレ軍は左翼中ほど、ウェインパーティーは中央先頭に陣取った。

 正対する魔王軍を確認し、ウェイン達に視線を移すとこちらを指さし仲間たちと何か話をしている。

「よく見とけ、あそこには優秀なサディスト神官がいる」

「何? よく分からないけど神官ってみんな怖いの?」

 既にリブセレ軍にはザイラスから作戦の概要は伝えられている、まあ昨日のウェイン達を見る限り大丈夫だろう。

 作戦の開始が告げられると同時にウェイン達が飛び出す。それに呼応するようにリブセレ軍も敵真正面に突撃する。

 そして、ウェインパーティーが一番槍を魔王軍に撃ち込む。

 ウェインの剣撃により前方深く、そして魔法使いが後方の広い範囲に魔法を撃ち込む。

 いきなりのド派手な開戦となった。

 その光景を目の当たりにし、怯んだ魔王軍にリブセレ軍が二番槍を入れる。

 魔王軍の左翼を食い破るように左翼中央に入り込むとドーン率いる大楯タンク部隊を前面に押し出し敵の陣形を崩す。

 崩れて綻びた魔王軍をルーク率いる近接部隊が切り崩す。更にその後方にフェイス率いる魔導部隊が魔法を撃ち込みドーン達の道を造り出す。

 ウェインパーティーの動きを確認しながらドーンへと指示を出す時にウェインと目が合った気がした。

「やるな、あれが俺のお手本にしたパーティーだ。こっちの動きまで予定に入れて突撃しやがった。サディストぶりは相変わらずだがそれに付いて行く奴らもどうかしてるぜ」

 俺からの合図を受けドーンが更に陣形をコントロールする。

 敵左翼中央を包囲するようにし中央よりに逃げ道を造る。ドーンの誘導に乗せられるしかない魔王軍は中央へと追いやられる。

 そう、ウェイン達の元へ。

「おいおいおい、敵軍をこっちに誘導しやがったぞ。ウェインの昔の仲間は何考えてやがる」

「サディストに磨きがかかってるじゃないかザイラス。良いだろう、全部引き受けてやろうじゃないか」


 予定通り、そして予想通りウェインパーティーに少しざわつきはあった。が、問題はないだろう。

「ウェインのところに全部集める。初撃は相手の怯みを拡大させる程度で構わない、後はドーンの陣形による誘導にかかっている」

 淀みなく、迷いなく作戦の全貌を披露する。概要だけで全てが伝わってしまう作戦であった。

「ウェイン達への通達は?」

「無しだ。敵を欺くには先ず味方からだ」

 両手を腰に当て目を瞑ったまま答えるザイラス。恐らく、伝えない方が面白いからだと考えているのは明白だったがそれはそれで俺も面白いと思ったからそれ以上は何も言わない事にした。

「いくらウェイン達でもちょっときついんじゃないの?」

「フェイスは昨日のウェイン達を見てないからそう思うんだ。これでも最小評価の力でこなしてお釣りがくる程度の作戦だ。俺達は敢えて裏方に回りお膳立てをしてやるだけだ」

 フェイスの意見は最もだったが、俺も昨日のウェイン達を見た者としてフェイスに掛けられる言葉は少なかった。

「あれは魔王より質が悪い」ぼそりと呟いた。

「何よそれ」

 そして作戦は実行された。

 

 押し寄せる魔王軍中央部隊と、リブセレ軍がもぎ取った左翼中央部隊がウェイン達に襲い掛かる。

 魔王軍左翼中央部隊に対してウェインパーティーのタンクが向かう。

 タンクが獣のような咆哮を上げると魔王軍がそれに釣られタンクに向かって雪崩掛かる。

 聖女の身体強化の魔法だろうか、タンクは光の球体に包まれるとそのまま魔王軍の猛攻を受け切り、大きく大楯を振り魔王軍を一斉に薙ぎ払う。

 その時、砂塵舞い上がる戦場に一筋の矢が放たれた。

 その矢は魔王軍左翼中央部隊の中ほどにいる指揮官らしき者の頭部を正面から射貫く。

「左翼の敵将は討ったよ、残りの烏合の衆は中央に寄せて」

 矢の放たれた元へ視線を移す。ウェインパーティーの指揮役か、弓使いなのか。

 タンクからの撃ち漏れをウェインが捌く、中央部隊はウェインを使うまでもないと言うことか。

 そして戦慄とも呼べる魔法が中央部隊に撃ち込まれる。

 壊滅。

 中央と左翼一部の部隊を完全に失い魔王軍は早々に撤退を開始した。正しい判断だろう。

 いくらかの追い打ちをかけ、その日の戦闘は世界連合軍の勝利で終わった。

 

「やってくれたな、ザイラス」ウェインが大きな笑い声をあげながら仲間と共に幕舎へとやって来る。

「ようウェイン、物足りなかっただろ?」悪人顔でザイラスが答える。

「ウェインの知り合いってこういう特殊な人達ばかりなの?」慈悲深き聖女様の無慈悲なる言葉が胸に刺さる。

「おもしろいだろ? 連携も完璧だったし最高だっただろ?」

 もうウェインの言葉には無反応になってしまった無慈悲な聖女を見てさすがのフェイスも気圧されている様だ。

「さっきのは僕達の実力を分かった上での作戦なんですか?」先ほどの弓使いだ。

「実力は分からないが、ウェインが一緒に居る仲間ならこれぐらいはやってくれなきゃ困ると言う予想は立てた。もっと左翼をもぎ取っても良いと思ってたんだが、あれはドーンの優しさだな」ザイラスは億すことなく正面に向き合って弓使いに答える。

「どうやらウェインが言ってた優秀なサディストってのはそのまんまの意味だったみたいだな」やたらと体格の良い魔法使いがザイラスを値踏みする。

「なるほど、僕とは違ったタイプなんですね。ずる賢い……」弓使いは顎を指でなぞりながらボソボソと何か言っている。

「ずる賢くとも、野蛮だとも、卑怯だとて俺は仲間を死なせない」

「あら、神官としては真っ当なのですね。少し評価を改めます」優秀なサディストであるザイラスの言葉に無慈悲な聖女が慈悲の言葉をかけた。

「ドーンの優しさのおかげで楽できたし、みんなよかったじゃないか」ドーンの肩に腕を回し楽しそうに笑うウェイン。

 ドーンもそうだがウェインパーティーのタンクも口数は多くないみたいだ。何故だかタンクにはそういう奴が多い。

 そんな戦場でのお披露目会の後の自己紹介を終え、皆で夕食を取ることにした。

「大したものは出せないが飯食って行けよ」

「そうだな、戦勝祝いとするか」

 その日はいつもより賑やかな夕食となった。

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