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勇者ウェイン物語  作者: クモ子
小国の王
10/19

ザイラス 2

「ザイラス、今日一緒に来てくれ」

「どこにだよ?」

「軍議だ。この間の魔王軍との一戦を評価されて軍議への参加を打診された、ウェイン達からの推薦もあったらしい」

「勘弁してくれよ」

「観念しろ、リブセレ軍の総大将はザイラスだと言う事も伝えてある」

「ルークがそれを言うなよ。まったく、分かったよ行くよ」

 ウェイン達が引き上げてからこっち、俺は軍議に参加させられている。

 俺は前に立って何かをするのが嫌いだ、そういうのはルークの役目のはずだ。

 だが、その当のルークが俺を前へと押し出しやがる。まったく迷惑な話だ。

 仕方なく俺はルークと総指揮官の幕舎へと出向き軍議に出席した。

 幕舎の中には各国の軍を率いてラクト砦にやって来た指揮官達がいた。

 ルークの様に王族貴族はもちろん、名だたる猛将もいる。

 そんな中、周囲から耳目を集める男がいた、ルークである。

 ルークの奴ウェインから貰った剣を帯剣してやがる、注目の的じゃないか。ルークにしてみれば良い剣だしウェインから貰った物だ、そりゃあ普段から帯剣していて当たり前だ。

 だが、その剣はとんでもない値打ち物なんだよルーク。

 ウェインもそうだがルークも物の値打ちと言う物にかなり疎い。基準は感覚的な“良い”か“悪い”の二択。

 そんな事を考えているとどこかの国の貴族風の奴がルークに話しかけていた。

「ルーク殿、その剣は一体? 先日までは違う剣を持っておられたように思うのですが?」

「ああ、これはウェインがわざわざ俺にって持って来てくれたんだ」

「あのウェイン殿からですか!?」

 ああ、またリブセレ軍に変な噂が立つなこれは、そう思うに十分な状況だった。

 

 ルークの周りに人だかりができ、ざわざわとし出したところに世界連合軍の総司令官が幕舎に入って来た。

 その姿を見止めると皆話をやめ、各自席に着く。

 総司令官は席に着くと全体を見渡し「では軍議を始める」と軍議の開始を告げる。

 軍議自体は防衛一択のこの砦ではそう多くの意見は出ない、予想通りだ。

 しかし出てくる意見は防備の強化と補給の内容確認ばかりだった。

 一通りの意見を聞き終えたところで総司令官から声を掛けられる。

「リブセレ軍のザイラス指揮官、せっかくだから何かあれば意見を聞かせてもらえるかな?」

 俺は人の前に立つのは嫌いだ、そういうのは他の奴にやってもらいたいと思っている。しかし今回の俺達リブセレ軍は初めてルークが総指揮を執ってやって来た新参者だ。リブセレと言う国に対して義理はないが、仲間であるルークが見くびられるのは気に入らない。だから分かり易く力を示す必要がある。

「では遠慮なく言わせてもらう。今、護りを固めるのは得策じゃない。打って出るべきだ」

 真っすぐに総司令官に視線を送り、そしてゆっくり全体を見回す。

「何を言うかと思えば、打って出るとは勇猛な若者だ。この砦は防衛のための物なのだよ?」

 貴族かなんかだろう、武功を挙げたいバカな新参者だとでも思っているのだろう。武功を挙げたいってのは間違いではないが。

「その通りだ。この砦においては防衛することが最上の任務だ、それに間違いはない。だが、無駄に物も人も浪費することはないだろ? ウェイン達が来てから損害無しで今日まで来ている。この状態を出来るだけ長く保つ」

「愚かな、ウェインパーティーはもう居ないのだぞ、どうやってこの状態を保つというのだ?」

 愚かか、ほんとに愚かで有難いよ。あんた達が愚かで。

 よし、ここが決めどこだろう、一拍おいて畳みかける。

「魔王軍はウェイン達がここを離れたことを知らない。だから出来るだけ長くウェイン達がいる様に思っておいてもらわないといけない。そこで、敢えて挑発を掛ける。魔王軍を誘い込むように少数の部隊を出し攻撃を仕掛ける、これをリブセレ軍がやる。理由は二つ。理由一つ目、この前の戦闘での魔王軍の撤退の指示は即断だったが適切な判断だったと思う、つまりはその程度には知恵の回る奴が指揮を執っているという事だ。そこで前回魔王軍が誘導された俺達リブセレ軍がやってきたとなれば必然とその影にウェインパーティを意識する。ここで意識させることが出来たら作戦成功だ。理由二つ目、勝手の分かったリブセレ軍の方が俺が指揮を取りやすい。戦況がどう動こうがリブセレ軍だけならどうにでも対応できる」

