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勇者ウェイン物語  作者: クモ子
小国の王
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ルーク 1

 欝蒼と木々が生い茂る深い森の奥にあるカルセト神殿。かつてこの地に繫栄していた古代文明の宗教的建物であったと言われている遺跡だ。

 石造りのその建築物は森の木々に浸食され森の一部と成り果て、人の手が入らなくなってからの年月を物語っている。

 

 俺達はそのカルセト神殿に来ていた。そして今、目の前で大きな音と共に砂塵が舞い上がっている。

「おいルーク、お前一人でやってるんじゃねえ。確かにお前が俺達の中じゃ一番強え。だがな、お前独りじゃ出来ないこともあるだろ、遠慮なく仲間を頼れ」

 遺跡の入り口の前に陣取る魔物に斬りかかる俺に向かって仲間が叫ぶ。

「そうだな、せっかく一緒に居るんだ四人で連携と行こうかザイラス」

 魔物の攻撃を受け流し一撃を加えると仲間達の元に戻る。

「よし決まりだな、俺に案がある。お前達俺の案に乗るか?」

 魔物が怯んだ隙に朽ちた壁の影に身をひそめると俺達四人は作戦会議を始めた。

「いいか、作戦はこうだ」

 ザイラスの作戦を四人で頭を突きつけ聞き終える

「よし、乗った。ザイラス指示を頼む」

「話が早いな、とっとと倒しちまおうぜ」

「ちょっと待ちなさいよあんた達」

「諦めろフェイス、二人共もう人の話なんて聞こえてない」

 フェイスとドーンが何か話しているようだが悠長に構えてはいられない。

「行くぞお前ら。俺は神官だ、お前らの命は俺が管理してやる。死にたくなけりゃしっかり言う事聞けよ」

 そう言うとザイラスは神の加護を込めた魔法の詠唱を始める。

「ザイラスはサディストだな」横で大楯を構えるドーンに同意を求める。

「間違いない」不敵に笑みを浮かべドーンが答える。

「はぁ、バカばっかり」深いため息を吐き出しながらフェイスが魔力を練りだす。

「ドーン、突撃だー!」身体強化の魔法をドーンに放ちざま、ザイラスが戦闘開始の号令をかける。


「ザイラスの信仰している神様って破壊神だろ?」

 目の前に倒れた魔物に突き刺さった剣を片手で握ったまま呆れ気味に吐き出す。

 倒れた魔物を囲うように俺とドーンそしてザイラスが得意げに立っているとフェイスがドスドスと足音が聞こえてきそうな勢いで近寄って来た。

「ほんとバカばっかり。倒せたからいいけどただの力押しじゃない、どこに作戦なんてあったのよ?」

「いや、待てこれは、その……すみませんでした」ザイラスが怯えながら謝る。

 華奢な女魔法使いのフェイスの鬼のような形相に俺達大の男三人はたじろいでしまっていた。

「と、とにかく魔物は倒したんだし遺跡に入ろうぜ」

 俺はパーティーのリーダーとしての威厳をかろうじて見せ、遺跡へと足を向ける。


