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取り戻した記憶 〜ローズマリー〜

茉莉の魂を感知したアルキオは、今回はすぐに行動を起こした。


悪魔であるアルキオに、人の情などわからない。

ましてや親の愛など。

どうしてもすぐにでも、それが赤子であったとしても茉莉を、ローズマリーを手に入れたかったアルキオは、金を積んで手放すように仕向けた。

借金にまみれ、このままでは一家心中もやむなしというほどに困窮していた茉莉の両親。

その借金が全て相殺されお釣りが出るほどの金額を積まれ、仕方なしと泣く泣く茉莉を手放したのであった。


()()アルキオはローズマリーの住むこの世界に移住を決め込んでいた。

茉莉がローズマリーとして生まれ変わるまでに眷属を増やし、着々と準備を進めていたのだ。


そしてその中にはエイダの姿もあった。

彼女は元々人間で、権力抗争に巻き込まれ殺害された家族の(かたき)を討つために、黒魔術師を雇って悪魔を召喚しようとした貴族の娘だった。


当然胡散臭い似非(エセ)黒魔術に呼び寄せられる悪魔など下級の使い魔くらいでたかだか知れている。

だがたまたまそれを感知したアルキオが面白半分に召喚に応じたふりをした。


召喚には術者の魔力を対価として支払う。

だから術者の保有する魔力に相応な使い魔しか召喚できない。

自分の魔力量を遥かに凌駕する者を召喚した術者の末路は……想像に容易いだろう。


だけどミイラと化していく術者を目の当たりにしてもエイダは怯まなかった。

もともと彼女は(あだ)を討つ本懐を遂げたら死ぬつもりだったのだ。

どんな魔物が現れようが、それが悪魔であったとしても、家族の無念さえ晴らせればそれでいいとエイダは思った。

他者など、秩序など、世界などどうでもいい。そんなエイダの心の闇の深さをアルキオは気に入った。


そしてエイダの希望を叶える対価として、彼女を眷属にして未来永劫(しもべ)とすることを告げる。

エイダがどのような返事をしたかは、ここでわざわざ明記せずともおわかりであろう。


悪魔の眷属となるということは、闇の住人になるということである。

闇の中でのみ、活動できる生き物。

だがアルキオのような高位な存在の眷属であれば、いきなりは無理としても徐々に太陽の光の下でも平気で活動できるようになる。


そして眷属となった者の特性や能力はその者によって異なる。

そこに規則性や法則性はなく、ただ主であるアルキオの血の中にある様々な能力に呼応し、心身共に作り替えられるのだ。

エイダは、人狼となった。

満月の夜。月が最も高い位置に座したその時、銀色の狼に姿を変える。

まぁホントはいつでも姿を変えられるのだが、とくに必要性がないからと、エイダが狼の姿に変身することはほとんどない。

アルキオはそのエイダに、ローズマリーの世話を任せた。


すくすくと育っていくローズマリー。

アルキオの眷属たちから敬われ、エイダに大切に育てられ、アルキオ(悪魔)からの愛情を独占するにも関わらず、彼女は純粋で清らかな娘に成長した。


物心ついた頃からアルキオの花嫁になると教えられて育ったローズマリーは、いわば刷り込みのようにアルキオを愛した。


アルキオもエイダも、ローズマリーには何も隠さず全て話していた。

自分が茉莉という女性の生まれ変わりで、アルキオは長い時をかけてそれを待っていたと幼い頃からそう聞いて育ったローズマリーは、その特異性に気付かない。


気付かないまま、理解しないまま、水を与えられる花のように、ただ美しくただ無垢なままに彼女は成人を迎えた。


ローズマリーにとっては十八年間。

だがアルキオやエイダにとっては瞬き一回分くらいの時を経て、ローズマリーはアルキオの花嫁となった。


アルキオは初夜で契りを交わす前に、ローズマリーの前世である茉莉の記憶を甦らせることに決めていた。

そうすることで、ローズマリーの中の茉莉とも契りを交わせると考えたのだ。


前世の茉莉も、今世のローズマリーも全て欲っするという、強欲を司る悪魔としては正しい姿なのだろう。


だが契りを交わした後に眷属となるためにアルキオの(魔力)を受け入れるには、ローズマリーはあまりにも純粋過ぎた。


生まれてすぐにアルキオの庇護下に入り、一切の悪意や害意、怒りも不安も憎しみも悲しみすら知らずに育った真っ白過ぎるローズマリーの(こころ)には、悪魔の魔力は毒でしかなかったのだ。


眷属となるためにアルキオの血を受け入れてから完全変態を遂げるまで一定期間かかる。

その間は(さなぎ)の如く日の光に触れることなく過ごさねばならない。

その蛹の期間に、ローズマリーは少しずつ壊れていった。

肉体も精神も、純粋無垢であったローズマリーに、眷属となる資質が備わっていなかったのだ。


アルキオが寄り添えば寄り添うほど、変わりゆくローズマリーに冷静でいられなくなる彼を見れば見るほど、ローズマリーの中に純粋な愛が生まれ、悪魔の魔力と相反し耐えられなくなるのだ。


そうしてある日、完全な変態を遂げられないまま、ローズマリーは引き寄せられるように朝日が輝く窓に近付き、


太陽に触れて灰となった。






◇───────────────────◇




次回からようやくマリー・ルゥの話に移ります。


多分あと2話……いや3話、いや2話?

定かではありませんが(おいコラ)最後までお付き合いいただけますと、光栄です。


そして最終話後に今後の投稿についてお知らせがあります。


どうぞよろしくお願いいたします。


\_(o'д')ノ))ハィ!チューモク!

そしてお知らせです。


いよいよ明日、角川ビーンズ文庫様より

『政略結婚したはずの元恋人(現上司)に復縁を迫られています』

(旧タイトル 今さらなんだというのでしょう)

が発売されます。


つきましては明日の朝に発売記念SSを投稿したいと思います。


デニスと別れた後、シュシュを身篭ったと知った時のウェンディのエピソードです。


ぜひぜひお読みいただければと思います。

どうぞよろしくお願いいたします!



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