 一息に、口を挟む暇も与えず全体像の要点のみを伝え、誰かの発言があるまで言葉を発せず考える時間を与える。

 皆考える、作戦の全容を。その結果得られる戦果を。

 世界各国から集まった軍であるからにはそれなりに政治的な意図が出ることもある、それは構わない。この世界の最終防衛線ともいえるラクト砦を護ることに支障をきたさないのであれば。

 悪く言えば烏合の衆ではあるが、世界を護ると云う根本のところでは全員一致している。出来るだけ被害無く護ることができるならこれに越したことはない。しかも被害の可能性がある挑発部隊には作戦提案者の軍が当たると言っている、自分たちに損害は出ない。失敗したとしても補給は間に合い、正面から防衛に当たったとしても十分持ちこたえられるようになっている。

 止める理由は無い。

「良いのではないですか? 彼等も新参なれば急ぎ功も欲しい事でしょう。お手並み拝見と言うことで」

その言葉を呼び水に皆口々に了承する旨言葉を発していた。

「よし、良いだろう。リブセレ軍ザイラス指揮官の案を採用する、リブセレ軍の出陣を許可する」

「では、早速明日出陣とさせてもらう」

 総司令官の言葉にそう答え軍議は終了となった。

 

「ザイラスが積極的に意見を言うなんて珍しいな」

 リブセレ軍の幕舎へと戻る道すがら、ルークがやけに嬉しそうに話しかけてくる。

「この俺がルークやウェインの策に乗せられるなんて屈辱だ」

 ルークを恨みがましく睨みつける。

「なんだよ、フェイスの真似か?」

 既に強力な睨み耐性が備わっていたようで効果は無かった。

「まあいい、さっき言った通り明日出陣する。戻って作戦会議だ」

「そうだな、実質明日がここでの初陣みたいなものだしな」

 まったく策士の俺に策を仕掛けてきやがるとはいい度胸だ、しっかり策に嵌っちまってるじゃないか。

 リブセレ軍の幕舎に戻ると各部隊長を集め作戦の内容を伝え、明日に備え早めに寝ることとした。

 そして翌日、晴れてリブセレ軍の初陣を迎えた。


 「さあ、リブセレ軍行ってみようか」自らを鼓舞するように声に出す。

 見上げると、雲一つなく青く澄んだ空が広がる。快晴だな、戦争日和と言っていいのか?とぼんやり考える。

 今回の作戦期間は三日間。そして今日がその作戦の三日目、最終日だ。

 一日目、二日目と陣を下げた魔王軍に挑発をかけにいった。

 ドーン隊が先陣を切り魔王軍の陣形を切り崩しにかかる。

 さすがに学習したようでこちらの動きを察知すると陣形を密集させ簡単には切り崩させない。

 続いてルーク隊も斬りかかるが二の轍は踏むまいと魔王軍も応戦する。

 しばらくの小競り合いの後、フェイス率いる魔導部隊の魔法の弾幕を合図に撤退を開始する。

 そして三日目、この二日間ドーン隊が突撃をかけた辺りは初めから厚めに陣が張られてる、予想通りだ。

「ドーン隊進めー! ルーク隊ドーン隊に続けー!」

 今日は昨日までと違うぞ魔王軍。

「今だ、魔導部隊撃てー!」

「今日の一番槍は私達よ」

 フェイス率いる魔導部隊の魔法が一斉に魔王軍の陣が厚めに張られた一帯に撃ち込まれる。

 ドーン隊の道が出来た、魔王軍が勝手に密集してくれてるんだここはフェイス達の出番だろ。

 さて、ここからだ、ドーン隊には隊長のドーンがいない。更に数もいつもの三分の二だ、頼むぞドーン隊。

 

「今回の作戦の概要を伝える」

 今から三日前、リブセレ軍内において各部隊長も呼び作戦会議を開いた。世界連合軍の軍議から戻ってすぐの話だ。

「今回は三日かけて作戦を実行する。挑発、挑発、そして殲滅だ」

「挑発だけじゃなかったのかザイラス?」

 ルークの疑問ももっともか、一応説明しておこう。

「いいか、今回の作戦の肝はウェイン達がラクト砦にいると魔王軍に思わせることだ。挑発だけじゃそのうちバレてまた進軍されちまう。だから確実にいると思ってもらう。その為には“殲滅”は絶対に必要だ」

