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三度目の正直



「思い出した……私、全部思い出したわ……」


茉莉であったこと、ローズマリーであったことを全て思い出したマリー・ルゥ。

そしてマリー・ルゥとしての今世。

結婚式の夜、初夜でアルキオにより茉莉とローズマリーの記憶を呼び覚まされ、彼の想いの深さに感動した。(すげぇな←思わず漏れた天の声☆)

そして夫婦として契りを交わし、その後に眷属となることを受け入れたのだ。


茉莉とローズマリーでもあるマリー・ルゥに、眷属となることに異論も抵抗もなかった。

むしろ三度目の正直、どーんとおいでなさいませ!というくらいの気概であったのだ。


マリー・ルゥは「頂戴いたします!」と勇み告げた後、アルキオの血が入れられた特別なショットグラスを勢いよく(あお)り、そして……ぶっ倒れた。


だがしかし、マリー・ルゥとしての生では散々艱難辛苦(かんなんしんく)を舐めて身も心も頑丈に育ったにも関わらず、やはり悪魔の眷属となるのはそう容易いことではないと身をもって痛感する。


まだ人である体が悲鳴を上げ、侵食し始めるアルキオの魔力にマリー・ルゥのへなちょこ魔力が必死に抗う。

意識を失ったのはある意味、自己防衛だったのだろう。

まさか記憶まで失くしてしまうとはアルキオも予想外だったようだが。


それらの記憶を全て取り戻したマリー・ルゥは、アルキオの胸元に縋り付き、小さく震えた。


「マリー……」


アルキオの声がマリー・ルゥの耳朶を擽る。


「アルキオ様……私、どうしてこんなにも大切な記憶を失くしてしまっていたのかしら……」


三世分(さんぜぶん)の記憶が一気に蘇ったことにより酷く狼狽するマリー・ルゥを、アルキオは優しく抱きしめた。

そして安堵の吐息を()きながら声を押し出すようにつぶやく。


「成功だ……ようやく、ようやくキミを手に入れることができた……」


茉莉も、ローズマリーも、いとも簡単に儚くなってしまった。

アルキオの脳裏に、冷たい(むくろ)になった茉莉と灰になり手から零れ落ちていくローズマリーの記憶が蘇る。

マリー・ルゥを抱きしめるアルキオの腕に、さらに力がこめられた。


隙間なく密着してもマリー・ルゥの鼓動は感じない。

悪魔には心臓があるが、眷属となった者は主の心臓が自身の心臓となるので、活動を止めてしまう。

その事が如実にマリー・ルゥが完全変態を遂げ、眷属になったことを告げていた。


アルキオは少し身を離し、マリー・ルゥの顔を覗き込んだ。


「マリー、お口をあーんと開けてごらん」


「え?お口を?」


素直なマリー・ルゥが何の抵抗もなく言われるがままに口を開けた。

アルキオはマリー・ルゥの口の中を見て、くすりと笑う。


「可愛い(キバ)が生えてるよ、ヴァンパイアちゃん」


それを聞き、マリー・ルゥはアルキオを見返す。


「え?私、ヴァンパイアになったの?あ、もしかして以前エイダが“そっち系”と言ったのはこのこと?」


アルキオは頷いてまたマリー・ルゥを抱き寄せる。


「うん。エイダは人狼だからそう言ったんだろうね。本当はマリーも人狼や化け狐とか、自分と同じ系であって欲しかったんじゃないかな?」


「まぁ、それじゃあエイダに申し訳ないことをしてしまったわね。ヴァンパイア(そっち)系じゃなくて狼女(あっち)系になれば良かったわ」


「あはは。自分では決められないのが不思議だよね。俺も自分の血を与えた眷属がどんな特性を持つようになるのかはわからないし」


「わからないの?悪魔なのに?」


すっかり思い出したマリー・ルゥが何でもない事のようにそう言ったのを聞き、アルキオは破顔した。


「そう!わからないんだ、悪魔なのに。おかしいよね」


嬉しそうにマリー・ルゥとの会話を楽しむアルキオを、モニタは汚物を見るような目をして彼に話しかけた。


「お前……妻に対しては人が、いや悪魔が変わり過ぎるだろう。気色の悪い……まぁいい、どうでもいい。そんな事よりさっさと話を終わらせていいか?」


アルキオは一瞬で無感情無表情になり、モニタを一瞥する。

マリー・ルゥはモニタに尋ねた。


「お話を終わらせるとは?」


其方(そなた)は前世と前前世の記憶と、今世の初夜の記憶を取り戻した。だがマリー・ルゥとして生を受けた経緯と、婚姻に至るまでの詳細を知らないであろう?それを語って聞かせてやろうとしているのだ。そしてそれを以って、私の“見届ける者”としての役目を終えたいと思う」


モニタはそう言って、アルキオに視線を向けた。


「悪魔など信用できん。嘘偽りない真実のみを、私が貴様の妻に告げる。それでいいな?」


「勝手にしろ」


そうアルキオが端的に答えたのを受け、モニタの視線が改めてマリー・ルゥを捉えた。

月の光のような瞳と視線が重なり、マリー・ルゥは思わず固唾を呑む。


そんなマリー・ルゥにモニタは「其方は何も悪くはないのだから、そう身構えなくていい」と言って柔らかな笑みを浮かべた。

その笑みは慈愛に満ち、まるで月の女神のようだとマリー・ルゥは思った。




モニタは語る。

ローズマリー亡き後のアルキオの軌跡を。



茉莉の魂に術をかけ転生させたアルキオだが、ローズマリーの魂にさらに上乗せで術をかけるのは不可能であった。


本来転生とは生命を与える、正の力を源とするものだ。

負の力を有するアルキオが再び同じ魂に触れようものなら、負荷に耐えられず魂は壊れてしまう。


したがってアルキオにはもう、ローズマリーの魂を転生させて三度目を得ることは出来なかった。


()()()でも()()であるアルキオには……。


「ん?今、ダジャレをおっしゃった?モニタ様、ダジャレをおっしゃったの?」


話の腰を折ってしまうとわかっていても、マリー・ルゥには出来なかった。


「話を()()()()()ことが……ふふ」


「コホン、続けていいかな?」


「まっ、」


言い出しっぺはモニタであるのにそう言われ、なんだか釈然としないマリー・ルゥだが確かに話が進まないのは困るので大人しく頷いた。


「……続きをどうぞ」


それを聞き、もう一度咳払いをしてから、冷ややかな視線を送るアルキオを無視してモニタは話を続けた。






◇──────────────────◇




次回、最終話です。




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