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勇者ウェイン物語  作者: クモ子
小国の王
13/19

ルーク 3-1

 ラクト砦への一回目の遠征の途中からフェイスが魔導部隊のフェイスに対する“姐さん”呼びを咎めなくなった。

 そのせいもありラクト砦では、ウェインパーティー並の魔法を撃ち込んだリブセレの戦慄の魔法狂ことフェイスは敬意を込めて“姐さん”と呼ばれるようになっていった。

 『姐さん、ご苦労様です』と言い『姐さんって呼ぶんじゃないわよ』と睨まれるまでがフェイスとの挨拶となっている。

 

「ほんとになんなのよ、どいつもこいつも」

 あいさつの対応にイライラしているフェイスにザイラスが茶々を入れる。

「魔導部隊の姐さん呼びを認めたから広まっちまったんだろ」

「認めてないわよ、いちいち面倒だから相手にしないようにしてるだけよ」

「ふーん、そうかよ」

 意地の悪そうなにやけ顔でフェイスの顔をのぞき込むザイラス。

「ザイラス、杖って殴るための武器にもなるって知ってた?」

 杖を振り上げたフェイスをドーンが必死で止めている。


 ウェイン達が去った後、リブセレ軍による作戦で魔王軍を更に後退させ、その後半年間は大きな戦闘もなく世界連合軍に取って貴重な休息期間となった。

 その後、任期の満了が見え出した頃にもう一年留まってはくれないかと打診された。

 だが、全員一致で一旦リブセレに戻ると答えた。

「今回はいい経験になった、一旦国に戻り軍を鍛え直す。強くなるよ、俺達は」

 リブセレ軍の皆にはそう伝え、今回の遠征で得た経験から今後の対策として行う予定の事、ザイラス、フェイス、ドーンもそれぞれの対策を同じくをラクト砦に全て伝え残しリブセレへと戻ったのだった。

 

 そして再び、鍛え上げたリブセレ軍を率いてラクト砦に戻って来た。

 二度目の遠征と言う事もあってかそれ程気負いは感じない。強くなったという自覚もあるが慢心はない。自分に何が出来て何が出来ないかはしっかり認識できている。いつも通りでいい、それだけ自分に言い聞かせる。