 遺跡の中はいたって順調に進んでいた、途中までは。

 大楯を構えるドーンを先頭に、魔物が現れるとドーンが引き付け俺が剣で斬りつける。フェイスとザイラスの魔法は出来るだけ温存しながら進む、予定だった。

「魔物が多すぎるぞ」前衛に立ち魔物を防ぎながらドーンが歯を喰いしばる。

 遺跡の通路を抜け少し開けたホールのようなところに差し掛かったところだった。

「大して強くはないけどこの数は面倒だな」ドーンの引き付けた魔物を次々と斬りつける。

「つべこべ言ってないで全部薙ぎ払えよ、俺はバックアップ専門なんだぞ」前衛から漏れてきた魔物を文句を言いながらザイラスがメイスで殴りつける。

「あんた達どきなさい」フェイスの声に三人が一斉に反応すると同時に魔法が放たれる。

 次の瞬間無数の石の礫が魔物めがけて降り注ぎ魔物を一掃する。

「さすが姐さん、やるな」

「誰が姐さんよ、ザイラスも攻撃魔法使えるようになりなさいよ」

 いつものザイラスの軽口を窘めるとフェイスは杖にはめ込まれた魔法石を付け替える。

「ザイラス、フェイス魔法石は後いくつ残ってる?」倒した魔物から魔石を取り出しながら声を掛ける。

「今三つ目付けたところだから後四つね」魔法石を付け替えた杖を確認しながらフェイスが答える。

「こっちは後五つだ。余程大きな怪我でもしなきゃ余裕だな」左手に付けた指輪を見せながらザイラスも答える。

「了解だ、無理せず進もう。死んじまったら元も子もない」

 二人の返事を聞きながら魔物から最後の魔石を取り出し終える。

「しかし、目の前に魔力の元になる魔石があるって言うのになぁ」二本の指で魔石を摘み、見つめ上げる様にしてドーンがぼやく。

「仕方ないわよ、私たち人間には魔力って物がないんだもの。その人間が魔法を使うために魔石から抽出した魔力を魔法石に注入して扱いやすいようにしなきゃいけないんでしょ? 食材があっても調理しなきゃ料理にならないのと一緒よ」

「まあそう言う事だな。よし、準備が整ったら先に進もう」

 俺達四人はそれぞれ身支度を整えると神殿のさらに奥へと歩き出した。


「ザイラス、結構進んできたと思うんだが道は合ってるんだよな?」

 眉間にしわを寄せながら地図を睨んでいるザイラスに一抹の不安を感じる。

「心配するな、ほぼ合ってる」

「ほぼって何よ? 若干間違ってるってことじゃない!」

「そうとも言う」

「大体その地図信用できるの?」

 フェイスが不安と怒りの入り混じった表情でザイラスを睨みつけている。

「心配するな、昨日酒場で気のよさそうな奴から格安で譲ってもらったんだ、問題ない」

「あのね、人をだます時って言うのは大体気のよさそうな振りをするものでしょ! 大体あなた神官なのに何で酒場に行ってるのよ」

「神に捧げる酒の味を確かめてただけだ」

「はぁ、聞いた私がバカだったわ」

 そんな見慣れた二人のやり取りをドーンと俺は温かく見守ることにしている。大丈夫、いつも通りだ。

 

