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勇者ウェイン物語  作者: クモ子
小国の王
11/19

フェイス 2

 私はいつも安全な後ろから魔法を撃つだけ。命の危険に晒されることは少ない。

 これはザイラスも同じだと思うのだけれど、どこかで負い目を感じてしまう。

 だからこそ絶対に失敗は出来ない。

 ザイラスは私の事を魔法狂だと言う。最近ではルークも影響され始めてたまに口を滑らせる。

 確かに私は魔法を撃つのが好きだ。その強大な力の前に全てを屠り、消し去る。戦闘の勝利。戦いが終わり静寂が訪れ、すっきりと気が晴れる。そう仲間を失うと言う恐怖を晴らしたいのだ、そして目の前に現れる仲間の笑顔に歓喜する。

 恐怖と戦う鬼のような形相を仲間の笑顔が追い越し同時に歓喜も浮かべてしまう。

 傍から見れば魔法狂と言われても仕方ないのかもしれないわね、でも『姐さん』と呼ばれるのは許せないわ。

 

 ウェインと別れ四人でリブセレに向かっている途中でザイラスと話したことがある。

「今までの俺達四人だけとの戦い方と集団での戦いって言うのは違ったものになって来る。フェイスの魔法も個としてみた場合は十分だけど、集団になった時にどこまで通用するか怪しい」

 割と真剣にこれから先の事に考えを巡らせている様だ。

「魔法石の交換だとかは他に人員を割いてやらせるとか、替えの杖を用意しておくとか」

「んー、自分の杖を人に触られるのは嫌だわ。杖も馴染んだ物の方がしっくりくるのよね」

 言わんとしていることは分かるんだけどこれは譲れない。

「しっくりってなんだよ、もっと論理的に説明してくれよ。ルークやウェインじゃないんだから」

「しっくりはしっくり以外に説明できないわよ」突き出した両手で杖を握り替え感触を確かめる。

「まあいいよ、俺の予想に届かなかったことはないしな」

「ならいいじゃない、いつかザイラスが驚くような魔法を撃ってあげるから」


 ラクト砦にウェイン達が来て三日目にザイラスに聞かれた。

「なあ、フェイスは昨日の戦慄みたいなの撃てたりするのか?」

「そうね、出来なくはないかもね」

「嘘だろ?」

 驚きと、化け物でも見たようなごちゃまぜの表情でザイラスが返してくる。

「前にザイラスに言われた事とか他にも色々試してはいるのよ。何本かの杖の魔力を同時に解放して魔法を撃ったりとかね」

「ほんとの魔法狂になっていってるな」

「ちゃんと魔導部隊にも色々やらせてるわよ」

 私のその言葉を聞いてザイラスの目がキラリと光ったように見えた。

「詳しく聞かせてもらおうか」

 こちらを値踏みするように嫌な笑みを浮かべて顔を近づけてくる。

 隠していても仕方がないので観念して色々と余すことなく伝えた。

「やるじゃないか、姐さん」

「姐さんって呼ぶんじゃないわよ!」

 満足そうな笑みを浮かべるザイラスにそう叫んだ。


「出来ないなら出来ないでいいの、あなた達に今出来る事をしなさい」

 今回の作戦ではザイラスからは二十人選抜して欲しいと言われた、でも十九人しか選ばなかった。

 ザイラスの注文はこう、戦慄の魔法の三分の一あれば上出来、出来るだけそこを目指した威力で二発連続を三回の計六発を撃ち切れる事。だから一人外した、六発は厳しいと判断したから。

「姐さん大丈夫ですやれます、やらせてください」

「姐さんって呼ぶんじゃないわよ、何回言わせるのよ。だめよ、あなたじゃ魔法を打ち終わった時に無事でいられるか分からない。誰かが傷つくことはザイラスの信念に背くことになるわ。あなたの為じゃない、ザイラスの信念の為にあなたは外すわ」