 そこまで伝えて全員の顔を見回す。そもそもここに居る全員作戦を完全に理解しようとしていない。作戦の目的と自分の役割だけをはっきりさせ動く。悪く言えば人任せ、よく言えば全幅の信頼。もちろん俺達は後者だ、それがリブセレ軍の強さだと思っている。

「殲滅の為の準備は少し前からしている、こいつだ」

 そう言い終わるとポケットから取り出した物をテーブルに置く。

「魔法石?」

 ルークが不思議そうにこちらを見る。

「そうだ、魔法石だ。軍の補給分とリブセレから取り寄せておいた分、そしてウェイン達に頼んで送ってもらった最上級品。締めてリブセレ軍一か月分の魔法石だ。こいつらを惜しげもなく一日で使いまくって魔法をぶっ放し、殲滅する」

 フェイスの方に視線を向けると恍惚の表情を浮かべているように見えた。やっぱり食いついたな。

「方法はこうだ、魔導部隊から二十名を選抜しタイミングを合わせ一つの魔法に見せかけて魔法を撃つ。ウェインのところの魔法使いみたいな魔法は俺達じゃ撃てない、だから三分の一程度ぐらいの規模を連発したい。その為に連続で撃つ為の替えの杖も用意した。魔導部隊の残りの者で魔法石の交換、杖の受け渡しをやってもらう。求めるのは一つの魔法に偽装する事、そして連発で撃ちまくるって言う事だ」

 魔導部隊長の顔が険しいな、無茶は承知だができなくはないだろ?

「そして今回魔導部隊にはドーン含めドーン隊の三分の一を同行させる。魔法を連発するからには負担もでかい、動けなくなった奴らはドーン隊に運んでもらう。合わせてこれだけの量の魔法石だドーン隊には運搬と護衛を兼ねてもらう」

 

 そう、だから今前線に出ているドーン隊にドーン自身は居ない。今は副隊長が前線のドーン隊を動かしている。

 もちろんすぐそばにルークは居る、だがドーン隊としてはルークに頼るわけにはいかない。なんせドーン隊の方が前を進むのだ、自分達でやるしかない。

 今日の出陣の時のドーンの顔は、初めて子供達だけでお使いに行かせるような顔をしていた。やっぱりドーンは仲間を家族に近いものに感じているみたいだ。

 まあドーンに悲壮感がなかったところを見ると大丈夫なんだろう。

 さて、今日の花形はフェイス率いる魔導部隊だ。とはいえ、難易度はかなり高い。

 先ず二十名の選抜。詳細まで観察してるわけじゃないがこれぐらいは優秀な奴がいるだろうと言う今までの結果からの予想。そしてそれぐらいの人数をかければ俺の求める火力を作り出せるだろうと言う魔法に対する予想。多分ここまではしんどいながらもギリギリいけると言う直観的な予想。

 今回の問題はその先。

「そして最後にフェイスの戦慄の魔法で作戦成功だ」

 作戦会議で俺が最後に言った言葉、“作戦成功”が最大の問題だ。

 フェイスは出来ないとは言わなかった、しかし出来るとも明言しなかった。つまりはどうにかして見せると言う事なんだろう。

 ならば全幅を持って信頼するのみ、作戦決行だ。

 

 魔導部隊が魔法を撃ち込んだ地点にドーン隊が一気に雪崩れ込む。

「一気に食い破れー!」

 ドーン隊副隊長の檄が飛ぶ中見事な統率の元敵陣に食い込むと、後方からルーク隊の援護を受け更に奥へと突き進む。

 そしてドーン隊の進攻を祝福するように選抜魔導部隊による一つの魔法に偽装された魔法が前線から離れた場所に着弾する。

 いいぞ、しっかり偽装は出来てるな。よく見れば分かるだろうが戦場では直ぐにはバレないだろう。そして間髪入れずに二発目の偽装魔法、予想通り混乱のとっかかりはできた。

 後ろを振り返り選抜魔導部隊とドーン隊の姿を追う。

 

「前線のドーン隊が敵陣に入り込んだら合図を出す、あらかじめ前方に陣取ってその場所から前線より離れた地点に一発目だ。そして一発目を撃ち終わったら直ぐに二発目の準備、そして整い次第前線に近づく様に撃て。撃ち終わったらドーン隊の護衛の下、第二地点に移動。これを後二回やる。魔法の規模が落ちるなら途中でやめても良いが五発目までは何としても撃ち切ってもらう。今回は出来るだけ後方に下がってドーン隊の護衛も付ける、ぶっ倒れてでもやってもらうぞ」

 安全な後方、いつでも撤退可能なその位置からの全力。文字通り動けなくなるまでの全力、恐らくフェイスも例外ではないだろう。

 よし、予定通りもうすぐ第二地点に着く。

 

