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真っ白ではない白い結婚

「今何時っ!?」


貪り尽くした惰眠から意識が覚醒した途端に飛び起きたマリー・ルゥに、側に控えていたエイダが言った。


「おそようございます奥様。ただいま午後十八時四十五分、黄昏時も終盤にございますね」


「あぁ……また起きられなかったのね……」


今日こそは陽のある内にと、寝付いたのは明け方直前であったが何とか正午には起きようと目覚まし時計まで掛けたというのに……。


「どうして目覚まし時計(アラーム)が鳴らなかったのかしら?」


「鳴ってましたよ?」


「え?」


「だけど奥様が無意識に……ほら、あのような状態に」


「え?」


エイダが向けた視線を辿ると、そこには無惨にも壊れてボロボロになった目覚まし時計が床に転がっていた。

不思議と外部からというよりは内側から破壊されたような壊れ方に見えるが、今のマリー・ルゥはそんなことには構っていられない。

(目覚まし時計は後で修理に出した)


うち拉がれ、いつもの様に寝具の上に突っ伏したマリー・ルゥが恨みがましく顔だけをエイダに向ける。


「おそようございますって何よぅ……」


それに対し、エイダは淡々とした口調で答えた。


「夕刻のお目覚めに“おはようございます”という挨拶はお嫌なのでしょう?なので機転を利かしたつもりなのですが」


「そんな機転を利かすなら、根気よく起こして欲しいわっ……私はきらめく朝日を受けて“おはよう”と言いたいのよ?」


「しばらくは無理でございましょうねぇ。まぁそれはさておき。さぁさ、今夜は旦那様がお見えになると先触れがございました。早く起きてお支度をなさいませんと」


エイダの言葉にマリー・ルゥが身を起こす。


「え?アルキオ様が別邸(ここ)に来られるの?」


「ええ。お仕事がひと段落つかれたとか」


「まぁ。二週間ぶりに外からの訪問客ね♪」


「訪問客だなんて。別邸(ここ)もオルタンシア伯爵所有の家ですよ」


「ふふ。そうだったわね。どちらかというとお客様は私ね」


新婚なのに別邸で暮らし、仕事で多忙な夫の助力も労ることもせずにただ昼夜逆転の自堕落な生活を送る新妻……。


そこまで考えて、マリー・ルゥはある事に気付く。


「エイダ!大変だわっ……私ってもしかしてもしかしなくても“お飾りの妻”というやつなのかしら?本で読んだのと少し違うけれど、でも私の立場ってそうよね?」


「何を馬鹿なことをおっしゃってるんです。そうやってのほほんとしている場合ではないですよ、早くお着替えをなさいませんと。それともネグリジェ姿で旦那様をお迎えなさるおつもりですか?旦那様の忍耐をお試しになるということですか?」


エイダにグイグイと背中を押されバスルームへと追い立てられながらも、マリー・ルゥの思考とつぶやきは止まらない。


「それとも“悪妻”?妻の役目を何も果たさずに夫の(ろく)()むだけの悪妻なのかしら?あら、それなら悪妻というより穀潰し?寄生虫?」


「まぁ大変!まぁ大変!」と繰り返すマリー・ルゥには構わず、エイダは彼女のネグリジェを剥ぎ取ってそのままバスタブに放り込んだ。


マリー・ルゥはお気に入りの鈴蘭の香りの香油が入った湯船に浸かりながら思考の海を泳ぎ続ける。


だって、今のマリー・ルゥの状況はお飾り妻であるし悪妻であるし寄生虫であるのだから。

マリー・ルゥでは勃たないと思っていたアルキオだが、どうやら彼の努力の結果初夜は決行されたようだ。

だけどマリー・ルゥの方にはその記憶にはないし、意識が戻ってからは一度も夫と閨を共にしていない。


初夜を済ませている(らしい)から完全なる白い結婚ではないが、現状は限りなく“真っ白ではない白い結婚”といえよう。


閨を共にしないのは、高熱を出してその夜の記憶を失うほど重篤な状態であったマリー・ルゥを案じてのことだとアルキオは言う。


そしてそれ故に移動で体に負担がかかってはいけないと、この別邸に取り残されているのだ。

アルキオは仕事の関係上、利便性の良い本邸で暮らしていて新婚早々別居状態だ。


「仕事の利便性と妻の体を慮って、ねぇ……」


もっともな理由だと思う。

真っ当な理由だと思う。


だけどマリー・ルゥは知っている。

襲爵以来側に置き出したという女性が本邸でアルキオと共に暮らしているということを。


マリー・ルゥの体調はもう何も問題はないのに、アルキオは心配している体を装ってこの別邸に閉じ込めているのだ。


「変な結婚……。きっと社交界では面白おかしく噂をされているのでしょうね。面白おかしい白い結婚……オモ白い結婚ね」


マリー・ルゥはそうひとり()ちて、湯船にぶくぶくと沈んだ。



そうして……



「やぁマリー。お利口さんにしていたかい?」


オモ白い結婚の相手、アルキオが別邸を訪れのであった。



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