 毅然と、明確に、はっきりと断言した。

 ザイラスは昔から死なない事を大前提に考え、普段から行動していた。それは戦闘の時の指示を見ていれば分かる。

 いつか神殿に行った時もわざと遠回りをしていた、神殿内の構造から危険の少ないルートを選んでいたんだと思う。

 そして今、数千と言う軍隊に同じことをしようとしている、誰も死なせないようにと。

 四人、ウェインが来てからは五人。その程度の少人数ならばそれも可能だわ。でも今の人数と戦争という状況ではそうはいかない。

 パーティーの時に誰かが怪我をすることはある、それは軍隊においては幾人かの死を意味する。ザイラスもそれは十分に理解している、でも納得はしていないわ。

 顔や言葉には出さないけれど、心ではもがき苦しんでいると思う。長い付き合いだものそれぐらいは分かる。

 もがき苦しんでるのに一向に諦める気はないみたい。本当にうちの男達はみんな諦めが悪い。

 だから私が一緒に居て手伝ってあげなきゃ、仲間だもの。


「フェイスいけるか?」

 作戦開始二日目、出陣前にザイラスが珍しく真っすぐに視線を向けてきた。

「私以外に誰が出来るって言うのよ? 目に物を見せてやるわよ」

 私は出来ないことを出来るとは言わない、仲間の命が掛かっているからね。この場合、出来るか出来ないかという選択であれば“出来る”なのよ。ただどの程度の確率でと言われたのなら分からないとしか答えられない。

 それでも私に出来るのならやる、今までもそうやって来た。いつも通り絶対にやってやる。

 私は自分の力量をかなり明確に認識している。どの魔法がどれぐらいの威力で何回撃てるのか、発動までの時間や命中精度。全てを把握しザイラスに託す。見誤ってはいけない、仲間の命を繋ぐのが私の役割。私が最大火力なんだから。

 魔法は使いすぎると体力も気力も奪われ動けなくなる。そうなれば足手まといとなりパーティーは壊滅する。だから決してそうならないよう持ち歩く魔法石は調整する。魔法が撃てなくても動けるなら最悪皆で逃げればいい、死ぬことをうちの指揮官は許してくれないから。

 でも、本当は動けなくなる最後の魔法を撃つための魔法石をいつも隠し持っていた。私が死んでも皆を死なせない為に。

 今回ザイラスがドーンを私の護衛に付けたのは魔法石を隠し持っていた事を知っていて、私が無茶しないようにって言うつもりなんだろうけど、だめよ私は我が儘なの。何が何でも作戦は成功させる。たとえぶっ倒れてでも戦慄の魔法を撃ち込んであげる。


 三日目は作戦開始前に私からザイラスに話しかけた。

「男は度胸、女は魔法よ」敵陣を硬い表情で睨みつけるザイラスに話しかける。

「そんな言い回しは存在しない」

 どこか上の空の返事が返って来る。

「ふふ、ザイラスでも緊張するのね。大丈夫、いつも通りよ」声を掛けるとザイラスの視線が私に向けられる。

「そうだな、いつも通りだ」

 落ち着いた瞳で真っすぐ敵陣に視線を移すと、口角を少し上げザイラスは答えた。

「素直なザイラスは少しカッコよく見えるわね」ザイラスに聞こえるか聞こえないかぐらいの声で話す。

「何だって? 良く聞こえないぞ」

「魔法を撃ち放題なんて楽しみって言ったのよ」

 やんちゃな男の子だと思っていたのにいつの間にか立派な大人の男になっていたようだ、少し感慨深い。

 そして三日目の作戦、“殲滅”が開始された。

 

 ドーン隊とルーク隊が魔王軍と交戦に入った。程なくして一発目の選抜部隊による魔法が魔王軍に撃ち込まれる。

 続けざまに二発目の着弾が見える。選抜部隊は順調ね、私も準備に取り掛からないと。

 三発目、四発目と順当に魔法が放たれていく。

 魔力を解放した杖を地面に突き刺し、今目の前に五本目の杖を突き立てる。

 最高のタイミングで撃つ、ザイラスなら選抜部隊の六発目の直ぐ後に言ってくるはず、「フェイス、戦慄だ」ってね。それが私の最も輝く瞬間よ。

 選抜部隊が私のいるところに戻って来た。全員の顔からかなりの疲労が見て取れる。

「もう少し頑張ってもらうわよ」選抜部隊と私自身に言い聞かせる。

 足元には魔力の解放を維持できず魔力が霧散してしまった杖が転がっている。十本は必要なのにまだ六本維持するのがやっと、でも絶対に撃ってやるんだから。

 準備を整えた選抜部隊が五発目に続けて六発目を撃ち込む。

 今! 今このタイミングなのに……撃てなかった。

 それでも気を取り直し杖を目の前に突き立てていく。

 またダメだ、七本目までは維持できるようになったけどそこからがきつい。

 通常ではありえない回数と魔法石からの膨大な魔力解放に体力も気力も限界を迎えている。

 魔力を霧散させてしまった杖にしがみつきどうにか身体を支える。

「大丈夫かフェイス?」

 たまらずといった感じでドーンが声を掛けてくる。

「ちょっと立ってられないだけよ、ドーン身体を支えて。遠慮なく魔法が撃ち放題なのに倒れてなんていられないわ」

「無茶するな」

「無茶するためにドーンが付いて来てくれたんでしょ、死ぬわけじゃないんだから」

 軽口を叩いては見たけれど想像以上にきつい、でも絶対にやって見せる。

 ドーンに支えられながら杖の魔力を解放していると七発目の偽装魔法がすぐ後ろから放たれた。

「姐さんに繋げ!」「もう一発行くぞ!」

 フラフラの選抜部隊が、ボロボロの選抜部隊が、私より弱っちい選抜部隊が繋いでくれた。

 絶対に撃つ、私の戦慄を撃って見せる。

 

