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勇者ウェイン物語  作者: クモ子
小国の王
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ザイラス 3-1

 一度目のラクト砦遠征において俺達リブセレ軍は自分たちの価値をしっかり示した。その代わりに俺は何かと呼び出され忙しい日々を送る事になったのだが、こればかりはどれだけ策を練ろうとも防ぎようの無い事だった。

 その後一度リブセレに戻り、今回二度目の遠征としてまたラクト砦に赴いて来た。

 

「ザイラス、今回もお手柔らかに頼むぜ」

「うるさい、すぐに死にそうな奴は国に帰れ」

 前回の遠征で見知った奴らが口悪く声を掛けてくる。そしてそのままフェイスに挨拶をする。

 案の定、俺も巻き添えを喰らい怒鳴られた。まあいつも通りだ。

 その後俺とルークは世界連合軍の総司令官の所へ挨拶に向かった。

 世界連合軍の幕舎に着くと総司令官からの手放しの歓迎を受ける。

「現状のラクト砦の状態を聞けるか?」

 手放しの歓迎に少し居心地が悪くなったのですぐに切り出した。

「今回は初めからやる気でいてくれるみたいだな」

 総司令官に少しからかわれたがその程度で目くじらを立てるほど狭量な考えは持ち合わせていない。

「後から楽をするために初めは頑張るんだよ。尻に火がついてからじゃ選択肢が限られちまう」

 そう答えてもう一度質問を繰り返す。

「で、現状はどんな感じなんだ?」

「そうだな各軍の魔法部隊はかなり練度が上がっている、魔法狂のおかげだな。他も教授してもらった内容は実践できている、期待してくれていい」

 意気揚々と総司令官は答えた後、声を曇らせ言い淀む。

「それと、今回リブセレ以外にももう一国新たに派遣されて来ている。そちらの戦力は未知数だ」

 含みを持たせた総司令官の言葉に一抹の不安を覚えながら世界連合軍の幕舎を後にした。

 リブセレ軍の元に戻ると設営をドーンに任せ俺は早々にラクト砦の様子を見にルーク達と別れた。

「よう、久しぶりだな」

 商店の並ぶ広場で見知った顔を見つけ声を掛ける。

「ザイラスじゃないか、戻ったのか」

 その声に反応してあちこちから知った顔がわらわらと集まって来る。

 やたら集まってきやがったなと周りを見渡すと少し離れた所でこちらを窺うようにしている男が目に留まる。

 「知らない顔だな」そう声を漏らした時には俺は人だかりの真ん中に立っていた。

「いつ戻ったんだ、ザイラス」「相変わらず悪そうな顔してるな」「ほら吞めザイラス、奢ってやる」

 集まった奴らが一斉に話し掛けて来る。差し出された酒を受け取り、仕方ないかと諦め一気に飲み干す。

「一斉にしゃべるな、全く聞き取れないだろ」

 店先に出ていた椅子にドカリと座り、空になったグラスをテーブルに乱暴に置く。それを合図とばかりにまた一斉に話しかけられた。

 雑な扱いではあったが歓迎はしてくれているようだった。本来ならあちこち顔を出して回る予定だったんだが、勝手に人が集まって来たんでどうせならここで用を済ませてしまおうと考えを改めた。そして、決して酒に釣られた訳ではないと自分に言い聞かせておいた。

 ラクト砦の現状は総司令官に聞いた通りかなり良さそうだった。とりわけ各国の魔法部隊はかなり強化されたようだ、フェイスに挨拶する奴がやたら多かった訳だ。

 集まった奴らと話し込んでいるうちにいつの間にか日も落ち、夜の帳が降りていた。それでもなかなか解放されず仕方なく無理やりに酔い潰しどうにかその場から逃れる事が出来た。

「まったく、男に好かれても嬉しくないぜ」

 へとへとになりながら独り言ち後ろを振り返る。

「それで、あんたはずっとそこから様子を見てるだけなのか?」

 広場に来た時からずっとこちらの様子を伺っていた何者かに質問を投げかけてみる。

「あ、いや怪しい者ではない」

 そう答えると申し訳なさそうに身なりの整った青年が目の前に歩み寄って来た。

「私はライオス王国の皇太子でオベールと申します」

 一国の皇太子がこそこそと何をしているんだと呆れ気味に話を促す。

「それで、その皇太子様が俺に何の用だ?」

 少し逡巡したようなそぶりの後、意を決した様に話し出す。

「今回、我々ライオス王国もラクト砦に遠征に赴いて来ました。しかしそれは政治的な思惑を父が押し通しただけでとても最前線で戦える軍ではありません。同じ王族でありながら初陣で活躍されたリブセレ国のルーク殿下の様にと言う思いはありますがあまりに場違いなのではないかと思いまして……」

