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取り戻した記憶 〜茉莉〜

マリー・ルゥが取り戻した記憶は初夜での出来事とそして、前世と前前世の記憶であった。


その記憶は()()の初夜で、()()夫となったアルキオの魔力によって蘇らされたものだ。

前前世の記憶は前世の初夜で、前前世と前世の記憶は今世のマリー・ルゥとして迎えた初夜で蘇った。


前前世の生では、マリー・ルゥは茉莉という名の東方人だった。

遊女であった母が流行病で亡くなり、そのまま母の代わりに遊女となるべく妓楼で育てられた娘。


その茉莉が禿(かむろ)の頃に妓楼の裏庭で傷付いた一羽のカラスを救った。

羽を傷付けていたカラスを茉莉は献身的に看護し、そして傷が癒えた頃にカラスは忽然と姿を消した。

その時茉莉は、カラスが再び飛び立てるまで回復して良かったと、寂しさを覚えども安堵したのである。

茉莉はそんな心の優しい娘であった。


やがて時は流れ、茉莉が初潮を迎え水揚げの歳になり、初めての客として迎えたのが……当時はまだアモンと名乗っていたアルキオだったのだ。

そこで茉莉は、彼が昔救ったあのカラスで、彼は異界から来た悪魔と呼ばれる一族の者であることをアルキオ自身から聞かされる。


アルキオ(アモン)は興味本位でフェーズを越えようとしたが、異界同士を隔てる壁が思いの外厄介で負傷してしまったらしい。

(カラスの姿をしていたのは翼を使って移動出来るからだそうだ)

アルキオにしてみれば傷などたちまちに消してしまえるのだが、それをする前に茉莉に見つかり、抱きかかえられたのだという。

そして初めて見る異界の人間の娘が必死になって看護する姿が面白いと思い、好きにさせていたのだそうだ。


やがてそれも飽きて、アルキオは何も告げずに茉莉の元を去った。

だがその(のち)元の世界に戻っても、アルキオは茉莉という娘のことが頭から離れなかった。

それは初めての感覚で、薬を塗るために触れる手やこちらに語りかけてくる声が忘れられなかったのだという。


その全く不可解な感情の答えを求めて、アルキオは再びフェーズを越えて異世界へと渡った。


だがそこで、成長した茉莉が遊女として初めて客を取る歳になったことを知る。

異界であっても人の人生は短い。

アルキオにとってたった一瞬の感覚で、人はあっという間に年老いて死んでしまう。


それは当然茉莉も例外ではなく、アルキオはそれが腹立たしく感じた。

自分に不可解な感情を齎しておきながら、さっさと人生を終えて居なくなるなど許せないと思ったのだ。

だからアルキオは茉莉を眷属とすることに決めた。

眷属にして、答えが出るまで……答えが出てもずっと側に置いておこうと決めたのだ。


そうしてアルキオは人間に成りすまし、茉莉を見受けし、用意した館に住まわせた。

あとは時期を見て自身の眷属とすればいい。


幸い茉莉は従順で肝の据わった娘だ。

妓楼で育ち、禿として遊女の側で、そして裏方で多くの人間の人生の裏と表、光と闇を見てきたためにどこか達観もしている。

アルキオが悪魔と知っても、怖がるどころか見受けをして苦界から掬い上げるてくれた恩人だと手を合わせてくる。

それだけでなくアルキオを最初で最後の間夫(マブ)だといい、心を捧げてくるのだ。


「わっちは、あー様に出会えて、本当に幸せでありんす」


本当にわけがわからない。

それも異なる世界の者同士だからなのだろうか。

だってこの世界には、悪魔について書かれた経典など存在しないのだから。


ある時、暇を持て余した茉莉は、幼い頃から遊郭で見聞きした経験を活かし、男女の色恋草子(ぞうし)を書き始めた。

一夜の刹那的な逢瀬を描いた官能的な物語。


その物語は茉莉の死後、放置されていた館の書斎で見つけられた。

そしてやがて西方大陸にも渡り、多くの人間に読まれることとなる。


それを残した茉莉 は……アルキオの眷属にはなれなかった。


もともと悪魔は気まぐれで、まだまだ先送りで良いと思っているうちに、茉莉は病に罹り儚くなってしまったのだった。


アルキオは理解出来なかった。

人はあまりにも脆すぎる。

こんな、こんな簡単に死ぬなんて。


さっさと眷属にしていれば、茉莉は病になど罹らなかった。

アルキオは肉体が存在するようになって、初めて後悔というものを感じたのであった。


茉莉にもう一度会いたい。

だけど力を使って蘇らせたとしても、それは決して茉莉ではなく、他の()()になってしまう。

だから茉莉の魂を穢さず、《《次》》を待つことにした。

アルキオは茉莉の魂に()をつけ、力を使って転生させることにした。


だが生命と輪廻を司るわけでもないアルキオに出来るのはそこまでだった。

生まれ変わるように仕向けても、茉莉の魂が次にいつ肉体を得るのかはわからないのだ。


だからアルキオは待った。

この異世界のどこかで、茉莉が再び肉体を得る日を。



そうして茉莉の死後から数百年後、彼女の魂はローズマリーという名の西方人の体に宿った。

それがマリー・ルゥの前世である。





─────────────────────



Merry Xmas☆


短めでごめんなさい( ´>ω<)人





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