 そして少し進んだところで俺達は足を止める。目の前にいかにもと言う感じの扉に辿り着いたのだ。

「これは目的地に着いたんじゃないか?」

「なんでガイド役のザイラスが疑問形なのよ」

 道は行き止まり、目の前には巨大な扉が佇んでいる。

「よし、考えても分からないし入ってみようか。準備は良いか?」

 他の三人を見渡し戦闘モードに切り替えると扉に手をかけ、力いっぱい押し開く。

 扉の中は薄暗く中まではよく見えない。が、何かの気配を全員が感じ取っていた。

「フェイス、灯りを」

 ザイラスの声でドーンが大楯を構え俺は剣を抜いて身構える。ザイラスの神の加護の詠唱が終わると同時にフェイスが部屋を明るく照らす光を放つ。

「でかいぞ!」

 ザイラスの声と同時に走り出すドーンのすぐ後ろに付け同じく走り出す。ザイラスが周囲を見渡し部屋の状況を確認する。

「二足歩行、右手にこん棒。外見的にはパワータイプの魔物だ、部屋にいるのはそいつだけ。一点集中で行くぞ」

 魔物の一撃目をドーンが受け止める。

 その横をすり抜け魔物の足に先制の一撃を打ち込む。

 浅いか? 通るには通るが硬いな、もう一発喰らっとけ。振り抜いた剣が身体から一番遠くに達すると剣の軌道をなぞり返す。

 魔物の出足は何とか止めたか? 振り向き、魔物の動きが止まったのを確認するとザイラスの声が飛ぶ。

「ドーン、いけそうか?」

「結構きついな、まともに受けるのは控えるよ」

「フェイス、あとどれぐらいかかる?」

「あと三十秒!」

「ルーク!」

「了解だ、もう一回行く。ドーン左に流してくれ」

「分かった」

 ザイラスの回復魔法を受けドーンが再び走り出す。

 ドーンが近くに寄って来るのを見止めた魔物が再びドーンに攻撃を仕掛ける。そして要求通りに大楯を左に傾け攻撃を受け流す。

 ドーンの右後方から走り抜けると腹の辺りを斬り上げる。が、わずかに血がにじむ程度で大したダメージは与えられていないのは明白だった。

 「行くわよ!」

 その声に俺とドーンは左右に分かれ魔物から離れる。

 声の元に目を向けると大きな岩の塊がフェイスの目の前から魔物に向けて放たれた。

 真正面から岩の塊を喰らった魔物はよろめきながら数歩後ろに下がって止まると大きな咆哮を上げる。

「マジかよ、あんまり効いてない。フェイス、今のよりいけてるヤツはないのか?」

「今のが効いてないならほかのでもあんまり期待できないわよ」

 珍しく慌ててる様子のザイラス見止めドーンに声をかける。

「ドーン時間を稼ぐぞ」叫ぶと同時に魔物に斬りかかる。

 

 今は俺にできることをやる、戦闘の組み立てはザイラスが得意だ。俺にできることは剣を振ること、ザイラスに考える時間を作れ。わずかでも剣が通るなら剣を振り続けろ。無限に斬り続けろ、わずかでも消耗させろ。剣が届くならいつかは倒せる。

 

 俺に人並み外れた力があるわけではない、だから真正面からは打ち合わない。俺は臆病者なのだ、だから流し、躱す。

 相手の動きを見切り最小の力で流す、俺がひたすら磨いた技だ。圧倒的に勝たなくてもいい、最終的に勝てばいいのだ。そんな打算的な理由ではあるが俺には性に合っている。

 “勝たなければ次はない”のだから。

 魔物の攻撃を流し、躱しながらまた呪いの様に頭の中に現れる言葉。頭の中に直接響き渡る声、俺を護る呪い。この呪われた状態の時は不思議と心が落ち着く、恐怖もない。戦闘中に限っては、の話ではあるが。

 

 俺は辺境の小国の王家に生まれた第三皇子だ。有能な年の離れた兄が二人いる。跡継ぎは安泰だ。

 だから俺にはある程度の自由と言う我が儘が許された。

 魔王軍との戦いが続く世界で強くありたいと思うことは至極当然の事だった。結果、俺は冒険者と言う選択肢を選んだ。

 定期的に国に生存確認の連絡を入れるという制約はあったがそれでも自由だった。そして過酷な世界でもあった。

 魔物を相手に戦い勝利する、自由の継続だ。そして負ければそこで終わる、全てが終わるのだ。

 自由でい続けるために戦い続ける、いつ終わるとも分からないこの戦乱の世界で勝ち続けなければならない。

 そんな世界で信頼のおける仲間と出会った。パーティーを組んでしばらくはいつも傷だらけで街に戻ったものだがしっかり役割が見え始めてからは見違えるようにうまく戦闘がこなせるようになっていた。ザイラスの指揮役は俺達のパーティーの要になった。

 ザイラスの方針はケガをしないこと、そして絶対に死なないこと。

 ケガをしないというのはザイラスが楽をしたいってのも含まれてるんだろうけれど結果として俺達は安全に戦闘をこなしていた。

 ザイラスの考え方は俺に近いものがあった。最終的に勝てば良い、それを実感する度に信頼は大きくなりいつしか全幅と言える信頼を置くようになった。本当の仲間達が出来たと嬉しかった。

 俺が小国とは言え、第三皇子だとは言え、王族であるにもかかわらず共に冒険をする一人の仲間として受け入れられたことが何より嬉しかった。

 そしてそれからはずっと剣を振って来た。生きる為に、勝つ為に、次の為に。

 剣を振り続け、仲間達と戦い続け、次を繋ぎ続けた。

 

 ふと聞き慣れた声が聞こえてくる。振り続け、戦い続け、繋ぎ続けた時に聞いた、生きる為の、勝つ為の、次の為の声。 

「撤退を含めた方法を考える。それを考慮しながら時間を稼いでくれ」

 やはりザイラスに任せるのが一番だ。もう少し呪われて居よう。

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