 「作戦としては三日目も挑発で終わっても構わない、そこまで行ければ作戦としては成功だ。欲を言えば戦慄級のやつを一発撃ち込みたいけどな」

 リブセレ軍の作戦会議の前にザイラスから今回の作戦内容を伝えられていた。

「撃つわよ、戦慄。それを撃たなきゃ私のいる意味がないでしょ。撃ってやるわよ」

 売り言葉に買い言葉じゃないけどそう答えていた、私にしかできないなら私がやるのは当然よ。いつも通りだわ。

「選抜部隊にしても五発撃てれば合格だ。それだけでも魔王軍の被害は甚大だ、必ず陣をまた下げる」

「だめよ、それじゃああの子達だけが魔法撃ち放題じゃない。私も撃つわよ戦慄を」

 私だけが後ろで安全に何もしないなんて絶対に嫌だ。

 私はザイラスに言ったのよ、「いつかザイラスが驚くような魔法を撃ってあげるから」って。

 そう、それは今日だ。


 選抜魔導部隊が八発目の偽装魔法を撃ち終えてその場に倒れ込みドーン隊に担がれて運ばれていく。

「本当にうちの男達はバカばっかり」言葉に出しながら繋ぎ託された時間を無駄にしないよう杖の魔力を開放していく。

 絶対に撃つわ、私だけ諦めたりなんかしない。後ろで、安全に、のうのうとしてようが、私は私にしかできない事をやる。皆で繋げた次を途切れさせたりしないわ。ここに居る仲間全員で撃つのよ。

 うちの男達は本当に諦めが悪い、でも私はもっと諦めが悪いのよ。

 高ぶる気持ちがスーッと落ち着くと、立ちはだかっていた八本目の壁を難なく超え、十本の杖の魔力を開放する。

「私のいつもの杖持って来て」

「姐さん、十本って言ってませんでしたか?」

「姐さんって呼ぶんじゃないわよ、早くしなさい。今良い感じなのよ」しゃべるのもきつくなって来た。

「わ、分かりました」

 杖を受け取ると魔力を操り十一本目の杖から魔力を解放していく。

 まだよ、まだそのまま。目を閉じると十一の光が重なり合い一つの光になっていく。

 しっくりくる、やっぱり馴染んだ杖の方が良いわ。杖の感触を確かめると閉じていた瞼をゆっくりと引き上げる。

 初めて感じる高揚感ね、そう感じながら笑みを浮かべる自分に気付く。

 「これが、私の戦慄」静かに言葉を吐き、魔法を発動させる。

 上出来ね、でもザイラスの驚く顔が見れないのは残念だわ。

 

 着弾まではしっかりと覚えている。今まで生きて来た中で最高で、至高で、会心の魔法。そこから先は何も覚えていない、気を失っていたみたい。

 ドーンの不安そうな顔と雲一つなく青く澄んだ空が見える、倒れたのね。ザイラスに合図を送らなきゃ、手を動かすのも死に物狂いじゃないの。

 それでも何とか必死で腕を上げ、親指を空へ向け高々と突き上げて見せた。多分これが今日の私にとって一番大変だった事。

 

「姐さん!」「姐さん!」

 周りで魔導部隊がドーンに背負われた私に付いてくる。

「うるさいわね……」それ以上は疲れていたから言わなかった。

「おい、姐さんって呼ぶなって言わなかったぞ?」「ほんとだ、どういうことだ?」

 ざわざわと余計に騒がしくなる。

「うるさいって言ってるでしょ」ほんとにむさ苦しくて、騒がしくて、大切な仲間がたくさん増えてしまった。

「姐さん、大丈夫ですか?」

「姐さんて呼ぶんじゃないわよ!」

 最後の力を振り絞って叫ぶ。いつものこの一連のやり取り、もう面倒だからやめても良いかもしれない。そう思いながらドーンの背に身体を預け意識を閉じた。

 こうして私達リブセレ軍はウェインパーティーが余裕でやってのけた事を死に物狂いで再現して見せた。

 これがラクト砦における私達リブセレ軍の初勝利。

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