 三日目の作戦開始の前、敵陣を確認している時だった。

「男は度胸、女は魔法よ」

 何の前触れもなくいきなりフェイスが話しかけて来る。

「そんな言い回しは存在しない」頭で作戦の確認をしながら答える。

「ふふ、ザイラスでも緊張するのね。大丈夫、いつも通りよ」

 その言葉で緊張が取れ一気に頭が冴え渡った。

「そうだな、いつも通りだ」フェイスに向かって力強く応える。

「※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※」

 小声でよく聞き取れない。

「何だって? 良く聞こえないぞ」

「魔法を撃ち放題なんて楽しみって言ったのよ」

 さすが魔法狂だ、なぜ姐さんと呼ばれるのか少しは自覚して欲しい所だ。

 

 第二地点から三発目の偽装魔法が放たれる。後退しながら最大距離で魔法の発動、少しづつ着弾地点をドーン隊とルーク隊のいる前線へ寄せていく。そして四発目。ウェインパーティーの三分の一とは言えそれなりの規模の魔法、大きく陣を張る魔王軍は良い的だ。

 リブセレ軍は薄く広がり魔王軍に密着するように戦線を展開している。負担は大きくなるが相手の大規模な魔法攻撃からは逃れられる。魔導部隊も移動しながらの魔法発動で狙いを絞らせず後退も行う。

 魔王軍に動揺と混乱が見え出した、もう少しだ。

 四発目を撃ち終えた選抜魔導部隊がフェイスの陣取る最後尾に向け一直線に進むのを確認する。

 この作戦は正直なところ殲滅できなくても良いと思っている。フェイスが出来ないと言わないからそうしているが、ここでもう一度本気で魔王軍を削りに行こうとすることだけでウェイン達の幻影を見せることは出来る。

 本来そのつもりだったんだが、からかうつもりの殲滅と言う言葉でフェイスに火をつけてしまったようだ。間違いなく無茶をする気なのが見えてしまったので仕方なくドーンを見張りにつけることにした。

「頼むぜお父さん、しっかり子守してくれよ」内心で独り言ち、及第点である五発目の偽装魔法を待つ。


 程なくして五発目の偽装魔法が頭の上を通過していく、よし合格だ。

 五発目の着弾に続き六発目が放たれる。さあ見せ場だぞフェイス、フェイスの戦慄を見せてみろ。

 絶好のタイミング、いつものフェイスの魔法の発動についてはそう言い切れる。

 とは言え、俺の考えを読んでいるというわけではない。ザイラスならここで言ってくると言う超感覚的判断、今なら自分が最大限活躍出来ると判断する場面が俺の考えと一致すると言うだけ。

 だが、今そこに齟齬が生じている。まだ来ない、いや来れないのか。

 後ろは振り返らず前線の戦況だけを見極める。もう少しは大丈夫か、だが撤収のタイミングは間違えちゃいけない。

 ただ静かに戦況を見つめ、待つ。

 その時、七発目の偽装魔法が視界の端を横切り前線近くに着弾する。一発多いじゃないか、フェイスへの援護とみるべきか。慕われてるな、姐さん。

 今の一発で魔王軍に撤退の選択肢が見えたはず。待つしかないな、フェイスの戦慄を。

 動揺した魔王軍をドーン隊の副隊長がここぞとばかりに押し返してる。やるなドーン隊、こっちも合格だ。

 ドーン隊の粘りで更にフェイスの時間が稼げてるがそろそろ限界に近いな。

 なんだ? また? もう一発来やがった! 八発目の偽装魔法!

 だが流石にこれで打ち止めだろう……

 撤退への秒読みが頭の中で始まった時、後ろから迫りくる何かを感じる。

 なんだ! でかいぞ! フェイスか!

 八発目の偽装魔法に続くように上空を魔法が通過していく。

 そして、ドーン隊とルーク隊が勢いを止められた前線で魔王軍の中央に、つい最近見たばかりの戦慄を上回る魔法が撃ち込まれた。

 なんだよこいつは、ほんとにフェイスがこれを撃ち込んだのか!

「魔導部隊、撤退の合図だ。魔法の弾幕を張れ」十分だ、向こうも撤退する。追い打ちは来ない。

 軍への指示を終えると後ろを振り返る。

 目を凝らし遠目にフェイスの姿を見つける。

 こっちに向けて親指を立てたままドーンに体を預けてぶっ倒れてやがる。さすがは魔法狂、予想を超えて来やがった。姐さんも合格だ!

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