キース 1
今から七年前、ウェインパーティーが魔王討伐を掲げて魔王領内へ深く踏み入った影響で世界連合軍で固めていた砦が窮地に陥ったのです。
ウェイン達がいれば押された戦線を立て直すまで加勢してくれるのですが今は敵の本陣に向けて進撃しているところ。残された者たちで護らなければなりません。
私の初陣はそんな狂乱の戦場でした。当時はまだ八歳、かつての仲間であるウェインを信じ世界の変革のその瞬間を出来るだけ近くで立ち会って欲しいという父のそんな想いを幼いながらも感じていました。
昔から父によく言われていた言葉があります『ウェインを信じろ、ウェイン達は必ず魔王を倒す。それまで耐えろ』と。父は一時期ウェインと共に自ら率いるパーティーと旅を共にしていました。
『次元が違う』それが最初の感想だったそうです。どうしてこんなすごい腕の剣士が自分達と一緒に行動をするのか分からないとも。
ウェインに聞くと『気に入ったからだ』と言っていました。ウェインはそういう人なんです。気に入った人たちは大事にする、でも知らない誰かの事はどうでもいいんです。『俺は正義の味方じゃない』そうよく言っていました。
父はそんなウェインが人として好きになったのです。だからウェインに魔王を倒してくれとは言わなかったそうです。
『ウェインの人生を縛ってはいけない』と、『俺が頼めばあいつは倒しに行ってくれるだろう』と。『仲間の頼みを断ることなどしない、ウェインに自分達を背負わせてはいけない』のだと。
父は第二皇子の戦死の報を受け、国に戻り国防の任に着くこととなりました。当時はまだ先代の王は健在でしたので。
ウェインとの旅で父はとても強くなったそうです。騎士団を編成すると対魔物用の戦闘術を戦闘に組み入れ魔王軍の侵攻に耐えていました。
そして七年前、突如としてウェインパーティーの魔王討伐宣言。それまで前線にたまに顔は出すものの気ままに旅をしていたウェイン達が世界各国に向けて魔王討伐の宣言を行ったのです。
その宣言から二年後、ウェイン達は見事魔王を討ち取り世界の英雄となりました。
七年前の砦には各国から精鋭部隊が集められていました。その中で国家の長である王が駆け付けていたのはリブセレだけでした。
元々、ウェインと別れ国に戻った父は世界連合軍にリブセレから派遣され、その防衛戦線で大きな活躍を納めていました。その功績も考慮され世界連合軍の総指揮を取ることになりました。
リブセレの部隊は他の国と少し編成に違いがあります。
最小単位が四人から六人のパーティーであるという事。それらのパーティーが五つ集まりまた一つの部隊となっていること。さらにそれらがまた五つ集まりそれらを全てを采配する者がいると言う事。
命の管理者ザイラス、かつての父のパーティーメンバー。リブセレ軍の総大将は父、雄心の剣士ルークではなくザイラスであるという事。
父は常に最前線に出て戦います、不屈の大楯ドーンと共に。
父とドーンが前線を切り開き、戦慄の魔法狂こと魔法長フェイスの率いる魔導部隊が殲滅する。その全てをザイラスが指揮する、父の言葉を借りるなら『いつも通り』の戦い方。
そんな父達の前線での活躍はウェイン達同様、この砦において英雄のそれでした。
『ウェインを信じろ、ウェイン達は必ず魔王を倒す。それまで耐えろ』そう世界連合全軍を鼓舞し、最前線で剣を振り続けていました。
内地で安寧に暮らしていた私には衝撃的な光景でした。平和とはこうした激しい戦いの末に生み出されているのだとまざまざと教えられたのです。
父は私が勝手に育ったのだとよく言います。しかし私は父から確かに学んだのです、家族と共にある時のあの優しい顔とこの戦場での勇ましくも壮絶な姿から。
平和とは勝ち取らねばならない物なのだと。
戦線は苛烈を極めました。世界中の国家がその威厳をかけて防衛に徹する為、砦に集まった軍であるからには間違いなく各国選りすぐりの精鋭部隊でした。にも拘らず戦場は過酷な物でした。
そんな戦場よりも更に凄惨な戦場にウェイン達は向かったのです、孤立無援で。
無謀に思えるその行動を、皆が希望として受け止めました。ウェイン達ならば出来ると信じて。
世界各地を旅していたウェイン達はその行く先々で“貸し”を作って回っていました。
訪れた地で困り事を無償で解決して「貸しだ」と言い残し、また旅立つ。その困り事とは極々個人的な物から国家レベルの物まで幅広くあったと聞きます。
そうした各地での活躍は必然的にウェイン達の力を示すものとなりました。
最早、世界の命運はウェイン達次第だと言う者も現れました。
そして現実に世界はウェイン達に命運を託したのです。揺らぐことのない力強い希望の光を信じて。