 最後の方は消え入りそうな声になっていた。

 硬く握りしめた拳が小刻みに震えるのを見て思わず問いかけた。

「あんたは何のために戦う?」

 落とした視線を上げ、迷いなくオベールが答える。

「民の笑顔の為に」

 その姿にルーク重なったように見えた。

「そうか、なら教えといてやる。ここには誰かを護りたいって奴しかいない、ラクト砦はライオス王国軍を歓迎する」

 オベールに両腕を派手に広げて答える。

「ありがとうございます」

 目の前で深々と頭を下げるオベール。こんな所を人に見られたらまた変な噂が立つじゃないかと辺りを見回し誰もいないことを確認する。

「戦場では出来る事をすればいい、無茶だけはするな。一番重要なことは死なないことだ。それじゃあまた明日軍議で」

 それだけ告げると振り返り、リブセレ軍の幕舎へと戻った。


 日が明け、眠い目を擦りながら世界連合軍の幕舎へ着任の挨拶へと向かう。

「昨日は帰りが遅かったみたいだな」

 世界連合軍の幕舎へと向かっている時にルークが声を掛けて来た。

「前の遠征の時の顔見知りが多くてちょっと話し込んじまった」

 大きな欠伸を一つ挿み昨日の聞いた話をルークに聞かせる。

「それは俺達も負けてられないな」

 気持ちが入りすぎた時の拳を強く握りしめるルークの癖を見止め釘を刺しておく。

 握りかけた拳の力が抜けたのを確認してオベールの事を伝える。

「初陣で活躍したどっかの王族に憧れてるらしい」

 ルークにもわかるように意味ありげに視線を送る。

「へえ、王族にもすごい奴がいるんだな」

 戦闘の時はやたらと勘が良いくせにそれ以外の時は呆れるほど鈍感だ。

「ルークの事だろうが」

 本当にこういう所はウェインと似ている。

 そんなやり取りをしてるうちに世界連合軍の幕舎へと到着した。

 

 幕舎に着くとオベールを見たルークが文句を言っていたが俺には関係の無い事だから適当に返事をしておいた。

 ルークとの話が終わったところで総司令官が幕舎に入って来る。

 リブセレからはルークが、ライオスからはオベールがそれぞれ挨拶を済ませると、総司令官から指揮を頼めるかと声をかけられる。今回は初めから好きにやらせてもらおうと思っていたので悩むことなく承諾する。

「ああ、こっちもそのつもりだ今回は最初から遠慮無くやらせてもらう」

 妙な空気を感じて全体を見回す。

「ふー、やる気なく躱されるんじゃないかと思ったが杞憂だったみたいだな」「いやいや、とりあえずこれで一安心だな」

 一斉に幕舎の空気が弛緩し、銘銘しゃべりだす。人の事を何だと思ってるんだ、思わず声に出たが周りの顔を見てまあいいかと思い直す。


「一度実戦で各軍の状態を確かめたい」

 気を取り直して軍議を再開させた。

「別にそこまで本気で当たる必要はない、今の各軍で出来ることを見せてくれ。後は俺が勝手に考える」

 実際にどこまで出来るのか確認したかったからそう言ったんだが反応に面食らった。

「ドーン隊に敵の誘導を頼みたい」「こっちは魔法狂率いる魔導部隊を頼む」「うちの軍ならルーク隊と相性がいい」

 何故ラクト砦の奴らは揃いも揃って一斉にしゃべりだすんだ。

「待て!、ちょっと待て!」

 前のめりで話しかけてくる奴らに手をかざして落ち着かせる。

「なんで全員うちの隊を使う前提なんだよ、自分達で出来ることをやれよ!」

 うちの隊を動かしたら俺が大変になるじゃないか。

「自分達で出来る事? ウェインパーティーに魔王軍擦り付けた張本人が何か言ってるぞみんな」

 いやな視線に晒され思わず負け惜しみが口をついて出る。

「くそ、やけに連帯感が強くなってるじゃないか」

 よく考えてみればここに居る奴らは各国の精鋭だ、簡単に楽はさせてくれそうにないな。

「少しは知恵が回るようになったのは分かった。後、何のための連合軍かってのも理解できてるようだしまあ合格って事にしとく」

 無理やりこの場を納めようと一つ咳払いを入れる。

「とりあえず明日は様子見だ、魔王軍の状態も知りたい。その上で戦術を考える」

 強引に軍議を終わらせると俺の周りに人が集まり相変わらず一斉に好きなようにしゃべりかけてくる。

 うんざりしてルークの方を見ると総司令官がルークに頭を下げているのが見えた。昨日俺がオベールとのやり取りを気にしていたのがバカらしく思える光景だった。この軍議で決議されたのは、またリブセレ軍に変な噂が流れる事だったようだ。


 翌日、俺の指揮で魔王軍との戦端が開かれた。

 俺達リブセレ軍を中央に置き、ライオス軍を左翼側の中央横に配置した。先ずは各軍のいつも通りを知るために右翼軍を動かす。

「行くぞー、一番槍は俺達だ!」「目の前の魔王軍は全て打ち倒せ!」

 異様に士気が高いがこいつらは様子見だってわかってるのか? 一抹の不安を覚えながら突撃の合図を出す。

 世界連合軍と魔王軍がぶつかり合い、辺りには土煙が舞う。怒号と金属のぶつかり合う音が響き渡り、小規模の魔法が飛び交う。

 掛かり気味かと思った世界連合軍だったが動きは冷静で統率が取れている、かなり訓練を積んだ証拠だ。

 続いて左翼軍にも突撃の合図を出すと待ちわびていたように各軍一斉に飛び出す。

 右翼軍同様に統制の取れた動きで魔王軍を押し込む各軍の中で苦戦する軍があった、ライオス軍だ。

「まずいな、戦場の空気に当てられたか」

 急造の新参軍が訓練を積んだ各国の精鋭部隊と同じように動けるはずがない、それは予想していたが思ったより深刻そうだ。

 他の軍と同じように突撃を掛けたライオス軍だったが勢いだけでは練度の差は埋められない、決して魔王軍は弱くないからだ。

「ザイラス隊、出撃の用意だ、フェイス隊に攻撃の準備を伝えろ」

 戦場をよく見ろ、何が出来て何が出来ない? 訓練を積んできたのはリブセレ軍も同じだ、俺がやるべきことを見極めろ。

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