第0話 極貧高校生
俺は七篠彼方、万年金欠の極貧高校生。
唐突だけど、バイトだけでは来月の生活費が危ういのでダンジョンに潜ろうと思います。
ダンジョンとはなんなのかを説明するには、今から200年もの時間を遡らなければならない。
西暦2022年──俺が産まれる遥か昔、宇宙から無数の小隕石が飛来した。
隕石群は狙い澄ましたかのように地球上にある全ての国々に墜落し、数多の都市に甚大な被害を与えると共に、人類が再起するための無尽蔵のエネルギーを齎した。
それが魔素。
空気中を漂うそれらは生きとし生けるもの全てに根付き、生命に力を与えた。
当時の人達は体内に宿った魔素をオド、体外を漂う魔素をマナと命名し、隕石襲来以降、各地で相次ぐ不可思議な現象の根源たる魔素を受け入れた。
その不可思議な現象の最たる例が──ダンジョン。
ダンジョンとは、大規模なマナの揺らぎで発生する空間の歪みのことであり、その最奥にあるコアを破壊しない限り、モンスターと呼ばれる異形の生物を際限なくこの地球に招き入れる地獄の扉のようなものだ。
モンスターは俺達人類だけでなく、地球上に存在する生命体を無差別に攻撃する。そのせいで絶滅してしまった動物がいるぐらい、攻撃性が高い。
そのため誰かがダンジョンに踏み入り、コアを破壊しなければならないのだが、当然ながらそれには命の危険を伴うため、ダンジョンに潜る者──探索者には数万〜十数万の支度金が支払われる。そして、利用価値に富んだモンスターの素材を持ち帰って売却すれば、それを報酬金として得ることができる。
昔は都市の再建に加えてダンジョンの攻略もしなければならず、そりゃあもう大変だったそうだが、俺達の親世代の頃にはその混乱もある程度の収まりをみせ、今ではダンジョンのあるこの世界が俺達の日常となりつつある。
──が、それまでの日常を狂わされ、世のため人のためにダンジョン攻略へと身を乗り出し、モンスターの素材を売ったりすることで財を成した家系は、ダンジョンの脅威に順応して落ち着きを取り戻した世界には上手く馴染むことができなかった。
俺の家とかがそうだ。
なにせ、騒乱の最中はその需要から高値でやりとりされていたモンスターの素材がここにきて飽和し、価格が著しく低下したのだから。
素材の需要次第なところもあるが、供給しやすいものは今でもそれなりの値が付くとはいえ、怪しい高額バイトと同程度かそれより少し安い程度で前ほどではない。
それなのになぜダンジョンに挑むのか?
1番の理由は支度金だ。
モンスターの素材は値下がりしてしまったが、それでも命を懸けることに変わりはなく、支度金だけはそのままの額で支払われ続けているからだ。
そう、俺は支度金のためダンジョンに潜る。
モンスターと戦うことなんてできないけど潜る。
オドを宿した生物は、異能や魔法といった超常の力を扱うことができるが、俺には『悪食』という、どんなものでも──それこそ、瓦礫や腐ったパン、毒キノコや寄生虫つきの肉や魚などをノーリスクで食べられる異能しか持っておらず、戦うことなんてできない。
だから、戦うことができる異能持ち、魔法使いに寄生して支度金をゲットする──つまりはそういう算段だ。
一定量のオドを有し、異能や魔法に目覚めた者であれば性別や年齢を問わずダンジョンに潜る資格が与えられるので、これは違法行為でもなんでもない。ただモラルとマナーが欠如しているというだけで。
とはいえもちろん俺にだって良心はある。
荷物持ちぐらいはするつもりだ。
とりあえず、来月分の生活費を稼げればいい。
そのあとはバイトを増やすなりして真っ当に稼ぐ。
だからダンジョン攻略は今回だけ──
──と、みんなそう言うらしい。