 ラクト砦について直ぐ俺とザイラスは世界連合軍の総司令官の幕舎へ顔を出しに行った。

「おお、来たかリブセレ軍。待ちわびたぞ」

 前回の遠征の時から駐留を続けている総司令官のやけに期待を込めた挨拶に少し戸惑う。

「またよろしく頼む」

 差し出した手を総司令官が力強く握る。

「現状のラクト砦の状態を聞けるか?」

 挨拶もそこそこにザイラスが切り出す。

「今回は初めからやる気でいてくれるみたいだな」

 ザイラスをからかう様に総司令官が返す。ザイラスの性格は既に把握されている様だ。

「後から楽をするために初めは頑張るんだよ。尻に火がついてからじゃ選択肢が限られちまう」

 大まかな現状の説明といくつかの質問を終え、幕舎の設営でごった返すリブセレ軍の元に戻ることにした。

「挨拶は終わったか?」

 リブセレ軍の幕舎に着くと、ドーンがこちらに気付き設営の指示を止めて寄って来る。

「ああ、本格的には明日からだけど挨拶は終わったよ」

 足を止め軽く手を挙げて答える。

「ドーンこっちは問題なさそうか?」

「問題無い、順調だ」

 短く答えると幕舎に目をやり再び指示を飛ばす。

「ちょっと砦を見て回って来る、こっちは任せていいか?」

 そう言ってザイラスはドーンと俺に視線を送る。

「大丈夫だ、こっちはやっとく。ザイラスはザイラスにしか出来ない事をやってくれ」

 そう答えるとザイラスは俺達と別れた。

「何だか今回はやる気みたいだな」

 ドーンが歩いていくザイラスを見つめながら総司令官と同じ感想を漏らす。

「何か思うところがあるんだろ、気負ってる感じはしないから問題ないんじゃないか」

「そうか、ならいつも通りで行こう」

 そのドーンの言葉に「そうだな、いつも通りで行こう」そう返す。

 そんな和やかな空気を聞き覚えのある声がかき消す。

「あんた達、埃にまみれて汚くなる前に私のテントを早く建てなさい。いい事、少しでも私のテントを汚したら消し炭にするわよ!」

「姐さん、消し炭は勘弁してください」

「急ぎなさい、レディを待たせるんじゃないわよ」

 リブセレ軍にはいつも通り姐さんと呼ばれるフェイスの声が鳴り響いていた。


 翌日、正式に着任の挨拶にザイラスと世界連合軍の幕舎へと向かう。

「昨日は帰りが遅かったみたいだな」

 世界連合軍の幕舎へと向かう道すがらザイラスと話す。

「前の遠征の時の顔見知りが多くてちょっと話し込んじまった」

 眠そうに大きく欠伸をしながらザイラスが続ける。

「俺達がラクト砦に残していった事は実践できてるみたいだ、それなりに期待は出来るかもな」

「それは俺達も負けてられないな」

 右の拳を胸の前で強く握り、気合を入れようとするとザイラスに挫かれる。

「待て、ルークは気持ちが入りすぎると一人で先走るきらいがある。自重しろよ」

 行き場を失ったやる気を霧散させ、力を込めかけた拳を解く。

「ウェインにもそれはよく言われたな」

「いつも通りで問題ない」

 聞き慣れたザイラスの言葉。

「そうだないつも通りで行こう」そう思い直し声に出す。

 気を取り直し歩き出すとザイラスが昨日の話を続ける。

「ライオスって国知ってるか? そこから皇太子が軍を引き連れて来てるようだ」

「世界有数の食糧倉庫って呼ばれてる国だろ?」

 王族として幼いころ嫌々勉強させられた記憶を思い起こす。

「そうだ、そのライオス王国だ。皇太子本人が政治的な思惑で来てるって言ってた」

「皇太子と会ったのか」

「会ったと言うより待ち伏せされてたって感じだな」

「なんでザイラスを待ち伏せするんだよ」

「初陣で活躍したどっかの王族に憧れてるらしい」

 意味ありげにこちらに視線を送りながら話すザイラス。

「へえ、王族にもすごい奴がいるんだな」

「ルークの事だろうが」

 呆れたようにザイラスが見つめてくる。

「え、俺なのか?」

 理解が追い付かず思案を巡らせているうちに目的地に到着する。

 世界連合軍の幕舎に着くと、果たしてライオス王国の皇太子らしき人物を見て止める。

「あそこの金ぴかの鎧って……」

「そうだ、あれがルークに憧れるライオス王国皇太子だ」

「いや、流石に俺はあそこまで趣味は悪くないぞ」

「昨日会った時はまともな格好をしてたから、あれは父親に着せられてるんだろうよ。ライオスは元々まともな軍隊何て持ってやしない。食料供給の上積みを条件に派遣の要請を呑ませたってとこだろう。自国の軍に箔をつけたい為の政治的な取引だよ」

「それにしてもあれじゃ余計に良い所のお坊ちゃんだろ」

「戦場に政治事を持ってくる様な奴の美的感覚を俺に理解できるはずがない」

 わざとらしく両手を上に向け、首をすくめて見せるザイラス。

「今のところラクト砦での不安材料はライオス軍ぐらいだな」

 ザイラスがそう言い終わったところで世界連合軍の総司令官が幕舎に現われ軍議が始まった。


 今回新たにラクト砦への遠征に参加したのは俺達リブセレとライオスの二国。

 それぞれ挨拶をした後、ラクト砦の現状と今後の方針が話された。

「皆も待ちわびたリブセレ軍が帰って来た。今後、中央にリブセレ軍を配置しザイラスに指揮を任せる事とする。頼めるかザイラス?」

 昂る気持ちを抑える様に静かに言うと、世界連合軍の総司令官はザイラスを見る。

「ああ、こっちもそのつもりだ今回は最初から遠慮無くやらせてもらう」

 ザイラスはそう言うと全体を無言で見回す、異論は上がらなかった。

「ふー、やる気なく躱されるんじゃないかと思ったが杞憂だったみたいだな」「いやいや、とりあえずこれで一安心だな」

 さっきまでの緊張感が一気に解け銘銘しゃべりだす。

 ザイラスと二人で顔を見合わせると、何とも言えない表情をしていた。多分俺も同じような表情だったんだろう、そんな俺達に世界連合軍の総司令官が話しかけてくる。

「いやすまない、リブセレ軍が来る前に皆で話していてな。ザイラスのやる気をどうしたら引き出せるかと……」

 すまなさそうにこちらに向かって釈明する。

「人の事を何だと思ってるんだ」

 怒ったように言うザイラスだったが、どこか嬉しそうに見えた。

 

「一度実戦で各軍の状態を確かめたい」

 ザイラスのこの言葉で軍議は再会された。

「別にそこまで本気で当たる必要はない、今の各軍で出来ることを見せてくれ。後は俺が勝手に考える」

 各軍の長達は暫く黙り込むとザイラスに話しかける。

「ドーン隊に敵の誘導を頼みたい」「こっちは魔法狂率いる魔導部隊を頼む」「うちの軍ならルーク隊と相性がいい」

 銘銘に一斉に話し出したせいで詳しい内容が聞き取れない。

「待て!、ちょっと待て!」

 語気強くザイラスが右手を前にかざし一同を制止する。

「なんで全員うちの隊を使う前提なんだよ、自分達で出来ることをやれよ!」

 突き放すように言うザイラスを、全員が纏わりつくような笑みで見つめる。

「自分達で出来る事? ウェインパーティーに魔王軍擦り付けた張本人が何か言ってるぞみんな」

 誰かがそう言うと全員の視線に気圧されたようにザイラスが少しのけ反った。

「くそ、やけに連帯感が強くなってるじゃないか」

 負け惜しみの様に吐き出すと、一拍おいてザイラスが軍議に話を戻す。

「少しは知恵が回るようになったのは分かった。後、何のための連合軍かってのも理解できてるようだしまあ合格って事にしとく」

 咳払いを一つ挟み更に続ける。

「とりあえず明日は様子見だ、魔王軍の状態も知りたい。その上で戦術を考える」

 ザイラスがそう言った時に隣に座る総司令官と目が合った。

「皆リブセレ軍を待ちわびていたんだよ。なにせあのウェインパーティーに匹敵する活躍をしたんだからな」

 手放しで褒められ何だかむず痒い。

「とはいっても、あの後フェイスは三日ほど起きてこれなかったし、軍全体もかなり疲弊してしまった」

 フェイスが起きてこなかった間、魔導部隊は本当に騒がしかった。起き掛けにフェイスに怒鳴られて余計に騒がしくなってたし、あれはもうごめんだ。

「それにな、」

 総司令官が真剣な眼差しを向けてくる。

「普通はああいう軍事機密に当たるような事を他の国に教えたりしない」

 あの後俺達は偽装魔法や、フェイスの戦慄のカラクリを全てラクト砦に教えた。ザイラスからは「一応軍事機密だぞ」とは言われたが「構わないよ」と答えた。

「ラクト砦を抜かれたら魔王軍の侵攻は一気に広がる、そうなれば俺達の国も無事ではいられない。自分にとって大切な者達を護るためならなんだってやるさ、出し惜しみはしないさ」

 その時皆に言った言葉を総司令官にも言って聞かせる。

「まったくその通りだ、俺達も世界を護るためにここで戦って来た。だが完全に一つに纏まっているとは言い難かった、リブセレ軍が来るまではな。感謝する、これからもよろしく頼む」

 そう言うと総司令官は頭を下げる。

「俺達が困ってる時は力を貸してくれ。持ちつ持たれつって事で」

 総司令官は頭を上げると笑って答えて見せた。

「もちろんだ、これからまた一年よろしく頼む」

 そう言って差し出された手を力強く握り返した。

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